ティール組織とは?5つの組織モデルと必要な要素を分かりやすく解説
成果主義やトップダウンの体制では、イノベーションや働きがいを生むのが難しく、組織の在り方として限界を感じている方もいるでしょう。そうした中で注目を集めているのが、「ティール組織」という次世代型の組織モデルです。
当記事では、組織改革に関心のある経営者や人事担当者、または新しい働き方を模索している方々に向け、ティール組織の基本的な定義から、従来の組織モデルとの違い、進化の過程、移行に必要な要素、成功事例、そして採用活動の特徴に至るまでを網羅的に解説しています。ティール組織がなぜ注目され、どのように導入できるのかを知ることで、組織づくりのヒントを得られるでしょう。
1. ティール組織とは?
ティール組織とは、社長や上司による細かな指示や統制がなくても、メンバー全員が自らの判断で動き、目的に向かって進化を続ける組織を指します。階層的な管理や売上目標の設定、定期的な会議といった従来の慣習をなくし、個人の主体性と組織の柔軟性を重視する新しい組織モデルです。ヒエラルキーに基づく役職や命令系統への依存を減らし、フラットな構造を目指す点で、従来の階層型組織とは異なる特徴を持ちます。
1-1. ティール組織が注目される理由
ティール組織が注目されるきっかけとなったのは、フレデリック・ラルー氏が2014年に発表した著書「Reinventing Organizations(邦題:ティール組織)」です。ラルー氏は、マッキンゼー・アンド・カンパニーの組織変革に10年以上携わった後、世界中の革新的な組織を2年半かけて調査します。その成果としてまとめられたこの本は、17か国語に翻訳され、世界的に大きな反響を呼びました。
日本では2018年に翻訳版が出版され、働き方改革や残業問題への関心が高まっていたタイミングと重なったことでベストセラーになりました。既存の組織モデルに限界を感じている人、自律性と創造性を尊重する働き方に共感する人が増えていることも、ティール組織が支持される理由の1つと言えるでしょう。
1-2. ティール組織とホラクラシー組織の違い
ホラクラシー組織とは、2007年にブライアン・ロバートソン氏が提唱した自主管理型の組織モデルです。ヒエラルキーを排し、従業員は役職ではなく「役割(ロール)」に基づいてチーム(サークル)を組みます。サークルは明文化されたルールに従って運営され、組織内の意思決定権限は分散されているため、従業員が能動的に行動できる仕組みです。
一方、ティール組織は、より広い組織概念として定義されています。ホラクラシーと同様にフラットな構造と自律的な運営を重視しますが、組織全体を「生命体」として捉え、目的の実現に向けて自然な進化を促す思想が基盤にあります。
したがって、ホラクラシーはティール組織の一形態であり、ティール組織を実現するための具体的な方法論の1つに位置づけられると言えるでしょう。ホラクラシーについては、以下の記事でより詳しく解説しています。
ホラクラシー組織やティール組織のように、従業員の主体性を促して生産性を高めるには「従業員エンゲージメント」にも注目する必要があります。以下の資料では、従業員エンゲージメントの意味や取り組み方を詳しく知りたい方に向けて、従業員エンゲージメントの定義から具体的な手法までを対談形式で分かりやすく説明しています。
2. ティール組織に至る進化過程|5つの組織モデル
ティール組織は、フレデリック・ラルー氏が提唱する組織モデルの中でもっとも進化的な段階にあるとされています。ティール組織に至るまでには、レッド・アンバー・オレンジ・グリーンという4つの段階があります。
ただし、いずれも単なる歴史的な変遷ではなく、それぞれの段階に独自の価値と機能があることが特徴です。また、「最新のモデルが優れていて、古いモデルが劣っている」ことを意味するわけではありません。組織の目的や環境に応じて、最適なモデルは異なります。
ここからは、5つの組織モデルについて詳しく説明します。
2-1. レッド(衝動型)組織
レッド組織とは、力による支配を特徴とする、もっとも原始的な組織形態です。強いリーダーが恐怖や暴力で統率し、メンバーたちは生存のために従属します。マフィアやギャングのような組織が典型例です。
レッド組織では単純な分業が成立しますが、意思決定はすべてトップの判断に依存しており、統率できる規模には限界があります。また、短期的な利益や即応性に強みを持つものの、安定的な計画や戦略の立案は苦手です。再現性が低く、リーダーの交代によって組織が瓦解するリスクが高いモデルでもあります。
2-2. アンバー(順応型)組織
アンバー組織とは、明確なヒエラルキー構造を持ち、ルールや制度に基づいて動く組織形態です。軍隊や宗教団体、官僚組織などが該当します。指示命令系統がはっきりしており、役割分担が厳格に定められている点が特徴です。
トップが交代しても組織が機能する仕組みが整っているため、長期的な安定性があります。ただし、「変わらないこと」が前提となっており、革新には不向きです。外部環境が大きく変わる現代社会では、柔軟性のなさが課題となります。
2-3. オレンジ(達成型)組織
オレンジ組織とは、成果と効率性を重視する現代の主流な組織モデルです。ヒエラルキー構造は維持されていますが、成果を出せば昇進できる仕組みが整っており、個人の能力に応じた評価が下されます。
オレンジ組織では、KPIや中期経営計画などの数値管理が導入され、イノベーションや競争によって成長を目指します。一方で、効率性を追い求めるあまり、人間らしい扱いが失われやすい点が課題です。過重労働や燃え尽き症候群などの問題が発生しやすく、メンバーのモチベーション維持が難しい場合もあります。
2-4. グリーン(多元型)組織
グリーン組織とは、多様性と平等を重視する組織形態です。家族のようなコミュニティ文化を持ち、メンバーそれぞれの個性や価値観を尊重します。オレンジ組織が成果にフォーカスするのに対し、グリーン組織で重視するのは価値観の共有や協力関係の構築です。
リーダーは指示を出す存在ではなく、支援者としての役割を果たします。意思決定は合意形成を通じて行われるボトムアップ型が多く、メンバーが主体的に関われる反面、スピードや効率は下がりがちです。また、ヒエラルキー構造を完全には手放しておらず、理想と現実の間で矛盾が生じる場面も見られます。
2-5. ティール(進化型)組織
ティール組織とは、組織を「1つの生命体」として捉える発想に基づく、次世代型の組織モデルです。ヒエラルキー構造が最小限に抑えられており、メンバーは指示命令を受けなくても各自で最善を考え、自ら行動します。合意形成を前提とせず、各メンバーが判断権限を持てるのは、全員が組織の存在目的を深く理解し、自分の行動と組織の目的を一致させているためです。
ティール組織では、個々の自己実現と組織の目的が調和する状態を目指すことで、メンバー一人ひとりの創造性と柔軟性を最大限に引き出します。そのため、ルールや制度はトップダウンで定めるのではなく、必要に応じて現場が主体的に作り上げていきます。ただし、導入には入念な準備と時間が必要です。明確な仕組みや運用ルールが整っていないと、かえって混乱を招く可能性があります。
3. 日本企業は「オレンジ組織」が多い?
日本企業の多くは、成果主義とヒエラルキー構造を併せ持つ「オレンジ組織」に分類されます。実力次第で昇進が可能な一方、上司の指示に従う組織体制も残っており、プロジェクトごとにリーダーが設けられる構造が一般的であるためです。
現状の日本企業の組織形態では、数値管理や成果評価により柔軟な組織運営が行われる反面、過度な競争や長時間労働により人間らしさが損なわれる恐れもあります。こうした課題から従来の枠組みに限界を感じる企業が増え、より柔軟に創造性を尊重する「ティール組織」に注目が集まるようになりました。
オレンジ組織の課題であるモチベーション低下や働き方の見直しには、従業員エンゲージメントの向上が鍵になります。第一線の研究者と実務家による対談から、改善のヒントが得られるでしょう。
4. ティール組織に移行するための3つの突破口
ティール組織はもっとも進化したモデルではありますが、従来型の組織を否定するものではありません。すべての段階には意味があり、いずれも時代や状況に応じた進化の結果です。
その上で、ティール組織には「自主経営」「全体性」「存在目的」という共通点があります。ここからは、ティール組織への移行に必要とされる3つの特徴について説明します。
4-1. 自主経営
自主経営とは、上司の指示や承認を前提とせず、現場のメンバーが自律的に意思決定を行う仕組みを指します。特定の誰かが管理するのではなく、自然に自己組織化し、必要に応じて自らを修正するのが特徴です。
意思決定は「助言プロセス」を通じて行われることが多く、関係者や専門家の意見を活用することはあっても、最終的には個人で判断します。このような仕組みによって、ティール組織では柔軟でスピード感のある意思決定が可能です。自主経営の実現にあたっては「情報の透明性」「パフォーマンスの可視化」「役割の流動性」などが求められます。
4-2. 全体性
全体性とは、従業員が役職や肩書きを越えて「ありのままの自分」として働ける状態を指します。従来の組織では、論理性や成果が重視され、感情や直感を抑える場面も少なくありません。ティール組織で重視されるのは、心理的安全性が確保され、自分らしさを大切にしながら働ける環境づくりです。
上司を喜ばせることや昇進争いで同僚に勝つことに心血を注ぐ必要がなくなるので、従業員は本当に自分のやりたい仕事に集中できるようになります。全体性を育むには、瞑想や内省の時間確保、ストーリーテリングの習得や文化構築、対話による葛藤解消などが有効とされています。こうしたプロセスを通じて、従業員が自分の力を十分に発揮できる状態を整えるのが、全体性の考え方です。
4-3. 存在目的
存在目的とは、その組織が存在する深い理由を反映したものであり、1人ひとりの行動指針や判断基準となるものです。他の組織の多くは、組織としてありたい姿をミッションやビジョンとして決定します。しかし、このミッションやビジョンは経営陣のエゴを反映したものに過ぎず、「多くの利益を得たい」「競合に勝ちたい」という自己保存の欲求で行動することはできても、従業員の意思決定の指針になることはありません。
ティール組織では、従業員は組織を1つの生命体として捉えた上で、「組織は将来どうなりたいのか?」「自分の使命は何か?」という意味や目的を探求します。そうした対話の中で共有され、また行動しながら学ぶことで、存在目的は進化します。存在目的が明文化されていなくても形骸化しないのは、従業員が自ら存在目的を問い、変化や進化に対応しながら業務に反映するためです。
ティール組織と同様、組織の従業員エンゲージメントを向上するためにも2つの要素が求められます。どのような要素が必要となるのかは、以下の資料で分かりやすく説明しています。
5. ティール組織は失敗する?
ティール組織を目指しても、移行がうまくいかず失敗に終わる企業は少なくありません。失敗の理由として多く挙げられるのは「メンバーのセルフマネジメントが未熟で判断力や責任感が育っていない」「進捗やリスクの管理が難しい」などの課題です。組織としての目的や方向性が共有されていないままメンバーに権限を委ねてしまうと、現場に混乱が生じやすくなります。
また、ティール組織は決して最善というわけではなく、組織の未来像や経営者の性格、業界の成熟度などによっても適切な組織形態は異なる点にも注意が必要です。たとえば、現場側がティール組織の影響を受けて行動しても、経営者にティール組織への理解がなければ、失敗に終わる可能性は高くなります。ティール組織になるには、数年の時間と相応の勉強、そして変化を遂げる覚悟が求められます。
ティール組織は一朝一夕でなれるわけではありませんが、中途採用業務の課題解決は取り組みやすい組織改革の1つです。ただ優秀なだけでなく、自社の企業風土や存在目的に合致する多様な人材を確保することは、ティール組織の構築にもつながります。
6. ティール組織の事例
ティール組織は注目を集めているものの、実際にその理念を体現している企業はごくわずかです。フレデリック・ラルー氏も著書の中で「真にティール組織を実現している企業はほとんどない」と述べています。しかし、挑戦を続ける企業がないわけではありません。以下では、海外と日本の代表的な企業事例をそれぞれ紹介します。
6-1. 海外企業
ティール組織の概念を早くから取り入れた企業として、以下の2社が知られています。
ビュートゾルフ |
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オランダ発のビュートゾルフは、在宅ケアを行う非営利団体です。マネージャーやリーダーを置かず、チームが自律的に意思決定し、患者ごとに最適なケアを提供しています。事務所の立地からケアプランの作成、業務管理までを各チームが担当するなど、極めて高いレベルの自主経営を実現しているのが特徴です。情報共有には「ビュートゾルフ・ウェブ」を活用しており、チーム間の透明性の確保と協力体制の構築が強化されています。 |
ザ・モーニング・スター・カンパニー |
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ザ・モーニング・スター・カンパニーは、アメリカ最大級のトマト加工会社です。従業員全員がマネージャーとして扱われ、地位や役職によるヒエラルキーは存在しません。各メンバーには「個人の商業ミッション」があり、助言プロセスを経て自由に意思決定を行います。給与や業務の評価も同僚同士で行うなど、透明性の高いフラットな組織構造が特徴です。 |
6-2. 日本企業
国内にもティール型のアプローチを取り入れ、独自に組織づくりを進める企業があります。
株式会社オズビジョン |
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ポイントサイト「ハピタス」などを運営する株式会社オズビジョンは、書籍「ティール組織」で紹介された日本唯一の企業です。従業員数は約100名で、「人の幸せに貢献し、自己実現する集団で在る」を理念に掲げ、勤務時間・場所を従業員が決める「完全自律型勤務制度」を取り入れるなど、ティール組織を参考に組織づくりを行っています。かつては「Thanks Day」や「Good or New」などの施策を通してホールネスを体現していましたが、現在は組織の状態に合わせた取り組みを展開しています。 |
株式会社ネットプロテクションズ |
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株式会社ネットプロテクションズは、「NP後払い」などの決済サービスを提供する企業です。「報酬の適正分配」ではなく「相互の成長支援」をもとに設計した人事制度「Natura」を導入し、マネージャー職を廃止して社内情報や知識の共有などを行う「方リスト」の役割を設置しているのが特徴です。360度評価や定期的な面談なども取り入れ、評価の主軸を成果から能力や姿勢に移しています。 |
7. ティール型組織の採用活動の特徴
ティール型組織では、採用活動においても従来の組織とは異なる価値観が重視されます。
- 人事部ではなくチームが主導する
採用の主導権を持つのは現場のチームです。チームメンバーが候補者と何度も対話し、「一緒に働きたいかどうか」を見極めます。人事部の業績や目標で動かないため職場の実情を正直に伝える傾向にあり、候補者も自然と本音を語りやすくなります。 - 役割より組織や目的との適合性を重視する
ティール型組織において役割は流動的に変化するため、専門的なスキルの有無や過去の経験よりも組織文化や価値観、存在目的への共感が重視されます。候補者の内面や人生観と組織の在り方が響き合うかどうかが採用の鍵です。 - 試用期間を設けている
ティール型組織では、採用後も長期的にマッチするかを見極めるために試用期間が設けられます。試用期間中に双方が自由に判断できる環境を整え、相互理解に基づいた雇用関係の構築を目指します。
ティール型組織の採用活動は、単なる人材の確保ではなく「ともに旅をする仲間探し」です。そのため、採用においても丁寧なプロセスが求められます。採用活動における効率と成果の両立を目指したい方は、課題解決のヒントが以下の詰まった資料もご覧ください。
まとめ
ティール組織とは、自主経営・全体性・存在目的という3要素を軸に、従業員が主体的に意思決定しながら組織を進化させていく組織モデルです。伝統的なヒエラルキーや役職に依存せず、フラットな関係性を築くことで柔軟性と創造性を両立します。ティール組織を目指すには、段階的な準備と組織文化への深い理解が不可欠です。まずは自社がどの進化段階に位置するのかを見極め、その上で自律性や目的意識を育てる施策を実践することが重要と言えるでしょう。
その施策の1つが、従業員エンゲージメントの向上です。従業員エンゲージメントがどのように組織の課題解決につながりたいのか知りたい方は、ぜひ資料をダウンロードしてください。
また、以下の資料では自社の在り方にマッチする人材を確保する秘訣を説明しています。ティール組織を目指すには採用活動にも工夫を凝らす必要があります。中途採用の課題を解決するヒントとして、ぜひ資料をご活用ください。
- 経営・組織づくり 更新日:2025/05/22
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