「残業が減って、給与は上がる! 新しい経営で勝ちに行く~3000社の改革事例から」【賃上げと業績アップ実現シンポジウム 2024】(レポート#3)
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小室 淑恵 氏 株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長
3000社以上の企業へのコンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げる「働き方改革コンサルティング」の手法に定評がある。働き方改革コンサルティングで支援した企業では10%前後のベースアップを実現する事例が増えている。安倍内閣 産業競争力会議民間議員、経済産業省産業構造審議会、文部科学省中央教育審議会などの委員を歴任。著書に『プレイングマネージャー「残業ゼロ」の仕事術』(ダイヤモンド社)、『働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例 20 社』(毎日新聞出版)、『6時に帰るチーム術』(日本能率協会マネジメントセンター)、『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』(共著、PHP 新書)等多数。「朝メールドットコム🄬」「カエル会議オンライン🄬」「介護と仕事の両立ナビ」「ワーク・ライフバランス組織診断」「育児と仕事の調和プログラムarmo(アルモ)」等の WEB サービスを開発し提供している。「WLB コンサルタント養成講座」を主宰し、2000名の卒業生が全国で活躍中。私生活では二児の母。
全社員残業ゼロ、有給取得率100%でも業績は上がる
18年間経営者として、残業ゼロや時短勤務、有給取得、在宅勤務など、働き方改革に取り組みながら、事業を進めてきた経緯があります。現在では経営陣も含めて全社員残業ゼロ、有給取得率は100%、離職率は0%を達成しています。こうした経験を踏まえたコンサルティング業務で働き方改革を支援した実績と経験から、残業ゼロでも業績が上がる方法論について具体的に解説します。
1.「新しい休み」で離職率ゼロへ
有給を使う理由には、育児、介護、治療など様々なフェーズがあります。特に不妊治療では、年間何度もまとまった休みや小さな休みが必要なことがわかっています。そのように個人の事情で度々仕事を休むと、業務の最前線から退いたような気持ちになり、モチベーション低下につながるという課題が指摘されていました。
周囲に気後れせず、現場の最前線にいる気持ちのままで、自由に休むための仕組みはないか。弊社では年間20日の法定有給の他に36日間の有給を用意し、15分単位で休める仕組みを作り、「新しい休み」と命名。この「新しい休み」は、取得に理由の申請は不要で、既婚者でも未婚者でも理由を問われず休むことができます。
介護、傷病休暇はもちろんですが、例えば不登校の子どもの対応など、職場で言いづらい事情がある場合にも15分単位で使用が可能。36日というのは270時間に相当し、不妊治療に要する時間から試算した時間になっています。これにより、休みやすい環境が整い、離職率0%を達成しています。
2.働き方を変えても競争に勝てるのか?
①人口ボーナス期の終焉 ルールが変わる
働き方とビジネスの関係は、その国の人口構造と深く関わっています。日本では、高度経済成長期の60年代から90年代が人口ボーナス期でした。人口ボーナス期とは、若者が多くて高齢者が少ない人口比率時期のこと。一人当たりにかかる社会保障費の負担が少ないので、国として発展しやすい時期です。しかし、2000年代に入って日本の人口構造はオーナス期に入り、生産年齢人口比率は低下しています。人口オーナス期は若者が少なくて高齢者が多い人口構造で、育児中や介護中の人も労働力として活用する必要があるので、社会全体の働き方を変えなければ経済が立ち行かなくなってしまいます。
労働力人口が多い人口ボーナス期は男性が中心の長時間労働、右向け右という同一条件で一律に動く労働者が大量生産をすることで業績が上がりました。
しかしボーナス期は終わり人口構造が変化した今、勝てる戦略は真逆です。若者が減り、労働力人口が少なくなり、人材を奪い合う時代が始まっています。
②人口オーナス期に勝てる戦略とは
慢性的な労働力不足の時代、男女問わない人材の活用が勝負になります。労働力人口には育児や介護など労働環境に事情を抱える人が多くなり、仕事の内容は複雑さを増して集中力を要するので、短時間で集中力高く働くことが重要です。
また、多様化する顧客ニーズに応えるためには、背景が異なる多様性のある人材が組織の意思決定層にいて、フラットに議論できることが必要だということもわかってきています。イノベーションを起こし、市場で勝つためにこそ、働き方を変えていくことが重要です。
③脱・ギリギリ悪循環に効く「勤務間インターバル」
日本では、多くの経営者が従業員数をギリギリに抑える傾向が見られます。人手不足を時間外勤務で補い、残業時間が評価基準になってくると、育児や介護などの事情で残業ができない多くの女性社員は冷遇されがち。男女の賃金格差が縮まらない理由はここにも。こうした頭数ギリギリ戦略が経営者に支持されるのは、人口ボーナス期に人海戦術で乗り切ってきた過去の栄光が影響しています。この残業代(日本では基本給の1.25倍で世界でも安価)を確保しておくためには原資を確保する必要があるため、ベースアップに慎重になる、という悪循環も生まれます。
こうした脱ギリギリ人事に効果的なのが「勤務間インターバル」の導入です。これは勤務と勤務の間を11時間空ける仕組み。集中力を保つために必要な睡眠を7時間取れて、一人に負担が偏ることを防ぐために有効な制度で、EUでは法律で義務化されていますが、日本では2019年から努力義務になっています。終業と始業の間を11時間空ける都合、時間の制約があっても、週に3日勤務の社員でも、積極的に仕事に招き入れないと回りませんから、非正規の正規化も推進されます。
自分が休んだら終わりだとギリギリの苦しい気持ちで働くストレスフルな環境を「お互い様」のマインドで無理なく休めるような空気に変えることができます。
労働の長さではなく生産性で評価される流れに変化すれば、男女の賃金格差が埋まってくる可能性も高まり、効率化を図るためデジタル投資も進まざるをえません。実際に「業務間インターバル」を導入した企業では、残業代総額が読めるため、残業原資をベースアップに回すことができるなど、プラスのサイクルが生まれています。
働き方を変え、給与と業績がアップした4事例 |
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① 2018年まで長時間労働、男性中心企業だった大手アパレル
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② 雪国の製造業、長時間労働で採用に苦戦
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③ 100人採用しても105人辞めてしまう、寿司チェーン店
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④ 大手の不動産管理業、1億8600万円を社員に還元
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3.「4つのステップ」で改革を実践
これまで携わった3000社の働き方改革プロジェクトでは、全社一斉に始めるのではなく、初年度は4~7組程度のチームで始めます。プロセスは4段階、8ヶ月間継続して4つのステップを何度も回しながら進めていく手順。随時、中間共有会で情報共有をしつつ、チーム間で競い合いながら組織改革をすすめていく手法で組織改革を実現しています。まずは朝と夜のメールで仕事の予定や進捗を複数の目で確認する作業を習慣化します。それぞれのチームの課題が見えてきたら、会議(カエル会議🄬)を行い、必要な施策を決める、進捗を確認するといったプロセスを繰り返します。
①朝・夜メールで仕事効率アップ
朝メールは、その日の仕事内容を各自が30分単位にブレークダウンし、一日の業務を優先順位や所要時間で見積もるトレーニングのために行います。残業が多い人には、戦略を立てず、行き当たりばったりで仕事を始めている人が多いもの。朝のうちに仕事の見積もりをすることで効率が上がり、さらにチームメンバーのスケジュールが一目瞭然なので、時間内に終わらせようという意識が働きます。朝のうちに、業務上の問題やSOS,体調不良などを発信しておくことも大事。特に管理職はメンバーが発信する情報を見逃さずチェックすることでチームのリスク管理ができます。
チーム全員がオンライン業務だと、日々の成果が喜び合えない弊害がありますが、夜メールで報告し合う機会があると、在宅義務でもチームビルディングができる良さがあります。また予定通り終わらなかった仕事について、原因を振り返ることができるのも夜メールの意義です。
朝と夜に業務の見積もりと振り返りを習慣化することで、所要時間を見込んだり、要不要を判断したりするトレーニングになり、時間当たり生産性を高めることができます。
②2週間たったら「カエル会議🄬」
「カエル会議🄬」は改革プロジェクトが始まって2週間たったところで行う会議です。会議は無記名の付箋に自分の職場の改善案を書いて出し合うもの。無記名なのでメンバーはチームのリーダーに忖度せずに率直に意見を出すことができます。心理的安全性が高く、言いたいことが言える仕組みがこの会議の特徴であり、チームに潜む本当の課題を探り出すために必要なプロセスです。全員が在宅勤務の場合、オンラインで実施することもできます。
もし誰かが「会議が長い」と書いて全員が「いいね」と支持した場合、リーダーは「話が長い」と思われていることがわかり改善できる、という仕組みです。こうやって無記名でアイディアを集めることによって、口頭の会議で起きていた忖度がなくなり、よりフラットに意見を出し合い、意思決定することができる環境が整い、組織の働き方改革はぐんと進むようになります。これは2週間に一度、30~50分くらいで実施します。
③働き方改革成功のカギは経営の意思決定
働き方改革は少なくとも8ヶ月以上実施しないと、定量的な変化には至りません。経営トップがしっかり意思決定をし、継続的な取り組みを後押ししながら、改革をすすめ、最終的に賃上げまでたどり着くようにがんばることが肝心。こうした経営トップの姿勢が非常に大事でありながら、取り組み方は徹底して職場主役で。改革は「カエル会議🄬」などの手法を用いて、100チームあれば100通りの実現方法をチームそれぞれで見出し、実施してもらうことがなによりも重要です。
失敗事例の共通点というのは「会社の働き方を調査分析して、働き方を考える部署」を設置し、改革案を出させて、一斉に実施するようなケース。改革部署は孤独に頑張らされて辛くなるばかり、現場はやらされている感がつのり、うまくいきません。あくまでも現場が主役であることが基本、その上で心理的安全性の高い話し合いを日常の職場の中で継続して実現していく方法をとるのが一番の早道です。経営者はあくまでもそれを応援し続けること。
そして、働き方改革で浮いた時間は、仕事に振らず、各々の生活や家庭に還元していく、浮いた残業代は基本給に還元していくことです。
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- 経営・組織づくり 更新日:2024/10/18
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