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危険な長時間労働のボーダーライン|目安と労働時間の抑制策を弁護士が解説

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長時間労働が慢性化すると、労働災害や従業員の離職などのリスクが高まります。特に労働災害を防止するためには、いわゆる「過労死ライン」を一つの目安として、労働時間の抑制に努めることが大切です。

本記事では過労死ラインの考え方や、企業が講ずべき労働時間の抑制策について解説します。

危険な長時間労働の境界線|「過労死ライン」とは

労働時間が長時間に及ぶと、労働災害のリスクが高まることが知られています。

脳・心臓疾患に関する厚生労働省の労災認定基準*1によれば、以下のいずれかに該当する長時間労働が認められる場合、業務と発症の関連性が強いとされています。

  • 発症前1か月間に、おおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合
  • 発症前2~6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合

また、発症前2~6か月間にわたって、1か月当たりの時間外労働がおおむね45時間を超えると、業務と発症の関連性が徐々に強まるとされています。

上記の労災認定基準における労働時間の目安は、いわゆる「過労死ライン」として引用されることがあります。

1か月間で100時間を超える時間外労働は直ちに危険、1か月当たり80時間を超える時間外労働が続いている場合も危険です。
また、1か月当たり45時間を超える時間外労働が続いている場合も、従業員の心身に悪影響を与えるリスクが高い状態といえます。

各企業においては、上記の労災認定基準(過労死ライン)の考え方を踏まえて、労働時間の抑制に努めましょう。

企業が講ずべき労働時間の抑制策

厚生労働省は、各企業において時間外労働の削減に成功した事例をまとめて公表しています*2。

その中から、参考になる労働時間の抑制策を5つピックアップして紹介します。

  • 残業の事前申請制
  • 顧客を巻き込んだ業務効率化・改善
  • 従業員の多能工化・業務ローテーション
  • 従業員教育(パート・アルバイトを含む)による能力向上
  • 時間外労働の抑制と評価・報奨制度の連動

残業の事前申請制

残業するかどうかの判断を従業員に一任していては、時間外労働の抑制は難しいでしょう。

時間外労働の状況を適切に管理するためには、残業の事前申請制を導入することが考えられます。残業に対して一つハードルを設けることで、従業員の間で残業を控えようとする心理が生じ、結果的に時間外労働の抑制に繋がる可能性があります。

ただし、残業の事前申請制を導入したとしても、業務の量や進め方が変わらなければ、時間外労働を抑制する高い効果は見込めません。かえってサービス残業の温床になってしまう可能性もあります。

そのため、業務を多く抱えている従業員については、他の従業員に業務を割り振るなどの工夫が必要です。また、申請された残業時間が多い部門においては、なぜ残業が多いのかを分析した上で、業務の改善に取り組むことも求められます。

残業の事前申請制は、残業時間を無理やり減らすためのものではありません。申請を通じて残業の状況を正確に把握し、それを基に業務の配分や進め方を改善してこそ、真の効果を発揮する制度といえるでしょう。

顧客を巻き込んだ業務効率化・改善

従業員の労働時間を削減するには、会社の業務を効率化することが肝要です。取引先と協力して業務の効率化に取り組めば、双方がコスト削減などのメリットを享受できます。

たとえば厚生労働省の事例集においては、顧客とやり取りする書類の様式を統一してもらえるよう依頼し、内容の整理や確認に要する時間を削減するという取組が挙げられています*3。

取引先に対して積極的に提案を行い、win-winの関係で業務の効率化に取り組めば、時間外労働の大幅な削減も実現し得るでしょう。

従業員の多能工化・業務ローテーション

個々の従業員がさまざまな業務を取り扱えるようになれば、一部の人に業務が集中する事態を防げます。業務を分散しやすくなるほか、忙しい従業員を他の従業員がサポートすることも可能となるからです。

そのため、時間外労働を削減する取り組みの一環として、従業員の「多能工化」を進めることが考えられます*4。

従業員の多能工化を進める取組としては、以下の例が挙げられます。

  • 各職場で必要とする技術、能力、資格、免許などを整理し、従業員に獲得(取得)を奨励する
  • 人材ローテーションを計画的に実施する

従業員教育(パート・アルバイトを含む)による 業務効率化能力向上

個々の従業員ができることを増やす観点からは、充実した従業員教育を行うことも重要です。

特に厚生労働省の事例集において挙げられている、パート・アルバイトの能力を向上させる取組が注目されます*5。

同取組を行ったファミリーレストランの運営会社では、店長業務のように正社員しかできない業務を絞り込んだうえで、パート・アルバイトに可能な限り広い業務を担ってもらえるよう、個々の能力の向上に取り組んだとのことです。

具体的な取り組みとして、以下の例が挙げられています。

  • パート・アルバイトが担う作業をリストアップする
  • 作業ごとの習熟度をチェックリストにする
  • 作業ができるようになれば、教育担当者がチェックする
  • 習熟度リストを皆が見える場所に掲示して、各自ができる作業とその習熟度を分かるようにする
  • 習熟度のチェックは1週間ごとに行い、各自の課題を確認・明確化する
  • 習熟度は時給に直結させる

さらに同社では、パート・アルバイトからも業務改善のための提案を受け入れているとのことです。
パート・アルバイトを含む全従業員を巻き込んで業務の効率化を進めることは、労働時間を削減する観点から非常に効果的であると考えられます。また、パート・アルバイトに任せられる仕事が増えれば、正社員の負担軽減にも繋がるでしょう。

時間外労働の抑制と評価・報奨制度の連動

管理職従業員に対して、部署全体で時間外労働の削減に取り組むよう指示する際には、その成果と管理職従業員の評価・報酬を連動させることが効果的です*6。

時間外労働を削減する適切なインセンティブを管理職従業員に与えれば、安易な残業の指示が大幅に減少し、業務の効率化が促進される可能性が高いでしょう。

まとめ

1か月の時間外労働が100時間を超え、または長期間にわたって時間外労働が1か月当たり80時間を超えている場合は、早急に時間外労働の削減に着手すべきです。

時間外労働を削減するためには、業務の効率化や従業員教育などの観点から、さまざまな方法が考えられます。まずは従業員の労働時間の状況を正確に把握した上で、自社の業務や風土に合った方法を検討し、意欲的に時間外労働の削減へ取り組みましょう。

  • Person 阿部 由羅

    阿部 由羅 弁護士

    ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
    https://abeyura.com/
    https://twitter.com/abeyuralaw

  • 人材採用・育成 更新日:2023/12/19
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