【第1回】人工知能の人事活用最前線
ビッグデータ解析、人工知能(AI)など最先端のIT関連技術を駆使したイノベーションが多様な領域へ広がっている。既に浸透しているFin Tech(金融)やEd Tech(教育)につづき、最近では、採用・育成・評価・配置などの人財マネジメントを最適化する「HR(Human Resource)Tech」に注目が集まっている。
人財マネジメントの本質は、一人ひとりの能力・個性を活かした活躍機会をデザインし、企業の競争力向上に結び付けていくことである。しかし近年、人財マネジメントは、学生と企業のミスマッチや多様な働き方の拡大、メンタルヘルス、ダイバーシティ、グローバル化、女性活躍推進、ハラスメントなどの諸課題を抱え複雑化の一途を辿っている。考慮すべき要素が増大し、きめこまやかな検討が困難な状況となっていきている。これは、どの企業も直面している共通の悩みである。
HR Techの出現により、これまで活用されてこなかった採用や人事評価時の文章データ、日々の勤怠データ、さらには従業員のデバイスからの膨大なデータまでも分析し、人財マネジメントのあらゆる場面での意思決定を支援することが可能となってきた。また、HR Techを下支えするクラウドの普及は、サービスの導入障壁を著しく引き下げている。従来、サービス導入は自社サーバーを利用したオンプレミス型利用が主流であった。これに対してクラウドは、自社サーバーを必要としないため、初期投資を減らすと同時に日々の面倒な保守・運用から企業を解放する。このことから、大企業だけでなく、コストの問題から敬遠されてきた中小企業やスタートアップにまで普及が着々と進んでいる。
人財マネジメントが抱える悩みに呼応するかたちでHR Techが出現し、関連サービスを提供する企業が相次いでいる。図1は、国内の代表的なHR Techサービスを提供する企業をまとめたリストである。以下では、採用・人事・労務のそれぞれの領域において特徴的な事例をご紹介する。
採用領域では、マイナビと三菱総合研究所が共同で「ES(エントリーシート)優先度診断サービス」を展開している。ESのデモグラ・文章情報や実際の採用可否等のデータから各企業の求める人物像をAIが学習・可視化し、企業とのマッチング度が高い応募者をレコメンドするサービスだ。本サービスの導入により、担当者は採用期間に集中するESの精査を人物像と自社とのマッチング度に基づいて選択的に実施でき、着目すべき応募者に対してより深い人柄・適性の見極めに注力できる。また、業務効率化に留まらず、ボーダーライン上にある応募者の絞込みや優秀人財のフォローにも活用できる。従来からの、担当者でバラつきが生じてしまう主観的評価だけでなく、客観的評価も合わせて総合的に人財を評価可能になることも特筆すべき点である。
人事領域では、HITACHIが従業員の行動データから組織の活性度の傾向や従業員のネットワークを可視化する「組織活性化サービス」を展開している。従業員が身に着けた名札型のウェアラブルセンサーから行動データを一元的に集積し、職位や年齢といった属性情報とあわせてAIが分析することで組織活性度を算出、社内のどの組織にどのような課題があるかを可視化することができる。また、可視化に留まらず、各個人にカスタマイズされた有効なアドバイスをAIが日々自動的に生成、配信するといった具体的改善施策の提案も可能になっている。日本航空(JAL)や三菱東京UFJ銀行などの企業が導入している。
労務領域では、ネオキャリアが労務に限らず人事・採用までを一気通貫で管理可能なサービス「jinjer(ジンジャー)」を提供している。採用や教育・研修、人事評価、業務成果、勤怠、福利厚生、給与計算など、HR業務全般を同社が運営するクラウド上で一元管理することができる。これにより、ある年に採用した人物の担当業務や習得スキルを経年でトレースするなど、人事関連データを業務横断で可視化・分析できるようになる。さらに、離職兆候のある従業員をAIが勤怠実績等から事前に検知するといった、各種の情報提供機能を搭載している。また、同社はjinjerの機能をAPIとして他のHR Tech企業に提供することで、jinjerを中心とした健康管理サービス等、各種関連サービスの創出を図っている。
図1:ビッグデータ・AIを活用した国内HR Techサービス概要
- 人材採用・育成 更新日:2017/01/18
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