内定辞退者に「ファストパス」を渡す企業が増加中? そのメリットと注意点とは
「企業の採用意欲は高まっているが、新卒者の人数は横ばい」という状態が長く続いています。健全な企業活動のために必要な新卒採用数を確保することに、難しさを感じている採用担当者の方も多いのではないでしょうか。
この状況に対応するため、従来は中途採用で使われていた採用手法である「ダイレクトリクルーティング」が新卒採用でも用いられるようになるなど、新たな採用チャンネルに期待が寄せられています。
そんな中、いま最新の手法の一つとして注目を集めているのが「ファストパス」です。
内々定辞退者など、欲しい人材ではあったものの縁のなかった学生向けに、期限付きで「採用確約」や「最終面接確約」を約束するというこの施策。
まだまだ事例は多くありませんが、新卒の採用活動を中途採用へとダイレクトにつなぐことができるため、新たな採用チャンネルとしてのポテンシャルを秘めているといいます。
今回は、多くの企業で採用アドバイザーを務め、最新の採用手法にも詳しい人材研究所の曽和利光さんに「ファストパス」のメリット、注意点、そして具体的な運用方法などを伺いました。
この状況に対応するため、従来は中途採用で使われていた採用手法である「ダイレクトリクルーティング」が新卒採用でも用いられるようになるなど、新たな採用チャンネルに期待が寄せられています。
そんな中、いま最新の手法の一つとして注目を集めているのが「ファストパス」です。
内々定辞退者など、欲しい人材ではあったものの縁のなかった学生向けに、期限付きで「採用確約」や「最終面接確約」を約束するというこの施策。
まだまだ事例は多くありませんが、新卒の採用活動を中途採用へとダイレクトにつなぐことができるため、新たな採用チャンネルとしてのポテンシャルを秘めているといいます。
今回は、多くの企業で採用アドバイザーを務め、最新の採用手法にも詳しい人材研究所の曽和利光さんに「ファストパス」のメリット、注意点、そして具体的な運用方法などを伺いました。
「アルムナイ」とは違う? 新卒「ファストパス」の考え方
— 今日はよろしくお願いします。今回のテーマである「ファストパス」は、中途採用でよく取られる施策である「アルムナイ(※)」に近いもののように感じました。違いはあるのでしょうか。
曽和さん: 確かに似ていますが、アルムナイ採用の対象者は「退職者」で、ファストパス採用の対象者は「辞退者」である点が違います。
ただし、同じ「人材プール」という概念で捉えることができる点では共通しますね。
「人材プール」とは、自社に少なくとも一度は興味を持ったり、縁があったりした人材をプール(蓄積)しておき、時期が来たらアプローチして採用へつなげようという考え方です。
例えば自社のマーケティング部署で人員不足が発生したときに、過去に同部署から退職した社員に連絡を取って再雇用を打診するような使い方をします。
企業の採用意欲は高まっているのに、市場にいる人材の数は限られている。つまり現在のように有効求人倍率が上がっているときには、この「人材プール」を持っていると他社との競争を優位に進めることができるため、非常に重要です。
※アルムナイ(採用):英語で「卒業生」を意味するアルムナイ(Alumni)から、自社を卒業(退職)した人材を対象とした採用施策・手法をこう呼ぶ。
— なるほど。しかし今の例は「アルムナイ採用」で、退職者であればその実力を把握した上で連絡ができますよね。「ファストパス採用」の場合はそもそも入社していないので何を基準に連絡をしたり、ファストパスを渡したりすればいいのでしょうか?
曽和さん: 新卒採用選考での結果を利用することになります。基本的には、自社との高いマッチングが期待され、最終面接を担当する経営陣からも太鼓判を押されている「内々定を辞退した学生」が対象になるでしょう。
ただし、ご指摘のとおり退職者と違い一緒に働いたことのない人材ではあるので、ファストパスの内容は「入社確約」ではなく、「最終面接確約」とするのが一般的です。
他社に新卒入社し、どのような経験を積み、どのように成長したかを見極めて採用を決めていきましょう。
「内々定辞退」に対する心理的ハードルは乗り越える必要がある
— ファストパスは新しい採用チャンネル、人材プールとして注目されてはいますが、まだまだ事例は少ないと思います。どのような課題があるのでしょうか?
曽和さん: 採用側(企業側)の心理的ハードルが高いのは事実ですね。
2024年卒学生では学生1人が獲得する内々定は平均して2.25社なので、計算上は半分以上の企業が「内々定辞退」を経験しているはずです。
しかし、企業側としては決して慣れるものではありません。採用担当者はもちろん、経営層まで深いショックを受けてしまいます。
そのショックが「辞退者は自社に合わない人材だったのだ。だから必要ない」と「酸っぱい葡萄(ぶどう)(※)」の心理につながってしまうことがあり、ファストパス採用に対する心理的ハードルを上げてしまうのです。
※酸っぱい葡萄:高い木に実った葡萄を食べようと懸命に飛び上がったが、それを手に入れられなかった狐が「あんな葡萄は酸っぱいに決まっている」と決めつけて立ち去る――という内容のイソップ寓話。意に反して手に入らなかったものを「価値のないもの」と決め付けてしまう心理を説明する際に引用される。
— しかし、すでに解説していただいたように、人材不足の今、ファストパス採用を前向きに検討したい採用担当者は多いのではないでしょうか。
曽和さん: はい。なので、マーケットの状況をきちんと経営層に説明した上で、「内々定まで出した学生は優秀である可能性が非常に高い」という事実にきちんと向き合うように説得すべきです。その点、採用担当者と経営層の距離が近いベンチャー企業や中小企業では導入しやすいのではないでしょうか。
大企業は今、退職者を対象としたアルムナイ採用に注力しています。ファストパス採用はそれらと競合することなく、中途採用候補者を人材プールとして獲得するチャンス。そのように捉えて、積極的に取り組んでも良いと思います。
学生には「いつ・どうやって」連絡をすればいい? ファストパスの渡し方・使い方
— では具体的に、どのようにファストパス採用を運用すべきなのかを教えてください。まず、学生にはどのように連絡すればいいでしょうか?
曽和さん: 優秀だと感じた内々定辞退者には、辞退の連絡があったらすぐにファストパスを渡しましょう。
電話でもメールでも「○年以内に再度、弊社の採用試験を受けてくださった場合はストレートに最終面接まで行けるよう約束します」というように連絡するのです。
その狙いは、すぐに連絡することで学生側に企業の期待を伝えることにあります。
先ほど「内々定辞退が企業に与えるショックは大きい」という話をしましたが、学生側からしても内々定辞退をした企業とは付き合いにくいものです。普通は「縁が切れた」「もう二度と敷居をまたぐことはできない」と考えます。
そう考えてしまう前に連絡して、「内々定を出したあなたには、これからも期待しています」と伝えるのです。
すると、ひとまず辞退者の記憶に残ることはできるでしょう。
— 「○年以内」と制限をつけた方がいいのでしょうか。
曽和さん: 企業ごとの状況によりますが、10年先の市場環境や自社の採用状況を予測することは困難でしょう。なので、3~5年くらいで制限をつけるのが良いと思います。
また、制限があれば学生側も「いつでもいいや」という心理にはならないので、施策の実効性を高めてくれるはずです。
— なるほど。内々定辞退の時点で一度連絡して、その後はどうすればいいですか?
曽和さん: 3つの方法があります。
1つは、1年後・2年後・3年後と節目ごとに連絡をする方法です。どんな人でも節目には自分自身の環境を見直しますから、そのタイミングで連絡があると目に留まる可能性は高いですね。
特に新卒社員が辞めやすいといわれる3年後の連絡は、有効に働く可能性が高いでしょう。
内容は、状況のお伺い、その1年で起こった自社での出来事や業績などのニュース、そして「ファストパスはあと○年有効」といった内容がいいでしょう。
辞退者にとっても一度は最終面接まで進んだ企業ですから、少なからず好感を持っているはずです。
もしその時に勤務している企業に不満があり、自社が相手にとって魅力的に映るのであれば、連絡をもらえる可能性があります。
— では、2つ目の方法はどのようなものですか?
曽和さん: 定期的な連絡でつなぎ止め続ける方法です。最近は社内報をインターネット上で公開している企業も多いですが、その更新情報をメルマガのように送り続けるだけでもいいでしょう。
「そんなものは見てもらえない」と思うかもしれません。しかしつながり続けることで、そのとき勤務している企業に不満を抱いたときに、自社を思い出してくれる可能性は高まります。
定期的に連絡が取れるようなソース(ネタ)がある企業にとっては、非常に有効な方法と言えます。
— では、最後の1つは何でしょうか。
曽和さん: 最後は、採用担当者や選考当時のリクルーターから定期的に、電話やメールで直接連絡を取る方法です。
会社としてのつながりではなく、人同士のつながりを維持し続けます。そして、転職を考えたときや、会社に対する不満や悩みを抱えたときに相談してもらえる関係性を維持します。
リソースがかかる方法なので、採用数がそもそも少ないベンチャー企業や中小企業が採用しやすい方法と言えます。リソースがかかる分、上手に活用すれば非常に強固な関係性を築くことができるのが大きなメリットです。
— 各社に合った方法で辞退者とつながり続けることが重要なんですね。今日はありがとうございました!
競合の少ない新しい採用手法として
曽和さんが語っていらっしゃるように、内々定辞退者が「自社が一度は採用したいと思った人材」であることは間違いありません。そんな人材を数年単位の長い目で見ながら、いつか自社に迎えられるようリレーションを持っておく「ファストパス」は、これから重要な採用手法になるかもしれません。マイナビの推計では、2040年に労働人口が980万人不足するとされています(※)。
そんな圧倒的な人材不足時代に備えた「人材プール」の一つとして、ファストパス採用を検討されてはいかがでしょうか。
※出典:マイナビキャリアリサーチラボ「つむぐ、キャリア。」
- 人材採用・育成 更新日:2024/09/19
-
いま注目のテーマ
-
-
タグ
-