インターンシップの必須要件となった「就業体験」、現場任せでは意味がない? 学生にも企業にもWin-Winなプログラムの設計ポイント
三省合意の改正を皮切りに、2025年卒以降、その枠組みが大きく変わったインターンシップ。特に、従来型のインターンシップでは最低5日間以上の実施、かつ参加期間の半分を超える日数を職場での就業体験に充てることが必須となり、現場での対応に追われているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
リンク:三省合意改正で何が変わった?2025年卒からの「インターンシップ」とは
そこで今回は、インターンシップを通じて自社の魅力を理解してもらうために必要な「設計のポイント」について、名古屋産業大学の今永典秀准教授に伺いました。
ポイントは「仕事の意味付け」と「アウトプット起点の組み立て」とのこと。詳しく解説します。
今永 典秀 さん
名古屋産業大学 現代ビジネス学部 経営専門職学科 准教授
(コー・イノベーション大学[2026年4月開学予定]ボンディングシップ・アドバイザー)
1982年生まれ。名古屋大学経済学部卒業、博士(工学)。大学卒業後、民間企業での実務経験、岐阜大学地域協学センターで、次世代地域リーダー育成プログラムの開発と実践を経て、2019年より名古屋産業大学に在職。社会人と学生の対話の場の企画運営を行う市民活動経験やまちづくり、NPO法人や社会課題解決を目指す活動のアドバイザー・理事などを務める。実務経験を生かし、理論と実践を両立する「実務家教員」として、大学でのインターンシップを中心とした教育プログラムの開発と実践を行う。主著「長期実践型インターンシップ入門(編著)」、「企業のためのインターンシップ実施マニュアル(共著)」、「共創の強化書(共著)」など
なぜすれ違う? 「学生の期待」と「実際のインターンシッププログラム」
— 今日はよろしくお願いします。インターンシップの枠組みが変わり、就業体験の設計に苦労されている方も多いようです。一方、学生からプログラムについて時に厳しい意見も聞かれます。

今永先生: はい。25年卒の学生からインターンシップの枠組みが変わり、従来型のいわゆる「インターンシップ」では、最低でも5日間以上の実施、かつ参加期間の半分を超える日数を就業体験に充てることが必須となりました。
そこから数年が経ち、企業側にとって今はまだ「手探り」の時期です。どのようなプログラムなら学生の成長につながるのか、自社の魅力をきちんと伝えられるのか、と試行錯誤しています。
そのような中、おっしゃるように学生側からは不満の声も聞かれることがあります。例えば、「雑用ばかりやらされて意味を見いだせなかった」という、参加の意義そのものに対する疑問の声や、「参加してみたけれど、結局何も学べなかった気がする」といった成長実感につながらないという声などです。
ここには、企業側に2つの問題があると考えられます。
まずは、「就業体験を通じて何を伝えたいのか」という設計の甘さの問題。もう一つ、企業側は「採用視点」でプログラムを設計しているため、時に学生にとって成長実感が薄くなってしまうという問題です。
— なるほど。過渡期にある「就業体験型インターンシップ」では、まだまだ企業側が学生のニーズを捉え切れていないという面がありそうですね。
今永先生: そのとおりです。ポイントは、学生がどの程度「働くこと」自体を理解しているか、そのレベル感を知ること。その上でインターンシップ全体を通じて伝えたいことをどう設計するか、という視点。つまり、「学生」そのものに対する理解を高めることですね。
「雑用だった」で終わらせない。鍵は“意味付け”の丁寧さ
— 具体的に、企業としてはどのような点を注意すればいいのでしょうか?
今永先生: 学生が体験する仕事に対し、「意味付け」をしっかりすることです。
例えば「議事録作成」は実際の現場ではよくある業務で、なおかつ、仕事の基礎を覚えるために重要なものですよね。
しかし、学生はその「意味」を知りませんから、何も事前説明がないまま業務を開始してしまうと、学生の印象として「雑用をやらされた」と受け止めてしまうことがあります。
— 確かに、議事録作成は仕事の全体像を把握したり、仕事の進め方や議論のルールを知ったりするために重要なもので、実際の現場では新人に任せることが多いですね。
今永先生: そのとおりです。しかし、学生が抱く「働くこと」に対する価値観や理解の深さには個人差があります。すでに、早いうちからオフィスワークや長期インターンシップを経験していれば、いまお話しいただいたような「仕事の意義」も理解できるでしょう。しかし、オフィスワークを伴わないアルバイトを中心にしていた学生では、誰からも教えてもらえないままでは、理解できなくても仕方がありません。
重要なのは、企業側から学生に「議事録作成は、プロジェクト全体の意思決定を支える重要な仕事で、君にとっても実際の現場で行われている議論を整理して知るためのいい機会になるはずだよ」というように、その仕事に意味付けをしてあげることです。
この一手間を入れるか入れないかで、就業体験の満足度も、学生の成長実感も大きく改善します。
現場任せではこのような細かなフォローが難しいという場合、人事が適切に介入して学生とコミュニケーションを取る必要もあるでしょう。
「何を得て帰るか」から逆算するプログラム設計

— 就業体験の現場対応における、学生に対する「意味付け」の重要性はよく分かりました。もう少し視点を広くして、「全体設計」を考える際に重要なことは何でしょうか?
今永先生: 「ゴール設計」です。インターンシップで、単に5日間、オフィスに出勤して、その場にいてもらうだけというプログラムを組まれている企業はほとんどありませんよね。学生には最後に、必ず何かしらの「アウトプット」をしてもらうことが一般的だと思います。
例えば「新商品を1つ考えて提案する」「広報アイデアをチームで考えて発表する」のようなものです。
この「アウトプット」と「実際の就業体験」をきちんとリンクさせ、アウトプットのために何を経験してもらうべきか、という発想でプログラムを作ってください。
— つまり「ゴールから設計する」ということですね。
今永先生: そのとおりです。5日間のインターンシップであれば、5日目のアウトプットから逆算して、1〜4日目に何を経験すればその成果が出せるかを考える。これは教育現場でもよく使う考え方です。中間目標が見えると、学生も「今日はこれを学べばいいんだな」と理解でき、安心して取り組めます。
そしてもう一つ、重要な視点があります。一度のプログラムに「詰め込み過ぎない」ということです。
先ほどお話しした「採用視点からの設計」に起因する問題の一つで、企業は大きなリソースをかけてインターンシップを開催する以上、自社について多くのことを知って帰ってほしいと考えます。しかし、そうすると結局広く浅い理解にとどまってしまい、結局その企業や仕事の本質的な部分については何も触れられなかった、ということになりかねません。
そのため、ただ企業がやりやすいからという理由で、目的と関係ないような部署や業務について体験してもらう、といったことは避けた方がいいですね。
分かりやすい良い事例で言えば、「職種別」に分けたインターンシップを開催することです。1つの職種について、段階を踏みながら深く理解できるプログラム設計をすることで学習効果も高まり、結果として自社についてポジティブな印象を抱いてもらえると思います。
例えるなら、毎日違う料理を出すよりも、「毎日カレーだけれど、スパイスや具材を変えて味の奥行きを感じてもらう」ようなイメージですね。
ハイパフォーマーよりも「緊張感のない人」を選ぶべし
— ここまで、実践的な「現場での意味付け」と「ゴールからの設計」という重要な示唆を頂きました。これを実践するときに重要なのが、「実際に現場で誰が・どう学生と接するか」ですね。
今永先生: はい。インターンシップに対する学生の印象を直接的に左右する重要な要素ですが、ここが見落とされている例をよく見掛けます。プログラムの設計を精緻に行い、対応マニュアルを作っても、実際に対応する社員は現場任せというパターンが多いですね。
人事が現場の詳細な状況を把握するのは難しい面もあるので、ある意味で仕方がないのですが、ここは重要な細部なので、ぜひきっちりと考えていただきたいですね。
— 具体的に、どのような人材を選び、どう接してもらうのがいいのでしょうか。
今永先生: 実際によくあるのが「現場のハイパフォーマー」にインターンシップをリードしてもらうパターンですが、必ずしも学生にとって良い経験になるとは限らないことが多いと感じます。
学生が憧れるような人材をメインに立たせ、自社に対する印象を良くしたいという意図は理解できるのですが、自社にとってはロールモデルとなる人材であっても、「学生にとって一緒に働きたいロールモデルとなるのか」「インターンシップに当たって、学生の成長・教育効果の面から見て、最適な人なのか」という観点で疑問符が付くケースもあります。
また、ハイパフォーマーというのは総じて忙しいですし、ストイックに経験を積み、社会人としてある程度成熟した状態になっていると思います。しかし多くの学生は、まだ社会人になること、働くことに不安を覚えています。そのような状況から、まずは「働くって何?」から理解を深めることを望んでいるケースもあるわけです。そして、必ずしも「教えるのがうまい」わけではありません。
お勧めは「学生が萎縮せずに済む、物腰柔らかな人」「面倒見が良く、分かりやすく丁寧に接してくれる人」に、インターンシップをリードしてもらうことです。
質問や疑問があればいつでも聞くことができ、必要なら社員の側から学生への声掛けもできる。そんな「学びをスムーズに促せる空気をつくれる人」がいいでしょう。
— 社内や部署内に一人はいそうな人物像ですね。ただ、確かにインターンシップをリードしてもらうイメージはありませんでした。
今永先生: そうですよね。実際、この条件に当てはまるのは年次が高い社員となる場合もあり、インターンシップ担当としては候補に挙がりにくいかもしれません。
そんな場合のお勧めは、2〜3年目の若手社員に学生の「伴走役」として、一緒にプログラムに参加してもらうことです。
これであれば、年齢が近いので学生も質問がしやすく、社員の側も学生目線に立ちやすい。そして何より、若手社員にとって学生の質問を受けて答えることは、会社や仕事について構造的に理解するためのいい機会になります。
インターンシップ終了後には関係者で「振り返り会」を

— なるほど。いずれにせよ、「質問しやすい」「学生が萎縮しない」人選がポイントですね。では最後に、インターンシップ後は何をすべきでしょうか。
今永先生: これも非常に重要な視点ですね。就業体験とアウトプットで5日間を使い、「お疲れさまでした」ではもったいないです。企業側のノウハウ蓄積に繋がる「振り返り会」を開催しましょう。
「学生の反応が良かった内容は何か」「どのような質問が出たか」「担当者として気付いたことはないか」といった内容を共有する時間です。
こうすることで、インターンシップのノウハウが蓄積され、担当者が変わっても質を維持できます。
また、先ほどお話しした「若手の伴走役」がいる場合には、ぜひ振り返り会にも参加してもらい、より学生の目線に近いフィードバックをもらってください。
伴走役を設定しなかった場合でも、プログラムの内容や、取りまとめたインターンシップの振り返り資料を新入社員や内定者に評価してもらうことで、リアリティのあるフィードバックを得ることができます。
ぜひ、来年、また来年とインターンシップの質を高めていき、自社や学生にとって有意義なプログラム設計にもつなげていってください。
— 今回は、学生に近い立場にある先生だからこその具体的かつ実践的なアドバイスをありがとうございました!
インターンシップは「学び合う場」へ
インターンシップに就業体験が必須となり、その対応に追われる中で「学生視点」が抜け落ちたり、「次年度への引き継ぎ」がおろそかになったりすることは、忙しい採用現場ではある意味で仕方のないことです。
しかし、今回の取材から得られた
- 業務に意味付けを行い、雑用と思われない工夫をすること
- 最終アウトプットから逆算してプログラムを設計すること
- 学生が安心して学べるような“優しい教え上手”をリード役に選ぶこと
- 実施後に振り返りの場を持ち、ノウハウを蓄積すること
といったTipsを実行することにより、学生にとってはもちろん、企業にとっても学生視点を学んだり、若手社員の育成に活用したりできる「学びの場」へと大きく変貌するはずです。
インターンシップ設計を担う人事・現場担当者にとって、この挑戦は組織を見つめ直す絶好の機会でもあります。
ぜひ、お互いにとって意義深いインターンシップの開催にお役立ていただければ幸いです。
- 人材採用・育成 更新日:2025/06/20
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