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学生の納得感と成長の実感を生む「ネガティブフィードバック」の上手な使い方

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学生と企業との接点としてインターンシップの重要性は、今や語る必要のないほど高いものとなっています。その中でも、学生のインターンシップの満足度に大きく影響するのが「フィードバック」です。

学生のグループワークの様子や発表の内容に対し、企業側からフィードバックとしてアドバイスを送ることで、学生は「成長の糧」を得ることができ、結果的に企業に対する好意度・志望度にもつながっていきます。

そして、成長につながるフィードバックで時に必要となるのが「ネガティブフィードバック」。
改善すべき点を指摘することでさらなる成長を促す効果が期待できますが、一方で「言い過ぎてしまって嫌われないか」「学生にどこまで踏み込んで伝えて良いのか」と不安になる方も多いでしょう。

そこで今回は、数多くの企業にインターンシップの設計や採用育成のコンサルティングを提供してきた、シーズアンドグロース株式会社 代表取締役 河本英之さんに、学生にとって納得感のあるネガティブフィードバックの伝え方について伺いました。

ネガティブフィードバックに欠かせないのは「信頼関係」

— 今日はよろしくお願いします。インターンシップでは学生に対する「フィードバック」は非常に重要ですが、学生にとってはどのような意味があるのでしょうか?

河本さん: まず一つに、「成長の糧となること」です。インターンシップでは就業体験やグループワークを行う企業が多いのですが、その過程や成果物に対して実際の仕事を知っている企業からフィードバックをすることで、学生は自分の「伸びしろ」を知ることができます。

また、有効なフィードバックをするには学生のことをよく観察し、的確な指摘をする必要があるため、学生は「自分のことを分かってもらえた」「学びがあった」と感じます。
そのことで学生の満足度が向上し、企業に対する好印象にもつながっていくことも大きなメリットです。

そして、その上で時に必要となるのが「ネガティブフィードバック」、つまり、学生に対し足りない部分を指摘し、今後の成長を促すやり方です。

— あえて「ネガティブ」なフィードバックをすることには、どのような意味があるのでしょうか?

河本さん: ポジティブな言葉だけでは、学生にとっては「よくできたんだな」という印象で終わってしまいがちです。その時はうれしいかもしれませんが、インターンシップの後、就職活動やキャリアに生きるアドバイスが残らないということです。

一方で、改善点を適切に伝えることで、自分では気付けなかった課題に向き合い、成長の糸口をつかむことができます。 私の経験でも、ネガティブフィードバックをしているときの方が学生は懸命にメモを取り、それを吸収しようという姿勢が見えることが多いですね。

それはつまり、インターンシップを通じて「お土産」として持ち帰るものがあるとも言い換えられます。お土産があれば、そのインターンシップは学生にとって、「有益なものだった」という印象になるでしょう。

学生の満足度を上げるためにも、ネガティブフィードバックは必要なものなのです。

— 学生にとってプラスになると分かっていても、ネガティブフィードバックを伝えるのは難しい……と感じる企業も多いのではないでしょうか?

河本さん: そうですね、特に最近は売り手市場ということもあり、学生の印象を損ないたくないという思いから、「いい人」で終わりたいと考えてしまう方も多いと思います。

とはいえ、本当に「いい人」で終わってしまっては、先ほどもお伝えしたように学生にとって学びの実感に欠けるため、自社への印象は弱いままでしょう。

— 学生の成長のため、ひいては自社に対する印象を残すために、時にネガティブフィードバックが必要になることは理解できました。それでも難しさを感じる方は多いと思います。その難しさの根底にあるものは何でしょうか。

河本さん: 例えば、同僚や部下であれば、提出されたレポートや企画書に対して問題点を指摘するネガティブフィードバックをしても、「成長の糧」として受け止めてもらえたり、「業務上の必要性」から特に反発することなく受け止めてもらえたりします。 それは、同じ職場で一緒に働く中で信頼関係が築かれているからです。

しかし、インターンシップでの学生と企業との関係性は、長くても1週間程度です。その中で信頼関係を築くことは難しい。これがそのまま、インターンシップでのネガティブフィードバックの難しさにつながっています。

実際、学生のためを思って厳しいことを言っても、内容によっては「この人、本当に自分のことを見てくれていたのか?」と思われてしまうこともありますし、言い方によっては「伝えた内容」よりも、「伝え方」の方が先に立って学生がショックを受けてしまうこともあるでしょう。

— つまり、重要なのは信頼関係ですね。

河本さん: そのとおりです。ネガティブなことを言うこと自体が問題なのではなく、その背後に信頼関係があるか、伝え方は適切か、といった点の方が重要です。

「ポジティブから始めるフィードバック」で受け止めやすく

— 河本さんがご指摘のとおり、インターンシップ期間内に強固な信頼関係を築くことは難しいと思います。その中で学生の成長のために上手にフィードバックを行うにはどうしたらいいでしょうか?

河本さん: 一つの方法として、「伝え方」を工夫してみましょう。

まず大前提として、ネガティブなフィードバックも学生にとって意味があるものにするためには、「納得感」を持って受け取ってもらう必要があります。そのために最もシンプルで効果的なのは、「まずポジティブから伝える」ことです。
さらに発展して、「ポジティブ→ネガティブ→ポジティブ」という順番で伝える「サンドイッチ型フィードバック」も効果的でしょう。

例えば、

「発表の中で○○という点はとても良かった。だからこそ、□□の部分をもう少し深掘りできると、さらに説得力が増したと思う。全体としては前向きに取り組んでいて、今後の成長が楽しみです」

といった具合に、良いところと改善点、そして期待の言葉をセットで伝える。それだけで印象が大きく変わります。

— 確かに、最初にポジティブな評価があるだけでも、安心して話を聞くことができそうです。

河本さん: もう一つ意識したいのが、学生自身がすでに気付いているであろう課題をあえて言語化して伝えることです。

「発表の態度が明らかに緊張しすぎていた」「発表資料の体裁が整っていなかった」「調査不足が目立った」などの場合、その課題は学生も気付いていることが多いでしょう。

そういった点を改めて指摘し、いわば「図星を突く」ことで、「やっぱりそうか」と納得してもらいやすくなります。その上で、本人が気付いていない部分に踏み込んでいくと、より深い気付きを与えることができますね。

— 相手の自己認識に合わせて段階的に伝えていく、というイメージですね。

河本さん: はい。そしてその際も、なるべく抽象的な言い方を避けるのがポイントです。「もっと詳細に」といった言葉だけではなく、「資料に目を落とさなくても、あなたの発表を聞いているだけで分かるようにするといいですよ」といった具合に、具体的な行動や場面にひも付けて伝えることで、学生も納得しやすくなります。

信頼関係は“途中の声掛け”で築ける

— 伝え方の工夫を重ねて、信頼関係も築けると強いと思いますが、何か方法はありますか?

河本さん: 先ほどお伝えしたとおり、たった数日のインターンシップで信頼関係を築くのは難しいことです。
だからこそ「伝え方」の工夫が大切なのですが、「ちょっとした関わりの積み重ね」で、信頼関係を築くこともできます。

— 例えば、どんな関わり方が効果的なのでしょうか?

河本さん: 例えばワーク中に「さっきの意見、面白かったよ」と一声掛けるだけでも違いますし、「積極的に動いているね」とアイコンタクトや相づちを送るのも有効です。学生にとっては「ちゃんと見てくれている」「気に掛けてくれている」という実感が安心感を生み、信頼関係につながります。

逆に、発表だけを見てネガティブフィードバックをすると、そこには信頼関係がないため、最初にお伝えしたように学生側の拒絶反応が出やすいんですね。

現場との兼ね合いで、発表にだけ現場社員を招いてフィードバックをしてもらうことがあると思いますが、そこで厳しいネガティブフィードバックをしても「この人、結論だけで判断しているな」と、学生に受け入れてもらえない、成長につながらないことがあります。

時間の都合でどうしても現場社員をワーク中にもアサインすることが難しいのであれば、採用担当者はワーク中の様子を見てフィードバック、現場社員はアウトプットを見てフィードバック、と役割分担をしてもいいでしょう。

実際、採用担当者はインターンシップや採用全体のことは理解できていても、実際の現場のことは見えにくく、アウトプットに対する具体的なフィードバックは難しいことが多いですよね。
逆に、現場社員はインターンシップを採用活動全体の流れの中で理解することができないので、どうしても現場視点からアウトプットにフォーカスしたフィードバックになりがちです。

この両者の違いを生かすという意味でもメリットは大きいはずです。
観察と評価を分けることで、より厚みのあるフィードバックが可能になる場合もあるでしょう。

伝わるフィードバック・伝わらないフィードバック

— ここまで“どう伝えるか”という点でさまざまなお話を伺ってきましたが、現場でよくある「伝わらないフィードバック」のパターンにはどんなものがあるのでしょうか?

河本さん: 「褒めるだけ」のパターンですね。
例えば、「発表、良かったよ」とか、「とても考えられていますね」とだけ言って終わってしまうフィードバックです。

褒めることはもちろん悪いことではありませんが、それだけだと学生はせっかく参加したインターンシップから何を学んだらいいのかが分からず、「成長の糧」にはなりづらいんです。

— なるほど。せっかくの機会がもったいないですね。

河本さん: もう一つは、先ほども少し触れましたが「抽象的すぎる」パターンです。
「もっと積極的に」「協調性が足りなかった」といった言葉だけでは、学生はどの行動をどう変えたらいいのかが分かりません。

伝える側にとっては分かりやすく言ったつもりでも、学生側からすれば「ふんわりしていて何も伝わらない」と感じてしまうことも多いです。
より具体的に「どこをどう変えたら、より良くなるか」を指摘して初めて、学生は次のステップに進むための学びを得ることができます。

— 逆に、「伝わるフィードバック」のポイントはどこにありますか?

河本さん: 一つは“前置き”です。「これは私から見た印象だけど」「あくまで一意見として聞いてほしいんだけど」といったクッション言葉を使うと、相手はぐっと受け入れやすくなります。

もう一つは、「評価の観点」や「模範解答」を評価側であらかじめ明確にしてからフィードバックをすることです。
フィードバックの軸が明確になり、「人によって言っていることが全然違う」というブレも発生しにくいので、納得感にもつながります。

また、この方法は「企業の人はここまで考えているのか!」という驚きを与える効果もあり、その視点の深さからフィードバックにさらなる納得感を与えてくれるでしょう。

— 評価軸の可視化によって、フィードバック自体がクリアになりますね。

河本さん: そうですね。「なんとなく評価された」と感じてしまうと、学生は不安になります。でも「この観点で見ていて、ここが良くて、ここが惜しかった」という伝え方ができれば、学生にとっても「お土産」になり、次の成長につながるだけでなく、企業への好意度向上にもつながるでしょう。

学生にとって「成長の糧」となるインターンシップにするには

学生の成長を促すために欠かせない「フィードバック」。中でもネガティブフィードバックは、伝え方次第でその価値を大きく左右します。

就活ハラスメントへの配慮が求められる時代だからこそ、企業が伝えるべきなのは“厳しさ”ではなく、“誠実さ”。一方的に指摘するのではなく、「伝える順番」「具体性」「関係構築」といった工夫を通じて、学生の納得感と前向きな受け止め方を引き出すことが求められています。

インターンシップの設計や現場の関わり方を少し変えるだけで、学生にとってその経験が“成長の糧”となり、企業にとっても“志望度の向上”という形で返ってくる──そんな相互にとって価値のある時間をつくるために、今回のインタビューから得られたヒントをぜひ取り入れてみてください。

  • Organization HUMAN CAPITALサポネット編集部

    HUMAN CAPITALサポネット編集部

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  • 人材採用・育成 更新日:2025/05/07
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