企業・学生双方にメリットのある「有償インターンシップ」とは?
売り手市場と呼ばれる現在の採用市場においても、学生にとって就職活動におけるインターンシップの重要性は依然として高水準を保っており、2026年卒でもこれまでに85%を超える学生が参加しています。
出典:2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(中間総括)
この記事をお読みの皆さまの多くもインターシップを開催されていることと思いますが、近年では「有償」、つまり報酬が発生するインターンシップも注目を集めています。一方で、アルバイトや無償インターンシップと何が違うのか、その違いをどのようにプログラムに落とし込むべきかについて、知りたい方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、多くの企業に採用コンサルティングを提供している株式会社シーズアンドグロースの河本 英之さんに、有償インターンシップを開催するメリットとポイントについて伺いました。
そこで今回は、多くの企業に採用コンサルティングを提供している株式会社シーズアンドグロースの河本 英之さんに、有償インターンシップを開催するメリットとポイントについて伺いました。
有償インターンシップは「学生主体」の活動
— 今日はよろしくお願いします。まずは、本記事で触れる学生向けの「有償インターンシップ」の定義からお伺いさせてください。
河本さん: 一口に「有償インターンシップ」といっても、医療や法曹などいくつかの業界では有償の実務研修を「インターン(シップ)」と呼ぶ場合があります。その点で、アルバイトとの区別が付きにくいという方は多いと思いますので、まずはこの点を整理しておきましょう。
「アルバイト」は、明確な労働です。人手が不足している業務に対し、一時的な労働力として報酬を支払って雇用することを指します。労働に対して対価を支払っており、その主体は企業側にあります。対象も学生とは限らず、雇用契約も必要になります。
一方、「インターンシップ」は、キャリア教育の一環として企業側が学生に向けて行っている施策です。
企業が持っている実務環境(職場)やノウハウを、学生の「学び」のために提供する活動のことなので、対象は学生に限られますし、活動の主体も学生です。
「有償インターンシップ」は、明確に後者の「インターンシップ」に属するものであることをまず、押さえておきましょう。
— 報酬は支払うが、「労働」ではないということですね。
河本さん: そのとおりです。あくまでもインターンシップなので、その目的はキャリア教育であることを忘れないようにしましょう。労働力として期待することなく、学生に学びの機会を提供することを徹底すべきです。
無償インターンシップと有償インターンシップの違いとは?
— では、なぜ学生に学びの機会を提供する側の企業が報酬を支払うのでしょうか?
河本さん: その疑問をひも解くには、有償と無償のインターンシップの違いについてもう少し深く理解する必要があるでしょう。
最も大きな違いは、インターンシップの参加に報酬を支払うことで、長期プログラムの設計が可能になる点です。
— 具体的に教えてください。
河本さん: 三省合意の改定によって、「インターンシップ」の名称を使うためには「5日以上の実務体験」を実施する必要がありますが、無償インターンシップの場合はこの下限である「5日間」で設定することが多いでしょう。
これは、学生にとって無償で提供できる時間の感覚が影響しています。アルバイトや学業を差し置いて特定の企業に集中して時間を投下すると考えたとき、無償であれば5日間が限界ではないでしょうか。
しかし、有償インターンシップであれば学生側もその感覚が変わってきます。2週間や1カ月といった長期間のプログラムに対しても、時間を使うことに納得感を得られやすくなるのです。長期プログラムが可能になるということは、企業側もより本質的なマッチングが期待できます。
さらに、副次的な効果として、インターンシップの選考も行いやすくなります。
無償インターンシップで選考を行うには、以前の記事でも解説したとおり、よほどの人気企業でない限りは精緻な戦略設計が必要となりますが、有償であれば学生側の納得感も得られやすくなります。そのため、企業規模や知名度にかかわらず念入りな選考を課すことが可能になります。
— 実施期間と選考の行いやすさの点で、無償インターンシップとの違いがあるのですね。
河本さん: はい。単に「報酬を支払うかどうか」以上の違いがあり、企業側にもメリットが大きいので注目を集めているわけです。
しかし、「報酬を支払うこと」はもちろん、「長期間のプログラムを実施すること」は企業側にとって大きなコストにもなり得ます。
そのコストに見合うだけの効果を得るには、無償インターンシップよりもしっかりとした設計と準備が必要になることに注意してください。
有償インターンシップを実施するに当たって準備すべきことは?
— では具体的に、有償インターンシップを開催するに当たって準備すべきことは何でしょうか。
河本さん: 報酬と長期プログラムの実施というコストに見合う設計をするためには、特に以下の点に注意してください。
1.目的と対象者の明確化
報酬を支払うのはもちろん、受け入れ期間も長期になり現場の負担も大きいことが多いため、どのような学生に参加してほしいのかを慎重に検討しておくことが重要です。
インターンシップを通じてどのような学生に出会いたいのか、学生には何を学び・感じてもらいたいのか、その結果としてどのような成果を期待するのか、しっかりと社内で話し合った上で慎重に設計しないと、コストが無駄になってしまいかねません。
2.選考プロセスの設計と落選者へのフォロー施策の準備
すでにお伝えしたように、有償インターンシップにおいて対象者の明確化は非常に重要です。そのため、選考プロセスもきちんと検討しましょう。
私の経験では、本選考よりも厳しい選考を課す場合も多いようです。本当に有償インターンシップに来てほしい学生を見極めるためにはどんな選考をすればよいのか、社内でよく話し合ってください。
ただし、学生はまだ選考の場数を多く踏んでいるわけではありません。採用選考よりも業界・企業理解、プレゼンテーション力などの習熟は進んでいないことに注意が必要です。本人が持っている素養に注目し、「この人の成長を見てみたい」と思えるような学生を選ぶのが良いでしょう。
また、選考がある以上、お断りせざるを得ない学生もいます。狭き門である有償インターンシップの方が、無償よりも学生の納得感は得られやすいのですが、志望度が落ちないような配慮は必要です。
インターンシップの選考と本選考とは関係がないことを丁寧に説明するだけでなく、インターンシップの選考を受けた学生向けに特別なコンテンツ(VODセミナーなど)を用意したり、他の選考付きインターンシップに招待したりするなど、フォロー施策を準備すると良いでしょう。
3.報酬額の設定
すでにお伝えしたように、学生を長期間にわたって拘束することになりますので、その時間を割いてもらうに値する報酬額を設定する必要があります。
一般的に、各地域の最低賃金よりは高額に設定する企業が多いようです。
4.体験してもらう仕事内容の選択
学生からの印象を良くしようと華やかな仕事ばかりを体験してもらうと、仮に採用につながったとしても、入社した後にリアリティショックから早期離職につながってしまう可能性があります。
さまざまなバリエーションの業務を体験させることができるのは、長期プログラムのメリットです。地味に見えるが大切な業務や、働くことの厳しさが伝わるような体験も盛り込むと良いでしょう。結果的に包括的な事業の理解も促すことができます。
5.受け入れ部署との調整・フォローアップ体制の準備
有償インターンシップで思うような成果が出ないケースで多いのは、受け入れた学生を現場でアルバイトや常駐フリーランスと同じように扱ってしまうパターンです。
あくまでも「学び」のために学生を受け入れていることを現場とも共有しましょう。現場の社員も学生には常に目を配り、質問や困ったことはないかをこまめに尋ねるような配慮が必要になります。メンターを付けることも有効でしょう。
現場にとっては負担に感じられる内容であるはずなので、事前によく説明し、協力を取り付けておくことが重要です。
その上で、初日と最終日は人事がしっかりと学生と向き合って、不安を解消したりフィードバックを伝えたりといった時間を取ることも忘れないようにしてください。懇親会も人事が主導するのがお勧めです。
6.労務・契約・保険関係の確認と整理
報酬が発生する以上、なんらかの契約を学生と結ぶことになります。
まず、長期間にわたって現場に学生を受け入れることになるので、事業に関する機密情報にも触れる機会が出てくることを考えて、機密保持契約を結びましょう。情報管理を担当する部門に確認しつつ、一般に外部パートナーと締結する機密保持契約を適用しても大丈夫か、法務などの担当部署とよく確認してください。
次に、報酬支払いの根拠となる契約も必要です。アルバイト契約ですと福利厚生や社会保険関係の手続きも同時に発生して管理コストが膨らむので、業務委託契約を締結するのが一般的でしょう。
こちらも、社内の労務や法務と有償インターンシップの学生向けに新しいフォーマットが必要になるかどうかを検討してください。
そして最後に忘れがちなのが、保険関係です。業務委託契約を結ぶ場合は労災保険の対象外ですが、期間中にけがなどがあった場合に補償できる保険に入ることで学生も安心できますし、会社を守ることもできます。
いくつかの保険会社が「インターンシップ保険」を商品として持っていますので、まずは問い合わせてみてください。
それでも大きい有償インターンシップのメリット
— 率直に、かなり準備が大変そうだという印象です。それでも企業側には大きいメリットがあるのでしょうか?
河本さん: はい。先にお伝えした「長期間のプログラムを実施すること」と「選考を実施しやすいこと」から生まれるメリットが多くあります。
1.競争力が高まり、インターンシップへの応募増が望める
知名度不足によるインターンシップ参加者の不足に悩んでいる企業は多いと思いますが、有償インターンシップであれば「報酬」という参加の動機をつくり出すことができるため、無償でインターンシップを開催するよりも応募してもらいやすくなります。
特に、報酬を時給1,500〜2,000円ほどと、学生アルバイトよりも高額に設定すれば、さらに強い動機形成の一助になってくれるはずです。
2.社風など伝わりにくい情報をしっかりと伝えられる
有償・無償にかかわらず、企業がインターンシップに望むものの1つに「社風の理解」があります。
説明会や採用サイトなどでどれだけ言葉を尽くしても伝えきることのできない情報であり、理解のためには実際に職場を見て、体験してもらうことが近道だからです。
その点、有償であれば2週間や1ヶ月と長期間にわたって学生に職場を体験してもらうことができます。社風や社員の雰囲気を魅力として伝え切れていないと感じている企業にとっては非常に魅力的なメリットと言えるでしょう。
また、学生にとっても本格的な就職活動を目前に「働くこと」のイメージを具体的に持つことのできる素晴らしい機会となりますし、結果として有償インターンシップに参加した学生は入社前後のギャップが少ないため早期離職をしにくいという成果も期待することができます。
3.特定のスキルや経験を持った学生と接触できる
すでに解説したとおり、有償インターンシップであれば違和感なく選考を課すことができるため、建築・医療・教育・法曹など特定の資格を持った学生を求めている業界の企業や、DX推進などのために特定のスキルを持った学生を採用したい企業にとっては大きなメリットとなります。
報酬によってインターンシップ参加の動機も高めることができるため、ライバル企業に先んじて接触機会を持つ良い施策になるでしょう。
4.企業ブランディングにつながる
有償インターンシップの開催が、企業ブランディングに寄与する可能性もあります。実務に近い仕事体験を「報酬あり」で提供しているということ自体が、学生にとっては魅力的に映り、話題になりやすいからです。
後輩や同期など、他の学生に「あの会社のインターンシップは良いよ」と口コミで広めてくれることも期待できます。
5.長期的なリレーション構築
そして最後に、最も大きいメリットとして、「深い関係構築ができる」という点があります。
2週間、1カ月と机を並べて仕事をした人に親近感を覚えることは自然なので、インターンシップ終了後も長期間にわたって連絡を取り続けることができますし、もし学生が希望すればそのままアルバイトとして改めて雇用し、自然な流れで入社するということもあり得ます。
— 専門的な人材との接点を持ちたい企業はもちろん、少人数でマッチングを重視したい企業、これまでとは異なる人材と出会いたい企業など、さまざまなニーズに対応できる施策だと感じました。具体的な示唆とノウハウを教えていただき、ありがとうございました。
「有償」だからこそのメリットを生かした設計を
有償インターンシップは、金額だけではないコストの大きさや、準備の大変さからなかなか手を出せない……という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、河本さんのお話からはそれに見合った成果を期待できることが分かりました。準備すべき項目は多いですが、その分、無償インターンシップとは異なる人材との接点を生み出し、学生の中でも話題にしてもらうことが可能です。まずは自社で接触したい学生像と照らし合わせ、企業・学生双方にとって実りある有償インターンシップを検討してみてください。
- 人材採用・育成 更新日:2024/12/03
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