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「親がダメって言ったので」──就活生の“本当の理由”に気付けていますか?

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採用担当者なら、一度は耳にしたことがあるだろう「オヤカク(親への確認)」。これは、学生が就職先を決める前に親の意見を確認することや、企業が内定を出した学生の親に対して内定について確認したり、自社のことを紹介したりすることを指します。

「親に反対された」 という理由で内定を辞退する学生が一定数いることから、その対策として保護者への情報提供や関係構築を強化する企業が増えているという話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

一方、政府からの採用活動に関する要請の中で、オヤカクが「就活終われハラスメント(オワハラ)」の一環として利用されている実態が具体的に指摘されるなど、その在り方には懸念も示されています。(※)

その実態について、「親に相談する学生が増えているのは事実です。ただし、意思決定を親に委ねているわけではありません」と話すのは、学生のキャリア形成支援や企業の採用支援に豊富な経験を持つ、羽田啓一郎さんです。

学生の本音や行動実態に目を向けない“親向け施策”は、かえって不安を与えてしまうリスクすらはらんでいます。学生・企業・保護者、それぞれとの向き合い方を見直すためのヒントを探ります。

内閣官房・文部科学省・厚生労働省・経済産業省による「2026年(令和8)年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請」より

「オヤカク」が注目されるようになった理由とは?

— そもそも、「オヤカク」という言葉が注目されるようになったのは、いつ頃からだったのでしょうか?

羽田さん: そうですね、はっきりキーワードとして見掛けるようになったのは、ここ数年だと思います。

背景としては、やはり「キャリア選択で失敗したくない」という気持ちの強い学生が増えてきたことがあるでしょう。そして、その中で相談相手として友人や学校の先生、キャリアセンターと並んで、親の存在感が大きくなってきました。最も身近な「働いている大人」であり、本人のこともよく理解しているので、当然と言えば当然です。

— 確かに、以前と比べて親との距離が近いという話も聞きます。

羽田さん: そうなんです。僕らのように、少し上の世代だと「親に就職の相談なんてしない」という感覚の人が多かったと思うのですが、今は全く違います。男女問わず、親にアドバイスをもらったり、話を聞いてもらったりするのが当たり前になってきているようです。

— そこで、企業側は「学生の親」に情報を伝えておくことで、内定辞退を防げるのではと考えるのですね。

羽田さん: そうですね。そこには、実際に内定辞退の理由として、「親に反対されたから」と話す学生が増えているという背景があります。

しかし、弊社で100人の学生に直接アンケートを取ったところ、「親が理由で辞退した」と答えた人はゼロでした。

— それは意外ですね。

羽田さん: つまり、学生たちの真意は「内定辞退を親を理由にすれば引き留めにあわないから」ということなのです。

内定はもらったけれど、辞退しようと思っている。その際、きっと引き留められるだろう。できるだけ穏便に済ませたい。だから、「親がダメって言ったので」というわけです。つまり、親を“盾”にしているんですね。

学生に届かない「親向け施策」が生むすれ違い

— 「オヤカク」で辞退されたと考えた企業が、保護者向けのパンフレットを作成したり、Webサイトに「保護者の方へ」というページを設けたりする例も見られますが、こうした対応についてはどうお考えですか?

羽田さん: 親に情報を届けたい気持ちは分かりますが、それが「親を安心させられる企業としてのアピール」を演出することにばかり向いてしまうと、本来の目的からずれてしまうのではないかということは懸念しています。

— 本来の目的、というと?

羽田さん: 学生本人の納得感を高めることです。

親向けの情報をいくら手厚くしても、それが学生の「ここで働きたい」という気持ちにつながるわけではありません。
むしろ、あまりに「オヤカク」を意識した情報発信ばかりに力を入れてしまうと、「そこまでやらないと不安に思われてしまう会社なのか?」と、企業の信頼を損ねてしまうリスクにもつながりかねないことには注意が必要です。

— 確かに、少し構えられてしまう可能性はありそうです。

羽田さん: 「オヤカク」が学生の意思決定に全く影響しないというわけではありませんが、それを過大評価してしまうと、学生との本質的な接点づくりがおろそかになってしまうでしょう。

親に届く資料を一生懸命作る前に、学生との対話の中でどれだけその会社の魅力を伝えられているか、自分のキャリアにフィットすると感じてもらえているか、そこにもっと集中すべきだと思います。

学生がそうした情報に触れ、自分自身のキャリアを考え、本人の意志で内定受諾する企業を選ぶ。それが、本来あるべき採用活動・就職活動の在り方であるはずです。

「つらすぎる」就活で自信を失ってしまった学生に寄り添える存在に

— とはいえ、すべての学生が自分自身で進路を主体的に決定できるかというと、そうではない面もあります。中には「オヤカク」が有効に働くケースもあるのではないでしょうか。

羽田さん: はい、確かにそういう面もあります。特にここ数年は、就職活動が早期化している影響もあり、準備ができないままインターンシップの時期に入って、名前を知っている大手ばかりを受けた結果、「全落ち」して自信を失ってしまう学生も少なくありません。
私のところにも「就活がつらすぎる」という相談がよく届きます。本当に自信を失ってしまっているのでしょう。

そのような学生にとって、自分で決断する必要のない「オヤカク」による内定辞退や内定受諾の意思決定は「楽な選択肢」として映ってしまいます。

— なるほど。とはいえ、やはり先ほどおっしゃっていたように、「学生が本人の意志で企業を選ぶ」という就活本来の在り方は大切にすべきですね。

羽田さん: そのとおりです。そのとき、学生の味方になってあげられるのは、実は採用担当者だと思っています。

「選別者」としての関わりだけでなく、学生に寄り添う「就活の伴走者」としての関わりも積極的に持つことで、学生の自信を取り戻させ、本人がキャリアについて主体的に考えられるようサポートすることが重要です。

「オヤカク」で学生の意志がくじかれないための情報提供

— もう一つの視点として、例えば企業のイメージと実態が乖離(かいり)している(実際には労務管理がしっかりしているのに激務だと思われているなど)場合に、オヤカクで「やめたほうがいい」と言われないための情報提供にも意味がありそうに思えます。

羽田さん: はい。学生が親に相談したとき、「その会社は『ブラック』だと聞いたことがあるぞ」などと言われないよう、働き方について一定の情報を提供することが良い場合もあるでしょう。

誤った情報に基づいた親からの否定によって、学生本人の意志がくじかれてしまっては、学生にとっても企業にとっても不幸だからです。

また、そういった場合以外にも、生活面の情報は親に伝える意味があるかもしれません。例えば具体的な福利厚生の内容や、勤務形態といった情報ですね。
これらの情報は学生本人には実感をもって理解することが難しく、親からの助言や評価が価値を持つことがあります。

ただし、あくまでも「誤解を解く」「親に余計な心配をさせない」というレベル感に押さえ、学生自身の意向をコントロールしようとしてはいけません。

— では、どのような形で親への情報提供を行うのが適切だと思われますか?

羽田さん: 例えば、内定通知書と一緒に資料を1枚入れておくとか。郵送物の中に「保護者の方へ」といった案内がさりげなく入っているだけで、親御さんとしても安心できると思います。あくまで“安心材料”としての情報提供、という位置付けですね。

— 親の意向を尊重するというより、「親に余計な不安を与えない」くらいの温度感がちょうど良さそうですね。

羽田さん: まさに、そのくらいがちょうどいいと思います。親に心配をかけるのではないかと学生本人が心配しなくて済むというくらいのところを目標にして組み立てるといいでしょう。

「オヤカク」は万能ではなく、戦略的に使うもの

— ここまでのお話を踏まえると、「オヤカク」はすべての企業・すべての学生に当てはまる“正解”ではないということがよく分かりました。

羽田さん: はい。「オヤカク」を「内定辞退防止の特効薬」のように捉えるのは危険です。あくまで、学生の主体的な意思決定を促すことが大切です。

まずは、自社が採用したいと考える学生層にとって「親の影響力」がどの程度あるのか、また、企業イメージが実態と乖離(かいり)していないかなどを見極め、もし親への情報提供が意味を持つのであれば、目的や伝えるべき内容を明確にした上で、必要最小限の形で届けるのが良いと思います。

— そして、残ったリソースを学生と向き合うために使う、と。

羽田さん: そうです。内定受諾、ひいては入社後の活躍のために大切なのは、何より学生本人との対話です。

対話を通じてキャリアビジョンを固め、主体的に内定受諾を決めた学生であれば、その企業で働くためのモチベーションが高い状態で入社できますから、結果として早期離職を防ぎ、入社後の活躍を期待できるということになります。

企業が注力すべきなのは「親に反対されないための対策」ではなく、「学生が自社に魅力を感じるための努力」だと私は考えます。
そうして、自分の意思で選んでもらい、モチベーションを高く入社してもらうために企業ができることは、まだまだたくさんあるはずです。

— 気付きの多い取材でした。ありがとうございました。

親の説得より、学生との信頼構築を

内定辞退の理由として「親の反対」が語られる場面は少なくありませんが、その多くは就活を円滑に進めるための“建前”に過ぎないこともあるようです。
企業が親向けに情報提供を行うこと自体に意味がないわけではありません。ただし、それが学生本人との対話や納得感の醸成よりも優先されてしまえば、本来の目的からは外れてしまいます。

保護者対応は、あくまで“補助的な手段”の一つ。企業がまず注力すべきは、学生との信頼関係の構築と、自分で判断できる材料の提供です。
それが結果的に、親からの理解や安心にもつながり、内定辞退の抑制にも寄与していくのではないでしょうか。

  • Organization HUMAN CAPITALサポネット編集部

    HUMAN CAPITALサポネット編集部

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  • 人材採用・育成 更新日:2025/05/28
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