モチベーションを上げ、離職を防ぐ!配属前・配属後面談のポイント
配属前面談では「思い込みのWILL」に気を付ける
— まずは、配属前面談についてお話を伺います。どのような目的意識を持って行うべきだと考えますか?
曽和さん:
「顔合わせ」や「親睦」ではなく、はっきりと「配属決定のための情報収集の場」として考えることが重要です。
具体的には、本人の希望をヒアリングすることに集中すべきですね。
ただし、本人の言葉をうのみにしないよう、注意が必要です。なぜなら、中には「思い込みのWILL(志向・志望)」を持ってしまっている新入社員もいるからです。
— 「思い込みのWILL」とは何ですか?
曽和さん: 本人も気付かないうちに決め付け、信じ込んでしまっている自分のキャリア志向や人生目標のことを、私はこう呼んでいます。
その背景には、近年の大学で注力されているキャリア教育があります。
もちろん、キャリア教育において世の中の仕事を知り、自分の可能性や適性について考えること自体は、人生を充実させるために必要です。しかし、仕事をほとんど経験していない10代後半から20代前半の若者が、その時点で自分の人生やキャリア全体を見通し、具体的な目標を決めてしまうのは無理がありますよね。
しかし、就職活動の現場ではそれが求められます。その結果、新入社員は本人も気付かないまま「思い込みのWILL」をつくり上げ、固執してしまうことがあるのです。なので、まずは本人が語るWILLが本物であるかどうか、見極める必要があります。そのためのポイントは3つです。
WILLの見極めポイント
- きっかけ
- 意見
- 行動
それぞれ解説していきます。
1.きっかけ
曽和さん: まずはそのWILLを抱いた「きっかけ」を聞いてください。WILLが本物であれば、直接的にそのWILLを持つきっかけとなった出来事や人物などについて具体的なエピソードを話すことができるはずです。
2.意見
曽和さん: 次に、WILLについて本人の意見を聞いてください。例えば「マーケティングの仕事をしたい」とWILLを語っていたとして、それが本物であれば、何かしら「この会社はこのような戦略を取るべき」というような意見を持っているものです。
3.行動
曽和さん: 最後に、そのWILLを実現するためにどのような行動を取っているのかを聞いてみましょう。資格取得のための勉強や、興味分野についてブログなどで発信しているなど、具体的な行動を取っているようであれば、本物のWILLである可能性が高いですね。
ただし、面談の場で「君のそのWILLはうそだ、思い込みだ」というように「論破」すると、新入社員のモチベーションやロイヤリティは著しく低下しますので、絶対にしないでください。まずはじっくりと話を聞き、記録しましょう。それが本物のWILLであるか、思い込みであるかの判断は後で行います。ここでの記録は、配属の意思決定はもちろん、配属後面談でも役に立ちます。
新入社員の「WILL」を見極めて、配属はどう考える?

— 配属前面談で新入社員のWILLを見極めて、それをその後、どう生かせばいいのでしょうか。
曽和さん: そのWILLが本物であると判断したなら、できる限り希望をかなえてあげてください。例えば、デザイナーになることを本物のWILLとして持っている新入社員を会社の都合で営業部に配属しても、成果やモチベーションは上がりません。離職につながることもあるでしょう。
逆に「思い込み」だと判断したのなら、本人の言葉から適応できそうな部署を選択し、配属します。例えば「絶対に営業の仕事がしたい」と語っていた新入社員が面談の中で、「細かな数字の計算や見通しを付けることが得意」と語っていたのなら、経理や営業事務などに配属するのもいいでしょう。
— 会社側で「思い込み」と判断したとしても、学生本人は「本物のWILL」であると考えているはずです。その場合は成果やモチベーションの低下につながらないでしょうか?
曽和さん: もちろん、その可能性はあります。そこで「配属後面談」が重要になります。詳しく解説しましょう。
配属希望をかなえられなかった新入社員に行う配属後面談のポイント
曽和さん: まず前提として、配属後面談は人事ではなく、直属の上司が行ってください。これは、新入社員の希望がかなっている場合も同様です。
人事はあくまでも「マクロ」の視点で現場を見る仕事なので、具体的な仕事に関するオンボーディングも含まれる配属後面談は、より「ミクロ」に現場を見ることのできる現場の上司が行うべきだからです。
その上で、希望をかなえられなかった新入社員のモチベーションを落とさず、前向きに仕事に取り組んでもらうために配属後面談で行うべきことが、大きく3つあります。
配属後面談のポイント
- 意味付け
- 動機付け
- ヒアリング
それぞれ解説していきます。
1.意味づけ
曽和さん: 例えば、マーケティングを希望していた新入社員を営業部に配属したとします。本人は当然不満を持っているはずです。
そこで、本人の希望をあくまでも尊重しつつ、本人のキャリアにおいて今、営業の仕事をすることにどのような意味があるのか意味付けをすることで、仕事に対する主体性やモチベーションを引き出してあげましょう。これを「ジョブクラフティング」と呼びます。
先ほどの例で言えば、「マーケティングのように仕組み化して売り上げを伸ばす仕事をする前に、現場でクライアントのニーズやビジネスの構造を理解しておくと、将来役立つはずだよ」というような言い方をしてあげましょう。
このとき、配属前面談の記録をしっかりと読み込み、本人の志向に合わせた言葉選びをすることを意識してください。
2.動機付け
曽和さん: 次に、配属理由を明確に説明します。「あなたが配属前面談でこう言っていたので、その資質がこの仕事に生きると思ったから」というような言い方がいいですね。自分が言ったことを理由にして説明されると、やはり納得しやすく、仕事に前向きに取り組む動機にもなりやすいはずです。
あとは、仕事のやりがいを率直に伝えてあげることも有効です。私は会社員時代、人事と総務の責任者を兼任していたことがありましたが、総務に配属された新入社員って、本当にがっかりしているんです(笑)。
でも、やってみれば総務の仕事にも面白みややりがいがあります。そのことを、上司だけでなく、一緒に仕事をする仲間からも具体的に伝えてあげることが、泥臭いようですが有効だったりします。
3.ヒアリング
曽和さん: 最後に、新入社員の言葉をしっかりと聞くことを意識してください。時には、配属について抵抗を示すこともあると思いますが、そんなときにも論破したり叱りつけたりしてはいけません。
配属についてどのような不安を感じているか、仕事の面白さや意味を理解できているか、きちんと向き合ってヒアリングし、時には提案を受け入れて仕事内容を調整するようなことも必要でしょう。
このときも、配属前面談の記録をしっかりと読み込み、新入社員が抱えていそうな不安や不満を想像した上で面談に臨むと、より良いものになるはずです。

— いま、論破したり叱りつけたりしないこと、とアドバイスがありました。他にしてはいけないことはありますか?
曽和さん: はい、大きく2つあります。
配属後面談でしてはいけないこと
- リアルを突き付ける
- やりがいや楽しさの押し付け
それぞれ解説していきます。
1.リアルを突き付ける
曽和さん: 仕事の現実を伝えることは必要ですが、現場マネージャーの立場では脅すような言動をしてしまいがちなので、注意してください。
例えば「まだ新人なのだから先輩の言うことを聞いて仕事をしていればいいんだ」とか、「仕事というのはこういうものだから我慢しろ」というようなものです。
頭ごなしに言われても本人の納得感にはつながらず、モチベーションを上げるどころか、ひどく低下させる要因になりかねません。
2.やりがいや楽しさの押し付け
曽和さん: 次に「自分はこの仕事が好きだから、きっとあなたも好きになるはずだ」というように、やりがいや楽しさを押し付ける言動も控えましょう。
自分の経験を話して納得してもらう、という方法は取ってしまいがちですし、それがいい方向に働くこともありますが、基本的に仕事の楽しさややりがいは新入社員自身が「発見する」ことが望ましいからです。
あくまでも、本人の志向や希望を尊重しながら、業務の中で楽しさややりがいを発見できる手助けをするという姿勢でいてください。
— 具体的で実践しやすいお話をありがとうございました!
配属前・配属後の面談で新入社員の力を伸ばす
2025年に大学を卒業する世代の出生数は約115万人(※1)で、出生数がピークを迎えた「団塊の世代」の約270万人と比較して半分以下となっています。一方、入社後3年以内離職率は大卒で34.9%(※2)と過去最高を記録。つまり、それだけ慎重な配属とモチベーションの管理が重要になっているということです。
これからも新入社員のモチベーション維持は、多くの企業にとって課題となるでしょう。特に今回取り上げた配属前・配属後面談のような、節目となるタイミングの1on1コミュニケーションは重要です。新入社員のモチベーションとエンゲージメントを向上する良い機会となるよう、本記事を参考に、運用を見直してみてはいかがでしょうか。
※1 出典:厚生労働省「出生数、合計特殊出生率の推移」
- 人材採用・育成 更新日:2025/03/05
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