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運用ガイドDLあり|成功の極意は「Win-Winな関係」
新入社員に最高の状態で入社してもらうための内定者コミュニティ運用術

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現在、企業において一般的なスケジュールは、10月に内定式を行い、翌年の4月に入社式で正式に社員として迎え入れるというものです。

内定式から入社までの半年間は、学生にとっては学生から社会人へとシフトしていくための重要な時間。その「半年間」で入社への意欲を高め、最高の状態で入社してもらうために有効な手段の一つとして注目されているのが、内定者と企業がコミュニケーションを取り合いながら関係構築を行い、共同体として絆を深めていく「内定者コミュニティ」です。うまくいけば内定者同士が自発的につながり、入社への不安を払しょくし、モチベーションの向上を期待できる手法ではありますが、九州大学ビジネス・スクールの講師、碇邦生先生は「コミュニティをつくって終わりでは効果は見込めません」と言います。

内定者コミュニティの運営をする場合に考えておくべきこと、準備しておくべきことなど、具体的なノウハウと効果的な運営方法を伺いました。

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内定者コミュニティを運営する「5つのメリット」と「陥りやすい落とし穴」

— 今日はよろしくお願いします。「内定者コミュニティ」の取り組みに注目する企業が増えていますが、採用側から見て実際にどのような効果があるものでしょうか?


碇先生: 企業の規模や業種・業態によって大きく異なりますが、おおむね次の5つに集約されると思います。

<内定者コミュニティが持つ5つの効果>

  • 内定者の不安解消
  • 内定者のモチベーション維持
  • 企業文化の理解促進
  • 内定者同士の交流(入社前の人的ネットワーク構築)
  • 内定者のスキルや知識の向上

碇先生: そして、この5つのいずれもが入社後の新入社員のスムーズな定着、早期離職の抑制につながっています。内定から入社までの半年間、内定者を放置せずにきちんとケアすることで、内定者は学生から社会人へと自分自身を変化させることができ、内定辞退はもちろん、その後の定着にも役立つというわけです。

— 確かに、辞退防止や定着のために内定者コミュニティの運営に興味を持っている企業は多いですね。


碇先生: 現実はそうだと思いますが、「入社後のスムーズな定着」や「早期離職の抑制」を主な目的として内定者コミュニティを運営しようとすると落とし穴にはまってしまいます。ここは注意しておきたいところです。

— ぜひ詳しく聞かせてください。


碇先生: いま挙げた目的は学生にとっては関係のない、「会社の都合」であることに注意すべきです。コミュニティというのはあくまでも「共同体」で、企業と学生が同じ目線で取り組むことが必要です。このような会社の都合の押しつけでは学生が主体的にコミュニティに取り組むことはできず、結果として望んだ成果も得られません。必ずWin-Winな関係でないといけないのです。

事例から学ぶ 内定者コミュニティにおける企業と内定者との「Win-Winな関係」

— Win-Winな関係というのは、具体的にはどのようなものでしょうか?


碇先生: 結果として「入社後のスムーズな定着」や「早期離職の抑制」といった会社側の利益につながったとしても、その過程には内定者が自分自身で「このコミュニティに参加しているといいことがある」「自分にとって有益である」と思えるような工夫が必要だということです。

例えば、大分県内のIT企業に面白い事例があります。

この企業には私の研究活動の一環として、合同で異業種イノベーションセミナーを開催していただいているのですが、そこへ同社の内定者も招いています。
内定者は、その場で出るさまざまなアイディアに刺激されるようにして自分自身のビジネス思考、イノベーション思考を育てることができ、社会人としての能力を育てることができます。

さらには、内定者同士はもちろん、入社する企業の社員とも共同作業でビジネスプランを考えるという深い交流機会を持つことで入社後の不安を解消しつつ、社員への憧れや尊敬も醸成され、会社へのロイヤリティも高まります。特に、本セミナーのプロジェクトリーダーが同社の社長というのも大きいですね。

先ほど挙げた「内定者コミュニティが持つ5つの効果」が全て発揮されている好事例です。


<内定者コミュニティが持つ5つの効果>


1. 内定者の不安解消


入社予定先企業の社員との交流を持つことで、入社後の人間関係など企業研究や選考の中で解消しにくい不安に対応している。

2. 内定者のモチベーション維持


「異業種イノベーションを考える」という目的が明確であるためモチベーションを維持しやすく、さらに社員との交流機会でロールモデルを発見できるので、入社後まで続くモチベーションを獲得できる。

3. 企業文化の理解促進


社員との交流によって、情報としては得られにくい社風や社員の雰囲気といった企業文化を肌で感じることができる。

4. 内定者同士の交流(入社前の人的ネットワーク構築)


内定者同士でも協力しながら課題に取り組むことができるので、横のつながりを入社前から形成することができる。

5. 内定者のスキルや知識の向上


レベルの高い課題に取り組む中で、社会人として必要なスキルと知識を得ることができる。


— 今の学生は「社会人としてやっていけるかどうか」のような自分自身の能力への不安、そして「この会社できちんと勤められるかどうか」のような会社へ入ること自体への不安を抱えていますので、それらに的確に対応している点も非常に参考になると思いました。


「入社予定先企業を決めた後、不安になった理由」

出典:マイナビ 2024年卒内定者意識調査
碇先生: そうですね。コミュニティというと、SNSを活用したものや定期的な食事会、座談会などを想像すると思いますが、それだけではありません。企業の取り組みを内定者に見てもらうだけでも、社員と内定者、そして内定者同士が交流を持つことのできる機会になるのです。

内定者コミュニティ 成功のカギを握るのは「コミュニティリーダー」

— おっしゃるように、内定者コミュニティといえば、オンラインでのつながり形成やリアルでの交流機会をイメージしていました。


碇先生: それらも、もちろん一つの内定者コミュニティの形です。
コミュニティ運営となると、どうしてもオンライン、オフライン、イベントなど、その形態に着目してしまいがちですが、コミュニティの参加者が共通の体験を得て一体感を得ることができれば、あまり形態を気にする必要はありません。

いまお話ししたイベントの事例のような仕組みをつくるのが難しい場合は、オンラインとリアルを組み合わせた「つながり」を会社側で用意し、その中で何らかの体験を共有してもらうというのも一つの方法です。

ただし、これも「場だけ提供すれば内定者の中で自発的に何かが起こるだろう」と甘い見込みを持っていると失敗してしまいます。

— そう考えている方も多そうに思います。もう少し積極的な関与が必要ということでしょうか。


碇先生: はい。カギになるのは、コミュニティの中心でその運営をけん引する「コミュニティリーダー」の存在です。


<コミュニティリーダーに求められる5つの役割・資質>


1. 目的の設定と伝達


そのコミュニティで達成したい目的を明確にし、メンバーに伝える。目的が明確であればあるほど、その達成に向けてメンバーのモチベーションは高く維持される。

2. 話題提供とコミュニケーションの促進


SNSなどを活用する場合は、投稿のモチベーションを保つためにコミュニティリーダーが積極的に反応を示し、さらにコミュニケーションが活発になるよう話題を提供する。

3. 参加者を主役にする


コミュニティをけん引しようとするあまり、コミュニティリーダーが主役となってしまうとメンバーのモチベーションは下がってしまう。あくまでもメンバーが主役のコミュニティ運営が求められる。

4. ハラスメントとコンプライアンスへの理解


コミュニティリーダーがその立場を利用したハラスメントを行わないことはもちろん、メンバーがハラスメントと取られる投稿や行動をしないよう模範的な態度が求められる。

5. メンバーの選定と役割分担


メンバーにコミュニティリーダーをサポートする役割を振り当てたり、メンバーが共同で課題に取り組む際にそれぞれに適切な役割分担をしたりすることが求められる。


— 思いのほか、多くの役割や資質が必要なのですね。


碇先生: 特に「1.目的の設定と伝達」が、Win-Winな関係のコミュニティを運営するためにとても重要になります。
会社の都合だけでなく、内定者のためにもなる目的を設定することが、ひいては共通体験のデザインの出発点となるからです。

なので、「上席から内定辞退を抑制するように指令を受けて仕方なく」という動機で採用担当者がコミュニティリーダーになるのはお勧めしません。会社側の都合が優先されてWin-Winな関係を築けない可能性が高いからです。

採用担当者自身がコミュニティリーダーになる場合には、常に設定した目的が内定者のためにもなっているか、自問するようにしましょう。

— なるほど。ほかに注意すべきことはありますか?


碇先生: 「3.参加者を主役にする」は、一見当たり前のことのようですが、実は採用担当者がコミュニティリーダーになった場合には気を付けた方がいいポイントです。

内定者にとって採用担当者は自分が入社する企業を代表する存在で、配属にも関与することが分かっていますから、どうしても忖度(そんたく)する雰囲気が出てしまうんですね。

すると、内定者コミュニティがその雰囲気にのまれた採用担当者による「ショー」と化してしまう場合があります。内定者は仕方なく反応してくれると思いますが、モチベーションはまったく上がりません。
最悪の場合、そういった雰囲気がハラスメントにつながってしまうこともあります。

他に適任者がいない場合でも、採用担当者自身がしっかりとサーバントに徹するよう、常に気を付けていなくてはいけません。

これらの点を鑑みて、採用担当者以外をコミュニティリーダーに任命するのも一つの手です。
内定者が入社したら直接の先輩となる若手社員やメンターは、内定者を育てることに強い内発的な動機がありますから、意外と適任ということも少なくないですよ。

内定者コミュニティにはどんな「目的」を設定すべき?

— 先ほど「内定者のためにもなる目的を設定する」ことが大切というお話しがありました。具体的にどのような目的設定が考えられるのでしょうか。


碇先生: 最初にお話ししたように、企業の規模や業種・業態、採用について抱えている悩みの種類によって異なります。

例えば入社後に必須で取るべき資格があるような業種・業態の場合は「内定者のうちに資格を勉強しよう」といった目的にしてもいいでしょう。
内定者にとっては入社前に抱えている自分の能力に対する不安を解消する機会として、会社にとっては早期に戦力化できるというメリットがあります。

また、採用上の悩みとして「内定者同士のつながりが希薄で早期離職が多い」のであれば、卒業旅行の思い出を語り合ってもらったり、卒業論文や卒業制作の内容を共有して助け合ったり、といったことでもいいですね。
一生に一度しか出会えない「新卒同期」と強いつながりを持つことは内定者にとって非常に心強いものですし、会社にとってはそのつながりが早期離職を抑制する力として働くというメリットがあります。

大切なのは、それらの目的を心から内定者と共有できる人がコミュニティリーダーになるということです。
そうすることで、目的の内容にかかわらず、コミュニティ全体が一体となって体験を共有することができ、結果として「内定者コミュニティが持つ5つの効果」も達成しやすくなります。

— 今日は貴重なお話しをありがとうございました!


「内定者任せ」のコミュニティ運営から卒業

内定者コミュニティと聞くと、内定者同士が自発的に仲良くなって横のつながりを強化してくれる、手の掛からない効果的な施策という印象もあると思いますが、実際にはそのつながりを生み出すために共通の目的や体験をデザインするなどの設計が重要です。また、設定した目的を内定者と共有し、動機付けを行うコミュニティリーダーの存在が肝になるという点も参考になった読者の方は多いのではないでしょうか。

内定者コミュニティが持つ5つの効果は、どれも企業にとって魅力的なもの。運用を内定者ファーストで進めることで、両者にとってWin-Winな関係を構築していきましょう。

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  • Organization HUMAN CAPITALサポネット編集部

    HUMAN CAPITALサポネット編集部

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  • 人材採用・育成 更新日:2024/05/17
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