【2024年版】学生の志向・大学キャリア教育の最前線をマイナビ編集長が語る
コロナ禍を経て学生の「安定志向」にも変化
— 今日はよろしくお願いします。この2年ほどでコロナ禍が一定の落ち着きを見せ、大学にも日常が戻ってきています。その中で、学生の志向や大学のキャリア支援にはどのような変化が生まれているのでしょうか。
高橋: はい。まず特筆すべきなのが、学生の「安定感」の捉え方が変わっていることです。
— コロナ禍の最中に今回と同じテーマで取材をした際には 、学生が求める「安定感」はリスク回避志向からくる福利厚生の充実や柔軟な働き方への対応を求める傾向として表れていました。現在はどのように変化しているのでしょうか。
高橋: 今の学生が考える「安定感」とは、「長い目で見て自分の人生が安定すること」を意味しています。企業選びの基準も、「自分のキャリアが安定的に築けること」に着目する学生が増えているようです。
その背景には、コロナ禍を経て「世の中は自分たちが思っているほど安定していない」ことを痛いほど実感し、予想もしない変化に対応できる企業を選びたい、そして会社頼りではない自律的なキャリアを実現したいという志向の変化があります。
そのため、先進技術の研究開発を積極的に行っている企業や、業界の未来を創造するような取り組みを行っている企業、そして長期的なキャリア形成の支援に積極的な企業の人気が高いと感じます。
企業に求められる「長期的なキャリア形成の支援」
— 私たちが「(企業の)安定感」と聞いて想像するような、財務基盤の安定性などとは少し違うようですね。
高橋: はい。終身雇用制度が実質的に崩壊している今の環境で、新卒入社した会社を「一生の職場」と捉える学生は多くありません。
となると、長期的に安定した企業運営が可能な財務基盤よりも、未来に起こり得る変化に対応するための取り組みができている企業の方が魅力的に映るのでしょう。
「長期的なキャリア形成の支援」を企業に求める姿勢も、同様の理由から表れていると考えられます。
多くの学生にとって、新卒入社する会社はあくまでも「ファーストキャリア」であり、その後のキャリア形成にとっていかに有用であるかという視点で企業選びをしているのです。
そのため、福利厚生一つをとっても社員寮や社員旅行よりも、資格取得支援制度や社内研修など、自分が成長できる企業かどうかを重視する傾向にあります。
— 社会構造が変化して、学生(社員)と会社との関係性も大きく変わっていく中で起こった、当然の結果とも言えますね。
高橋: そう思います。終身雇用ができないのであれば当然、学生(社員)も他社や他業界への転身を含めた長期的なキャリア形成を意識せざるを得ません。終身雇用の代わりに、キャリア形成支援が求められていると捉えることもできるでしょう。
そして、このような関係性の変化は、ワーク・ライフ・バランスを求める傾向としても表れています。
男性も育児休業を取るべきであるという社会的な風潮の影響もあるでしょうが、「家庭はさておき、入社した会社でばりばり働く」という考えがだんだんと薄れていることの象徴であると思います。
大学でのキャリア教育にも変化 企業としてどう付き合っていく?
— そのようなキャリア観の変化には、大学でのキャリア教育の変化も影響しているのでしょうか。
高橋: 影響はあると思います。少し前まで、大学でのキャリア支援といえば実質的に「就活対策」であることがほとんどでした。求人票の読み方、エントリーシートの書き方、面接の練習などの内容です。
しかし今では、低学年からPBL(Project Based Learning:問題解決型授業)を取り入れ、さまざまな社会課題に対して議論を重ねながら解決策を考える実践的なプログラムを提供する大学も増えています。
また、低学年のうちからさまざまな職種・業種についての基礎知識を教えて、職業選択の幅を広げていくような試みをしている大学も多いです。
つまり、就活という「点」で役立つ知識やスキルではなく、社会に出てから本当に役に立ち、豊かなキャリア形成を助ける「線」を意識した内容に変化しているのです。
その背景には、学生が企業に長期的なキャリア形成の支援を求めるのと同様のものがあります。終身雇用制度が機能していない社会に出て行く学生たちに提供するサポートとして何が有効なのか、と考えた結果です。
— キャリア教育が「点から線」へと移り変わる中で、企業と大学との関わり方も変わってくるのでしょうか。
高橋: はい。先ほど例に挙げたPBLのような実践的な授業は、大学と企業との連携によってより質の高いものになりますので、大学側も企業との接点を探しています。
例えば地方の大学であれば、地場企業との連携により地域課題の解決をテーマとしたPBLをキャリア教育に取り入れていることがありますので、企業側からアプローチすることで学生との長期的な接点を持つことができ、採用活動にもプラスの効果をもたらすことは十分にあり得るでしょう。
また、キャリア教育の一環として学生に企業訪問を勧めたり、それによって単位を与えたりしている大学もありますので、低学年でも参加できるオープン・カンパニー (※ 三省合意の改正 に基づいて設定されたキャリア形成支援活動の一つ)や、2~3日での仕事体験であるタイプ2の「キャリア教育」を実施し、大学を通じて広報することで、やはり学生との長期的な接点をつくるきっかけとなり得ます。
大学との接点をつくるには? 大学側の意図をくみ取って有効な関係を
— 企業として大学との接点を持ちたい場合、具体的にどのような方法があるのでしょうか?
高橋: 「事前にきちんとアポイントを取る」「単なるあいさつではなく目的を明確にしてから伺う」といった一般的な企業訪問に求められる最低限のマナーは大前提として以前より大学から聞きます。キャリア教育に力を入れる大学が増えている今だからこそ、ぜひ実践していただきたいことがいくつかあります。
まず一つが、その大学がどのようなキャリア教育、キャリア支援に力を入れているのか、よく話を聞くことです。
低学年からのPBLにまで踏み込んでいるのか、3年生以降にインターンシップの参加を義務付けているのか、またはすでに企業と連携したキャリア教育科目を持っているのか…… それぞれの大学によって状況が異なりますので、まずは企業として何に協力できるのかを知るためにもよくヒアリングをします。
次に、自社の事業内容をただ説明するのではなく、「もしPBLのような実践的な授業に協力するなら、こんな課題を出せます」などと具体的なイメージを提案することも大切です。
すでに実践的なキャリア教育を行っている大学なら連携を検討してくれるはずですし、そうでなくとも提案をきっかけに大学側が動き出すことも十分にあり得ます。
— その場合、訪問先はキャリアセンターでいいのでしょうか?
高橋: 大学によって異なります。キャリア教育は教育の一環として教務課や学生課が窓口になる場合もあります。また、理系学生にアプローチをしたいのであれば、教授の研究室を直接訪ねた方が良い場合もあるでしょう。事前にリサーチをするか、分からなければキャリアセンターに問い合わせてみてください。
また、いきなりアポイントを取ろうとしても先方がお忙しく、なかなか予定が決まらないことがよくあります。そんなときは、自社の社員にOB・OGがいる大学を優先してアポイントを取るといいでしょう。
— 学生を取り巻く環境の変化と、それに伴う志向の変化に対応しながら企業と学生がいいマッチングができるといいですね。今日はありがとうございました!
社会の変化を感じ取って学生・大学と良好な関係を
コロナ禍を経た学生の志向の変化は想像以上に大きく、驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。また、自社をいつか辞めることを前提にして社内で「キャリア支援」を行うことに抵抗感を覚える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この点について高橋は、「かつてなく人材流動性が高まっているので、いつか自社に戻ってきて再雇用(アルムナイ採用)するかもしれない、という視点を持ってもいい」と語っていました。
多様な価値観、経験を持った社員で構成された企業は変化に強くなります。そのような長期的な視点に立ったキャリア支援をするとともに、低学年から学生と接点をもち、自社の魅力をゆっくりと理解してもらいながら採用活動を進めていくと良いでしょう。
- 人材採用・育成 更新日:2024/10/30
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