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採用の「振り返り」正しくできていますか?採用成功のカギとなるデータ収集・改善方法

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企業の採用意欲は上がっていますが、相変わらずの売り手市場で採用の難度は依然として高いまま、そしてこの状況はしばらく続くと考えられます。

そのような市場環境で「選ばれる企業」であるために必要なのが、採用活動の振り返り。しかし、日頃の採用業務に追われてなかなかその機会をつくれないという方も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、多くの企業にリサーチ&コンサルティングを展開している株式会社エスノグラファー代表・神谷俊さんに振り返りの重要性と方法について伺いました。

― 神谷さん、今日はよろしくお願いします。まず、今回のテーマである「採用活動の振り返り」について、その重要性をお聞かせください。


神谷さん:はい。まず、前提としてお伝えしておきたいのは、採用活動もビジネスであるという点です。成果を最大化するために振り返りが必要です。

商品開発やサービス開発において、その成果を振り返らないということはないですよね。売り上げや利益率などのデータに基づいて、戦略を見直すのが一般的です。しかし、採用・人事領域では、このような振り返りを行う企業は限られているように思います。

― そうかもしれません。特に、今のような厳しい市場環境だと、振り返りの重要性は増していきますよね。


神谷さん:そうですね。企業側は採用意欲が高まっているのに、学生の数は横ばいで増えていません。求人倍率の観点からみても、厳しい市場環境です。それ以外にも、この数年で新卒市場には多様な変化が起こりました。これが新卒採用の難度を高めているように感じます。

― ほかにどのような課題があるのでしょうか?


神谷さん:はい、採用が困難になっている主な要因を3つほど紹介します。これらの要因に対処するためにも、企業は振り返りが求められると思っています。

まず1つ目は、学生の活動が早期化・長期化していること。3年生の夏季ごろからインターンシップに参加するなどして、翌年2月あたりから選考に参加していく活動する学生が多いように感じます。選考前の段階で半年以上は活動をしているわけです。選考参加後も、複数の企業のリクルーター面談や内定者懇親会に参加するなどして、比較検討をしていく。その結果、「1年間以上も活動していた」という学生も珍しくありません。このような市場において企業は、学生にアプローチを行う時期・タイミングを把握する必要があります。自社のターゲット学生の活動傾向を見極めなくてはならない。それが1つ目の“難しさ”ですね。

さらに2つ目として、学生における情報収集力が高まったことも難度を高めている要因と言えるでしょう。テクノロジーの進展とともに、採用関連のサービスが拡充され、口コミサイトやスカウトサイト、SNSやYouTubeなど、学生は多様な情報にアクセスしやすくなっています。これらの手段を活用して、離職率や労働時間、報酬レベルや福利厚生の利用状況などの情報を集め、他社と比較検討する学生も多くなっているように思います。このような背景によって、企業側は「学生が何を考えているのか?」を把握しにくくなっているようです。例えば、学生が自社のキャリアに対して何を不安視しているのかが分かりません。「内定辞退が増えていても、その要因が見えない」という企業も多いのではないでしょうか。インターンシップやセミナーで全く触れてこなかった「住宅手当」「配属の決め方」「昇給レベル」などがボトルネックになっていたというケースもありました。学生は転職者が利用する口コミサイトや、人事が把握していないところでSNSを利用して自社の社員に連絡を取り、そのような情報を収集していることもあるのです。こういった状況では、企業側は対策を立てにくくなってしまいます。
3つ目の“難しさ”は、競合他社や競合する業界が変化していることです。ジョブ型採用やコース別採用など、採用対象部門や職種をあらかじめ規定した採用アプローチを取る企業も増えています。それによって、思わぬ企業や業界とバッティングすることが増えています。例えば、エンジニアの採用をしていたIT企業が、小売サービスを展開する企業と競合するというケースがありました。小売業が戦略的にDXの推進を進めており、IT人材の採用を積極的に展開したことが要因です。このように競合企業が変われば、従来の「戦い方」を見直す必要も出てきます。採用市場において、自社のポジションを把握しにくくなっています。これも採用を難しくているのではないでしょうか。

― マーケティングにも、顧客の心理や市場におけるポジショニングといった考え方がありますよね。つまり、採用成果を高めるためには、マーケティング調査のようなリサーチが必要になるのでしょうか。


神谷さん:そのとおりです。繰り返しになりますが、採用活動は「経営資源を投じて労働市場から人材を獲得する」という事業活動です。調査や振り返りの手法もマーケティングと似てきます。

リソースを投じたのに回収(人材獲得)ができていないのであれば、その理由を調査し、翌年に同じことが起こらないようしっかりと振り返る必要があると思います。

― 採用活動における調査・振り返りの重要性はよく分かりました。具体的に、どのような方法がいいのでしょうか?


神谷さん:マーケティングにおける顧客調査と同様に、まずは顧客(=学生)へのアンケートを実施することをお勧めします。特に選考・内定辞退者を対象にしたものが有効です。
先述のとおり、学生が選考・内定を辞退する理由を企業側が予測するのは非常に困難です。そのため、自社を選ばなかった学生たちに焦点を当てて、実際の活動状況や意見を聞いてみるというアプローチですね。

アンケートを実施する際のポイントは、「自由記述」を多めに含めることです。「学生が何を考えているのかが分からない」「学生がどのような情報を求めているかが分からない」という状態で、定量的な回答にこだわっても “空振り”に終わるリスクが大きいからです。採用担当者が大事だと思っている内容が、学生にとっては重要ではないことは実は多いのです。「可能な限り具体的に回答してください」と注記することで、より多くの情報が得られるでしょう。

― なるほど。理屈はよく分かるのですが、自社を辞退した学生からすると「回答する理由」はないように思えます。どうしたら回答してもらえるのでしょうか?


神谷さん:そのとおりです。辞退者は回答する義務もありませんし、本音を言わずに円満な関係のままフェードアウトしたいと考える学生もいるでしょう。弊社でこのような調査を実施する場合は、次の4点を準備しますね。

  • 謝礼:回答謝礼を設定します。1人の学生当たり1,000円~2,000円程度でギフトコードなどを進呈することを条件として提示します。弊社で設計するアンケートは100問以上で所要時間30分くらいのものなので、このような金額感ですが、設問数が少ない場合はより少額でも回答は集まるかもしれませんね。


  • 調査目的:個人調査ではなく、企業として学生の動向や心理を把握するためのマーケティング調査であるという目的を詳細に提示します。「率直な回答をお願いします」というメッセージも併せて提示します。


  • タイミング:就職活動が終息する時期にアンケートの回答依頼を配信するのが有効です。あまり時期が遅くなってしまうと、学生が就活時に使用していたメールアドレスを利用しなくなってしまったり、自社に対する印象や愛着が薄れて回答するモチベーションが下がってしまったりすることが懸念されるためです。かといって、早過ぎるのもおすすめはできません。学生の入社予定先が決まっていない時期にアンケート回答を促しても、有益な回答を得られにくいからです。入社先が決まっていた方が、入社先と比較して自社には何が不足していたのか、学生は記述しやすくなるでしょう。


  • 個人情報の取り扱い:また、個人情報の取り扱いについて、精緻に説明することも回答時の不安感を軽減するために大切です。謝礼を設定するということは、謝礼送付のために記入いただくメールアドレスが個人情報に該当します。前提として、受験者の個人情報は採用活動のために利用する目的で取得していますから、改めて個人情報の利用目的や取り扱いを詳細に提示し、許諾を得る必要があります。このプロセスをしっかり踏まえることで、学生も協力しやすくなります。

学生のデータを収集するためには、学生にとってのメリットを提示し、理解を促し、納得をしてもらった上で収集する必要があります。

― 企業がアプローチできる学生としては、もうひとつ「内定承諾者」もいますね。こちらについてはどうでしょう。

神谷さん:これからの関係性を考えると、辞退者と同じように「本当のことは伝えにくい」と感じる学生も多いでしょう。自分の意見が初期配属や人事評価に影響するのでは、と危惧する学生もいると思います。しかし、方法を工夫すればより深く、多くの情報を得ることも可能です。

よくおすすめするのは、「ワークショップ」の実施です。自社の採用を改善するというテーマで、改善提案を承諾者に課題として取り組んでもらいます。意見を述べやすい雰囲気をつくり、なぜ協力してほしいのかを説明した上で、本人たちが就活中に自社に対して感じていた問題点や良かった点を付箋に書いていってもらいます。内定者に自社の採用パフォーマンスを高めるための「仕事」をしてもらうわけですね。学生たちの使命感や責任感を刺激して協力をしていただきます。そうして集まった意見を分析すると、学生が自社の採用活動をどう見ているのかを知る大きな手掛かりになるでしょう。

同じ方法で、採用サイトやパンフレットの掲載情報を印刷し、そこに付箋を貼っていって意見を収集することも有効です。どの情報を参照したのか?より詳細に欲しかったのはどのような情報か?といった観点で情報を集めていきましょう。より具体的に1つひとつの施策についての振り返りができる方法です。

― なるほど。気になるのは、統計的な信頼性です。アンケートの自由記述やワークショップの付箋など、質的な情報収集をしても、統計的な信頼性は得られないように思いますが、いかがでしょうか。


神谷さん:おっしゃるとおりです。統計的な信頼性を獲得するためには、より多くのサンプルを収集する必要がありますし、統計分析をするための数値的なデータを収集することが求められます。上述のようなアプローチでは、これらのポイントを押さえることはできていません。ただし、自社の採用の振り返りを目的とするならば、そこにこだわる必要はないと私は思っています。極論を言えば、たった一人の学生の意見であったとしてもクリティカルな情報が獲得できればいいと考えます。

仮に、1人の学生にヒアリングをしたとしましょう。その学生から次のような意見が出たらどうでしょうか。「他社に比べて、初期配属の勤務エリアの範囲が広すぎると思います。貴社の競合のA社もB社もC社も、もっと狭いブロック単位で初期配属エリアを規定していました」という意見です。この情報だけで、学生の視点や市場に対する理解はかなり進みます。この意見を手掛かりに、実際に他社の採用情報や口コミ情報を参照して、自社の配属エリアが学生にどのように捉えられているのかを追加調査することができますよね。このようにして、自社の採用における問題に対して、まずは良質な仮説が立てられればいい。何が採用パフォーマンスを低下しているのか?その要因について少ないサンプルであったとしても、そこから考察を進め、次年度の改善に向けて示唆を得ることが大切だと思っています。

― 特に、採用人数が数名という企業だとデータの量としてはかなり小さくなってしまいますが、それを理由に「考えない」ことは正当化されない、ということでもありますね。


神谷さん:そうです。学び、推論し、試行錯誤するというループをつくらないと人、はどうしても「前例踏襲」に流れやすいので、それを食い止めるというだけでも十分な効果があります。

― とにかく学習と改善のために調査をしていくことが重要ということですね。


神谷さん:そうです。とにかく、手に入るデータを集めていく姿勢が重要です。このときに、情報量を意識するだけでなく、情報の種類にも意識的になると、自社の課題を捉えやすくなります。種類の違うデータであっても、見比べていくことで、そこから見えてくるものがあるためです。

例えば、採用管理システムから得られたものとして、「説明会から選考参加への歩留まりが悪い」という情報があったとします。加えて、学生アンケートを見てみると、選考を辞退した理由として「勤務地がどこになるのかが分からず不安」という声が多かったとしましょう。さらに、採用チームのメンバーから説明会のスライドを共有してもらい、勤務地や配属ルールに関してはあまり具体的に説明されていないことが分かったとします。これらの3種類の情報を重ねてみると、「説明会の中で勤務地について、概要しか説明していないことで、学生たちに勘違いや不安が生まれているのではないか」という見通しが立てられますよね。

― 確かに、勤務地の候補だけ提示されていて、勤務エリアを決める際の条件やルールの説明がなかったら、不安になるかもしれないですね。


神谷さん:そうです。そう推論を立て、勤務地に関する説明を丁寧にしてみようと考えた上で、試してみることができます。このように「データを集め、考え、推論し、試行錯誤する」という行為を繰り返すことが重要です。「なんで選考に参加してくれないのかな……?」と思っているだけでは何も解決しません。思考を止めず、集められるデータはどんどん集めて「考える」ためのきっかけとしましょう。

― この記事を読んでいる方は、きっとこれからデータ収集をさまざまな方法でやっていこうと考えていると思います。その際、陥りがちなミスがあればぜひ聞かせてください。


神谷さん:一つひとつの施策に対する満足度や不満点「だけ」を見てしまうことです。施策の効果測定の一環として、満足度の数字のみを重視すると、自社の採用課題を客観的に捉えることが難しくなってしまいます。
採用担当者として「弊社のインターンシップはためになりましたか?」「採用サイトはいいと思いましたか?」のように聞いてみたくなるのは分かります。
しかし、それらの満足度が、採用パフォーマンスに影響しているとは限りません。施策の満足度が高いことと、内定辞退や選考辞退の発生に因果関係があるとは限らないのです。

採用担当者のミッションは、「一つひとつの施策のレベルを上げること」ではなく、「学生と自社のマッチングを果たした上で、入社してもらうこと」です。施策の満足度だけにとらわれてしまうと、他の要因が目に入らなくなってしまいますので注意が必要ですね。

― つまり、施策だけではなく、学生の気持ちや考えなども聞いていく、ということでしょうか。


神谷さん:はい。学生のキャリア観・価値観などを把握することも重要ですね。どういうふうに働きたいと思っている学生が多いのか。また、何をやりがいと考えているのかなどを確認することです。このように学生の視点を確認しつつ、自社が提供している情報や自社の雇用条件、勤務環境などがズレていないかどうか、まずそれを確認する必要があるでしょう。

自社と学生とのズレを認識し、調整し、試行錯誤していく。この姿勢を持ち続けて年々変わっていく採用市場に適応し続けようという試みこそが重要なのです。

― 今日はありがとうございました!

採用戦略をデータから改善しようというとき、どうしてもその「数」が気になってしまうのは仕方のないことだと思います。
しかし、データ数の多寡にかかわらず、「知り、考え、改善を続ける」こと自体が厳しい採用市場において生き残るために必須の行動であることがよく分かりました。

忙しい採用活動の合間に振り返りのために時間をつくることは容易ではないと思いますが、質の高い採用を続けるためにもぜひトライしてみてください。
  • Person 神谷 俊
    神谷 俊

    神谷 俊 株式会社エスノグラファー 代表取締役

    2016年株式会社エスノグラファー創業。企業や地域をフィールドとして調査・マーケティング活動に従事する。定量調査では見いだされない人間社会のありようをひも解き、多数の組織開発・製品開発プロジェクトに貢献してきた。
    20年4月からは、リモート環境における「職場」の在り方を研究する“Virtual Workplace Lab.(バーチャルワークプレイスラボ)”を設立。学術的な知見を基盤に「分断・分散」を前提に機能する組織社会の在り方を構想する。採用学研究所フェロー・経営学修士。

  • 人材採用・育成 更新日:2023/09/11
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