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「育成上手な管理職」はつくれる? 人事が担う「社員が成長する組織づくり」とは

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この記事を読んでいらっしゃる皆さんは、社員の育成のため、研修やワークショップといったさまざまな教育プログラムに取り組まれていることと思います。

しかし、人材の組織定着と育成を研究されている甲南大学の尾形 真実哉先生によると、人材育成に最も影響力を持つのは「職場デザイナー」として社員が働きやすく、成長できる職場をつくる管理職なのだそう。

とはいえ、「育成上手な管理職」をどう育てていけばいいか、と考えると打ち手が思い付かない……という方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、尾形先生に「育成上手な管理職の育成」について伺いました。

そもそも「育成上手な管理職」って、どんな人?

— 尾形先生、今日はよろしくお願いします。まず前提として「育成上手な管理職」とはどのような上司なのかを教えてください。


尾形先生: 私もそれが知りたくて研究をしているのですが、上司による部下の育成というのは、これまで勘や経験によって行われてくることが多かった分野で、その育成方法について有力な先行研究はほとんど見つけられませんでした。

そこで私は、同じく「人を育てる人を、育てる方法」を研究する学問として教育学分野の教員養成に関する論文などを読んで研究を進めつつ、協力企業と連携して大規模なインタビュー調査を行い、いま、「育成上手な管理職」の持つ特徴が見えてきたところです。

— 共通する特徴があるのですね。ぜひ教えてください。


尾形先生: はい、特に重要なポイントは2つです。1つずつ解説します。


育成上手な管理職のポイント1:ハイパフォーマーであること


尾形先生: まず、大前提としてハイパフォーマーであることが求められます。パフォーマンスが上がっていない上司だと、どんな指導や教育をしても部下から「お前が言うな」と思われてしまって効果が出ないからです。

しかし、管理職に登用されている以上は基本的に高いパフォーマンスを発揮しているはずですので、ここは多くの方がクリアしていると思います。


育成上手な管理職のポイント2:コミュニケーション力があり、信頼関係を築けること


尾形先生: しかし一方で、いくら自身のパフォーマンスが高くても部下のパフォーマンスだけを見て評価し、コミュニケーションを取ることを軽視するような上司だと信頼関係を築くことが難しく、育成効果が出にくい傾向があります。

ハイパフォーマーであることで担保されるのが「スキル的信頼」だとすれば、コミュニケーションによって担保されるのが「情動的信頼」と分けて考えることができるでしょう。この両方が同時に必要なのです。

私がインタビューをした、とある企業の部長さんは100名以上の部下がいますが、自分からあいさつをするなど積極的に声を掛ける習慣が信頼関係の獲得につながり、「育成上手な管理職」となっていました。

また、上司の側から自己開示を積極的に行うことも重要です。自分の弱点や失敗談を話し、自分自身をさらけ出すことで部下も安心して上司とコミュニケーションを取ることができるようになります。
そういう話ができるような関係性と機会を進んでつくっていくことが、信頼関係の構築につながっていくのです。

— そのような行動は、研修などを通じて学び、実行できるものでしょうか?


尾形先生: いわゆるコミュニケーションスキルを学ぶ機会はあると思いますが、本質的な意味では難しいかもしれません。
なぜなら、部下と積極的にコミュニケーションを取るために必要不可欠な要素として、他者に対する興味、つまり「対人好奇心」があるからです。

対人好奇心は信頼関係構築の礎となるだけでなく、部下の状況や変化を的確に捉える「観察力」、部下それぞれの個性や強みを見極める「見極め力」、そして部下が成長できる環境やチームをつくる「職場デザイン力」という、3つの重要な育成メタスキルも育みます。

— 育成メタスキルとはどのような概念ですか?


尾形先生: コミュニケーションスキルや、言語化能力、コーチングスキルといった学習可能で具体的な育成スキルとは別にある、抽象的なスキルのことをそう呼んでいます。

これらは研修などで学習することが難しく、社会人経験を通じて長期的に身に付けていくものですが、対人好奇心を礎とした育成メタスキルは、「育成上手な管理職」になるために重要なものでもあるのです。

特に、部長職以上のアッパー層にとっては必須といってもいいでしょう。先ほど例に出したように、100人以上の部下を持つような管理職は、その一人ひとりを直接的に育成することが事実上不可能です。

しかし、上司として部下は育成しなくてはいけません。そのとき、育成メタスキルを持っていれば、環境づくりや仕組みづくりによって「部下が育っていく職場」をつくることができるようになります。

研究の中で行っている管理職へのインタビュー調査でも、育成上手とされているアッパー層の多くが「場づくり」によって部下の育成をしていることが分かっています。
そういった上司の下に集まった部下の間では、自発的に勉強会が開かれたり、部下同士(主任クラスから一般社員、課長クラスから主任クラス)での育成が自然発生的に行われるようになったりしているのです。

つまり、スキル的信頼と情動的信頼の両方を持ち、対人好奇心によって部下をよく観察して「部下が育つ場づくり」ができる管理職が、「育成上手な管理職」であると言うことができるでしょう。

「育成上手な管理職」を育てるにはどうしたらいい?

— 単に育成上手といっても、さまざまな要素が絡み合って成り立っているものなのですね。実際、そういった管理職を「育てる」ことはできるのでしょうか?


尾形先生: 結論から申し上げると、できます。しかし、すでに管理職になっていて、いま「育成下手」である人を育成上手になるまで育てるのは難しいのも事実です。

先ほど少し触れた育成メタスキルが「社会人経験を通じて長期的に身に付けていくもの」であるため、基本的には若手のうちから将来を見据え、長期的なプランに基づいて育てていくべきでしょう。

— 具体的に、どのようなプランで育成すると良いですか?


尾形先生: まず1つが、異動の経験です。さまざまな職場(部署)を渡り歩き、さまざまな上司の下で育成されてきた経験が重要であることが分かってきました。
たびたび引用している管理職へのインタビューでも、育成上手とされている管理職の方は異動や出向の経験があることが多い傾向にあります。

自分が育成された経験を参考にしたり、時には反面教師にしたりすることで、部下の育成も行えるようになるからです。

もう1つが、人を育てる経験を若手のうちから積ませることです。
インタビューから、多くの育成上手な管理職は、若手のうちに「人を育てる」経験をしていることが分かっています。

具体的には、メンターや、人事部での業務経験を積ませるといいでしょう。その中で人を育てる面白みを感じることができれば、対人好奇心を育むきっかけとなります。

— さまざまな上司の薫陶を受けながら、自身も育成の経験を若いうちから積む。つまり、育成される経験も育成する経験も重要なわけですね。


尾形先生: そのとおりです。その上で、実際に上司世代になったときには管理職向けの研修で学習可能なスキルを育て、その後も継続的に管理職のスキル育成をしていくことが重要だと考えています。

しかし、現在の日本企業では、管理職研修といえばコンプライアンス研修や勤怠管理法といった、スムーズな組織運営と部下を管理するためのスキルを身に付けるためのものがほとんどです。
部下を「育成するため」の研修が少ないことは、「育成上手な管理職」を育成する上での課題の一つですね。

職位によっても異なる「育成スキル」

— 先ほど、アッパー層(部長以上)では育成メタスキルを生かした「場づくり」が非常に重要だというお話を伺いました。その職位に上がるまでの間に求められる育成スキルはどのようなものでしょうか。


尾形先生: はい。長期的な視点で育成メタスキルを育てている間、主任や課長といったミドル層の管理職を経験する中で、部下を育成しなくてはならない機会が必ず訪れます。

その際に必要なのは、部下の一人ひとりと向き合いながら育成するためのスキルです。具体的には、コミュニケーションスキル、傾聴力、コーチングスキル、といったものですね。

— 先ほど「学習可能」な育成スキルとして例示していただいたものですね。


尾形先生: そうです。多くの企業で行われている管理職研修(管理職になりたての社員に対する研修)で教えられているものでもあります。

良好な信頼関係を築くために積極的にコミュニケーションを取り、部下が悩んでいたら話をじっくり聞き、具体的なアドバイスを通じて成長に導く。こういった育成スキルを研修と実地の両面から学ぶのがミドル層の時期には大切です。

そうして身に付けた育成スキルに、いつか育成メタスキルが組み合わされれば、「部下が成長していく職場づくり」ができるようになります。その能力が、アッパー層になったときに役立つのです。

「育成上手な管理職」を育成するために人事ができること

— 最後に、ここまで教えていただいたことを前提として、「育成上手な管理職」を育成するために人事ができることを教えてください。


尾形先生: まず、メンター制度やジョブローテーションなど、育成メタスキルを育む効果のある人事制度の整備はとても重要な仕事になると思います。
導入されていない場合は、ぜひ検討してみてください。

次に、研修などの学習機会を提供するのは人事として非常に重要な仕事の一つですが、すでに述べたように、それだけでは育成上手な管理職を育てることはできません。

その不足する部分を補うために人事制度(メンター制度やジョブローテーションによる育成メタスキルの育成)以外の面から支援できることを挙げれば、ミドル層からアッパー層まで広く参加して、育成についてディスカッションする場をつくることはとても有効でしょう。

冒頭でも述べたとおり、多くの管理職は自己流で育成を行っている現状があります。しかし、その方法でうまく育成できる社員もいれば、そうでない社員も当然いるわけです。
そこで、社員育成の成功事例を紹介し合うなどして、他の管理職の育成方法を学ぶ場をつくることで自己流からの脱却を図る機会を提供できます。

実際、私が行ったインタビュー調査では、「他の管理職がどのように育成しているかを知りたい」という声が多く聞かれました。想像している以上に、個々の育成方法はブラックボックスに入っていて開示されていないものなのです。

また、そういったディスカッションを行うことで、全社的な育成意識の向上も図ることができます。
管理職が育成の重要性を認識することで、組織全体で育成に取り組む機運を高めるのです。

— 昇進や採用といった、具体的な人事業務の中でできることはありますか?。


尾形先生: はい。まず昇進については、これまで重視されてきた業績やリーダーシップ経験だけでなく、対人好奇心も上司選抜(昇進)の指標に含めるよう、評価基準を見直すといいでしょう。

これは採用でも同様です。多くの企業では学生時代の「リーダー経験」を面接で聞きますが、私は「人に何かを教えた経験」も聞くべきだと考えています。
家庭教師、地元サッカーチームのコーチ、サークル内のメンター役など、何でもいいのですが、とにかく「育成経験の有無」を尋ねてみてください。

育成経験のある学生は、その時点で「人を育てることの楽しみ」を知っている可能性が高く、後々に「育成上手な管理職」になる素質を持っていると考えることができます。

— 人事制度から、昇進や採用に至るまで、人事ができることは多くありますね。


尾形先生: はい、そのとおりです。そして最後に、人事としてできるとても大切な仕事があります。それは、「育成の引き継ぎ」ができる仕組みづくりです。

社員の育成は、一人の管理職が責任を持つものではありません。ジョブローテーションや定期異動を経ながら、さまざまな上司が駅伝のようにタスキをつないで育成していくものです。

その「タスキ」となる、育成の履歴書といえるようなものを仕組みとして取り入れても良いでしょう。前の上司にはどう育成され、どんな課題や長所があると認識されていたのか、それを次の上司に引き継ぐのです。
それは、組織全体で社員を育成することにつながっていき、社員が育ちやすい会社を育てることにもつながります。

— 今日は、具体的かつ新しい知見をいただくことができました。ありがとうございました!


人事が先導して「組織全体で社員を育成する」場づくりを

アッパー層に求められる育成の手法として、「部下が育っていく場づくり」があると尾形先生がおっしゃっていましたが、そういった育成方法を獲得した上司を育てていくために人事ができることは思いのほか多くあるようです。

これまで、管理職一人ひとりの育成手法にまで人事が踏み込んでいくことはあまりなかったと思いますが、これからは人事制度や昇進査定、採用などさまざまな側面から「組織全体で社員を育成する」場づくりを人事が担うことが重要です。

一朝一夕にはいかない大きな仕事ですが、それだけにやりがいのあるものとして、ぜひ取り組んでいっていただけたらと思います。


  • 経営・組織づくり 更新日:2024/12/02
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