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女性健康・女性活躍への取り組みは 想像以上の企業価値を生み出す

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令和5年(2023年)の調査では、総労働力人口に占める女性の割合は45.1%に上っています(厚生労働省調べ)。一方で企業における女性の役員比率はまだ低く、男女格差を数値で示したジェンダー・ギャップは先進国の中で極めて低くなっています。国際的な競争力の点でも、女性が活躍する企業や国は総じて高い競争力を持つというデータがあります。女性を含めた多様な人材が能力を発揮できる社会・企業にするために、私たちは何から取り組むべきでしょうか? 経済産業省の「ダイバーシティ経営」を軸に、その方法を考えてみました。

予測困難な時代だからこそ、多様な背景を持つ人々が必要

女性が働くことへの意識は徐々に変化してきたが…

「働きたい女性が個性と能力を十分に発揮できる社会」の実現を目指して、平成28年(2016年)に施行された女 性 の 職 業 生 活 に お け る 活 躍 の 推 進 に 関 す る 法 律(以下、女性活躍推進法)。当初は従業員数301名以上の大企業に対して、女性従業員が活躍できる行動計画の策定・公表が義務付けられていましたが、現在は従業員数101~300名以下の中堅・中小企業においても同様の行動計画の策定・公表が義務付けられています。

これまでも男女が平等に社会や企業で活躍できるよう、法律面での整備が進められてきました。昭和60年(1985年)に男女雇用機会均等法が成立し、性別を理由にして昇進や退職・解雇などで女性が差別を受けることがないように、社会や企業の意識も徐々に変化してきました。
厚生労働省の「令和4年度雇用均等基本調査」によると、企業における女性管理職の比率は12.7%(図1)。海外に比べると低い点は大きく変わりませんが、前回調査よりも上昇しています。

図1 f)役職別女性管理職等割合の推移(企業規模10人以上)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r05/07.pdf 4ページ)

女性管理職の活躍が期待される理由の一つに、女性を含む多様な人材の意思決定層への参画が企業のリスク管理能力を高める可能性があるという点があります。世界的な金融機関の調査(図2)では、女性取締役のいる企業は株式パフォーマンスが良く、環境変化に対して強いというデータがあります。とりわけ金融危機後の回復力が強い傾向にあります。世界経済の先行きが不透明な中、取締役会などで多様な視点から議論を行う取締役がいる企業は、投資家から注目されやすいと考えられます。

図2)Credit Suisse “performance update: The CS Gender 3000 in 2019: The changing face of companies”

サービスや商品へのニーズがますます多様化する社会において、高い商品力や開発力、きめ細かなサービス、働きやすさを実感できる職場環境などを実現するには、やはり多様な価値観と人材による視点が必要です。実際に、企業の経営層に性別や年齢、キャリアパスなど様々な背景を持つ人々が多い多様性スコアの高い企業は、新製品や新サービスなど、イノベーションによる売上高が高いという報告があります。

経済産業省では、女性をはじめとする多様な人材の活躍を通じて企業のイノベーション創出・価値創造につなげる経営を「ダイバーシティ経営」と定義し、企業における取組を推進しています。企業の成長戦略として女性活躍を推進するために、経済産業省がどのような取り組みを行っているかを伺いました。

【経済産業省に聞く】「人」と向き合うダイバーシティ経営とは

女性活躍・女性健康に取り組む企業にはどんなメリットがあるのか

取材にご協力いただいた方:経済産業省 経済社会政策室/村山恵子さん(写真:中央) 神野真帆さん(写真:左)
(以下、文中では経済産業省)
聞き手:マイナビ 大城戸菜月(写真:右)
(以下、文中では大城戸)
大城戸: 女性活躍推進において、経済産業省はどのような役割を担っているのでしょうか?

経済産業省: 女性活躍推進においては様々な省庁が関わっています。例えば、内閣府男女共同参画局では、男女共同参画白書という男女共同参画社会の形成に向けた現状や施策等をまとめた報告書の作成・公表や関係情報の提供などを行っています。また、厚生労働省では、女性活躍推進法や育児・介護休業法の施行等、女性が活躍できる社会基盤を整備する取り組みを行っています。我々経済産業省では、企業の中長期的な価値創造という産業政策の観点から、企業において女性をはじめとする多様な人材が活躍するための取り組みを推進しています。

大城戸: 女性だけでなく、性別・年齢・人種・国籍・障害の有無などにとらわれない多様な人材が活躍しやすい取り組みということですね。

経済産業省: はい。目に見える属性のみならず、価値観や経歴も含めて多様性と捉えています。そういった多様な人材がそれぞれの能力を最大限発揮できる機会を企業が提供し、イノベーション創出や価値創造につなげる経営を「ダイバーシティ経営」と定義し、企業における取り組みを推進しています。

大城戸: 具体的に、ダイバーシティ経営をどのように推進していますか?

経済産業省: 例えば、女性活躍推進に関しては、「なでしこ銘柄」の選定があげられます。経済産業省と東京証券取引所が共同で平成24年度より実施しており、「女性活躍推進」に優れた上場企業を「中長期の企業価値向上」を重視する投資家にとって魅力ある銘柄として紹介しています。これにより、企業への投資を促進し、各社の女性活躍の取り組みを加速化させることが狙いです。実際に、「なでしこ銘柄」の選定企業は平成29年(2017年)頃から株価指数が高い傾向にあります(図3)。

図3)なでしこ銘柄選定企業とTOPIXの株価比較
11ページ(https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/r5nadeshikoreport.pdf

大城戸: 女性活躍を推進している企業は株価パフォーマンスも高いということですが、実際に各企業ではどのような取り組みを行っているのでしょうか?


経済産業省: なでしこ銘柄に選定される企業は、採用から登用までの一貫したキャリア形成支援と、男女問わない両立支援に両輪で取り組んでいます。女性活躍を自社の経営戦略に紐付けるとともに、例えば女性役員比率を○%以上とする、男性育休取得率を○%とする、といった具体的なKPIを設定し、KPI達成に資するような取り組みを実施し、効果検証を行っています。これらを着実に進めていくための経営層のコミットメントの強さも特徴の一つです。また、昨今、更年期等の健康課題によって、望まない離職などを防ぐための女性の健康課題の解決に向けた取り組みを行う企業も増えています。なでしこ銘柄においても、昨年は、「フェムテック等を活用した女性の健康課題の解決」を一つのテーマとし、他社にも参考になる特徴的な企業を「注目企業」として紹介しています。

昨年度ご紹介した事例として、例えば、もともと業界全体として女性従業員が少ない建設業の企業において、建設現場に女性専用トイレや更衣室などの設備を整えたり、社内横断で女性特有の健康課題についての意見交換を行う場を設けることで、女性の健康課題に取り組む例があります。また、オンラインで婦人科を受診できるオンライン診療サービス等を女性従業員向けに導入している企業では、サービス導入前後での定量的な効果検証を行っている先進的なケースもあります。

大城戸: 業界によって事情は違っても、女性特有の健康課題に具体的に取り組む企業は着実に増えてきているのですね。


経済産業省: そう思います。経済産業省は、令和5年度に女性特有の健康課題による経済損失の試算を行いました。その結果、経済損失は社会全体で約3.4兆円と推計されています。(図4)※算出方法の根拠(女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について
こういったデータもあり、女性特有の健康問題が、企業経営においても非常に重要な課題であるという問題意識については、かなり浸透してきたという印象は持っています。ただし、具体的な取り組みを実施できる企業は安定的な経営基盤を持つ大企業に多く、今後は中堅・中小企業に対してもっと働きかけていくことも重要だと考えています。

図4)女性特有の健康課題による社会全体の経済損失
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/jyosei_keizaisonshitsu.pdf)2ページ

大城戸: 中堅・中小企業にも女性健康・女性活躍に取り組むことが、ひいては企業価値の向上につながるという点を知ってもらいたいですね。

経済産業省: 中小企業の場合は、特に経営者による方針の影響も大きいので、トップにしっかりと問題意識を持ってもらうことが大事だと考えています。 中小企業の皆様に向けては、女性に限った話ではありませんが、ダイバーシティ経営の実践に役立つツール(参照:中小企業のためのダイバーシティ経営 )なども発信しており、ダイバーシティ経営のためのチェック項目や実践した企業の具体的な事例も取り上げています。 ぜひご覧いただき、自社での実践につなげていただければと思います。


大城戸: 一部の企業の労務担当者から「女性活躍・女性健康に力を入れると、男性社員の一部が不平等感を持つようで対応が難しい」という声を聞くこともあります。

経済産業省: まずは大前提として社会の人口の約半数は女性であるため、その健康課題には社会全体で対処する必要性があるということだと思います。男性にも自分ごとと捉えてもらうために、「ご自身の家族の立場で考えてみてください」という問いかけも有効だとよく聞きます。
また、昨今、企業における女性活躍推進は、資本市場や労働市場といったステークホルダーとの対話という観点でも重要です。実際に、多くの機関投資家が、企業における女性活躍推進に関する情報や女性活躍の前提となる働き方改革などの情報を、企業の業績に長期的に影響があるものと捉え、投資判断に活用しています。また、就活生のほとんどが女性を含む多様な人材の活躍を進める企業に好印象を持っているというデータもあります。

大城戸: 女性の健康課題解決を含む女性活躍に取り組むことで、企業経営全体によい影響を与えられるわけですね。

経済産業省: 今後の社会状況を考えたときに、きちんと「人」に向き合い大事にする企業でなければ、生き残りは難しいかもしれません。女性活躍をはじめとするダイバーシティ経営は企業、そして個人の成長を考える上でも必須となるでしょう。おそらく就活生の多くは女性役員の割合や育休制度の取得率などもチェックしていると思います。なぜなら今の学生たちは、女性が働きやすい会社は、全ての従業員が働きやすい会社であり、また、自身のキャリアの成長につなげやすい環境だと認識しているからではないでしょうか。女性の健康や女性活躍に取り組むことは、どんな人でも働きやすく、誰もが能力を発揮できる環境をつくることにつながります。これが「ダイバーシティ経営」が最終的に目指すところです。そうした企業の裾野を広げていくために、我々もその後押しをしっかりしていきたいです。

まとめ:企業が女性活躍に取り組む意義

  • 女性活躍推進は、企業価値の向上に資する可能性がある。
  • 特に女性特有の健康課題については労働生産性損 失の観点からも対策が急務。
  • 女性が働きやすい企業はどんな人でも働きやすい企業であり、人材の確保にも繋がる。


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  • 労務・制度 更新日:2024/10/22
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