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カゴメ・有沢正人氏に聞く人事制度改革の進め方

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社内の活気がなく、サーベイでもモチベーションの低さが目立っている。業績は好調だが、人材の流動性が高すぎて経営人材が育たない。評価制度に現場から不満の声が聞こえてくる……。

人事にまつわる仕事をしていると、なかなか一朝一夕では解決できない課題に直面することもあると思います。

そんなとき、頭をよぎるのが「人事制度改革」。しかしこれもまた、もちろん一朝一夕では成せません。
現行の制度にはそれが成立した背景があり、人事制度の改革には社員はもちろん、経営層の理解を得る必要もあるからです。

そこで今回は、協和銀行(現・りそな銀行)、HOYAなどで人事改革を成し遂げ、そして現在はカゴメでまさに改革の真っ最中にあるという有沢正人さんに「人事改革成功の秘けつ」をお伺いしました。ビジネスパーソンとして心得ておきたい、何かを変えることを提案する際の一歩目についてや、部下から提案を受けたときの対応についてもアドバイスをいただきました。

― 今日はよろしくお願いします。まずお伺いします。2018年にカゴメに入社された経緯はどのようなものだったのでしょうか?


有沢さん:私はこれまで、銀行、メーカー、保険会社と3社を経験し、その全てで基本的に、ほぼ一貫して人事に関わってきました。
特に力を入れてきたのが評価制度の適正化です。社員が納得し、業績に好影響を与えることのできる評価制度をいかにして作るか、どうやって導入していくかということをやってきました。

カゴメに入社したのは12年ですが、お声掛けいただいたのはカゴメがグローバル展開をより力強く進めていこうという頃でした。
国内と比較してまだまだ小さかったグローバルでの売り上げを大きくしていくため、まずは人事制度改革が必要だと考えられたようです。

― それで、HOYAやAIGでのグローバルな人事制度改革を進められてきた有沢さんに白羽の矢が立ったということですね。


有沢さん:私の仕事人生は波瀾(はらん)万丈で、銀行では公的資金の注入が行われ、保険会社では米国から業務改善命令が出て、といろいろありました。
そんなことから友人は私を「下り坂のスペシャリスト」なんて呼んで揶揄(やゆ)していましたので、不思議でしたね(笑)。
それでもお声掛けいただいたのは、それまでの仕事をご評価いただいたからなのかな、と思います。

私がやってきた仕事の根底にあるのは「仕事を正しく評価する」という当たり前のことを当たり前に実行できることこそが大切だ、という思いです。
例えば、同じ仕事でも支社が違えば、その難易度や会社にもたらす利益も違ったりします。
が、多くの日本企業ではその仕事を扱う「人」に応じて一律に給与を支払いますね。これはおかしいと思ったんです。

― その思いを持たれたのはいつ頃ですか?


有沢さん:新卒で入行した銀行ですね。支店によってやっている業務は全然違うのに、役職等級制度で「主任はいくら、副支店長はいくら」と決まっていたのです。

私はそれに違和感を覚えました。これでは、仕事の難易度が違ったり、難しい業務が多かったりする支店の行員はモチベーションが下がってしまうのではないか? と思ったんです。そこで「仕事に金額を付ける」、つまり職務等級制度の導入を考え始めました。

― 職務等級制度は、いわゆる「ジョブ型(雇用)」のことですよね。それによって評価が下がる人もいたりして社内の抵抗もあったかと思いますが、どのように進められたのでしょうか?


有沢さん:そうですね。初めは現場から経営層まで、みんなに反対されました。
改革をしようと動き始めた当時、私は次長(課長の少し上)で、とても上から下まで全てを説得して改革を成し遂げられるような立場ではなかったので、まずは直属の上司である人事部長を説得するところから始めました。

これが、人事制度改革を含めて、社内で大きなことをしようというときのポイントだと思います。いきなりトップに訴えかけるのではなく、まずは自分の「1つ上」を説得するんです。

― なるほど。1つ上なら話も聞いてもらえそうですね。


有沢さん:そのとおりです。そのときの人事部長は、今でも私の師匠ですね。若手だった私の話をしっかり聞いてくれて、一緒になって社内を説得してくれました。

― なるほど。ただ、頭取まで反対しているような改革を通すには、その「1つ上」を説得するのも難しかったのではないでしょうか?


有沢さん:「抵抗者」ではなく、「改革者」であろうと意識することが大切です。ただ「これはおかしい! 何とかすべきだ!」と叫び、一人で反対を押し切ってやろうと意気込むのでは、抵抗者になってしまいます。周りは話を聞いてくれません。

自分の考えていることが、どれほど会社にとって有用なのかをしっかりと説明し、賛同者を増やしていくことで初めて「改革者」になれるんです。平たく言えば、仲間をたくさんつくることですね。

そして、そのためには会社をよく知ることです。
これは今でも私が大切にしていることで、実は直近でもカゴメの海外拠点によく出張します。とにかく、現場を知り、会社を知るということが大前提なんです。

とは言っても難しいことではなく、入社して3年もたてばある程度分かってくるでしょう。そして、その頃には役員は無理でも、部長になら話ができるようになっているのではないでしょうか。

何かおかしい、変えなくてはならないと直感したなら、まずは「1つ上」に話して建設的な議論をし、仲間になってもらいましょう。改革はそこからスタートします。

― いま、有沢さんは部下から相談を持ちかけられる立場にいらっしゃいます。この記事を読んでいる方にもそういった立場の方は多いと思いますが、どのように受け止めればいいのでしょうか?


有沢さん:簡単です。なぜ? どうしてそう思ったの? 何をしたいの? 次はどうするの? と、WhyとWhatを繰り返して聞いていくのです。

先ほど私は「直感」という言葉を使いました。直感というのは、だいたいいつも正しいと信じています。なぜなら、必ずそこにはなにかトリガーがあります。
なので、上司としては部下の直感をまずは信じ、その直感がどうして生まれたのかをひも解いてあげましょう。

すると、本人がだんだんと気付いていき、直感がロジックに変わっていきます。ロジックになれば企画書を作ることができ、賛同者を集めるための行動を取れるようになります。そして賛同者が集まれば、改革は始まっていきます。

― 挑戦を後押しするために、まずはロジックに切り替えるための手助けをするということですね。


有沢さん:そうです。2社目(HOYA)から、私の「1つ上」は社長になりました。さすがに社長に向かって私の「直感」をただ話すということはしていませんが、基本的にやっていることは同じです。

HOYAは非常にしっかりした事業部制を持った企業で、逆に言えば事業部人事が強かったので、このままでは全社的な人事改革など無理だと最初は思いました。が、より強い企業になるためには職務等級制度を導入して、優秀な人材を必要な場所に配置できるよう社内の流動性を高めることが必要だと考えたのです。

そこで、当時はよく社長と1日中話し合いました。最初は社長も「それは難しいのではないか」という反応でしたが、毎日毎日、さまざまな資料を示しながら話し合いを続けた結果、「有沢の言葉は私の言葉だと思うように」と社長が事業部門の人事ヘッドに話をしてくれ、改革が進み始めたのです。

― こうすべきだ、という直感を持ち、ロジックにし、「1つ上」から賛同者をつくっていく。これが有沢さん流の改革の本道なのですね。今日はありがとうございました!

有沢さんが成し遂げられたさまざまな人事制度改革の成果は、人事の仕事をしている方ならきっと目にしたことがあると思います。
一方で「これだけ優秀な方だからできたのでは……」と、自分から少し遠い存在として考えられていたのではないでしょうか。

しかし、当然ながら有沢さんにも「若手時代」があり、上司の協力を得て改革を進めてきたという歴史があります。
そして、自分の直感を信じて上司に人事制度改革を持ち掛けた若手行員時代があったからこそ、今の実績があるのです。

これをお読みの方は、現場のご担当者から人事担当役員の方まで幅広くいらっしゃると思います。自分の仕事に活かせるヒントを見つけていただけたなら幸いです。
  • Organization HUMAN CAPITALサポネット編集部

    HUMAN CAPITALサポネット編集部

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  • 経営・組織づくり 更新日:2023/11/10
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