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パーパス経営とは?策定のステップや経営戦略・人事戦略への実装方法を解説

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社会課題への対応や、未来に向けた持続可能な視点が経営に求められるなかで、多くの企業が「パーパス経営」に注目しています。しかし、壮大であり抽象的とも捉えられる「パーパス」を、従業員一人ひとりが自分ごととして捉えられるようにすることは、一筋縄ではいきません。

今回は、パーパス経営とは何か、なぜパーパス経営が注目されているのか、パーパス経営のメリット、策定方法の一例や、経営戦略・人事戦略への実装ポイントなどを示しながら、パーパス経営を紐解いていきます。

パーパス経営とは

パーパス経営は、「自社が社会に対してどう貢献するのか?」という問いに対して、「社会のなかでの自社の存在意義」を明確に示し、経営の中心に置く経営手法です。

パーパス(Purpose)という言葉は、訳すと「目的」「意図」などとなりますが、パーパス経営の文脈では「存在意義」と訳されることが多いでしょう。

パーパスについて、詳しくは以下の記事でも紹介しています。ぜひご覧ください。

関連記事:「パーパス」の意味は?注目される理由や関連用語をわかりやすく解説|経営と人材をつなげるビジネスメディア「HUMAN CAPITAL サポネット」

「ミッション・ビジョン・バリュー」と「パーパス」の違い

ミッションは、企業目的や創業者の経営哲学を表し、ビジョンは、企業が目指す姿や方向性を表しています。そしてバリューは、企業が大切にしている価値観や経営姿勢を表しています。これらの3つはすべて「自社組織」を中心に据えています。

これに対してパーパスは、「社会にどのような良い影響をもたらしたいか?」「ステークホルダーにどのような価値を提供したいか?」「従業員は何のために働いているのか?」といったように、自社組織だけでなく、顧客や従業員、サプライヤー、コミュニティなどのあらゆるステークホルダーを含む視点で、企業の存在意義を分かりやすい言葉で表現したものです。

パーパスとは、組織を外から見つめ、「自社の事業が人々の生活にもたらす変化」を考えるものと言えます。

パーパス経営が注目される理由

では、なぜ今パーパス経営がトレンドになっているのでしょうか。

いま、私たちを取り巻く環境は複雑さを増し、以下のような課題に頭を悩ませる企業も増えています。

  • 気候変動や所得格差といった問題、ESGやSDGsといった優先事項に対して、どのような目的意識で取り組むか?
  • どのような指針をもってDXに取り組み、人工知能(AI)が雇用に与える影響にどう対処するか?

これらの複雑性のある課題に対して、金銭的な利害関係のある従業員だけでなく、行政や地域、社会、環境といった企業を取り巻くすべてのステークホルダーの利益を、株主の利益と同じレベルにまで高めてビジネスを行うという考え方が主導権を握りつつあります。

これまで米国で主流とされていた「企業が経済活動を通して利益を追い求めることを第一とする主義」から、「事業を通じてステークホルダーに貢献し、社会課題の解決をめざす長期的な企業経営の在り方」が重視されるトレンドへ変化しつつある背景には、以下のような変化が起こっています。

ステークホルダーの価値観の変化

顧客は自分たちの価値観に反すると考える企業の製品をボイコットし、投資家はESGファンド(環境・社会・ガバナンスを重視した投資手法)に移行しています。また、従業員の多くは自分たちが誇りを持てるような意思決定や行動を重視しています。

ステークホルダーは、「明確でポジティブなインパクトを社会に与えている企業」に惹かれているのです。

商品市場・労働市場における変化

外部環境の変化により、企業は2つの市場において大きな変化を求められています。

まず商品市場では、VUCA時代(不確実性の高い時代)が到来したことにより、商品サービスのソフト化・短サイクル化が進み、新しい商品を生み出し続けることのできる人材の重要性が高まっています。

そして労働市場では、終身雇用・年功序列制度の見直しや、働くモチベーションや働き方の多様化などにより、優秀な人材の獲得・維持が難しくなってきています。

このように、商品市場と労働市場の変化のなかで、企業は適応するために注力することが求められているのです。

これまではミッション・ビジョン・バリューによって、自社の活動を「一人称」でとらえてきた企業も、今の時代に即するためには、自社が貢献すべき対象をメタ認知し、「三人称」で企業活動を捉えたうえで、幅広いステークホルダーに開示していく必要があるでしょう。

このように、企業が持続的に成長をするための戦略として、パーパス経営の必要性が高まってきているのです。特に、「Withコロナ」と言われる今、多くの企業が自社のパーパスに立ち返ることで自分たちが社会に及ぼす影響力を見直しています。

パーパス経営のメリット

時代の変化に対応するためにパーパス経営が必要だとはいえ、経済的なやり取りとは直接関係のないパーパス経営の重要性に懐疑的な人もいるかもしれません。

ここでは改めて、パーパスを起点に経営していくことによるメリットを示します。

1.従業員のロイヤリティが向上する

社内外へのパーパスの発信と実際の活動に筋が通っていることで、自社への愛着、仕事に対する満足度や充実感、自分の能力発揮や評価などへの肯定感が高まり、従業員にポジティブな緊張感が生まれていきます。

2. パーパス型の人材はイノベーションを起こしやすい

パーパス経営のもとでは、共通した価値観や行動などの評価軸が明確です。そのため、問題解決への取り組み姿勢、新たなアイデアへの積極性、新しいチャレンジを起こしやすくなるなど、従業員が自律的に動くことに迷いがない状態を作り出します。コラボレーションが活発になり、組織と個人の学習が加速していきます。

3. すべてのステークホルダーと強いつながりを作り、よい関係を築くことにつながる

顧客のニーズを満たすための様々なサービス・商品が溢れている今の時代において、顧客だけでないステークホルダーへ自社の差別化要因を訴求していくことが必要です。自社のパーパスが明確になっていることで、競合他社との差別化につながります。

自社のプロダクトやサービスを通じて、「ステークホルダーが企業に対して抱くブランドイメージ」を構築するためには、ステークホルダーとのあらゆる接点に置いて統一感と一貫性をもって「経験価値」をデザインし続けることが重要であり、パーパスはその軸となります。

4.組織を一体化できる

パーパスを軸にミッションやビジョンを策定することで、さまざまな場面で判断・行動を決めることが容易になります。パーパスが明確になっていれば、たとえば採用基準、商品開発、新規事業の選択、事業売却、投資判断などにおける判断がブレにくくなります。

パーパスを策定する6つのステップ

では、パーパスを策定するために何をすればよいのでしょうか。

パーパス策定における最大のポイントは、「世のなかに自分たちの存在意義を提示し、その思想に共感してくれる人たちが自分ごと化したストーリーを生み出すこと」にあります。貴重な意見を見つけ、取り出し、不純物を除き、融合させ、継続的にフィードバックする作業は、「策定する」というよりは、「見出す」作業ともいえるでしょう。

パーパスの策定ステップの一例を紹介します。

  • 掘り起こし、光を当てる(発見)

    創業者や創業家のインタビュー、歴史分析を通じて、時代を超えた不変のDNAを明確にしていきます。

  • 掘り出す(言語化)

    思想を言語化して可視化し、まとめます。

  • ルール化する(共有)

    パーパスやミッションを定款化、綱領化します。また、創業の思想を組織内外の人たちに共有します。

  • シンボルを創る(記号化)

    家紋や国旗、自動車のエンブレムなどのように、組織が実現したい思想・世界観を記号化します。

  • 持ち寄る(対話)

    上記1~4でパーパスをデザインしたら、その思想を、一人ひとりの生きた存在意義(パーパス)として伝播させる機会を作ります。

  • 磨き続ける(習慣化)

    パーパスと日常的に接して、習慣化させるための仕組みをつくります。

パーパスの条件

パーパスとしての条件を満たしているかを確認するために、以下の問いに答えられているかどうかもチェックしてみましょう。

  • 私たちはなぜこのビジネスをしているのか?
  • 私たちは社会のなかで、どう在りたいのか?
  • 私たちは、誰のニーズを満たすために存在しているのか?
  • 自社独自の方法でそのニーズを満たすには、どうすればよいか?
  • 社外のリソースに対して、自分たちと共創/協働したいと思わせるような求心力を高めるものになっているか?
  • どんな価値を生み出せているのか?(ステークホルダーにどのような価値提供をすると約束しているのか?)

経営戦略・人事戦略にパーパスを実装するためには

パーパスは、策定するよりも実装することに、より中長期的な時間が必要ですし、忍耐と覚悟が必要になります。

以下のポイントを押さえつつ、経営戦略と人事戦略それぞれに、どのようにパーパスを実装していくのか、イメージを膨らませてみましょう。

1. 経営戦略にパーパスを実装するポイント

①事業領域の再定義

環境の変化に対応するための戦略を練る際に、自社の中核となるパーパスを用いて、事業領域を定義し直してみましょう。持続的に成長できる企業は、現在の事業領域だけが活動範囲だとは考えずに、パーパスとして示したエコシステム全体を活動範囲だと考えています。

そのエコシステムでは、さまざまなステークホルダーが関わり合いながら利害関係で結びついているため、多くの課題が眠っているはずです。その課題をビジネスチャンスとしてとらえ、やみくもにアプローチせずにパーパスを道標として事業領域を再定義していくことが大切です。

②提供価値の再形成

上記のようにパーパス主導で事業領域を再定義すると、エコシステムにおける成長につながります。そのため、企業はこれまで以上に自社のミッションを拡大し、あまねくステークホルダーに対して総合的な提供価値を生み出し、長期的な利益を顧客に提供することを想定していく必要があります。

2. 人事戦略にパーパスを実装するポイント

①コミュニティをデザインする

パーパスについて発信することで共感度合いが高まったとしても、放っておけば時間の経過とともにその意識は薄れてしまいます。パーパスを実装するには、周年イベントや表彰イベント、キックオフイベントなど、既に自社にある節目や定期的なイベントを利用して「パーパスの実装のきっかけ」を作り出し、可視化や意識共有を図ることが不可欠です。

また、人材育成においてパーパスの世界観を広めるための方法を伝達したり、創業者と対話する機会や定期的な面談などを通して、組織のパーパスと個人のパーパスをすり合わせる機会を作るなど、従業員一人ひとりが「自分ごと」として捉えられるようなアクションも効果的です。

新たにメンバーを採用する際も、共通の価値観を持った人を採用するために「構造化面接」を取り入れるなど、パーパスを軸に採用戦略を設計することが求められます。

②組織状態の把握を仕組み化する

パーパスの実装を成功させるためには、 組織状態の把握も不可欠です。他社で有効だった施策をそのまま自社に取り入れようとしても、従業員からの反応が薄かったり、そもそもうまく運用できなかったりするなど、その時の組織状態によっては施策が裏目に出てしまうことがあるためです。

例えば、組織の状態によっては、心理的安全性を確保するための姿勢を示すトップメッセージなど、コミュニケーションの「量」を増やすことが最優先となる場合もあるでしょう。あるいは、組織としてのスキルや強みを提示したり、パーパスを思考する機会を提供して前向きなモードを醸成したりするなど、コミュニケーションの「質」を高めていくことを優先すべき場合もあります。

このように、組織改革とも言えるパーパスを実装するためには、中長期的な戦略として積極的に関わりを持ってもらえるようなアプローチを検討する必要があります。まずは組織の状態を把握するために以下の項目をチェックしてみましょう。

  • 社内コミュニケーションによるパーパスの引用や言及を上司自らが行っているか?
  • 上司がパーパスを大切にしているか?
  • 困難に直面した時にパーパスに立ち戻っているか?
  • 一貫性を保ってブレない判断をし続けることができるか?

パーパスを実装している企業の事例

2020年頃から、日本でもパーパス経営を実践する企業が徐々に増えてきています。以下で紹介する企業は、生活者である顧客が直面している最も重要な社会問題や環境問題のレンズを通して、自社の存在理由を解釈したうえでパーパスとして落とし込み、行動を起こしています。

1. クックパッド

同社では、「毎日の料理を楽しみにする」ことをミッションとし、そのために存在することを定款に組み込んでいます。さらに「世界中のすべての家庭において、毎日の料理が楽しみになった時、当会社は解散する」という一説を盛り込むことで、自社のパーパスを明確にし、常に「料理」に関するさまざまな課題解決に向けてブレずに取り組んでいく姿勢を示しています。

また、社会的責任として、同社がビジネスやサプライチェーンのなかで奴隷労働や人身売買が行われないように、どのような取り組みを実施しているかを報告する」という旨を、株主に対するメッセージとしても明確にしています。これらの社内外への発信により、従業員にもこのミッションとパーパスの達成をめざすという強いメッセージを打ち出すことにつながっています。

2. 中川政七商店

同社は、1716(享保元)年創業の老舗企業です。工芸をベースに生活雑貨や衣料品などの企画・製造・販売を手掛けており、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げたことをきっかけに、ビジョンファーストを重視した新しい経営スタイルを打ち出しています。

同社ではパーパスという単語を使っていません。しかし、「ものづくりの価値に対して適正な報酬が払われていない」という問題提起に対して「私たちには残したいものづくりがあるから働く」という根源的な思いを持って複数のブランド展開を進めています。

3. 山本山

創業300年以上の老舗であり、江戸の大都市である日本橋から「おいしいお茶を分けてあげたい」という理念から玉露を発明するなど、日本茶を原点としてきました。

しかし、時代の変化により社内外のブランド価値にギャップが生じていました。そこで、日本茶を飲むという日常の習慣とその背後にある日本の食文化をどう残すか? それをどう体験として伝播していくのか? これからの時代に必要なものは何か? を定義し直し、日本の文化を次世代にとどけるためにおいしいお茶や海苔をより知ってもらい、より味わってもらいたいという思いを起点にしたリブランドを果たしています。

日本橋本店を和の聖地として食文化の魅力を体感してもらうべく改装したり、商品ラインを見直してパッケージデザインも統一し、メインターゲットに向けたワークショップを開始するなど、従業員の主体的な活動につなげています。

まとめ

昨今のトレンドで、「企業のパーパスは何か?」「企業が果たすべき責任とは何か?」「企業活動はそのパーパスに則って活動できているのか?」が問われています。

本記事を通して、自社のパーパスが事業戦略や意思決定に浸透したときに、自社の利益とステークホルダーの利益が一つになっていくことを理解いただけたのではないでしょうか。

不確実性・複雑性・技術革新のスピードが増し、多様性や企業倫理の定義が変化し続けている現代において、企業活動を持続的に続けていくためには、「パーパス(存在意義)が問われている」というマインドセットが必要です。

自社に必要なタレントを世界中から惹きつけて採用するためにも、優れた協働相手とパートナーシップを組んでいくためも、自社のパーパスを掲げて社内外に積極的に発信していきましょう。

  • Person 鈴木 秀匡
    鈴木 秀匡

    鈴木 秀匡

    日立製作所やアマゾンなど、一貫して管理部門のビジネスパートナーとして人事総務労務業務に従事。現在は、欧州のスタートアップ事情や労働環境、教育事情の背景にある文化や歴史、政治観など、肌で感じとるべくヨーロッパへ家族移住を果たし、リモートで日本企業の人事顧問やHRアドバイザリーとして独立。三児の父。海外邦人のコミュニティプラットフォームのための財団法人立上げなど、日本のプレゼンスを上げていく活動にも奮闘中。

  • 経営・組織づくり 更新日:2023/06/01
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