2024年度に法定雇用率引き上げ 今こそ考えたい新卒障がい者採用の広報戦略
そこで今回は、障がい者採用の広報戦略について、マイナビの特例子会社で障がい者採用の人材紹介領域を統括し、求職者のサポートから企業へのコンサルティングまでを広く手掛ける守屋優に話を聞いてみました。
― 今日はよろしくお願いします。まず、法定雇用率の引き上げについて伺います。26年度までに2.7%に引き上げが予定されていますが、その後もこの流れは続くのでしょうか?
守屋:はい、続くと思われます。実は、日本は先進国の中では障がい者の法定雇用率が非常に低いんです。
隣国の韓国では現在すでに2.7%、日本の障がい者雇用促進法のベースとなっているドイツでは5%、フランスは6%、ギリシャは8%です。政府としても国際水準に近づくため、今後も駆け足で法定雇用率の引き上げが続く可能性が高いですね。
そのため、いま、障がい者採用について考えておくことが非常に重要なんです。
― ありがとうございます。ではここから、障がい者の新卒採用、特に採用広報に的を絞って具体的なお話を伺いたいと思います。障がいのある学生を採用する場合のスケジュールはどのようになっているのでしょうか?
守屋:障がいのある学生も、そうでない学生と同じスケジュールで動いています。近年は就職活動の早期化が顕著ですが、その傾向も同じです。
理由は、障がいのある学生でも、そのうち半分は一般枠から応募をするからです。
学生は障がいの有無にかかわらず、それぞれ自分が就きたい仕事、やってみたい仕事に応募します。
しかし、全ての企業が障がい者枠を持っているわけではないので、結果として約半分の学生は一般枠から応募することになるわけです。その中には、障害者手帳は持っているけれど、障がい者枠に応募するほどではないと考えている学生もいます。
― 障がい者枠は持っていないけれども、障がいのある新卒学生も受け入れているという企業の場合、それが伝わるようにメッセージを送ることが重要になってきそうですね。
守屋:そうです。はっきりと「障害者手帳を持っている方も歓迎します」と書いていただきたいですね。言葉の使い方に気を遣いすぎて、「どのような方でも応募してください!」のように書いてしまう企業も多いのですが、それでは伝わりません。
はっきりと書いてあげれば、障がいのある学生も「ここは応募しても大丈夫なんだな」と分かります。
― 障がい者採用とそれ以外のスケジュールがかぶるということになると、リソースの問題も心配です。どのように対処されるパターンが多いのでしょうか?
守屋:兼務で対応されることが多いのですが、後ほどご説明するように障がい者採用では個別対応が必要になるケースがありますので、できれば専任担当者を付けていただきたいですね。
とはいえ、現実的には99%の企業に専任担当者はいません。どうしてもリソースが不足するという場合、採用業務の一部をアウトソーシングしてしまうというのもひとつの手だと思います。
― 先ほど、障がい者採用をしている場合ははっきりとメッセージを出すことが大切だとおっしゃいました。説明会などの採用広報イベントも同様でしょうか?。
守屋:はい。採用広報の一環として会社説明会を開催する企業は非常に多いと思いますが、そういった場合にも「障害者手帳をお持ちの方もぜひご参加ください。必要な配慮があればメールフォームよりお問い合わせください」と一言書くだけで印象も違いますし、実際に集客にも好影響が出るはずです。
― 問い合わせ先は電話などではなく、メール(フォーム)がいいのでしょうか?。
守屋:聴覚障がいのある方や聴覚過敏の特性を持つ方もいますので、文字でコミュニケーションを取れる選択肢を用意するのがいいでしょう。
また、対面式の場合には会場までのアクセス方法はもちろん、会場内の様子なども映像として想像できるくらいリアルに書いてあげるといいですね。
障がいの種類は多様で、それぞれが「これならサポートがなくても1人で行けそうだ」とか、「階段があるからサポートをお願いしたい」などと判断することができます。
また、これは特に精神障がい・発達障がいの学生にとってマストで欲しい情報でもあります。どういう場なのか? どうやって行けばいいのか? が分からないと不安になってしまう学生は多いようです。
― なるほど。最近はオンラインの説明会も増えていますが、その場合にはどうでしょう。
守屋:障がいのある学生にとっては、対面よりもオンラインの方が圧倒的に参加しやすいので、オンライン説明会やハイブリッド説明会はそれだけでもポジティブな印象につながるでしょう。
さらに、手話やリアルタイム字幕を導入しているなら、もちろん伝えた方がいいですし、それ以外にも「学生側のカメラはオフのままでOK」「マイクをオンにする場面はありません」など、実際に参加した後自分がどう振る舞えば良いのかが分かる情報は細かく記載してあげてほしいと思います。
― 新卒での障がい者採用に意欲がある企業の場合、説明会などはもちろん採用サイトや募集要項にもその旨を記載することがあると思います。そういった場で出した方がいい情報はどのようなものでしょうか?
守屋:まず、すでに障がいのある従業員がいるのであれば、その方をロールモデルとして示してあげることが大切です。障がいのある学生はそうでない学生に比べて、先輩社員の働き方をより気にする傾向があるように思います。
名前や顔まで出さなくてもいいので、どのような方が、どのような仕事をしているのか、どう活躍してるのかを示すとイメージが付きやすくていいですね。
― なるほど。では、法定雇用率の引き上げによって、「初めての障がい者採用」をしようという企業の場合はどうしたらいいでしょうか?
守屋:その場合は「車椅子でも社内を移動できるバリアフリー設計です」とか、「希望に応じて完全在宅勤務やフレックス制も選択できます」のように、各企業が今できることを列挙することをおすすめしています。
― 在宅勤務やフレックス制もサポートのひとつになるんですね。
守屋:はい。例えばパニック発作があって電車にどうしても乗れないという場合がありますし、車椅子なので朝の通勤ラッシュは避けたいという方にとっても強力なサポートになります。
このように、いま社内でできることで、何が「障がいのある学生に対するサポート」に当たるのかが分からない場合は、弊社など障がい者採用のプロに相談していただくのもいいでしょう。
― 採用広報の次の段階になりますが、「見極め」についてもお話を伺わせてください。障がいのない学生との違いはありますか?
守屋:企業が障がい者を採用するに当たって知りたいのは、「その人を雇ったとき、何が起こるか」です。なので、その点をしっかりと確認する質問をすることをおすすめしています。必ず聞いていただきたい点は3つです。
― ぜひ具体的に教えてください。
守屋:1つ目が、「ご自身の障がいについて教えてください」とストレートに聞くことですね。当事者にとって障がいは一生付き合っていくものですので、どれだけ理解しているのかを知ることは、自己分析の度合いを測る意味でも必ず聞いていただきたいですね。
2つ目は、「普段、どういう困り事がありますか?」という質問です。上肢障がいなら「重いものを持つとすぐに疲れてしまう」とか、精神障がいなら「音に過敏な反応をしてしまうのでイヤーマフを着けて仕事をさせてほしい」とか、本人から聞くことが大切です。
3つ目は「どこまで自身の困り事に対して自己対処(セルフケア)ができますか?」です。障がいの有無にかかわらず、入社した以上、自分自身で生産性を確保することは誰にでも求められます。
何か困り事があったときに、どの程度まで自分で対処できるのか、どこからはサポートが欲しいのか、その場合はどのようなサポートがほしいのか。ここは面接ではっきりさせておいた方がいいと思います。
― そういった見極めの難しさもあって、これまでの障がい者採用は中途が中心でした。新卒で採用するメリットはあるのでしょうか?
守屋:日本は世界でもまれな「メンバーシップ型採用(※)」を中心とした新卒採用市場を持っていますが、それと障がい者採用の相性は非常にいいはずです。
その背景には職場環境、サポート体制、その他さまざまな変化が要因としてありますが、中途の場合は「ジョブ型」で採用されることがほとんどですので、配置換えが難しい場合が多いというのも事実です。
しかし、メンバーシップ型の新卒採用であればオープンポジション(総合職)での採用ができますので、入社した後にそれぞれの障がいの特徴に合わせて働きやすい職場、働ける職場に配属することができます。
なので、精神・発達障がいであっても身体障がいであっても、新卒採用というのは障がい者採用と非常に相性がいい採用手法なのです。
※ メンバーシップ型採用:ポジションを定めずに、長期雇用を前提とした求職者のポテンシャルで採用の見極めを行う採用手法のこと。ポジションを固定して採用する「ジョブ型採用」の対義語として使われる。
― ここまでいろいろとお話を伺いましたが、障がい者採用をしようと思うとやはり、いろいろと準備することがありますね。スムーズに障がい者採用を始めるポイントなどはありますか?
守屋:経営者を巻き込むことが重要です。
経験上、経営者がダイバーシティやDEI(※)に理解があり、推進する意思があれば障がい者採用はスムーズに進みますが、それがなく、人事だけで推進しようすると難しいかもしれません。
なので、弊社としては経営者クラスのアンコンシャスバイアス(※)を取り除くための取り組みも行っています。
最初に「障害者手帳の方をお持ちの方も歓迎します」と書かずに、「どのような方でも歓迎します」と書いてしまう企業があるというお話をしました。これがまさに、アンコンシャスバイアスの表れだと思います。
しかし、実際には多様性のひとつであって、そのように考える必要はないはずです。
― 確かに、そういう考えにとらわれてしまうことは多そうですね。
守屋:そうなんです。まずはアンコンシャスバイアスを取り除き、多様性を事業の強みにするという意思を固めていただく。そうすることで、障がい者採用のためのフロー構築もスムーズに進みますし、何より障がいのある学生に届くメッセージを発信することができます。
初めての障がい者採用をする企業で、過去の事例もないし、いま十分なサポート体制があるかも分からないという場合でも、経営者を中心に社としてDEIにどう取り組むかをしっかりと考え、発信することで障がいのある学生やその親、学校からの支持を得ることができます。
最初は目的が「法定雇用率を守るため」であっても、それを通じて1つでも多くの企業が多様性を活かせる社会づくりに参加していただけることを願っています。
― 今日はありがとうございました!
※アンコンシャスバイアス:unconscious(無意識の)bias(偏見)。それまでの経験や受けてきた教育によって無意識に抱いてしまう偏見、偏見による行動のこと。「障がい者に対する過剰な配慮」もその一例。
※ DEI:Diversity(多様性)、Equity(平等)、Inclusion(包摂)の頭文字。多様性を理解し、活かし、平等に扱うこと。
法定雇用率を守るため「数合わせ」で採用を急いでも、企業のステートメントがしっかりとしていなければ、学生は集まりませんし、定着もしないでしょう。
まずは経営層との議論から始め、企業として障がい者採用、ひいてはDEIとどう向き合うかを考えることが何より大切です。
またマイナビでは障がい者採用に関するソリューションをご用意しております。事例のご紹介や市場動向などの情報提供も承っておりますので、お気軽にご相談ください。
● 障がいのある新卒学生向け就職情報サイト「チャレンジド」
障がいのある学生にとって最適化された専門サイトです。就職活動情報はもちろん、障がいのある学生向けに就活に役立つコンテンツを提供しています。企業を検索する際、「障がい者への配慮」や「雇用実績」での軸を用意しており、より企業を探しやすいサイトにしています。(アクセシビリティの確保と向上に取り組んています。)● 障がい者に特化した人材紹介サービス「マイナビパートナーズ紹介」
マイナビパートナーズ紹介は、マイナビグループの特例子会社であるマイナビパートナーズが行う、障がい者に特化した人材紹介サービスです。特例子会社として培った雇用経験と独自の採用ノウハウを生かし、貴社の障がい者採用のお手伝いをさせていただきます。
- 人材採用・育成 更新日:2023/05/19
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