経営と人材をつなげるビジネスメディア

MENU CLOSE
0 20230426185753 column_saiyo c_researchreportc_gakuseiresearchc_kigyouresearchc_kijunc_shinsotsusaiyoauthor_organization_mynavi_hrresearch

若手社員の「ゆるブラック」という感覚の裏側にあるもの

/news/news_file/file/s-HRcolumn-2304-000.png 1
2023年4月を迎え、23年卒だった就職活動生が新入社員として希望する企業へ入社し、社会人として新しい第一歩を踏み出しました。それと時期を同じくして、早くも24年卒の新卒採用も活発に行われています。経済活動の回復も進み、景気の見通しが明るくなったこともありますが、今後の労働人口減少を見越して、多くの企業が採用活動に積極的になっている様子が見て取れます。おそらく企業側の人材獲得における競争は今後もより厳しくなってくるでしょう。 苦労して採用した新入社員の皆さんには「少しでも前向きに、そして長く勤めてもらいたい」というのは多くの採用担当者の方に共通した願いではないでしょうか。離職意向が高まる要因は様々ですが、特に若手世代でよく聞かれる「ゆるブラック」という考え方に、本コラムでは注目したいと思います。
まず用語について整理します。
いわゆる「ブラック企業」は次のような特徴が挙げられます。
 ✓従業員に対し、極端な長時間労働やノルマを課す
 ✓賃金不払い残業やパワーハラスメントの横行など、コンプライアンス意識が低い
 ✓著しく給与が低く、離職率が高い etc.

次に「ゆるブラック」な企業・職場は次のような特徴が挙げられます。
 ✓過度な残業などの長時間労働はないが、成長実感が得られない
 ✓職場の雰囲気は悪くないが、将来性は感じられない
 ✓離職率は低いが、その理由は楽だから etc.
つまり、仕事はきつくなく居心地も悪くないが、スキルアップができずに成長できないと感じる会社・職場のことをいうようです。

マイナビが実施した「中途採用・転職活動の定点調査」によると、転職意向をもつ人のうち、どの年代においても過半数は自身の会社や職場が「ゆるブラック」であると感じていて、特に20代では約7割まで達していることがわかりました。【図1】
「マイナビ中途採用・転職活動の定点調査」

かつて、日本企業では、過剰な長時間労働が常態化し、ときにはハラスメントと相まって過労死やメンタル不調につながっていることが問題視されていました。その解消を目指して行われた「働き方改革」が功をそうして、確かに総労働時間は減少傾向にあります。【図2】
「毎月勤労統計調査(厚生労働省)」

では、「ゆるブラック」な企業や職場とはどういうものなのか、もう少し具体的な内容に踏み込んでみたいと思います。マイナビの調査で「(自身の勤める)職場がゆるブラックだと思う人」と「思わない人」別に「職場の実態」を聞いた結果が下記のグラフになります。

「マイナビ中途採用・転職活動の定点調査」

このグラフを見ると、「(自身の勤める)職場がゆるブラックだと思う人」のほうがスキルアップや昇給、キャリアアップが望めないと感じている割合が高いことがわかります。
【図4】は入社後の成長スピードに関して調査した結果です。就職活動をしている学生に「社会人として活躍するまでに想定している期間」を聞いたところ、最も「3年目」が最多で45.5%、次いで「1年目」が24.9%で、3年以内と回答した割合が8割になりました。一方、企業の採用担当者に「何年後に活躍することを期待するか」と聞いたところ、最多は「3年目(45.7%)」と学生と同じでしたが、2番目に多かったのは「4~5年目」で29.5%、3年以内との回答は6.4割となりました。「3年目」を節目と考えている感覚は学生、企業双方に共通していますが、どちらかというと企業側のほうが長い目で人材育成を捉えていることがわかります。
上「マイナビ2023年卒大学生活動実態調査(9月)」/下「マイナビ2023年企業新卒採用活動調査」

【図3】の「ゆるブラック」だと感じている人の職場の実態と【図4】の「成長スピード」に関するギャップとを併せて考えたときに「限られた時間で業務を行う必要がある中、個人の裁量によるプラスαの仕事をする機会や学びのための活動がしづらくなり、成長実感やりがいが得られづらくなったのではないか」と予想されます。

また、昨今は定年まで働くこと(終身雇用)が現実的でなくなり、特に若者世代ではいずれ転職することも念頭において社会人として早く一人前になりたい、市場価値を上げたいという気持ちが高まっています。こうした成長欲求を満たせる職場でないと、「ゆるブラック」という判断がなされてしまうかもしれません。

では、長時間労働をするような時代に戻ればいいのでしょうか。
もちろんですが、そういうわけではありません。

22年卒の方に入社半年後のタイミング実施した調査で、「入社を決めたときとのギャップ」に関して聞き、勤務先への満足が低い群と高い群に分けて比較しました。全体的に、勤務先への満足度が低い群のほうが、満足度が高い群よりも回答割合が高い傾向にあったのですが、なかでも「残業が多い」「忙しすぎる」「休暇が取れない・休日が少ない」といった業務量や業務時間に関わる項目が挙げられていました。つまり、「ゆるブラック」がいやだからといって、長時間労働を求めているわけではない、という点に注意が必要です。【図5】
※勤務先満足度は「不満である」から「満足している」までの5段階で聞き、「3以下」を低群、「5」を高群とした。
「マイナビ2022年卒入社半年後調査」

成長を実感したり、仕事のやりがいを感じたりするために、「長く働く・たくさん働く」ということ自体が解決策になるのかというとそうではないことはご理解いただけるかと思います。
では、どのような施策が必要だといえるのでしょうか。同じ調査で、「現在の勤務先は、理想とする将来のキャリアプランを実現するための要素が整っているか」と聞いたところ、勤務先満足度の高い群で「整っている(十分整っている+ある程度は整っている)」の割合が8割を超えていたのは「仕事を覚えるための職場環境」「研修制度・学習支援制度」「能力評価の仕組みと昇進制度」「自分の意見やアイデアを活かせる環境」でした。【図6】。

これらのことから読み取れるのは、自己成長を促す機会や手段、そして「働きがい」を感じられる環境の提供が必要だということです。
「マイナビ2022年卒入社半年後調査」

「ゆるブラック」という言葉を聞くと、「ブラック企業はいやだが、ゆるいのもいやとは・・・ないものねだりをしている」と感じられてしまうかもしれません。しかし、若者がもつ「ゆるブラック」という感覚の背景には、終身雇用が当たり前でなくなった社会で、自分自身の働き手としての価値を上げたいという切実な危機感があることは理解する必要があるでしょう。

2019年から施行が始まった働き方改革関連法案やコロナ禍で広がったリモートワークなどの影響で若者に限らず、多くの人が働き方に対する価値観を変えたと思います。仮に良い変化であっても急激な変化は人や組織にとってストレスになると考えると、一見矛盾する「ゆるブラック」という感覚が生まれることも当然かもしれません。

今回は若者の意識ということに焦点をおいて「ゆるブラック」について説明しましたが、中高年世代にとっても大きな変化に身をおいているのは同じです。近頃の若者は・・・などと言わずに、確かに「“長時間会社で過ごす”こと以外に、組織としての一体感や働きがいを感じさせる施策を行えているのか」ということも問うていかなければならないなと私自身も感じています。今後も、多くの組織で、こうした社会構造や価値観の変化を踏まえたマネジメントや指導をしていくことがより求められてくるでしょう。
  • Organization 株式会社マイナビ 社長室 キャリアリサーチ統括部

    株式会社マイナビ 社長室 キャリアリサーチ統括部

    雇用や労働に関連する様々な調査データやレポートを通じて、雇用の在り方や個人のキャリアを考える上で役立つ情報を発信します。

  • 人材採用・育成 更新日:2023/04/28
  • いま注目のテーマ

RECOMMENDED

  • ログイン

    ログインすると、採用に便利な資料をご覧いただけます。

    ログイン
  • 新規会員登録

    会員登録がまだの方はこちら。

    新規会員登録

関連記事