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新卒採用における人材獲得競争の高まりと給与引き上げ

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最近、報道などで「給与引き上げ」が話題になっています。しかし、日常生活を振り返ると実感は乏しいかもしれません。世界的なインフレの波が日本にも押し寄せ、物価が上昇しているにも関わらず、賃金引上げが追い付いていないと言われてきました。OECD加盟国で比較した30年間のデータをみると、世界のなかでも際立って日本の賃金が上がっていないことがわかります。【図1】 (引用元:OECD.Stat 平均賃金比較データ
【図1】平均賃金の推移

こうした状況に対して改善を求める声は以前からあがっており、2022年4月には「賃上げ促進税制」の改正により、大企業、中小企業ともに通常要件に加えて、上乗せ要件がさらに充実し、従業員の賃上げをすることで、企業側にとっても税制的なメリットが得られるようになりました。その効果に関しては賛否両論あるようですが、少なくとも給与引き上げへの追い風が吹いている状況だと言えるでしょう。
また、人口減少、少子高齢化社会において、労働力人口が減少していくなか、人材不足に関する懸念がより高まっています。最近は物価高などの影響でやや鈍化していますが、コロナ禍で一時期冷え込んだ経済状況は徐々に回復しつつあります。この年末年始は久しぶりに行動制限のないなかで迎えられるなど日常生活が「ウィズコロナ」にシフトしていくなかで、人々の消費活動も堅調な伸びを見せており、提供者側の人材不足はより深刻になると予想されます。そのため、企業側は人材獲得のためにも労働条件や待遇をより良くしていく必要に迫られています。
本コラムでは、筆者が主に調査ターゲットとしている「新卒採用」に注目し、マイナビで実施した調査データの結果をもとに人材獲得競争の高まりと給与引き上げの状況をご説明していきます。
まず、新卒採用を行う企業の状況について整理します。「2023年卒企業新卒採用活動調査」によると、コロナ禍でやや落ち込んでいた採用意欲が22年卒から23年卒にかけて急激に回復している様子がわかります。【図2】
また、「2023年卒企業新卒内定状況調査」では、前年と比べて、今年の採用活動の印象が「前年より厳しかった」という回答が約半数となっており、人材獲得競争が激しくなっている様子がうかがえます。【図3】さらに、24年卒の新卒採用計画を聞いたところ、「採用を増やす」の割合が前年よりも増加しており、さらに人材獲得競争が高まると予想されます。【図4】
【図2】採用予定数の対前年比較

【図3】今年の採用活動の印象、【図4】次年度の採用数

次に「給与引き上げ」の状況です。「企業人材ニーズ調査2022年版」によると「採用目標達成のために、この1年で基本給をあげることはあったか」という質問に対して、「新卒採用」では59.8%が「あった」と回答しています。中途採用、契約社員、パート・アルバイトの採用でも給与を引き上げたとの割合が5割を超えており、雇用形態に関わらず全体的に給与を引き上げる傾向が見られました。「基本給をあげることがあった」と回答した企業の割合はコロナ禍で一旦減少しましたが、2021年には増加に転じ、2022年には大きく増加しました。これらの結果からも人材獲得競争が高まった結果、給与引き上げに踏み切る企業が増加傾向にあることがわかります。(本調査では2021年調査では22年卒、2022年調査では23年卒の方に関して回答いただいています。)【図5】
【図5】採用目標達成のために、この1年で基本給を上げることがあった割合

次に求職者側の状況について見ていきます。新卒採用では、職務経験のない学生が企業選びを行うため、中途採用と比較すると、待遇などの労働条件よりも企業の安定感や働きやすさなどが重視される傾向にあると考えられてきました。「2023年卒大学生就職意識調査」によると企業選択のポイントでは「安定している会社」が最多で43.9%、ついで「自分のやりたい仕事ができる会社」が32.8%となっており、「給料の良い会社」は19.1%と第3位の項目です。確かに最大のポイントにはならないですが、「給与の良い会社」がここ数年で増加傾向にあり、新卒採用においても注目されつつあると考えられます。【図6】
【図6】企業選びのポイント

「2024年卒 大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(8月)」で「仕事内容や他の条件と比較して、「初任給」の額が応募するか否かに影響するか」と聞いたところ、81.5%が「影響する(非常に+やや)」と回答していました。【図7】
その金額についてですが、「最低限ほしいと思う金額」は、「20~21万円未満」が最多で28.0%、ついで「21~22万円未満」が15.4%でした。【図8】大卒の平均賃金は22.5万円、大学院卒では25.4万円(令和3年賃金構造基本統計調査)であることを考えると、決して非現実的な金額ではなく、地に足のついた金額を希望していることがわかります。
【図7】初任給の額が応募するか否かに影響するか、【図8】応募の際に最低限ほしいと思う初任給の額

就職先を選ぶうえで大切なことは給与以外にもたくさんありますが、だからと言って給与をないがしろにしていいわけではありません。それは学生である就職活動生にとっても同じです。生活を支える大切なものでもあるので、労働に対して正当な対価が支払われるかどうか、という点も求職者側が厳しく見極めていくことも必要ですし、そのためにも学生の間にマネーリテラシーを高める必要もあるでしょう。給与の原資には限りがあるため無限に用意することはできませんが、企業側は人材獲得競争に勝つために給与金額の見直しに迫られる場面が増えていくかもしれません。
  • Organization 株式会社マイナビ 社長室 キャリアリサーチ統括部

    株式会社マイナビ 社長室 キャリアリサーチ統括部

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  • 人材採用・育成 更新日:2023/01/27
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