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学生心理からひも解く「内定辞退」―採用側が事前にできることとは?

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採用担当者の仕事をしていると直面するのが、学生側からの「内定辞退」です。
採用活動に掛けた労力や経費などのコストを考えれば何としても避けたいというのが本音だとは思いますが、学生本人の人生を考えれば受け入れざるを得ないのが現実です。

今回は、多くの現役就活生と対話し、彼ら・彼女らの行動や考え方に詳しい羽田 啓一郎さんに「学生が内定辞退をする心理」や「そのとき企業が取るべき行動」などについて伺いました。

― まず、学生が内定辞退に至る理由について教えてください。


羽田さん: はい。大きく分けて理由は2つあります。1つ目は、「他に志望度の高い企業があり、そちらから内定をもらった」というものです。これは皆さんも想像しやすいのではないでしょうか。
そして2つ目が、「なんとなく、その企業に就職していいのかどうか分からない」というものです。これは、なかなか見抜くのが難しいですね。

― 確かに、1つ目の理由はよくわかりますが、2つ目はどういう心理状態なのでしょうか?

羽田さん: 先日、2023年卒の学生と話した際のエピソードが参考になるかもしれません。彼は就職活動でIT系ばかり受けていたので、率直にその理由を聞いてみたんです。
でも、明確な答えは彼の中にもない。ただ、IT系の業界はこれから伸びるだろうという印象だけなんですね。自分の中に判断軸がないので、強い志望動機も持てないのです。

ただ、これは当たり前のことだと言えます。当然ながら学生は社会人として働いたことがないわけで、自分の中に「仕事選び」のよりどころになるような経験がないんです。
なので、自己分析や業界研究を重ねて、「ここなら自分も活躍できるかな?」とか、「この業界なら将来性があるかな?」とか、予測して企業を選んでいます。

さらに、本来であれば、オフィスを見学したり若手社員との対話を重ねたりといった方法で自分の中に、「働いている自分の像」をつくっていく過程が必要なのですが、これもコロナ禍ということもあり、十分に得られていません。

なので、複数内定を得たときに「絶対にこの企業にしよう」と判断するだけの確固たる理由がないんです。

― なるほど。では、確固たる「志望度1位」の企業がない状態で複数内定を持った学生を自社に入社してもらうには、どのようなアクションをとるのがベストなのでしょうか。

羽田さん: 単純に言えば、入社する理由をつくってあげるということに尽きると思います。志望順位が曖昧な複数社の中から自社を選んでもらう、つまり「他社に競り負けない」ことを目指すなら、社会人経験のない学生に対して、自社で働いている姿を想像しやすい情報を提供することです。

― 先ほどおっしゃっていた、若手社員との対話などですね。


羽田さん: そうです。あとは、最終面接だけでも対面で行うのもいいですね。「この人たちと働くのかもしれない」とリアルに想像できます。
その上で、学生自身の判断を待ちましょう。就職活動の終わりが見えて、それまで走り続けていた足を止めて冷静に判断しようというときに、企業側ができることはありません。

また最近の傾向として、親御さんや友人に相談し、意思決定の助けを得ていくという学生が多いです。なので、親御さん向けにレターを出すような施策というのは、親御さんの不安材料払拭(ふっしょく)には有効だったりしますね。あるメディア系企業では、内定者の親御さんを直接訪ねて、労働環境などの説明をして親御さんの不安を払拭(ふっしょく)しているとも聞きました。

とはいえ、繰り返しになりますが、最後は学生自身が決めることですので、内定辞退を完全に防ぐということは不可能です。少なくとも「なんとなく違うな」と理由のない内定辞退を防ぐためには、学生本人とその相談相手に検討材料を与えることが重要です。

― では次の質問です。新卒採用担当者にとって一番の関心事は、「内定辞退を伝えられたとき、引き止めることができるのか?」ということだと思いますが、それは可能なのでしょうか?

羽田さん: 元も子もない言い方にはなりますが、不可能かと思います。多くの就活生と話をしてきましたが、一度内定辞退を申し入れた企業に入社したという例は聞きませんね。
なので、学生から内定辞退を伝えられたら、さっと諦めた方がいいでしょう。

― とはいえ、引き止めたいのが採用担当者の心理だと思います。引き止めることについて、学生はどう捉えているのでしょうか。


羽田さん: 学生も一度決意したことですから、食い下がってまで引き止められてしまうと、逆に良くない印象になりかねません。
内定辞退を伝えられた採用担当者ができることは、採用戦略の参考にするため辞退理由を聞くことくらいではないでしょうか。

― 辞退理由を話すことについて、学生側にはメリットがありませんね。


羽田さん: そうですね。そもそも、内定辞退を伝えること自体に学生が強いストレスを感じていることは理解してあげてほしいと思います。
私が話したある学生は、内定辞退のとき必ず人事に電話をすると言っていました。メールが主流なので珍しいなと思い理由を聞いてみると、「メールだと引き止めるために返信が来て、何度もコミュニケーションをとらないといけないのがストレスなので、電話をかけてその場で終わらせるようにしています」と。
なかなか辛らつな声ですが、それだけ内定辞退を伝えることも、その後に引き止められることも学生にとってはストレスなんです。

でも、その企業の採用担当者に感謝の気持ちを持っていれば、協力的な対応はしてくれると思います。そういう学生も意外と多いですね。
面接官とは別の立場の、リクルーターや採用担当者が学生の相談に親身になって話を聞き、導いてあげることで学生側はその相手に深い信頼を寄せますので、最後は感謝の気持ちから内定辞退の理由を話してくれるでしょう。

逆に、高圧的な態度で接したり、強引に引き止めようとしたりするのは、絶対にやめた方がいいです。そういう悪印象は後輩たちにも伝わりますし、SNSを通じて世の中に広く拡散されることもあり、大きく企業イメージを毀損(きそん)しかねません。

「引き止めはしないから、今後の参考のために理由を聞かせてください」と丁寧にお願いするのがスマートでしょう。

あとは、最近注目されているキーワードでもある、「アルムナイ採用(※)」のためにネットワーク化しておくのも手かもしれません。

― 外資系企業を中心に広まっている、退職者やステークホルダーから採用する手法ですね。


羽田さん: そうです。就活生として自社と接した学生は、説明会や面接などで多くの接触機会を持っています。少なくとも、自社の所属している業界には興味のある人々と捉えることができます。さらに最終面接まで進んだ学生であれば、自社の望む人材像にかなり近いということにもなりますよね。

なので、アルムナイネットワークを作って組織化し、ときどきメールマガジンを送るような関係を構築しておくのも、後々のことを考えると得策かもしれません。

※アルムナイ採用:卒業生を意味する “Almnus”の複数形 “Almni”から造られた言葉。離職者や退職者も貴重な人的資源と捉え、再雇用やリファラル(紹介)採用による新たな雇用につなげようという採用手法。この考え方を新卒にも拡張し、選考辞退や内定辞退などで入社しなかった学生も将来の中途入社者になる可能性を見越してネットワーク化する動きがある。
サポネットの解説記事はこちら。

― 最後の質問です。内定辞退を伝えられた後に、それをひっくり返すのは難しいということですが、内定辞退をしそうな学生を察知して、フォローするような施策は可能なのではないかと思います。そういった方法はありますか?


羽田さん: 先ほども少し話しましたが、まずは親身に学生の相談を受けられる身近な相談相手になることですね。
面接官は多くの場合、マネジメントクラスの社員が担当すると思いますが、それよりもぐっと学生に近い若手社員のリクルーターや、採用担当者が学生からの相談に乗ってあげることです。
面接官には着飾った「面接用の自分」で接しますが、面接官ではないリクルーターや採用担当者が親身になってあげれば、そちらには本音を話してくれる可能性が高いですね。さらに、自社への入社対策だけでなく、就職活動全体や人生に関する相談にも乗ってあげれば、正直に「内定を辞退しようかどうか迷っている」と話そうと思うのが人間の心理ではないでしょうか。

そういった、はっきりとしたシグナルを受け取ることができれば、その学生が何を理由に内定辞退を検討しているのか、どのような情報が足りないのかを聞き出し、解決のために動くこともできますね。

ただ、繰り返しお話ししているように、内定辞退の思いをひっくり返すことは非常に困難、基本的には不可能です。
内定辞退について相談を受けたとき、引き止めるために動いていいのかどうかは、関係性をよく見極める必要がありますので、注意してください。
内定辞退をひっくり返すことは難しくても、複数社の内定からどれを選べばいいのかを迷っている学生に判断材料を与え、親身になって相談を受けることで多少は回避することもできるかもしれません。
つまり重要なのは、「内定辞退をされてから動く」のではなく、選考段階から仕事内容について丁寧に説明し、しっかりと学生に寄り添うことです。
そうしたコミュニケーションの中から、学生自身が自社に入社する本人なりの「理由」を見つける手助けをしていくことが重要となります。

逆に言えば、企業にできることはそれだけです。売り手市場とはいっても、まだまだ「企業が学生を選ぶ」という関係性が根強く残る新卒採用の現場では、ともすると内定辞退に怒りを覚え、強引な引き止めに出てしまう企業も少なくありません。

しかしそのような手段に出たところで得るものはなく、むしろ企業イメージの毀損(きそん)につながるということは、肝に銘じておきたいですね。
  • Person 羽田 啓一郎
    羽田 啓一郎

    羽田 啓一郎 株式会社Strobolights 代表取締役社長

    立命館大学卒業後、株式会社毎日コミュニケーションズ(現マイナビ)に入社。
    大手企業の新卒採用支援を行った後、政府の有識者会議委員や学生向けキャリア支援プロジェクト「MY FUTURE CAMPUS」「キャリア甲子園」などをゼロから立ち上げた後、2020年に独立。大学講師や学生向けコミュニティ運営、企業のコンサル、執筆業なども行う。

  • 人材採用・育成 更新日:2022/02/18
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