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環境変化に強い人材を育成する「レジリエンス」の重要性

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近年、人事労務において「レジリエンス」という言葉をよく耳にするようになりました。この記事ではレジリエンスとは何なのか、組織のレジリエンスを高めることの意義やその方法について紹介します。

レジリエンスとは

レジリエンスは、元々物理学、環境学などの自然科学分野で生まれた言葉です。職場における「レジリエンス」の定義を簡潔に表現すると、「逆境やトラブル、強いストレスに直面した時、そこからしなやかに回復する力」といえます。ストレス社会といわれる現在では、心理学や企業における人事労務分野など幅広いジャンルで使われる重要なキーワードとなりつつあります。

レジリエンスとメンタルヘルスとの違い

レジリエンスと似た言葉に「メンタルヘルス」があります。メンタルヘルスは日本語に訳すと心の健康や精神衛生となります。レジリエンスは外からの重圧やストレスによるダメージから回復する力を指す言葉であるのに対し、メンタルヘルスは精神的な疲労を軽減するサポートのことであると言いえます。

6つのレジリエンス・コンピテンシー

レジリエンスを高めるためには特別なスキルが必要あるわけではありません。レジリエンスは誰もが潜在的に持っているものであり、その力を発揮するためのコンピテンシー(行動特性)を理解することが重要です。
ここで、レジリエンスを高めるために理解しておく必要がある「6つのレジリエンス・コンピテンシー」を紹介します。

①自己の気づき(self awareness)

自己の思考、感情、行動、生理的反応に注意を払う力

②自己コントロール(self regulation)

望ましい結果を得られるよう、自分の思考、感情、行動、生理的状態を変化させられる力

③現実的楽観性(optimism)

ポジティブなことに気づき、期待し、自力でコントロールできるものにフォーカスし、目的を持った行動が起こせる能力

④精神的柔軟性(mental agility)

状況を多角的に見て、創造的にかつ柔軟的に考えられる能力

⑤キャラクターの強み(strength of character)

最高の強みを活用して自分の真の能力を最大限に発揮し、困難に打ち勝ち、自分の価値観に合った人生を創造する能力

⑥関係性の力(connection)

強い信頼関係を築き、維持する能力

この6つのコンピテンシーから「自己を客観的に見る力」や「主体的に動ける力」、「周りとの活発で円滑なコミュニケーション」が必要不可欠であるということがわかります。これらのコンピテンシーに気づくためには、普段から意識して業務に取り組む必要があります。

ビジネスの現場で「レジリエンス」が注目される理由

ここ数年、労働環境の悪化や複雑な人間関係、政府が推進する「働き方改革」、経済のグローバル化の進展による競争激化など、企業や労働者を取り巻くビジネス環境はより多様化・複雑化しています。変化に対して柔軟な対応が求められる一方、短期間で具体的な成果が求められるプロジェクト業務が増加するなど、職場はかつてないほど精神的負荷が大きく、ストレスフルな労働環境に置かれています。

これらに対応するには、小手先のビジネススキルを身に付けただけでは不十分です。自己効力感やプライドを常に保ち、起こりうる課題や失敗に対して冷静に対処できる、環境変化への高い適応能力=「レジリエンス」を発揮できなければ、長期間にわたるビジネスキャリアを完走することが難しくなってきているのです。

企業がレジリエンスを高めるメリットとは

レジリエンスを高めることで各従業員のストレス耐性が高まるだけでなく、失敗を恐れずに挑戦するマインドを形成することができます。
レジリエンスが高い状態では失敗をしても心理的なリカバリーが早くなるため、より強固で柔軟性の高い組織を目指すことができます。また、想定していなかった事態に対しても即座に対応できるようになるため、変化の激しい業界においても常に優位に立ち振舞えるとい言えるでしょう。

職場における「レジリエンス」の高い人材の特徴とは

それでは、職場において「レジリエンス」を発揮するためには、労働者は、どのような特質を備えているべきなのでしょうか?文献や研究によって定義は様々にありますが、特にビジネスにおける「レジリエンス」が高い労働者は、以下の項目を満たしていると考えられます。

①職場やプライベートで良好な人間関係を保てている

職場やチームにおいて、目的達成のために協力的な人間関係を構築するとともに、プライベートにおいても家族や気のおけない友人たちと良い関係性が保たれているなど、公私ともに他人と良好なコミュニケーションが取れていることが重要です。

②食事や睡眠が十分に取れて肉体的に健康

仕事において精神的安定の基盤となるのは、まず肉体的に健康であることが重要。質の良い睡眠と食事は、仕事中の判断力、思考力、集中力など様々な面で仕事の生産性を高めるだけでなく、レジリエンスを実現するために欠かせません。

③組織の方向性に合わせてキャリア目標も柔軟に変化

グローバルな競争の下、めまぐるしく変化する経営環境においては、組織の定める経営計画やゴールもどんどん変化します。レジリエンスの高い社員は、組織を取り巻く状況変化に合わせて、恐れず能動的にキャリア目標や職能を変化させ、会社の目指すゴールと自らのキャリアの方向性を合致させることで、燃え尽きやメンタル低下を未然に防ぎます。

④難題に向かって楽観的なチャレンジを習慣化

レジリエンスの高い社員は、正しいプライドを持ち、自己効力感に優れるため、問題や課題に対して自信を持って、自分らしく対処します。むしろ楽観的に自らを成長させるチャンスと捉え、困難に対しても大げさに騒がず、フラットな心的態度で冷静に取り組むことができます。

⑤メンタルヘルスについての正しい知識で適切にケア

精神的な健康を維持するための正しい知識と適切な手段を持つことで、定期的なセルフチェックの仕組みを構築し、組織外部のカウンセラーを活用するなど、自らのメンタルヘルスを客観的に測定・維持することができます。

⑥自尊感情が養われている

自分自身が組織や周りの人に対して良い影響を与えていることを感じると、自ずと自尊感情が養われます。自尊感情は「自己肯定感」と同義に捉えられることもあり、健康的な生活や日常から自分のことを褒めることで自分自身が価値のあるものだと信じることができ、自尊感情を高めることができます。

⑦感情のコントロールができる

感情のコントロールができるようになることも重要な要素であるとい言えます。仕事で失敗しても気分が落ち込んだままでいると巡ってきたチャンスを生かせないこともあります。感情をコントロールできる力を身につけるとメンタルの回復スピードが早まるため、一時の感情にとらわれることなく状況に応じて対応できるようになります。

⑧思考に柔軟性がある

レジリエンスには「跳ね返り」や「回復力」といった意味があります。つまりレジリエンスが高い人はあらゆる困難に対しても跳ね返りや回復力が強い人ということを意味します。柔軟な思考力を身につけておけば、未曾有の事態も乗り越えることができます。

⑨自責思考がある

チームでの仕事でトラブルや失敗が起きた時に他者や状況のせいにして他責思考になるのではなく「自分に何ができるか」という自責思考をします。全て自分のせいだと必要以上に自罰的になると逆効果ですが、レジリエンスの高い人材はトラブルや失敗を自分事ととらえて対策を練ることで、ポジティブな思考で成長できます。

「レジリエンス」を高めるには

職場における「レジリエンス」は、特定の個人にだけ先天的に備わる遺伝的・性格的な特徴ではありません。「思考のクセ」や「仕事上の習慣」といった側面が強く、誰でもあとから学び、身につけることができる個人スキルなのです。つまり、適切な教育プログラムや環境整備によって、誰でも「レジリエンス」を獲得することは十分可能なのです。
それでは、組織や個人において、「レジリエンス」を高めるためには具体的にどのような対策があるのでしょうか?労働者が「レジリエンス」を高めるために心がけたい取り組みを詳しく解説します。

①否定的な感情の連鎖や「悪い」思考グセを徹底的に見直す

失敗や困難からしなやかに回復し、立ち直る「レジリエンス」を身につけるには、まず、職場での失敗や課題に直面して落ち込んだ時の対処法をじっくり考える必要があります。過去に経験した仕事上のマイナス局面において、自身が陥りがちだった思考の「悪い」クセや、ネガティブな感情を徹底的に見直しましょう。
内観やワークを通してこれらの思考や感情の癖を客観的に把握できれば、今後同様の落ち込みを経験した際に、必要以上にネガティブな思考に支配されにくくなります。まず最初に自分のクセに「気づく」ことが大切なのです。

②思考や感情をコントロールする

落ち込んだ時の思考のクセや感情のパターンが把握できたら、これを制御・コントロールするための方法を考えてみましょう。思考については、なぜネガティブな思考に陥ってしまったのか、その「理由」や「経緯」をロジカルに掘り下げていくことで、改善策が見えてきます。
例えば以下のように考え方を少し変えてみるようなステップを踏んでみます。

怒られたくないからお客さんに言いづらいことが言えない

→怒られないためにも、先手先手でまずお客さんに相談する。

失敗したくないので、どうしても新しい仕事に対して身構えてしまう

→失敗してもクビになるわけではない。挑戦しないほうがジリ貧になる。

ネガティブになってしまった要素に対して、感情的にならず冷静に判断していく事で思考をコントロールしていきます。
また、感情面でのコントロールに関しては、たとえば「怒り」に対してはアンガーマネジメントの手法を使う、「悲しみ」に関しては外部キャリアカウンセラーに相談する、「不安」に関しては万全に準備を尽くして仕事に臨む、等々、マイナス感情を軽減するための自分にあったアプローチを分析・選択することで、乗り越えることができます。

③小さな成功を積み重ね心をポジティブに保つ

非常に大きな業務要件であっても、現実的に見通しの立つ最小単位で目標を区切って設定し、それを完了するごとに自分自身を褒め讃え、仕事の達成に満足するクセをつけるようにしましょう。これにより常にポジティブなものの見方が定着し、逆境に強い心を養うことができます。

④キャリアゴールを定めて力を発揮できる仕事を定義する

自らのやりたい仕事を明確にすることで、目的意識がはっきりし、仕事に対するコミットメントやモチベーションが高まります。自らのキャリアゴールが明確になっていることで、仕事上ストレスのかかる局面に直面した時、高い士気を保つことができるのです。

⑤キャリアゴールに沿っているかのフィードバックを周囲に依頼する

上司やメンター、キャリアカウンセラーとの定期的な面談や振り返りを通して、キャリア目標や、積み重ねてきた業務実績のプラス面を周囲に理解してもらうよう務めることが大切です。小さな成功体験を他人と共有することで、職場における自己尊厳や自己効力感が少しずつ高まり、レジリエンスを強化する方向に働くのです。

⑥ロジェクトチームで働く際に必要なスキルを磨く

複雑に利害関係が入り組み、多様な人材が一定期間働く「プロジェクト形式」での業務では、円滑な人間関係が自らのモチベーション維持やストレス軽減に役立ちます。「傾聴」や「プレゼンテーションスキル」などコミュニケーションスキルを磨いておくことで、問題に直面した時、周囲と協力して立ち向かう強さが手に入ります。

⑦家族や友人とのプライベートな時間を確保する

組織内において安心して仕事に取り組むための基盤が、大切な家族・友人との良好な関係性や趣味に没頭できる時間です。ビジネスマンとしての仕事生活は数十年に及ぶマラソンのような長期戦。仕事に常に100%全精力を注ぐのではなく、心の余裕を保つためにプライベートや生活基盤を安定させることにも気を配るべきなのです。

⑧置かれた状況について抵抗するのではなく、受容する

チーム内のメンバーや部下が失敗をしたり予期せぬトラブルが起きても、まずは「受容」しましょう。この際の「受容」とはただ許すことではありません。感情的に受け止めたり、悲観や楽観したりするのではなく、ただ何が起きてどういう状況になっているのか、事実を理解するということです。起きてしまったことに対して感情的になったり誰かを責めても、何も変わることはありません。何が問題になっていて、解決するためには何が必要なのかを見極めることで、感情に振り回されずに次の解決策を講じることができます。

⑨不利な状況でも、まずは行動する

日々業務にあたっていると、なかなか成果が出ず、気分が落ち込んでしまうことも多々あります。しかし、短期の評価に振り回されず、動してみることで、悩んでいた時には見つからなかった糸口が見つかるかもしれません。

⑩自信を深める

「自分には能力がない」と思い込んでしまうと、本来持っているはずの力を発揮できなくなってしまいます。まずは自信を持ってみることで、万が一失敗してしまっても次は成功できるという自信を持てるため、精神的ダメージも軽減することができます。

職場の「レジリエンス」を高める4つの人事労務施策

社員一人ひとりが環境の変化に適応できる強さを備えることで、組織はより一層強くなります。そのためには、職場の「レジリエンス」を高められる様々な人事労務施策の実施が必要です。どのような施策があるのか、ご紹介していきます。

①メンタルヘルスケア対策の重点的な実施

社員が「燃え尽き」や「うつ状態」に陥ることを未然に防ぐため、手薄になりがちなメンタルヘルスケア対策を強化しましょう。特に、管理職が部下の精神状態や業務パフォーマンスを適切に把握し、メンタルケアを行うための「ラインケア」や、全社員が自分で自身の精神状態を把握し、メンタルヘルスを保つための「セルフケア」など、定期的に社内研修等を通じて知識やノウハウをインプットすることが大切です。また、24時間常時対応可能なホットラインや、産業医による巡回強化など、第三者である外部機関の活用が有効です。

②レジリエンス研修の実施

2014年頃から日本においても「レジリエンス」に対して注目度が一気に高まりました。これを受け、現在では専門教育機関によって、社員個人が「レジリエンス」を高めるための優れた研修プログラムが多数開発されています。グループワークやディスカッション主体のトレーニングを通して気づきを与えるものから、瞑想や精神集中に重きを置く「マインドフルネス」研修まで、様々な種類があります。レジリエンスの高め方で挙げた取り組みや、自社の社風・業態に合致した外部研修プログラムを通じて能力を高めていきましょう。

③職能・職場変化に対応した柔軟なキャリアパスの設定

各社員に求める職能やスキルが変化しやすい分、個人のキャリアニーズに最大限配慮した、柔軟なキャリアパスの設定や、透明性・公平性の高い評価体系を整備することが必要です。また、学び直しが必要となった社員に対しては、休職や留学など外部教育機関を活用した「リカレント教育」の拡充や、通信教育への費用補助など、社員のスキルアップへの積極的な投資を行うことで、社員のモチベーションとスキルを高いレベルでキープすることが可能となります。

④ワークライフバランスを促進する人事労務プログラム

心身ともに健康な状態で社員に働いてもらうために、有給休暇の取得奨励策や各社員の生活環境、家庭事情にあった柔軟な働き方を促進する人事政策を推進しましょう。また、先進的な取り組みで成功を収めている他社の福利厚生施策を研究し、柔軟に取り入れるのも有効です。

パフォーマンスの高い組織へ

ここまで見てきたように、非常に多様化・複雑化した2010年代の労働環境において、社員一人ひとりが職場で高いパフォーマンスを発揮するには「レジリエンス」を如何に高めるかがカギとなってくるのは間違いありません。

日本では2014年以降、比較的新しく普及し始めた考え方ですが、「キャリア開発」や「メンタルヘルスマネジメント」と合わせて人事政策の一環として取り組んでいくことが臨まれる重要な考え方です。各施策には、非常に多岐に渡る粘り強い取り組みが必要となるため、組織のカラーに応じて柔軟にカスタマイズしながら少しずつ導入していきましょう。

◆「レジリエンス」を学習するためのオススメ書籍

  • 世界のエリートがIQ・学歴よりも重視!「レジリエンス」の鍛え方 (久世浩司/実業之日本社) 逆境や困難に対してレジリエンスを高める7つの科学的なトレーニング方法が書かれている一冊。一歩踏み出すための技術が身につきます。
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