「段取り力」~目標達成までのステップを構築する能力~|ビジネススキルの見極め方
「段取り」という言葉は、物事を行うための手順や準備という意味で用いられます。つまり、「段取り力」であれば、“準備する力”ということになるでしょう。しかし、なぜ「段」なのでしょうか? その語源にはいくつか説があります。
歌舞伎において芝居の区切りを「段」と言い、それをどう組み立てるかを「段取り」と呼んだというのが一説。また、坂道に「(階)段」をつくる際、歩きやすい段数の検討をつけたことに由来するという説もあります。
いずれにせよ、ひとつの連なりになっているものを、細かい工程やステップに“分ける”という意味合い。一気に登ると大変な坂道も、小さなステップに分けることで、少しずつ確実に登れるというわけです。
仕事における「段取り」も同様で、難しい仕事をステップに分けることが成功への道のりとなります。今回はそんな、仕事を確実に成し遂げるために不可欠な「段取り力」について考えてみましょう。
目標達成までの道のりを組み立てるには、まず全体を小さなパーツに分けることが重要です。『方法序説』(1637年)において哲学者・デカルトは、難問を解く方法について、
と述べています。一般的に、“困難は分割せよ”と言われる名言です。
また、プロジェクトマネジメント理論(大規模な建造物・ITシステムを構築するプロジェクトを遂行するために体系化されたもの)においても、“WBS=Work Breakdown Structure”と呼ばれる、一連の作業を細かく分解した構造図が存在します。
大きく複雑なプロジェクトにおいては、設定した目標や作業範囲(スコープ)を一度に達成することは困難です。そのため、全体の作業を細分化し、ひとつずつクリアしていくことが目標の達成につながります。
しかし、その細分化を闇雲にやっているだけでは、段取りが良いとは言えません。何によって段取りのスキルに差が生まれるかと言うと、それは“分け方の巧拙”や、分けた後の“タスクの扱い方”です。
段取りの良さは具体的にどのような部分に表れるのか、4つのポイントを解説していきます。
1つめのポイントは、細かく分けたそれぞれの作業が、意味のある塊になっているかどうかです。作業を分割するとはいえ、あまりにも細かく分けすぎては、かえって効率が悪くなります。一連の作業を、どこで区切れば効率良く進められるかを見極めるセンスが段取り力につながるのです。
営業で顧客を訪問する、という仕事を例に考えてみましょう。この仕事を分解すると、
- 顧客候補リストから電話をしてアポイントを取る
- 商品企画書や提案書など、訪問準備をする
- 実際に訪問する
という3つのタスクが必要になります。ここで、アポイントが完了したら一息をついてしまう(①のみ実施する)人と、書類まで準備してから一息をつく(①?②を実施する)人とでは、効率や仕事の質に違いが生まれます。
アポイントの電話でヒアリングをした直後は、顧客の意見や課題を最も理解している状態です。数日経って記憶が薄れ始めた頃に再始動するよりも、アポイントから間を置かずに書類を準備してしまったほうが、効率よく顧客のニーズに応じたものを作成できるでしょう。
つまりこの場合、アポから書類準備までの作業をひとつの塊としてまとめてしまうことが、上手な作業の分け方。それをできるのが、段取り力がある人の特徴と言えます。
2つめのポイントは、分けた仕事を実施する順番。優先順位を間違うと、仕事に無駄が発生してしまうからです。
仕事はチームで実施することが多く、その場合はみんなでひとつずつ順番にやるというよりは、同時並行で複数の細かい作業を進めていくことがほとんどでしょう。その場合にも、適切な順番で作業を進めなければ、スムーズに仕事は遂行できません。
たとえば、カレーライスをできるだけ早く作って食べようというとき、タマネギやニンジンやジャガイモを切って、煮て、最後にルーを入れた後で、ご飯を炊き始めたらどうなるでしょうか。当然、無駄に時間がかかってしまいます。
これは当たり前のことですが、実際の仕事に置き換えたとき、段取り力のない人ではタスクの優先順位を誤ってしまう恐れがあります。
3つめは、タスクに対するリソース(資源)の見極めです。やるべき作業を上手く分割し、適切な順番で実行する計画を立てても、持っているリソースの範囲内で仕事をこなせなければ意味がありません。
仕事におけるリソースは、言うまでもなく「ヒト・モノ・カネ」。特にチームで行う仕事では、3つのリソースを適切に配分することが重要です。
また、「ヒト」というリソースには、「人数」「能力」両方の側面があります。達成すべき仕事を確実にこなせるだけの人数と能力が自分たちに備わっているのか、判断しなければいけません。
同時並行で各人がそれぞれのタスクを進めるのが合理的だとしても、能力的にそれが難しいようであれば、全員がひとつのタスクをこなすほうが早く完了する場合もあります。そういった判断ができるのが、段取り力のある人です。
タスクを整理し、目標達成までの道のりを組み立てれば、基本的な準備はOKです。しかし、仕事というのはなかなか計画通りにいきません。そのため、問題が起きたとき、柔軟に方針転換できることが、4つめのポイントとなります。
段取りという観点では、いち早く問題に対応するには異変を“検知”する能力を持つことが重要です。そのためには、目標が達成されるまでにモニタリングすべき指標を、事前に設定しておく必要があります。
それがいわゆる“KPI=Key Performance Indicator(最重要業績指標)”と呼ばれるものです。人材採用におけるKPIであれば、途中辞退率などが目安。大きなプロジェクトであればあるほど、最終目標の達成度合いを測ることが重要となるため、適切な指標を設定することが求められます。
仕事における段取り力の高さは、いったい何に裏付けされるものなのかを見てきました。それでは、実際の採用面接においては、段取り力の有無をどう見極めればよいのでしょうか。
それは、これまで述べてきた4つの仕事設計や準備プロセスの「過去事例」について聞けばよいのです。さらに言えば、なぜそのように行動したのかという思考プロセスまで聞くべきでしょう。
段取り力のある人は、実際にやった以上のことを考えており、余裕のある状態で仕事を終えているはずです。対して段取り力のない人は、行き当たりばったりで仕事をしていることが浮き彫りになってきます。
採用面接では仕事の“成果”ばかりを聞いてしまうことも多いですが、それでは段取り力はわかりません。別の力を発揮して仕事をやり遂げたかもしれないからです。目標を達成するまでの“プロセス”に注目することで、それが偶然できたことなのか、段取り力に裏付けされた周到な準備のもとに達成されたことなのかがわかるのです。
- 人材採用・育成 更新日:2017/12/21
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