海外におけるリファレンスチェックの浸透、現状について ~海外文献から読み解く新型コロナ後のHRトレンド~
2020年以降、日本の企業において経営マネジメントの在り方が問われはじめ、リファレンスチェックと呼ばれる採用プロセスが注目を浴び始めています。
オンライン面接が普及し、直接対面する機会が減ったことにより、応募者を見極める精度を担保する必要が出てきました。その解決策として、欧米などの外資系企業で主流になっている人材確認手法であるリファレンスチェックの認知率が徐々に高まってきているのです。
実際に、リファレンスチェックのプロセス導入をサポートするITスタートアップも出現し、その実施率も拡大しつつあります。
今回は、「海外におけるリファレンスチェックの浸透とその現状」について読み解きます。経営者やHR担当者にとって、自社の採用活動プロセスと比較して認識を新たにする機会となれば幸いです。
欧米におけるリファレンスチェックの考え方
そもそもリファレンス(Reference)という言葉は、“参照、身元や信用などの証明”という意味を持ちます。
採用面接のプロセスにおいては、「身元照会」という意味合いで使われますが、欧米の専門家の間では、リファレンスチェックよりも「バックグラウンドチェック(Background Check)」と呼ばれるケースが多いかもしれません。
欧州では、バックグラウンドチェックやリファレンスチェックは、企業が候補者本人以外から情報を得るための主要な手段として機能していますが、両者は全く異なり、検証のレベルも異なるということに注意する必要があります。
バックグラウンドチェックとリファレンスチェック
バックグラウンドチェックは単なるデータの確認プロセスであるのに対して、リファレンスチェックはより汎用的で包括的な採用のためのツールとして使われています。
ここでは、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
バックグラウンドチェック
バックグラウンドチェックは、候補者の犯罪歴、商業歴、財務歴を調べるために使用されます。具体的には以下のような種類のバックグラウンドチェックがあり、コンプライアンス法やその会社の規定によって、どのタイプのバックグラウンドチェックを行うべきかが決まります。
- 雇用確認
- 犯罪歴調査
- 信用調査(クレジット・バックグラウンドチェック)
- 個人身辺調査
- 国際的なバックグラウンドチェック
- 専門家(もしくは専門資格)ライセンスのバックグラウンドチェック
一方で、バックグラウンドチェックで把握できない情報には、以下のようなものがあります。
- 候補者が、職務に特化したトピックについてどの程度の知識があるか
- 候補者が、仕事でどの程度の成果を上げたか
- 候補者の実際の職責や職務内容は、どのようなものか
- 候補者の過去の会社に対する忠誠心や業務へのモチベーションの度合い
- 候補者が、同僚やプロジェクトマネージャー、直属の上司とどのようにコミュニケーションをとるか
- 候補者が、どの程度あなたの企業文化に適合するか
- 候補者の労働倫理
- 候補者が、コーチングや批評を受けることをどの程度受け入れるか
- 候補者が、どの程度信頼できるか
バックグラウンドチェックは、犯罪歴や雇用の確認など、単純なデータを収集するのに適していますが、最適な採用を行うためにはより多くの情報が必要となることがわかっています。
2017年の米国Inc社の調査では採用した人材の89%が最初の1年半で失敗しており、その原因はモチベーションの低さやコーチングができないことにあるようです。
このような属性や傾向は、基本的なバックグラウンドチェックではわからないといえます。
リファレンスチェック
リファレンスチェックは一般的に、候補者の以前の雇用主、上司、同僚、教育関係者に連絡を取り、以前の雇用を確認し、個人の知識、スキル、能力、性格に関する情報を取得します。
自社の企業文化と社員の適合性や合致度合いを測り、採用ミスから雇用主を保護するために行われます。
現代の採用戦略では、リファレンスチェックが必須であり、常識であると認識されています。採用活動プロセスにおいて、いつ、どのようにリファレンスチェックを行うかは、採用担当者やリクルーターが用いる重要な戦略の1つになっているのです。
ただし、採用プロセスは欧米各国によって、多少は異なることにも留意が必要です。
最近では米国でもスタートアップを中心に浸透してきましたが、特に欧州においてはリファーラル(Referral)といった縁故紹介やコミュニティを通じた紹介、社員の元同僚からの紹介が採用手法として主流であることも多いことがあります。
この場合は、採用担当者が求めない限り、リファレンスは自分の見解を示さないのが普通であり、一般的に推薦者は反応的に証言を提供するに留まるため、推薦者はリファレンスには該当しません。
最終的には、リファーラルであっても、リファレンスチェックは行われることになるのです。
リファレンスチェック・バックグラウンドチェックの目的
雇用主がリファレンスチェックやバックグラウンドチェック、あるいはその両方を候補者に実施する目的は数多くあります。
安全性の確保
まず、雇用主に対する様々な種類の被害や法的責任を回避する目的があります。
セクシュアルハラスメントや職場内暴行、過失運転などの犯罪歴を調査しておくことは、雇用主が雇用に際して十分な注意を払ったことを示す強力な証拠として扱われることも大きな理由です。
生産性の最大化
一般的に、過去の実績は将来の実績を示す有力な指標であり、個人のプロ意識、生産性、職務遂行能力、対人コミュニケーション能力などを明らかにすることができます。
リファレンスチェックは、真のハイパフォーマーであるか否かを区別するのに役立ちます。
データ検証
候補者から提供された情報を確認することで、必要な応募資格を確認するだけでなく、候補者の信頼性やモチベーションをある程度把握しています。
2018年に調査した雇用主の85%が、スクリーニングの過程で候補者の履歴書や求職票の嘘や虚偽を発見しており、5年前の66%から増加しています。
欧米におけるリファレンスチェックのタイミングの変化
これまで、ほとんどの欧米企業では、採用プロセスの最終段階で、単純な「採用ミス」を識別するためにリファレンスチェックを実施してきました。
しかし、コロナ禍で新しいビジネスが勃興する速度が加速し、それぞれのビジネスで必要な人材が供給不足となっている現在では、より早い段階から候補者の実際のパフォーマンスとパーソナリティを知る必要が出てきています。
リファレンスチェックを採用プロセスの最後に行うのではなく、1回目または2回目の対面面接の直後に実施することで、同僚や元マネージャーからのフィードバックにより、特定のスキルや属性が明らかになり、候補者の順位が変わる可能性もあります。
リファレンスチェックのタイミングを変えることで、面接にかかる時間やコストを削減し、より良い採用を行うことができるようになります。このように、時代に合わせて採用戦術も変化しているのです。
効率的な採用と定着に向けた調査方法の選択
全米身元調査機関協会(NAPBS)が主催する2018年のHR.comレポートでは、調査対象となった雇用主の95%が、1種類以上の雇用確認調査を利用していると回答しています。
また、このレポートでは、ほとんどの回答者が採用時にのみチェックを実施している一方で、採用後にも再調査を行っている雇用主が一定数(11%)いることも示されています。
バックグラウンドチェックとリファレンスチェックの種類
バックグラウンドチェックとリファレンスチェックには多くの種類があり、雇用主はそれぞれのニーズに合ったものを組み合わせて利用しています。
以下に、一般的な調査項目をいくつか紹介します。
- 職務経歴(雇用期間、役職名遂行した職務、離職の状況)
- 学歴
- 犯罪歴
- 自動車運転に関する記録
- 特定の業界の義務
- 国家安全保障
- ソーシャルメディア
- パーソナルリファレンス
リファレンスチェックのトレンドとその対応
社会全体の様々なニーズの変化に伴って、採用戦術のトレンドも変わってきています。
日本においては、これまでと同様に欧米型のトレンドが輸入され、適用を求められていくことが予想されるでしょう。以下3点のリファレンスチェックに関するトレンドを押さえておく必要があります。
オートメーション(自動化)
これまでの電話によるリファレンス・インタビューに加え、審査会社や雇用主はリファレンスチェックの結果を向上させるためにITを活用し効率化を図れるようになりました。一部の審査会社では、幅広い照会元が迅速かつ秘密裏に回答できるオンラインソリューションが提供されるようになっています。
独立請負業者や臨時社員のスクリーニング
米国の労働統計局によると、5社中4社近くが、フリーランサー、派遣社員、業務委託社員などを必要に応じて契約しています。
雇用主は、これらの労働者についても通常の社員と同様の責任問題を抱えており、より多くの雇用主が、自らを守るためにこれらの労働者をスクリーニングすることを選択しています。
グローバリゼーション(グローバル化)
企業が海外の雇用市場にますます目を向けるようになり、スクリーニングはより複雑になってきています。
候補者が複数の国で育ち、教育を受け、働いた経験があることは、今や一般的になっています。
雇用主は、あらゆるレベルの候補者の選別がより複雑化し、組織の健全性にとって不可欠であることを認識しています。
これらを前提にすると、多国籍企業の雇用主は、リファレンスチェックだけでなくバックグラウンドチェックに関する現地の法律を遵守するよう注意する必要があります。
採用戦術としてのリファレンスチェック
リファレンスチェックが、採用プロセスのなかで、活用されるタイミングやその対象範囲も変化し続けていることが理解できたかと思います。
実際に自社でリファレンスチェックを導入する際には、自社で取り組むか、経験豊富な第三者に任せるかを検討することが重要な課題になります。
なぜなら、経験豊富な第三者に任せれば、時間の節約、記録管理の合理化、一貫性の確保が可能になり、より早く、より効率的に採用できるようになるからです。
採用を取り巻く社会規範や労働市場の変化を理解しつつ、先手を打って採用戦術を採択していきましょう。
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- 人材採用・育成 更新日:2022/05/26
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