採用ペルソナの重要性・採用への影響と具体的な作り方
採用ペルソナとは、採用において求める人物のイメージを具体化した「ターゲット像」のことを指します。たとえば、採用担当の未経験者を採用する場合、以下のように、細かな人材の定義まで設定したものが、採用ペルソナになります。
【採用ペルソナの一例】
「25歳前後で1社経験、営業を経験しながらも新卒採用の座談会などに呼ばれ、採用業務に触れることでやりがいを感じ、採用職への転職を希望している人材。姉御肌(兄貴肌)で、後輩の面倒を見ることが好きで、先輩・上司からの見え方も意識できるような抜け目なさも持ち合わせている。」
採用ペルソナ作りの難しさ
採用ペルソナは、以下のような場面でよく用いられるプロセスではないでしょうか。
- 新たな職種の採用がスタートするタイミング
- 今行っている採用活動が上手くいっていないとき など
皆さんは、このような場面に直面したことはありますか?私は、何度もこの場面に直面しては、採用ペルソナ作りを大変難しいプロセスだと感じていました。採用業界に入って10年近く経った今でも、正解にたどり着いているのかどうかの判断は難しいものです。
採用ペルソナを作る過程では、採用基準についても見直し、関連する部署同士ですり合わせを行う必要があります。そして、採用ペルソナ作りが難しい理由の一つは、採用担当者や、受け入れ部署の責任者それぞれが持つ「属人的な判断基準」が、適切な基準ではないケースが多々あるためです。
実際に、目標採用数が達成できない場合に、採用基準のうちどこかを緩和すると、目標採用数は達成できるものの入社後にトラブルが発生する頻度が増えてしまい、受け入れ部署からのクレームが増えてしまったことがありました。
逆に、質を高めようと採用基準を上げたものの、なぜか離職が軽減されていない、採用基準を上げたことによって目標採用数を到達できず、結局「会社の成長にとってプラスにならなかった」ということもありました。 この繰り返しを行っていくなかで、「採用ペルソナを作る」と一言でいっても「基準が低くていいわけではない。でも高くてもいいというわけではない。」と感じていました。
採用ペルソナ作りの重要性
採用ペルソナを作るメリットは主に3つ挙げられます。
- 社内の要望や必要な知識が調整される
- 求職者側に立てる
- 採用のコンセプトが決められるため効率的になる
また、採用ペルソナを作ることで、“本当に必要な業務のスキルセットは何か”を、社内で共通認識することができます。それによって、採用業務の効率が非常に高まります。 採用活動は大きなコストのかかるプロセスなので、「いかに省エネで、いかに会社の成長に必要な人材を採用できるか」が問われます。社内で共通認識が得られることは、そういった「効率的な採用活動」の第一歩として非常に重要なプロセスとなります。
また、採用活動だけでなく、「人材が入社し、早期離職せずに会社の成長に貢献してくれている状態」を採用成功と定義するのであれば、過去数年にわたって採用ペルソナ・採用基準が明確に記録されていることは大きな意味を持ちます。「その時期にどの基準で採用された人材が、現在どれくらい在籍し、どのような成果を上げているのか」が記録に残っていることは、非常に重要な分析データになるでしょう。
分析データとして活用するためにも、属人的な目線で採用を行っていくのではなく、採用ペルソナを作って中長期にわたって観察し続けていくことが、「採用が成功したかどうか」の結果を示してくれるものになります。 このように、採用ペルソナ作りは、短期的な意味合いだけでなく、中長期的な目線でも非常に重要なプロセスになるのです。
採用ペルソナを作る前に注意したいこと
採用活動においては、前提として公正な採用選考をする必要があります。採用ペルソナは、あくまでも「業務遂行のために必要となる適性・能力を評価する観点から、あらかじめ質問項目や評価基準を決めておく」ということを目的としています。決して、性別や、家庭環境、学歴、年齢で、求人対象を絞る目的ではありません。
たとえば、社内に「20代中盤の既婚女性はこれから育休に入る確率が高いので、採用は控えましょう」などと周知することは、ペルソナ作りの目的ではありませんし、公正な採用選考という意味でも、決してすべきではないということを認識いただきたいと思います。
ただし、入社した人材が業務に耐えられずに早期離職になってしまうことは双方にとって良い結果ではありません。それを避けるためにも、採用ペルソナをしっかりと策定し、運用していただければと思います。
誰しもが自由に自分の適性・能力に応じて職業を選ぶ権利がある、という大前提のうえで、採用ペルソナを作りましょう。
採用ペルソナの具体的な作り方
採用ペルソナ作りの流れは、大きく以下の5ステップに分かれ、それぞれに押さえておくべきポイントがあります。
- たたき台を作る
(ポイント:たたき台は、離職しない人材層を社内分析して作りましょう。) - 市場の水準と比較して調整する
(ポイント:高すぎず、かつ低すぎないように調整しましょう。) - 社内コンセンサスを取る
(ポイント:社内コンセンサスを取るためは、トップダウンも有効です。) - 社内に共有する
(ポイント:資料だけではなく口頭説明をしましょう。)
採用活動に活かしましょう。 ここからは、それぞれのステップについて詳しくご紹介します。
ステップ1:たたき台を作ってみましょう
私の所属企業では、年間数千名の方に入社していただくため、多くの方に自社を認知していただく必要があります。そのため、採用ペルソナを作成する前に採用基準も明確化し、より広いターゲット層にリーチするための土台を作ったうえで、具体的な採用ターゲット層であるペルソナを策定しています。 対象職種における長く従事している社員をイメージして、採用基準・採用ペルソナのたたき台を作成してみましょう。
どんな項目で?
まず、「定量」「定性」の大きく2つに分けて、その業界・職種において基準とされる部分を整理して書き出していきます。
●「定量」の項目
未経験採用であれば、年齢、学歴、言語、職歴、健康状態、勤務条件、雇用条件、適性試験の結果など、その業界、職種として必要となる基準を設けます。 経験者採用であれば、上記のスキル以外の定量評価部分とは別に、スキル(工程×年数)と年齢と年収を掛け合わせて表を作っていきます。
(例)未経験者採用のケース
採用基準 | 採用ペルソナ | |
年齢 | 32歳以下 | 28歳 |
学歴 | 高校卒業以上 | 大学卒業 |
言語 | 日本語 | 日本語 |
※採用ペルソナ:具体的なターゲット像
※採用ペルソナ:具体的なターゲット像
その他にも、業務に必要であれば「視力」や、「資格」など、定量的に図れる項目を設定していきます。
●「定性」の項目
志望動機、ビジネスマナー、関係構築力、ストレス耐性、適応性、PCスキル、達成志向など、定量的に図りづらいが、業務に必要と考えるスキルがあれば書き出します。
- 「職歴」では、過去どのような雇用形態で就業しているか、どれくらいの社会人経験があるかなどをイメージします。
- 「健康状態」は、業務上遂行が可能かどうかなど、その職種において必要となる健康状態がある場合に設定します。
- 「雇用条件」は、自社の雇用形態、給与条件で承諾していただけるかどうかという部分を確認するために設定します。
どんな情報をもとに?
「いつまでに、何人、どのようなスキルレベルが求められるか」によって採用難易度が決定しますので、今後の事業計画や、受け入れ部署の責任者にヒアリングすることが望ましいでしょう。 すでに該当職種の選考をスタートしていれば、今まで選考のなかで面接官が重要視していたポイントや、入社後に活躍している社員の人物像を参考にしてみましょう。もし、新規の職種であるケースや、社内にロールモデルが存在しないケースであれば、入社後に任される業務内容を確認し、その業務に必要となるスキルを綿密に考えていきます。
また、他社が出している求人広告の「求める人物像」という欄を参照するのもよいでしょうし、求人広告や人材紹介など、自社が求人をする際のパートナー会社に相談して、必要となるスキルセットをヒアリングするのも一つの方法です。
MUST(必要)条件とWANT(望ましい)条件に振り分ける
項目に添って書き出した条件を、MUST(必要)条件とWANT(望ましい)条件に分けて整理します。特に、ビジネスマナーやPCスキルなどの「定性評価」については、判断が主観にゆだねられやすい部分なので、評価を1~5段階に分けるなどして、「どの基準は最低クリアすべきか」というMUST条件も別途設けるといいでしょう。
例えば、PCスキルのうち、「Excelで〇〇〇の関数が理解できていること」が必要な場合に、「現時点でできる力が備わっている」ことをMUST条件にするのか、それとも「今はできないが、入社までに自己学習して準備をする意欲がある」ことをMUST条件にするのかで、採用難易度が大きく変わります。「意欲が持てない」という方については見送りにするなど、「最低限、必要なラインをどこに設けるのか」を検討いただければと思います。
ステップ2:市場水準と比較して調整しましょう
採用ペルソナ・採用基準(MUST/WANT条件)のたたき台ができたら、社外の求人パートナー会社に見てもらうことが、より客観的な意見を得るためにおすすめです。求人パートナー会社に印象を聞いてみて、条件が高いのか低いのかを確認します。市場に出ている求人と比較して確認するために、ベンチマークとなる企業を数社お伝えして、それらと比較してどうなのかを相談してみましょう。
特に重点的に確認すべき点は、「①採用職種の雇用条件・給与条件・福利厚生に採用基準が釣り合っているかどうか」それから、「②他社の採用数」です。採用数の多い会社ほど、採用基準を低く調整してきますが、自社の採用数と比較して自社がどの程度の基準に調整すべきかを判断できます。
採用基準が高くても、採用数が少なくて雇用条件が良ければ採用できる可能性があります。反対に、採用基準が高くない場合でも、採用数が多く、雇用条件が他社と比較して同等もしくは少し低い場合は、さらに採用基準を下げる必要があります。 不利な条件のもとで採用に挑む場合、どれだけ優秀な採用担当者を集めていても、採用目標を達成するのは困難です。自社の価値観ではなく、応募者が渦中にいる採用市場との比較を冷静に行うことが重要です。
ステップ3:社内コンセンサスを取りましょう
作成した採用基準とペルソナのたたき台を、市場調査をもとに調整したら、最終的に社内のコンセンサスを取っていきます。 私の場合は、現場の責任者(課長クラス)に確認してもらったうえで、最終決裁者へ提案しに行きます。時には、現場の責任者が「採用基準を引き上げたい」という要望を出してくることがあります。その場合は、ステップ1の②で確認した「いつまでに、何人、どのようなスキルレベルが求められるか」のうち、どれかを調整してほしいと要求するようにしましょう。
こちら側が、事業計画を期日までに完遂するために市場調査をして、データを根拠に「この採用基準であれば採用成功できる」と伝えてもなお、採用基準を引き上げようとするのであれば、どこかの要素については緩和していただく必要があると、毅然とした態度で話を進めることが大切です。
もちろん採用担当者のスキルアップによって採用成功率を上げることはできますが、採用メンバーに無理な目標値を強いることになれば、結果的に不満が溜まってしまい、事態が好転することは少ないです。また、採用フィーを上げて予算を多く確保しても、市場とのバランスが取れていないと、最後の内定承諾時に「承諾前辞退」が増加するだけで、採用効果を得られないことも多く経験してきました。
現場の責任者から承諾を取れない場合は、最終決裁者との交渉による結果をトップダウンしていただく最終手段を取ります。どう転んでも、最終的には採用側の要望・調整提案を通す必要がありますので、ここは踏ん張りどころです。
ステップ4:社内に共有しましょう
受け入れ部署側の最終決裁者にOKをいただけたら、受け入れ部署の責任者にも共有を行います。受け入れ部署側の先輩社員や、評価者が別途いる場合は、そのメンバーにも共有することが必要です。
具体的には、受け入れ部署の会議に参加して共有することが望ましいです。設定したペルソナはもちろんですが、採用基準も同様に資料として共有するとよいでしょう。その採用基準にした背景、その採用ペルソナにした背景を、他社分析結果、自社分析結果を元にデータ化したものを見せながら説明しましょう。 事前に社内で、この採用基準となった意図や背景を共有しておくことで、入社後トラブルに発展した場合も、受け入れ部署側の評価者の理解を得やすくなります。
ステップ5:採用活動に活かしましょう
採用ペルソナ作成後は、採用活動にどのように活用していけばよいでしょうか。
動機付けに適した採用コンテンツの作成
沢山ある自社の魅力のなかから、応募者の転職の目的に合致した動機付けを、情報として表現していく必要があります。表現する場は、求人原稿であったり、会社説明資料であったり、選考コンテンツの設計であったり様々ですが、「どの自社情報をターゲットに刺しにいくのか」をより具体的に検討するうえで、採用ペルソナは重要な前提になります。
採用CXとタッチポイントの仮説
採用ペルソナを設定することで、応募者が自社を認知してから応募をし、面接をし、内定をもらって内定承諾を得るまでの意思決定を、深く理解できるようになります。どのような段階でどのような候補者体験(採用CX)を提供するのか、自社のタッチポイントを設計するうえで役立つことに加えて、面接の中身を見直すなど、より質の高い選考内容に改善できます。
露出方法やマーケティング戦略
どの媒体に、どの曜日・どの時間帯、どのようなシチュエーションで認知を広げていくかを検討するうえで、採用ペルソナが役立ちます。 採用ペルソナを明確にしたら、上記3点の活用方法を試していただければと思います。皆様の会社でもぜひ採用ペルソナを作成してください。
採用ペルソナのフォーマット例
ここでは、私が考える採用ペルソナのフォーマットを共有させていただきます。ペルソナのたたき台を作成する際の参考にしてみてください。
このフォーマットでは、基本情報・生活スタイル・価値観・情報収集・仕事軸と意思決定軸で作成しました。なお、「どのような働き方をしたいか」ということも転職背景になりますので、“働き方”という項目を加えて、現職の働き方についてどのような考えを持っていて、今後どうしていきたいかなどを、家族構成など交えながら設定すると、より良いペルソナになっていくと思います。
ITエンジニア採用におけるペルソナ作成のポイント
また、ITエンジニアを採用される際は、「仕事軸」ペルソナの中に、“在籍企業の商流”という項目も追加してください。IT業界においては、どの商流で働きたいかも、経験者の転職においては非常に重要な指標や転職背景となります。
ペルソナ作成による採用への好影響
ペルソナ作成による良い影響について、実体験を踏まえてご紹介したいと思います。
雇用条件の見直し提案につながる
採用ペルソナの作成には、他社の条件などを市場調査するフローがあるため、自社の採用課題が浮き彫りになる場合があります。 「そもそも雇用条件を引き上げる必要がある」など、自社の採用課題が、採用基準とは別のところにあることが判明する場合もあります。実際に、他社情報から自社の雇用条件の大幅改定が行えたという事例もありました。
有効応募率を高められる
採用ペルソナを元に、面接確約でスカウトを行うことができたり、推薦していただく人の条件が明確化することにより、書類選考でスクリーニングできたりすることで、大幅に業務工数の削減・効率化ができます。 書類選考の対応工数が意外と皆さん大変かと思いますので、有効応募率が高められることは大きな利点ではないでしょうか。
受け入れ部署に相談する工数を減らせる
受け入れ部署と擦り合わせしたうえで定めた採用基準なので、今まで個別にしていた「この人に内定出してもいいですか?」「この人二次面接してもらえますか?」という相談の手間が大幅に減らせます。本当に確認が必要な人材に絞れるため、こちらも採用担当者の業務改善につながる良い点だと感じています。
離職の分析に役立つ
採用ペルソナが明確になっていることで、人材が早期離職した場合に、的確に分析できる利点があります。採用ペルソナが適切だったかどうかは、早期離職が防げているかどうかを確認するための指標となりますので、半年、1年、3年以内の離職が多かったか、少なかったかを後から分析するのに利用できます。
採用ペルソナの失敗例
ここでは、私が経験した採用ペルソナでの失敗例を2つお伝えします。
設定したペルソナそのものが誤っていた
肝いりの職種で受け入れ部署からオーダーをもらい、質の高い人材をターゲティングし、それに沿った人材層を無事採用できたところまでは良かったのですが、実は内部の受け入れ態勢が十分に整っておらず、せっかく入社した優秀層の能力を活かしきれないままで優秀層が自社に期待を抱けなくなり、多くが離職したという辛い経験がありました。
先ほど紹介した、ステップ3「社内コンセンサスを取る」のプロセスで、内部の受け入れ体制が十分に整備できているか、本当にこの採用基準とペルソナが適切なのかなど含めて確認を取っていただきたいと思います。
応募者のタイプに合わせた面接ができていなかった
また、ペルソナ設定し、そのターゲットにあわせた訴求についても深く議論し、母集団形成に寄与できたものの、画一的な説明になってしまい、内定承諾率の改善に繋がらなかったという経験もありました。 ペルソナを設定してアクションに繋げればそれで充分ではなく、同じ内容の訴求だったとしても、実際に面接に来る応募者には様々なタイプの方がいます。ですので、「面接力」という点においては、STAR面接などの技法を用いて、相手のタイプに合わせた話し方や導き方ができるようにトレーニングを積むことが重要だと改めて感じました。 ペルソナ設定を元にしたアクションだけにとどまらず、多面的から採用力を向上させるための取り組みも並行して進めてみてください。
まとめ
採用ペルソナは、業務遂行に必要となるスキルセットを社内で共通認識するために重要なものです。採用ペルソナを作るためには、社内の採用計画と市場調査を行い、無理のない採用計画・採用基準を策定する必要があります。 採用チームのモチベーションにも大きく影響しますので、ペルソナを作る際は妥協せず、しっかりと根拠をもってこの基準・このペルソナにしたことを社内に向けて発信していただければと思います。
今回は、私が今まで業務を行うなかで体験してきた内容をもとに、採用ペルソナ作りについてお伝えしました。皆様の採用活動がより良い方向へ進まれる一助になりましたら幸いです。
- 人材採用・育成 更新日:2023/03/23
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