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中途採用で大外ししないために 評価したい「平凡性」の大切さ

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来たれ! 経験豊富な即戦力、と強く願ったところで、常に希望が叶うとは限らない。
むしろ中途採用では全くの見込み外れを引いてしまうこととて、なきにしもあらず。
その責任がどこにあるかはともかく、最も直接的に被害をこうむるのは配属先の管理職およびスタッフだ。

かつて、都内某出版社で中間管理職を務めた経験を持つ身として、筆者は採用上の判断ミスが企業に及ぼすダメージをそれなりに理解しているつもりである。
その経験を踏まえ、現場の声として言いたいのは、尖った才能を求めるあまり失敗するくらいなら、平凡性をより評価した人事を行うべきでは、という思い。
秀でた部分に目がいきすぎて欠けている要素をつい見逃したり、虚像を追って地雷人材をつかんだりするのはもうやめて、普通の人を採ってくださいよという切なる願いである。

むろん、このような「守り」の中途採用はダイヤの原石、もしくはダイヤそのものと言うべき突出した人材を逃す可能性もあることは承知の上。
だが、応募者の一見輝かしいキャリアや華麗なアピールに目を奪われ、期待を込めて採用したら石ころでした、などというミスを組織として何度も犯しているのなら、平凡さへの肯定評価はむしろ必要なものと筆者は考える。

言うまでもないことだが、どのような人材であっても正社員として一度採ったら、そう簡単にはサヨウナラとはいかないのが現状だ。
人事の失敗で社内に無用の人が澱のようにたまっていき、それらの方々が若手に悪い影響を及ぼし、ひいては組織が機能不全に至る。

そうしたリスクを避けるため、「凡人もまた良し」とする採用ポリシーは、確かに視野の狭いものではあるし、大きく伸びようとする企業が取る方策ではない。
だが、採用で事故続きの会社にとっては、意外と有用なのでは……といった持論について、以下トンデモ人事に翻弄されてきた自身の経験をベースとしつつ語ってみたい。

見かけのキャリアや能力に惑わされるなかれ

人の能力や本質を見抜くのは容易ではなく、どれほど面談を重ねようが時には壮大に見誤る。
だからといって中途採用は運ゲーでも決してなく、事故の可能性を最小化するためにスキル、キャリア、アピール力、さらには人格に至るまで、詳細に人材を見極める必要がある。

それでも極論を言えば、採用の判断が正しかったかどうかの答え合わせができるのは、実務の上をおいて他にない。
ゆえに、人事が太鼓判を押した人材について、「話が違う」と最初に気づくのは往々にして配属部署の長や同僚であるわけだ。

筆者の経験から言うと、現場にとっていわゆる期待外れとなる中途採用者には、幾つかの類型がある。

まず第一に挙げられるのが、能力を仕事で使わない人。
例えば、外部との折衝が多い職位、というかそれ以外でも採用においてはコミュニケーション能力は重視されがちだが、当意即妙の受け答えが面談担当者の印象に強く残ったからといって、それが仕事で発揮されるとは限らない。

アピール力が高いからと採った中途の方が、入社した途端にその能力を己の利益のためだけにフル活用してくることは、筆者の実感として普通にある。
とにかく口はうまいので、あれこれ正論を振りかざし、また詭弁を弄したりして、できるだけ仕事を若手に押し付け、自分は極力手を動かさない。
そして、何かしら責任問題となった時には、自己弁護トークが爆裂ーーこういった方は、皆さまの勤め先にも一人や二人いるのではなかろうか。

「そんなに口が達者な人を採りたいなら、噺家でも雇えばいいのでは」
と思ったことが幾度もある。

また、優れた能力を備えていても、
「自分がやりたい案件じゃない」
「その仕事に意味があるとは思わない」
などと言って、指示に従わない方もいる。

これらは結局、中途採用者の一芸を評価するあまり、その者の仕事に向き合う姿勢や人間性への洞察を怠ったがゆえの事故と言えよう。

第二に、キャリア評価上の判断ミス。
特定の業界で長く経験を積んでいたり、前職時代に実績があったりするからといって、それが新たな職場で必ず生きるわけではない。
まず、従事してきた年数と能力が常に比例するとは限らず、むしろ長いキャリアの中で実務から離れ、自己研さんを忘れる方とている。

例を挙げると、筆者は編集とライティング、語学関係を主業としているのだが、この業界にはフリーランスはともかく組織人の場合、キャリアアップの中で若かりし頃に持っていた学ぶ意欲や仕事への熱情を忘れ、下の者に指示を出すだけの存在となる人が少なくない。

また、実際にキャリアは見事でも、そこで身につけたスキルや能力が前の職場特有の業務慣習、人間関係、労働環境に合わせて最適化されたもので、新たな職場では用をなさないことだってある。
そういった場合、うまく今の環境に適応する柔軟性があればいいが、自分のキャリアに自信がある人ほど意固地になったりプライドが邪魔したりするものだ。

それって全然、即戦力でも何でもない。
だったら若くて元気のある人を雇って、多少時間がかかっても一から教えた方が効率的なのではーー
と考えたのは筆者のかつての上司で、
「同業者で下手に経験がある人より、元板前とかファミレスの店長なんかの方が、よっぽど責任感があって使えるんだよ」
というのが口癖だった。

これは極端な話としても、中途採用で経験をかう際には長さではなく質と中身で判断すること、キャリアと過去の栄光を混同しないことが重要というのが筆者の考えである。

そして、第三の事故類型として触れないわけにはいかないのが、ビジョンはあるが今日の実践がまるでない人。
組織のあるべき姿や業界の未来について、聞けば首肯せざるを得ない確かな考えを持っていて、その見識には敬服すべきものがある。

だけれども、現場としてはまず目の前の業務をいかにこなすか、今期の売り上げをどうするかという話が先にくる。
いくら優れたビジョンの持ち主でも、実務に手をつけず遠い目で未来を語り続け、仕事で汗を流そうとしない人は、結局のところお荷物枠。
どれほど素晴らしい構想があっても、それを実現するために手を動かす人がいなければ、単なる願望や空想に過ぎない。

むろん、「自分が考えるから、君たちやっといて」というスタンスの人を本気で求めて採用したのなら、人事担当に何も言うことはない。
だが、そんな中途の方を採れる余裕がある企業がそう多いとは思えないし、少なくとも筆者の元勤め先が欲していたのは、即戦力の実務家だった。

なのに、自分が受け持っていたわずか10人程度の編集部には、なぜか吟遊詩人の如くファンタジーを語り続け、仕事には一向に手をつけたがらない方が複数名いたというミラクル人事。
ビジョンを語る人を評価するのは間違いではないが、それを実現する力と意欲のありなしも、しっかり判断すべきだろう。

若手は会社に人を見る目があるかどうかを観察している

まとめると、以上挙げたような中途採用で起きがちな事故は、人を見極めるのがいかに難しいかということを示している。
人事は人を見て評価を下すのが仕事の一部であり、その方面で一定以上の知見・経験を持っている。

だが、採用担当者、そして筆者を含めて、世の多くは平凡な人々である。
いかに優秀な人材を欲しても、われわれ凡人がトリックスターやゲームチェンジャーとなる人材を見極めるのは簡単なことではない。

しかし、自分と同じ平凡さ、すなわち言われたことを黙々とやる、仲間の輪を乱さない、仕事上の不条理に多少の耐性があるといった者を見出すことならば十分可能なはずだ。
特定のスキル持ちを喫緊で必要としているなら話は別だが、組織として何らかの案件に取り組む場合、現場がとりあえず欲しい中途の方は、能力は普通でもいいから最低限戦列を乱さず、戦線の穴埋めになる人員。
逆に、他の社員、特に若手に悪い見本としてネガティブな影響を及ぼすタイプは勘弁して欲しいというのが本音ではなかろうか(少なくとも自分はそうだった)。

そのための採用では平凡性にも一定程度プラスの評価を与え、組織はその平凡な人材に最大限のパフォーマンスを発揮させることに力を入れるべきーー
これが日本での会社勤めを通じて筆者が達した考えである。

最後に、各社人事担当の皆さまに、中途採用に当たって是非考慮していただきたいことを一点。
一般的にどこの職場でも仕事は若手に集中しがちだが、彼らの給与は高くない。
そこにキャリアか何かしらが評価されて入ってきた中途採用の年長者が、大した仕事もせず能書きばかりたれていたり、えらぶったりしていたら、会社の未来を支える若手社員はどう思うか。
そんな人が自分よりも高額の給料をもらっているという事実を若手がいかに受け止め、彼らがどういったアクションを起こすかを考えつつ、採用という重大な業務に取り組んでいただきたいのである。

若き社員たちは、しっかり観察している。
自分が勤める会社に、人を見る目があるかどうかということをーー。

  • Person 御堂筋 あかり

    御堂筋 あかり -

    スポーツ新聞記者、出版社勤務を経て現在は中国にて編集・ライターおよび翻訳業を営む。趣味は中国の戦跡巡り。

  • 人材採用・育成 更新日:2024/01/30
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