「洞察力」〜膨大なナレッジと柔軟な思考を用い、物事の本質を見抜く能力〜|ビジネススキルの見極め方
「洞察」に近い言葉として、「観察」が引き合いに出されることがしばしばあります。これらは「見て何かを認識する(察する)」という点については似ていますが、物事に対するその見方・捉え方にはっきりとした違いが存在すると言えるでしょう。
字義から考えると、観察は、表面的に「観た」ものを根拠としています。一方、洞察の「洞」とは「物事を貫いて見通す」ことを示すので、対象の表面ではなく内面まで見抜くことで、あくまでも直感的に認識を得ているのです。
また、捉え方については、「観察」は過去の経験に基づいて何かを推定しているのに対して、「洞察」は全体の状況を把握することによって、直感的に課題を解決しようとします。つまり洞察力とは、観察力に比べて内面的かつ直感的に認識する能力、ということになります。
それでは、普通の人には“見えないものが見える”とさえ思わせるこの「洞察力」は、いったい人のどんな特質から発生するものなのか、考えていきたいと思います。
まず、洞察力を発揮するには、固定観念にとらわれずに対象を見ることが求められますが、人間の持つ「確証バイアス」というものがそれを阻害します。
確証バイアスとは、自分の中で一度「こうだ」と確証した仮説にしがみつく傾向のことです。仮説に合致する情報は取得し、仮説に合わない情報は無視するというもので、ローマ帝国のカエサルの名言にある「人は現実のすべてが見えるわけではなく、多くの人は見たいと思う現実しか見ない」は、確証バイアスの本質をよく表しています。
特に、広く流布している仮説、例えば「血液型A型は几帳面」「体育会系はガツガツしている」「文化系は繊細」といった、多くの人に浸透している先入観・思い込み・ステレオタイプとも呼ばれるこれらはかなり強力な確証バイアスとなります。
逆に言えば、こういった確証バイアスにすら打ち勝てる人は、多くの人が見逃してしまう情報をきちんと見据えることができるということ。そしてそこから対象を理解することで、他の人には見えていなかった「洞察」が得られているというわけです。
そもそも、人が固定観念を持つのは「省力化」のためです。日々接するさまざまな対象をイチから認識・解釈していくと、知的パワーを消費することになります。これは「認知資源を使う」などとも言われ、つまり頭を使うと疲れるということです。
既に何度も直面した対象(物事)に、毎回初めて出合ったかのようにイチから認識を始めていては、知的パワーがいくらあっても足りません。そのために固定観念を持つことで、「ああ、これは以前にあったことと同じ。だからこうだ」と、認識のゴールに早くたどり着くことができます。
ですから、固定観念は一概に悪いとは言えません。ただし、過去に出合った対象と類似する別な対象に出会った際には、固定概念が認識を邪魔して、洞察が生まれる機会を潰してしまうことが多いのです。
前項より、洞察を得るためには、固定観念という省力化の道具を使わずに対象をじっくり見る必要があります。そしてそのためには、前提として十分な知的パワーや認知資源が残っていることが求められます。
細かい作業や慣れていない難しい作業などは認知資源を消費します。(科学的に証明されているわけではないようですが、)一日に使える認知資源には限界があり、浪費してしまえば、ここぞというときに使えなくなるようです。
つまり、洞察力を使いたいのであれば、重要な認知作業以外にはなるべく認知資源を使わないという優先順位付けが必要ということになります。実際、ある特定の領域において「洞察力がある」と言われるような人材は、他の領域において徹底的に手を抜いている(頭を使わない)ことがよくあります。
ジョブズやザッカーバーグなど、多くの成功者が毎日同じ服を着るというのも、服を選ぶという彼ら的にはどうでもよいことに、極力認知資源を使わないようにしているということなのでしょう。
物事をじっくり見るための認知資源に余裕を持つことに加え、次に洞察力を発揮するうえで必要なことは、対象を見る際の「解像度」の高さです。
解像度とは、どれだけ細やかに見ることができかということです。例えば、色を見たときに、「青」という言葉・概念しか知らなければ、群青色も藍色もライトブルーもスカイブルーもすべて「青」としか認識できません。
細やかに見るためにも認知資源が消費されますが、いくら認知資源があっても、そもそも解像度が低ければ認識する情報はざっくりとしたものになってしまい、他人が気づかないような洞察を得るには至らないでしょう。
ちょっとしたことに気づくためには、その「ちょっとしたこと」が他の「いつものこと」と弁別されて認識されなくてはなりません。結局、解像度の高さとは、物事を認識する際のフレームの細かさ、つまり直截的に言えば「語彙」の豊富さと一致します。
語彙の豊富さは、世界をどれだけ細かく分類できるかにつながります。ですから、洞察力を発揮できる人材は高い語彙力を持っている場合が多いのです。
人間には「プライミング効果」という心理作用があります。これは、あらゆる言葉や音・形態などが前もって認識されていると、その類似物が認識されやすくなるというもの。例えば、先に果物の話をしておくと、「赤」という言葉から「りんご」などが連想されやすくなります。
このように、まるで頭の中でつながっていたかのように、先行した情報に引っ張られる性質があることから、人間の頭の中にはさまざまな概念がネットワーク状に存在していると推定されています。
そして、上述した洞察力につながる「引き出しの多さ」については、そもそもの知識の豊富さに加えて、この概念同士のネットワークがお互いにしっかり結びつき、かつアクセスしやすい状態になっていることが必要となります。
こういった連想のネットワークを増強するためには、一にも二にもインプットしかありません。「AとBは類似している」「〇〇という関係がある」というつながりの意味を何度も繰り返し使うことによって、自然とAを見たらBを思い出すようになるはずです。それを蓄積できれば、ネットワークはより強固なものとなるでしょう。
ですから、洞察力を発揮できる人を見極める最後のポイントは、どれだけ物事や概念のつながりを知っているか、すなわち、どれだけ深い教養を得ているかという点に行き着くのです。
- 人材採用・育成 更新日:2018/04/10
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