転職希望者の心理を理解して、採用活動を成功させる方法
シカゴにある人材コンサルティング企業milewalkのCEOを務めるアンドリュー・ラシビータ氏の著書『The Hiring Prophecies:Psychology behind Recruiting Successful Employees』は、ほかの採用担当者向けの書籍とは少し違い、転職希望者の意思決定プロセスをもとに、効果的な採用活動を考える内容です。
ラシビータ氏によれば、転職希望者が一時的な感情や外部の意見に流されて意思決定をするとき、採用試験に悪影響をおよぼす場合があるといいます。すると、せっかく採用しても長続きしなかったり、組織に合わなかったりすることになりやすいのです。
本書では、milewalk社が200社1万人以上の従業員を対象に10年間に渡って調査した結果から、意思決定の過ちが起こる原因と、組織がその問題を乗り越え、もっとよい採用活動にするためのアドバイスが述べられています。
精神的代数(moral algebra)は、ベンジャミン・フランクリンが提唱した古くから使われている意思決定法です。その名前を聞いたことがなくても、なにかを決めるときに「賛成と反対」とか「プラスとマイナス」という表を作って比較したことがあるのではないでしょうか。簡単にいえば、それが精神的代数法です。
上手に使えば効果的な精神的代数ですが、使い方により、いくつかの問題が発生します。
まず、候補者は通常、2つ(またはそれ以上)の選択肢を互いに比較しますが、そのなかに自分という基準を含めるのを忘れてしまいます。例えば、A社とB社の採用試験を受けた場合、A社とB社の条件を単純に比べるのではなく、「A社と自分」対「B社と自分」というように、自分を含めるべきなのです。なぜなら、優れた企業でも自分に合っていない場所では才能を発揮できないからです。
そして、候補者が客観的な分析をしているつもりでも、実際には無意識に自分が望む結果が出るように操作してしまうという問題も起こります。この傾向は確証バイアスとも呼ばれます。
このような偏りを防ぐためには、事前に詳しい企業情報を提供すること、具体的な仕事内容や雇用条件について採用前にじっくりと話し合うことが必要でしょう。そうすれば、イメージだけではなく、自分を軸にした選択ができるようになります。
なにかを失ったり、つらいことがあったりするとき、人は恐れを感じます。逆に自信過剰のときには、全てが自分の思い通りになると思ってしまいます。
例えば、転職活動で内定がもらえず自信を喪失している人は、どんな条件でも受け入れてしまうかもしれません。同様に、つらい転職活動のなかで自分の価値がわからなくなっている人は、チャレンジできる職位を提案されても自分には難しすぎると断ってしまうかもしれません。
一方で、たくさんのオファーを受けて自信過剰になっている人が、実力がなくても自信満々に面接で自己アピールをしているかもしれないのです。
面接では、候補者の言動や態度に感情が影響しているかもしれないという意識をもって相手を見る必要があります。そして、面接を繰り返すことや客観的な指標を取り入れることで候補者を正しく評価します。
職務に対する資格は足りているのに、候補者に自分の長所を説明する力が足りなかったり、面接官に理解する力が欠けていたりすることで面接がうまくいかないことがあります。また、面接官が一人しかいないと視点が偏り、各候補者の記憶も曖昧になってしまいます。
一人の候補者に対して複数の面接官が面接をするように手順を変えることをおすすめします。面接官ごとに担当する質問を決めておくことで、評価の正確性が増すでしょう。
さらに候補者を客観的に評価するには、適性検査の併用がおすすめです。例えばDISC(性格類型検査)という、人間の行動パターン型を知ることができる検査があります。適性検査や性格診断なら、面接官や候補者自身のコミュニケーション力に左右されない客観的な指標を得ることができます。
ビデオ、従業員からの推薦の言葉、ポッドキャスト、ブログ、リクルートニュースレター、雇用者のバイオグラフィー(役員だけでなく)、受賞歴など。さらに、採用担当者とのライブチャットに対応できると、候補者と採用担当者とのコミュニケーション不足を解消できます。
公式のWEBサイトに、このような情報がないと、候補者はFacebookやTwitterなどのSNS、従業員のグループや同窓会、口コミサイトから情報を得ることになります。それらの情報は、発信者により偏っていたり、間違っていたりすることも。候補者が誤情報に惑わされないためにも、しっかりとした採用ページを作成することは大切です。
milewalk社のWEBサイトの中では、実際に著者のラシビータ氏が、YouTubeや、各種SNS、ブログ、ポッドキャストなどを使い転職希望者むけの情報を発信しているので参考にしてみるのもよいかもしれません。
候補者の意思決定アプローチを知ることで、採用活動を見直す
優秀な人材を採用するために採用試験の手順やテクニックを考えることは多くても、候補者の意思決定プロセスについて考えることはあまりなかったかもしれません。
採用試験をしても入社してくれる人が決まらない、入社したあとにすぐに辞めてしまうといった問題があるときには、候補者の視点から採用試験を見直してみてはいかがでしょうか。
書籍情報:
The Hiring Prophecies:Psychology behind Recruiting Successful Employees
Andrew LaCivita(著)
Balboa Press(2015/05/04)
ISBN: 978-1-5043-3182-1
- 人材採用・育成 更新日:2019/11/07
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