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内定承諾率を高める「内定出し」のポイント

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内定が出た企業の中から1社を選ぶ際に、内定者が重視することは何でしょうか。もちろん、年収やポジションなどの待遇条件や自分の希望する仕事につけたかどうかということなどが一番の理由でしょう。このような本質的なマッチングの的確さを高めるには、そもそも採用ターゲット(求める人物像)が正しいのか、集めたり選考したりする手法が正しいのかということにつながります。

しかし、採用担当者の一任ではなかなか動かせない部分でもあります。そこで本記事では、内定承諾率を高める重要性について解説し、内定出しのカスタマイズポイントを3つ解説します。内定の出し方一つで承諾率は変わりますし、採用担当者の裁量内でも、工夫できることはたくさんあります。

内定承諾率を高める必要性

昨今、中途採用の求人倍率は2倍近くで推移し、どれだけ募集をかけて選考し内定出しを行ったとしても、最終的に入社を承諾してくれずに辞退となってしまう「採用難時代」となっています。転職希望者は1社のみに応募する人は少なく、大抵の場合が複数社に応募し、面接をします。実際、ある調査では平均して1.4社程度の内定を得ると出ています。

もちろん転職希望者は最終的には1社にしか入社できないわけですから、企業側から見ると1.4内定に1人が入社するということで承諾率は7割程度と推定されます(1÷1.4≒0.7)。おそらく、実際にはどこかに内定しても転職自体を止めて今の会社に残る人もいるでしょうから、平均して内定者の半数程度は内定辞退をすると推定しておくべきかもしれません。その中で、他社に差をつけ、自社を選んでもらえる「内定出し」の仕方についてお話していきます。

なお、内定辞退について、詳しくはこちらの記事でも紹介しています。
関連記事:数カ月の苦労が・・・内定辞退による絶望を2度と経験しないための基本のキ

「内定出し」は候補者ごとにカスタマイズしよう

みなさんの会社では、どのような内定の出し方をされていますでしょうか。私がコンサルティングしているクライアントに対して、よくこのような質問をします。するとクライアントは、「当社はこういうスタイルで内定出しをしています」と一つの手法を語る場合がほとんどです。しかし、一つの手法だけで内定出しをするのはあまりよくありません

大勢の応募者を対象とする初期選考や募集、説明会などでは、パターンを細かく分けて実施することは難しいかもしれません。ですが、内定者になれば、ごく少数です。だからこそ、私は一人ひとりに合わせてカスタマイズした内定出しを、お勧めしています。様々な過程をクリアして、ようやくあと一歩で入社というところまで引き込んで来た内定者なのですから、ここにこそ労力をかけるべきです。


カスタマイズポイント1:意思決定スタイル

カスタマイズすべきポイントは大きくわけて3つありますが、一つは内定者の“意思決定スタイルに合わせる”ということです。もし内定者が「ゆっくりと時間をかけてたくさんの情報から意思決定を行いたい」という「熟慮型」であれば、内定承諾を急かすこと自体がプレッシャーとなって、辞退を促進してしまうかもしれません。この場合は、意思決定に必要な情報が何か、何に不安を持っているのかを丁寧にヒアリングして、十分な時間と情報を提供しなければなりません。

一方、「少しの情報でも、類推や想像力、これまで持っている知識などを総動員して、なるべく早く意思決定をしたい」という「決断型」であれば話は別です。こういう方に対しては「押しの一手」です。「当社としては、あなたのこういうところを買っている。是非、他社を辞退して入社して欲しい」とストレートに告げるのが入社意向を高めます。むしろ、「他社もいろいろ見てからゆっくり決めてくださいね」と親切心で内定を伝えると、「どうしても来て欲しいというわけではないのか・・・」「自分の評価はそれほど高くないのかな」と疑心を持たれて、気持ちが離れてしまうかもしれません。

カスタマイズポイント2:志望度

次に重要なポイントは志望度です。入社意欲満々の人と、まだそこまで気持ちが高まっていない人に対して、同じような内定出しをしてはいけません。既に入社したがっている人はシンプルで、「鉄は熱いうちに打て」です。上述の「決断型」の方に対するのと同じように、タイミングを逃さずにできるだけ早く内定出しをしましょう

自社が第一志望で、内定が出れば入社したいという意思の言質が取れたら、「是非当社に来てください。気持ちが固まっているなら、他社は辞退をしてください」と内定出しをすればよいと思います。ただ、ちゃんと「当社が第一志望」という言質を取らないままで、「他社を断れ」と言うのは、いわゆるオワハラ(就職・転職活動終われハラスメント)と取られかねませんのでご注意ください。

なお、オワハラについて、詳しくはこちらの記事でも紹介しています。
関連記事:「オワハラ」(就活終われハラスメント)のリスクと企業側の防止策

問題は、まだ入社意向が決定的ではない人への対応です。この方への対処方法は、大きくわけると3つのパターンに分かれます。

<パターン1>内定を出さないと始まらない場合

まず、内定が出揃ってからゆっくりと考えたいという場合(上述の「熟慮型」に多いですが)、入社意向が低かったとしても、内定を出さないことには、検討の遡上にも上がらないわけですので、リスクを覚悟で内定出しをしなければならないでしょう。この場合のリスクとは、「持ち駒」扱いされることです。候補者は企業が内定を出したら、それ以降一方的に破棄することができないことを知っています。

そのため、内定が出た瞬間から「この会社への転職活動は終わった。これからは他の会社への活動を頑張ろう」と、こちらが情報提供や口説きのために呼んで話をしたいと思っても、アポすら取れなくなる可能性があります。内定を出す前に、「意思決定のサポートとして情報提供をしたいので、時間を取ってください」と念を押しておくとよいでしょう。なお、他社から既に内定が出ていて、自社の方が進み方が遅いというような場合も、ここに入ります。

<パターン2>「最終面接」と言わない

どうしても早めに内定を出さなければならないということがないのであれば、入社意向度の低い人には、拙速に内定を出さないことをお勧めします。それをやりやすくする一つの工夫としては、「最終面接」という言葉を使わずに、面接の回数を明示しないという方法があります。「当社は、お互いに納得がいくまで面接や面談を行うので、最初から何度で終了ということはありません」と告げておくのです。面接の回数を明示してあげる方が親切ではあります。ただ、だから応募しないという人は少ないのではないかと思います。実際、様々な企業で実践していただいて、このために歩留まりが下がったところはありません。

会社としては内定を出しても良いレベルの応募者であると本当は評価している状態であったとしても、「最終面接」がどこかを伝えなければ、「前回の面接は合格でした。是非、もう一度お話しに来てください(これを面接と言っても面談と言っても構いません。評価の場ではなく情報提供の場と言っても構いません)」ともう一度呼んで話し合う場を作ることができます。評価は既についているわけですので、次の面接(面談)は「口説き」。つまり、入社意向度の向上のための情報提供の場にフォーカスすることができます。


<パターン3>「最終面接合格」≠「内定」

面接の回数を明示する。つまり、最終面接がどれかを明示しなくてはならない場合は、もう一つの方法として「最終面接の合格」と「内定」を出します。ようするに、ほぼ雇用契約に近いものを会社として出すということを明確に分けて応募者に伝えるという方法もあります。「あなたは当社の最終面接に合格しました。あとは、あなたが入社意思を固めてくだされば、あなたのために席を空けます。つまり内定を出させていただきます」と告げるのです。

言外に(言ってもよいのですが)「あなたが意思決定をしてくれないうちに、当社の採用枠が埋まってしまったら、内定は出すことができなくなります」という意味を含みますし、それを応募者には認識してもらわないといけません。

ただ、これも「おどし」「オワハラ」にならないように、「あなたには入社して欲しいと思っているので、意思決定ができるように、できる限りの情報提供はさせていただくので、迷っている点や不安なことを教えてください」とフォローすることが重要です。その後、相手の入社意向度が高まってくれば、適切なタイミングで、内定を出せばよいのです。

カスタマイズポイント3:熟知度/相互理解度

最後のポイントは、どれだけお互いのことを知っているかどうか、です。熟知の方向性は、「応募者→会社」と「会社→応募者」の2つがあります。

<応募者が会社をどれだけ知っているか>

まず、応募者が自社のことをあまり熟知していない状態で「内定」という取り消すことのできない契約をすべきではありません。上述の通り、単に内定承諾に悪影響があるということもありますが、逆に他社に落ちたのでということで、自社について理解の薄い状態で入社することになれば、早期退職やミスマッチによるローパフォーマンスなどにつながっていきます。

<会社が応募者をどれだけ知っているか>

ただ、本稿のテーマである内定承諾のために重要なポイントは、実は会社側が応募者のことをどれだけ理解しているかの方です。採用の面白いところは、会社としてブランドでは負けている他社と競合しても、やり方によっては勝てるというところです(最近ではよく「ジャイアント・キリング」「ジャイキリ」と言いますね)。

この「ジャイキリ」が起こる理由は様々ありますが、私の経験で最も多いのは、応募者が「この会社が自分のことを一番理解してくれた」というものです。よく「士は己を知る者のために死す」と言います。誰しも人に認めてもらいたいという承認欲求があります。転職は結局のところ「入ってみないとわからないこと」だらけですが、採用担当者や面接官の「期待感」は確固たるものです。自分を深く理解してくれた人から受ける誘いは格別なのです。

ですので、最後のお勧めとしては、「応募者のことを知りましょう」ということなのですが、これだけですと「だから面接を何回もやってきて、知って、評価したから内定を出したいんじゃないか」と疑問に思われるかもしれません。確かに、合否の評価をするという点においては、自社の仕事ができる能力があるかなど、十分に応募者を理解したと思います(そうでなければ、内定出してはまずいですよね)。

しかし、ここで私が申し上げたいのは、それを超えて人間としての応募者をどこまで理解できたか、です。「どんな人生を歩んできたのか」「どんな出来事があったのか」「どんな価値観を持っているのか」「キャリアにおいて重視していることは何か」「人生で達成したいことはなんなのか」というようなことです。

<応募者を深く理解するには、採用担当者から自己開示する>

それを実現するためには、応募者が胸襟を開いてオープンに自分のことを話してくれなければなりません。人はどういう場合に、相手に心を開くでしょうか。「人はされたことをし返す」という返報性の原理から考えれば、結局、会社側、つまり採用担当者がどれだけ応募者に対して心を開いて自分をさらけ出すか、ではないでしょうか。最終評価がついて、内定を出せるようになっても、もしまだ採用担当者と応募者の間に相互理解や信頼関係ができていないと感じたなら、ぜひそのための場をあえて取ってみることをお勧めします。

「意思決定をするのに、できれば相談に乗りたいし、情報提供をさせていただきたい」とお伝えして、選考ではない場で、お互いのライフヒストリーやそこから生じた価値観や考え方を共有するのです。入社動機や仕事の面白さなどを話すのにかこつけて、ぜひ自分の昔話をできるだけ深いレベルでしてみてください。そうすれば、自然と応募者も深い自分の話をしてくれるようになり、最終的にみなさんの会社は応募者からみると「一番自分のことをよくわかってくれた会社」になるのです。

以上、内定出しをする際、特に個々人に合わせた内定出しをする際にカスタマイズするポイントについて述べてみました。内定は出せても承諾をしてくれない採用難の今の時代だからこそ、内定者が「自分を必要としてくれている」と思ってもらえるような工夫のある内定出しをしてみてはいかがでしょうか。少しでも内定承諾を高めたい採用担当者にとって、ご参考になりましたら幸いです。


 
  • Person 曽和 利光
    曽和 利光

    曽和 利光 株式会社人材研究所 代表取締役社長

    1971年、愛知県豊田市出身。1995年、京都大学教育学部教育心理学科を卒業。株式会社リクルートで人事採用部門を担当、ゼネラルマネージャーとして活動したのち、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社など多種の業界で人事を担当。「組織」や「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を確立し、2011年に株式会社 人材研究所を設立、代表取締役社長に就任。企業の人事部へ指南すると同時に、これまで2万人を越える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。

  • 人材採用・育成 更新日:2020/07/30
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