採用VRで職場体験!求職者の“働きたい”を引き出す新しい方法
―まず初めに「採用VR」のサービスを始めた背景をお聞かせください。
きっかけとしては、関連企業と共同で人材業界に向けた新サービスを開発するにあたり、VRを採用の現場で活かせないかという議論からスタートしました。現代社会の中で、特に中小企業においては人材不足と離職率の高さが問題視されています。その解決策として、まずは私たちが得意とするVR技術を応用し、転職フェアなどの展示会ブースで「VRによる職場体験」を行いました。
―具体的に、VRを採用と絡めていく上でどのように開発していったのでしょうか。
採用VRに使用している「Guru Job VR」は、通常では足を踏み入れることが困難な仕事現場の体験や研修を目的に作られたものです。例えば、鉄工所など工場系の現場を見学する場合、危険が伴う上に作業を一時中断しなければならないため、その分の時間と人員を確保する必要があるという悩みを抱えている企業が多くいました。かといって、実際の現場を知らないまま入社すると採用ミスマッチが起こるため、離職率の悪化に繋がってしまいます。これらの悩みや課題を解決するために、リアルな現場を360度の視野で体験できる「Guru Job VR」を導入し、入社前と入社後のギャップを解消する効果を発揮することができました。その実績を踏まえた上で、他の業界や職種においても採用後のミスマッチを防止する“職場体験型のコンテンツ”へと進化させたものが採用VRです。
―入社前に職場を体験することで、求職者の応募動機を形成できるのも魅力ですね。
求職者が応募をする際の興味付けや企業理解は、単純に求人票を見るだけのケースと比べて効果的と言えます。職場体験を通じて入社後のミスマッチを防げるメリットは、現代社会における離職の原因で多く見られる「雰囲気が合わない」「イメージと違った」というような言語化しづらいネガティブな退職理由の改善にも採用VRは効果を発揮します。例えば、会社説明会や面接の場面でしっかりと言葉で伝え、スライドでも仕事や職場について説明しているのにもかかわらず、早期退職者が後を絶たない。そういった企業の場合でも、まず仕事内容や職場の雰囲気を“体験”してもらうことで、より具体的な職場理解が得られ、言語化できないミスマッチを減らせるのです。
―入社後の育成や実務のシーンにおいても、 Guru Job VRを活用できることはございますか?
多くの企業が人材不足に悩んでいますが、その状態で人を採用しても研修に必要な人員を確保することが難しいという現状もあります。特に応募数を増やすため、即戦力ターゲットではなく未経験ターゲットに採用ハードルを下げる企業であれば、初期教育にかけるマンパワーは大きくなりますよね。この現状とのギャップを埋める上でも、採用VRで入社後のミスマッチを防ぎ、入社後の研修にインタラクティブなVR実習を導入することは非常に効果的です。Guru Job VRは、システム担当者に限らず誰でも簡単に運用でき、少人数のスタッフで大人数のセミナー実施が可能なので運用コストも下がるため、貴重な人員や時間のコストをかけずに採用から育成までのフローを構築できます。
―採用にかかる企業側のマンパワーやリスクを軽減できるのは大きな強みですね。
リスクの面でいうと、企業への口コミによって応募数が左右される時代ということも忘れてはいけません。採用VRの導入を検討されるお客様は、先進的にこのリスクを捉えている企業が多い。採用をマーケティング的に捉えているので、無理やり応募数を増やしてもミスマッチで辞めてしまえば口コミで自社の評判が落ちてしまうという危機感を持っています。一昔前は、とにかく期待値をあげる募集内容を記載して、応募数と採用数を増やし、何割か辞めたとしても何割か残れば良しとする手法が多くありました。ただ、終身雇用が崩壊し始めている今でもこれを続けていると、数年後に企業側が大きなダメージを受けることになる。そこに気付いた採用に関するリテラシーの高い企業が、口コミなどによる自社の評価を向上させることも視野にいれ、採用VRの導入を検討されている傾向があります。
―リテラシー高く採用活動を行っている企業は、業界・職種で差がありますか?
様々な手法を模索しているのは、採用が激化している業界ですね。サービスのスタート時に採用VRを導入いただいたのは、高所・高温などの危険が伴う現場のため、リアルな職場見学などが難しい製鉄所や造船所などの重工業系の企業でした。その後、お問い合わせや実際にご導入頂くようになった業界は、一般的な求人サイトでもニーズがある看護師・介護士などの医療業界や飲食・サービス業界。採用VRの内容としては、職場体験ツアーのような企画を組んでいます。
―職場体験ツアーは楽しそうですね。実際に体験者はどのような反応でしたか?
例えば、サービス業の「コールセンター」では、職場体験ツアーを通じて固定観念を払拭できたという声を頂いています。コールセンターの職場イメージは、区切られたブースの中にパソコンと電話・マイクなどの通信機器があり、お客様からのお問い合わせにひたすら対応するといった印象を持っている方が多い。しかし、実際にご導入頂いたコールセンターは、オフィス内に間仕切りなどがほとんどないオープンな雰囲気で、困った時はスーパーバイザーにすぐ質問できる環境です。あちこちで会話が聞こえるアットホームな空間をVRで体験することにより、良い意味でのギャップが生まれ、新たな発見と興味に繋がる効果を私たちも実感できています。
―採用VRのニーズや導入企業からの要望などについてお聞かせください。
価格を抑えたいというニーズに対しては、決められたカットやシーンをパッケージ化した商品をおすすめしています。360度カメラを3ヵ所に固定し、決められたシナリオに沿って撮影するという内容。事前にシーンに合ったセリフも決めるため、時間をかけずに制作することが可能です。このパッケージ化された採用VRは、業界・職種の認知度があるケースに向いているので、求職者側があまりイメージを持てていない企業や業種などは、汎用的なものではなくオリジナリティが必要になると思っています。
例えば、グローバルニッチの企業などは、経営基盤が安定しているにも関わらず応募がこないことに悩まれているケースがあります。その企業が扱う商品がどこでどう役に立っているのか、なかなか理解されていないというのが現状。私たちは、その採用課題に対して、企業の商品やサービスが誰をどう幸せにしているかをストーリー仕立てにした職場体験をご提案しています。このオリジナルストーリーの採用VRは一定数の企業に興味をもって頂いているので、今後はエモーショナルな部分や求職者の心を動かす職場体験をもっと追求していきたいと考えています。
―まさに、求人サイトや動画では不可能な“体験”による価値ですね。実際の導入事例も気になります。
製鉄所の保守管理修繕などを手掛ける株式会社シンニチロ様は、見学が困難な現場の仕事体験VRコンテンツをご導入頂きました。鉄の原料であるコークスを作り出す「コークス炉」のメンテナンスなどを行う仕事なのですが、文章や写真でコークス炉を説明しても、なかなか現場での臨場感までは伝えられずにいました。
ご提供させて頂いたVRコンテンツでは、1200℃という高温を保ち続けるコークス炉の臨場感や高度な修復技術、鋼鉄の切断・溶接などを擬似体験することができます。飲食業界の「回転寿司チェーン」でもツアー型の採用VRを導入いただいています。まず、お店の入り口からスタートして、研修内容や作業風景をまるでその場にいる感覚で体験できる内容です。このコンテンツの中には、お皿に乗りながらお寿司目線で店内を回り、最終的には食べられてしまうというエンターテイメント要素を盛り込んでおり、体験者からも好評でした。
―それは面白い!話題性があるので、集客力にも好影響をもたらしてくれそうですね。
集客力は絶大ですよ。合同説明会や転職フェアは、企業のブースに来場者が列をなすというのはなかなか難しいですよね。私たちの採用VRは、スマートシンクという機能でモニターに連動させることができ、体験者の見ている映像を外部モニターやスクリーンでも投影できるので、「なんだ?なんだ?」と人が集まり、いつの間にか列ができているほどの集客力を発揮します。
また、VRは記憶定着効果が通常の動画よりも3倍高いという点もポイント。映画などの2D動画でもシーンに入り込んでしまうような記憶に残る名作はありますが、相当上手く作りこまないと難しい。その点、VRは入り込んでしまう感覚を容易につくることが可能なのです。観賞ではなく体験することで、没入できる確率がぐっと上がり感情が動く。この感情と記憶はセットのようなものなので、感情が動くことによって記憶されるというメカニズムが働くというわけです。実際に開催された転職フェアでの調査では、VRで職場体験をした方の面談数が、VRを導入していない企業に比べて1.3倍も高い結果が出ており、まさに感情が動いたことによって記憶に残り、応募意欲を高めたことを実証しています。
―「採用VR」で実現したい今後の展開・可能性についてお聞かせください。
採用や研修のニーズは増えているので継続していきますが、今メインにしているのは受託型のサービスなので、今後はソフトウェアをインターネット経由で遠隔から利用者に提供するSaaS(サース)型のサービス展開を考えています。例えば、「介護業界向け」や「早期離職対策」など、多くの企業が採用シーンで活用できるサービスを市場規模や課題の大きさを見極めつつ拡大していきたいですね。また、複数の企業様からお話を頂く中で、A社の課題に対して研修VRを作った時に、汎用的な内容であればそれをB社、C社向けにパッケージ化できますし、研修をVR化した方がいい業界や職種などの眠った利用価値はまだ沢山あるので、より多くの企業と求職者のマッチングを図るコンテンツづくりをこれからも追求していきます。
- 人材採用・育成 更新日:2020/02/26
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