採用に重要な「応募者体験」とは?向上させる実践ポイント
「応募者体験(候補者体験)」という言葉を、ご存じでしょうか。マーケティング分野では広く認知されている「顧客体験」の、採用バージョンといえる概念であり、採用力の向上や企業のブランディングにおいて、重要な役割を果たします。
この記事では、応募者体験とは何かわかりやすく解説し、現場で実践できる具体的なアドバイスをお届けします。マーケティングの分野で確立している手法を、採用分野に応用することで、効果を高めていきましょう。
応募者体験(候補者体験)とは何か
まず応募者体験とは何か、基本的な意味から押さえていきましょう。
採用活動のCX(キャンディデートエクスペリエンス)
応募者体験とは、求職者が企業の採用プロセスを通じて得る体験(印象や感情を含む)を指します。
もとの英語は“キャンディデートエクスペリエンス(Candidate Experience)”で、Candidateは「候補者、志望者」といった意味です。
日本語では「応募者体験」または「候補者体験」と訳されますが、本記事では「応募者体験」で統一します。
このような「○○エクスペリエンス(○○体験)」は、以下が知られています。
用語 | 略称 | 日本語訳 | 説明 |
---|---|---|---|
カスタマーエクスペリエンス(Customer Experience) | CX | 顧客体験 | 顧客が企業・ブランドとの接点を通じて得る体験 |
ユーザーエクスペリエンス(User Experience) | UX | ユーザー体験 | ユーザーが商品・サービスやサイト・アプリケーションなどを使用する際に得る体験 |
エンプロイーエクスペリエンス(Employee Experience) | EX | 従業員体験 | 従業員が職場で得る体験 |
エクスペリエンスの持つニュアンス
応募者体験を理解するうえで押さえておきたいのは、「エクスペリエンス」のニュアンスです。
日本語で「体験」というと、“自らの身をもって実際に経験する”というニュアンスが強いですが、応募者体験におけるエクスペリエンスは、より広義です。
エクスペリエンスには、実際の出来事や行動を通じた直接的な体験だけでなく、何かと接したときに生まれる感覚や印象、感情も含まれます。
具体例を見てみましょう。
【応募者体験の例】- 求人広告を見て、企業のビジョンや価値観に共感する体験
- 採用ページのナビゲーションがわかりやすく、必要な情報にすぐアクセスできる快適な体験
- 面接官の適切な質問により自分を十分にアピールでき、満足する体験
- 選考結果が明確に説明され、納得できる体験
応募者体験の文脈では、応募者自身が何かを実際に体験することよりも、「どういった感情や印象を持つか」に重点があります。
「応募者体験の向上」という表現は、具体的には「応募者が企業に対してポジティブな感情や印象を持つ度合いを高める」という意味になります。
応募者体験が重要な2つの理由
企業の採用活動において応募者体験は、大きく2つの観点から重要です。
- 自社に合う人材を獲得できる採用力を高めるため
- 企業のブランドイメージや評判を損なわないため
まず、採用力に関しては、応募者体験と相関する要素です。
求人における良質な応募者体験は、応募者数の増加に直結します。選考過程では、応募者の途中離脱や内定辞退の確率を下げ、自社に必要な人材を獲得できるようになります。
次に、企業のブランドイメージや評判においては、応募者体験への配慮がますます重要となっています。
応募者体験が悪いと、選考辞退や不採用の応募者が、不満を友人や同業者のネットワークに伝えることがあります。それを聞いた人は、応募を検討していたのに取りやめたり、商品・サービスの購入を中止したりするかもしれません。あるいは、SNSで広く拡散されるケースもあり、ブランドイメージの毀損につながりかねません。
採用活動では、書類選考を含めて多数の応募者との接点があります。1人の採用枠に対して、数百人以上と接触するケースも、少なくありません。多数の応募者に対して、どのような応募者体験を提供するのか、企業のビジネスに影響を与えるポイントとなります。
エクスペリエンスを向上させる5つの視点
続いて、エクスペリエンスを向上させるために必要な5つの視点について、ご紹介します。
- タッチポイントごとの感情
- 応募者に対する深い理解
- 個々のニーズへの対応
- シームレスな体験
- 思いの共有
これらは、顧客体験でも応募者体験でも、共通して大切な視点です。
1. タッチポイントごとの感情
1つめは「タッチポイントごとの感情」です。
マーケティング用語としてのタッチポイントは、“顧客接点”と訳されます。採用プロセスでは、応募者が企業と接触するあらゆる機会と考えてください。
たとえば、求人情報の閲覧、応募フォームの入力、メールでのやり取り、選考プロセスでの面接などはすべてタッチポイントです。
エクスペリエンスを向上させるためには、タッチポイントを洗い出し、すべてのタッチポイントでの感情体験をポジティブに変換していくことが、第一歩となります。
2. 応募者に対する深い理解
2つめは「応募者に対する深い理解」です。
「きっとこうしておけば、満足するだろう」といった安易な推測は、大きな失敗のもとです。
応募者たちが抱える懸念や疑問、心配や不安、興味関心について、知っていると思い込まずに、真摯に知ろうとする努力が求められます。
本当の意味で応募者を理解している企業の姿勢は、たとえば以下のようなポイントに表れています。
- 応募者が気になるものの直接質問しにくい事項を事前に想定し、企業側から積極的に情報提供する
- 応募者が不安にならないように、あらかじめ選考プロセスや面接の流れを開示する
応募者の立場に寄り添い、彼ら彼女らがどのように感じるかを想像することが、エクスペリエンスを高めるカギとなります。
3. 個々のニーズへの対応
3つめは「個々のニーズへの対応」です。
マーケティング分野では近年、パーソナライズ(顧客一人ひとりへの最適化)が、エクスペリエンス向上に重要であると注目されています。
採用活動においても、応募者一人ひとりによって異なるバックグラウンドや事情に、できる限り個別に対応することを検討しましょう。
それぞれの経験やスキル、希望に合わせた対応のほか、面接日の調整や内定通知のスケジュールなども、応募者の都合に合わせた柔軟な対応を心掛けます。
4. シームレスな体験
4つめは「シームレスな体験」です。
シームレスも、マーケティング分野のエクスペリエンス向上において、重要性が指摘される概念です。
シームレスとは「つなぎ目がない」という意味の言葉ですが、プロセスや手順が一貫していて、ストレスがない状態をいいます。採用プロセスに当てはめると、応募から面接、内定までの流れがスムーズか、ストレスがないか、手順が合理的か、点検する必要があります。
たとえば、以下はシームレスではない例といえます。
- 合理的な理由がないのに郵送での書類送付を求める
- 指定の時間に電話でしか連絡が取れない
- 日程調整が複雑で何度もやり取りが発生する
5. 思いの共有
5つめは「思いの共有」です。
どんなに快適でストレスフリーなプロセスであっても、そこに「人の温もり」「温度感」「つながり」がなければ、感情は高まりません。
思いの共有を通じて、応募者と企業が互いに理解し合い、よい関係性を築けるようにする試みが、本質的なエクスペリエンスを高めます。
具体的には、価値観やビジョンを共有すること、面接官や採用担当者が、ときには自分の経験や気持ちをオープンにすることが挙げられます。
応募者体験を高める実践アプローチ
応募者体験を高める実践アプローチとして、以下をご紹介します。
- 応募者視点に立った求人広告や採用情報ページ
- ストレスフリーな応募プロセス
- 選考プロセスの透明性と気持ちのよいコミュニケーション
- 応募者へのフィードバックとサポート
1. 応募者視点に立った求人広告や採用情報ページ
まず、求人広告や採用情報ページを、企業視点ではなく、応募者視点に立って改善します。
「採用ターゲットに刺さる、キャッチーで訴求力の高い表現」よりも、「応募者が知りたい情報をわかりやすく伝えること」や「応募者にとって役立つ情報の提供」を優先します。
ときには、一見、企業にとって不利に思える情報を開示することになるかもしれません。しかし、応募者体験を高める観点から見ると、そのような正直さは効果的です。
長期的な視点で、採用後の離職率や貢献度まで捉えましょう。「損して得取れ」という言葉がありますが、最終的にはプラスの結果が得られます。
2. ストレスフリーな応募プロセス
応募プロセスが煩雑であると、応募者が途中で離脱する可能性が高まります。
応募者は単純な手間を避けるだけでなく、「プロセスの合理化ができていない企業」と感じ、入社後も同様の体験をするのではないかと懸念するからです。
できる限り簡単で、効率的なプロセスに改良しましょう。たとえば、以下の取り組みが挙げられます。
- 応募フォームの入力項目を最小限に抑える
- ポートフォリオをアップロードできるようにする
- 手書きの履歴書の提出を求めない
3. 選考プロセスの透明性と気持ちのよいコミュニケーション
選考プロセスは透明性を重視して、応募者が状況を把握できるように配慮しましょう。
たとえば、選考フローを事前に伝えたり、ステップごとの目安期間を明示したりして、応募者の不安を軽減するように努めます。
面接時には、相手をひとりの人として尊重し、丁寧で真心の感じられるコミュニケーションを心掛けましょう。
応募者にとって「面接官に、雑に扱われた」「高圧的だった」という体験は、印象が悪くなります。
以下の取り組みを意識してみましょう。
- 応募者の経歴やスキルを事前に把握し、具体的な質問をする
- 話しやすい雰囲気を作って傾聴し、応募者が十分に自己アピールできるようにする
- 自社への入社に限定せず、応募者が幸せになれる未来について、建設的な話をする
4. 応募者へのフィードバックとサポート
とくに、採用の通知時には、先にご紹介したパーソナライズの概念を取り入れてみましょう。
それぞれの応募者一人ひとりに合わせた、コピー&ペーストではないフィードバックは、応募者の未来にとって、有益です。
採用であれ不採用であれ、応募者が納得し、自分の強みや課題を理解して次の一歩を踏み出せるように、サポートしていきましょう。
さいごに
本記事では「応募者体験」をテーマにお届けしました。
採用を通じて、多くの人たちの人生に関わりを持てることに感謝し、応募者と企業の双方にとってよい出会いとなるように、努めていきましょう。
今後の採用活動に、お役立ていただければ幸いです。
注釈
*注釈のない画像:筆者作成
- 人材採用・育成 更新日:2023/10/17
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