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ミスマッチをどう防ぐ?ドイツ流「試し働き」とは

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中途採用でつねに悩みの種になるのが、ミスマッチ問題だ。

  • 期待していたほどの成果を出してくれない
  • 社風と合わず馴染んでいない
  • 中途採用者が前社でのやり方を押し通そうとして現場と軋轢が生まれている

こういった「企業側の悩み」もあれば、

  • 提示された労働時間より大幅に残業させられる
  • 上司と合わずに毎日がユウウツだ
  • やりたい仕事が全然できない、転職した意味がない

このように、「転職者側の悩み」もたくさんある。

ミスマッチを回避し、企業も転職者もwin-winになるような採用を実現するには、どうすればいいのか。

今回はその方法のひとつとして、ドイツの「試し働き」を紹介したい。

面接では腹を割って話せないからミスマッチが起こる

そもそも、なぜミスマッチが起こるのか。

理由は簡単で、お互いを知らないからだ。

もちろん、面接でいろいろな話はするだろう。
企業は企業風土や待遇について、転職者は性格やキャリアビジョンについて、などなど。

でも、面接ではテンプレート的なやり取りが多く、本当に聞きたいことを聞けない、話したいことを話せないことも少なくない。

たとえば採用担当者は、「すごくいい人材だけど、他社にも応募してるだろうなぁ。我が社のアピールをもっとしたいが、なんとなく相手に響いていない気がするぞ」と焦ってしまったり。

たとえば転職者は、「残業時間とボーナスについてもっと詳しく聞きたいなぁ」と思っても、待遇について細かく聞くのは失礼かもしれないとためらい、大丈夫だろうか……と心配したり。

その状態のまま採用・入社しても、すれ違うだけ。

お互い腹を割って話せないから、ミスマッチが起こるのだ。

では、これを解消するにはどうすればいいか。
答えは簡単で、一緒に働いてみればいいのだ。

ドイツでは一般的な「試し働き」とは

ドイツには、「Probearbeit」という仕組みがある。
Probeは「試す(probieren)」の名詞で、Arbeitは「仕事」(日本語の「アルバイト」の語源)という意味だ。

本記事では、「試し働き」と訳す。

ドイツでの採用面接はわりとあっさりしていて、お互い自己紹介をして、性格や経歴に関する質問、仕事内容とスキルを確認、希望給料などの待遇についての認識合わせくらいなもの。

それが終わったら多くの場合、「じゃあ来週1週間試し働きしようか」とか、「明日から3日間試し働きで」とオファーされる。

ちなみにこれは、レストランの給仕やパン屋のレジのアルバイトなどでも同じで、たいてい試し働きをしてから、採用&入社の可否を決める。

この試し働きは、「企業が応募者を見定めるテスト」というよりも、「お互いの相性を確かめるお試し期間」という位置づけだ。

たとえば、結婚前に1か月同棲してみたり、保護犬を引き取る前に1週間ともに暮らしてみたり……といったお試し期間と、考え方としては同じである。

ミスマッチがお互いを知らないことから起こるのなら、お互いを知る期間を設ければいい。そのための、お試し期間だ。

試用期間よりももっと気軽なお試し職場体験

「日本にも試用期間はある」と思われるかもしれないが、試用期間と試し働きはちがう。

一番大きなちがいは、「雇用契約を結んでいるかどうか」だ。

試用期間は、労働契約を結んだあと、長期に渡って雇用するか見極める期間として設けられている。あくまで「採用したあと」の話だ。給料も支払われるし、各種保険も適用される。

労働者は試用期間中、他社への就職の機会を放棄している。
そのため、本採用拒否には一定の制約があり、明確な理由なしに解雇することはできない。*1

一方の試し働きは、労働契約を結ぶ「前」の話だ(ドイツ語で試用期間は「Probezeit」であり、「Probearbeit」とは異なる)。

試し働きはあくまで数日間のオリエンテーション。給料は発生しないし、社会保険に加入させる義務もない。

それと同時に、企業は応募者にオフィスにいることを強要したり、責任が発生する仕事を任せたりすることが禁じられている。

試し働きでは「〇〇時までこれをやって」とお手伝い作業を時間区切りで任されることが多く、「契約を取ってこい」「新商品を提案しろ」などと成果を求められることはない。

友人の例を挙げると、9時に出勤して午前中はAさんの資料作りを手伝い、午後はBさんの会議に同行、15時ごろ人事と軽く面接して終わり……という試し働きを3日間したそうだ。

企業によっては、人事担当者が応募者に社内をぐるっと案内したり、適正を見極めるため毎日ちがうチームに入れて採用後の希望を聞いたりする。

試し働きは、あくまで「数日から1週間ほど職場体験する」というイメージだ。

ちなみに労働契約を結んでいないので、応募者は行きたくなければ(モラル的な問題は別として)バックレてもペナルティはないし、途中で他の企業から採用通知が来たら即時辞退しても問題ない。

試し働きを可能にする2つの条件

採用ステップに試し働きを組み込んで採用前に一緒に働いてみれば、企業側と応募側、双方の「思ってたのとちがう」を避けられるはず。

……とはいえ試し働き導入が、日本ではむずかしい理由もよくわかる。

まず、入社していない人間を社内に迎え入れ、仕事をさせることへの強い不安感があるだろう。
入社するかわからない応募者のために時間・労力を使うことへの抵抗感も強いはずだ。

ではなぜ、ドイツでは試し働きが受け入れられているのだろうか。

習慣として成立しているのもあるが、「人の出入りが当然」であり、「それぞれの仕事が決まっている」からだと思う。

インターンとして大学生3人が夏休みのあいだフルタイムで働いていたり、職業教育を受けている学生が週3でオフィスにいたり、育休社員の代わりに1年間期間限定社員がいたり。

そういうことが頻繁に起こるので、知らない人が社内にいることに違和感をもたない。

というか、みんな、部外者に対する興味関心がない。
「へぇー、試し働き。あ、そう」という感じで、お互い名乗ったらそのまま自分の仕事をするだけ。

ジョブ型のドイツでは自分の仕事が決まっているから、たとえオフィスに見知らぬ人がいても、面倒を見るのは担当者だから自分には関係ないのである。

とはいえ、「試し働きの人の面倒を見て」と頼まれたら、無関心というわけにはいかない。

しかし基本的に試し働きは「同行」や「お手伝い」なので、自分はいつもどおり働きつつ多少作業を分けて、時おり声をかけるだけでそれでOK。そこまでの負担ではない。

応募者側は仕事をしに来ているのではなく、あくまで社内の雰囲気や上司の人柄を見極めに来ているから、その程度の「おもてなし」でいいのだ。

采配によって応募者のスキルを見定めるのは、上司と人事の仕事だしね。

というわけで、試し働きを可能にするためには、

  • 風通しがよく人の出入りが活発な社風であること(古参が幅をきかせていたり、新人がじろじろ見られる環境ではない)
  • 担当作業がはっきりしており、入社後に任せる職務も明確である(仕事内容が不明瞭だと、試し働きをしてもスキルチェックや将来のチームメイトの顔合わせにならない)
の2つが必要なわけだ。

日本の従来の働き方ではこの2つを満たさないので、試し働きが根付かなかったのだと思う。

ミスマッチを防ぐためには事前に一緒に働くのが一番確実

しかし働き方は日々変わっており、人材の流動化が進んでいる。
スキル重視のジョブ型採用に切り替える企業も増えているし、企業に依存せずに自律したキャリアを歩みたい労働者もたくさんいる。

それならば、前述した「試し働きが成立する2つの要件」を満たす企業もあるんじゃないだろうか。門戸を広く開けており、担当作業がはっきりしているような、そんな企業が……。

中途採用によるミスマッチを防ぎたいなら、一緒に働いてみること。
これが最善であり、一番確実な方法だ。

企業側は相手のスキルやコミュニケーション能力をしっかりと測れるし、転職者側も労働環境や人間関係の雰囲気を把握したうえで入社を決められる。

可能であれば、転職希望者に試用期間とは別のお試し期間だと説明したうえで、試し働きを採用プロセスに組み込んでみてはいかがだろうか。

  • Person 雨宮 紫苑
    雨宮 紫苑

    雨宮 紫苑 -

    ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。

  • 人材採用・育成 更新日:2023/10/31
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