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第二新卒の定着促進のために考えたい RJPとその実践における留意点

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最近の調査によると、就職後3年以内に離職する新規大卒就職者は30%あまりにも上ります。その理由で最も多いのは仕事とのミスマッチ。しかしその一方で、第二新卒者の採用ニーズは増加傾向にあります。

では、再就職先で再びミスマッチによる離職を招かないためには、どうしたらいいのでしょうか。そのソリューションの1つに、定着促進効果が実証されているRJPという手法があります。RJPは特に外部市場からの採用で効果を発揮することが指摘されています。

本記事では、第二新卒をめぐる概況を押さえた上で、定着に有益なRJPについて考えます。

第二新卒の状況

まず、新規学卒就職者の離職状況を押さえ、その上で第二新卒の状況をみていきましょう。

新規学卒就職者の離職状況

2022年10月、厚生労働省は2019年3月に卒業した新規学卒就職者の離職状況を公表しました。 それによると、就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が35.9%、新規大学卒就職者が 31.5%でした。*1:p.4

以下の図1は、2019年3月に卒業した新規大学卒就職者の離職状況を表しています。

図1の左上の図をみると、3年間の離職率は、1年目で11.8%、2年目9.7%、3年目10.0%と、1年目から3年目までを通じて10%前後であることがわかります。

また新規大学卒の就職後3年以内の離職率を企業規模別にみると、規模が小さいほど離職率が高くなっています。
業種別にみると、一番割合が低いのは「電気・ガス・熱供給・水道業」の10.6%、逆に最も割合が高いのは、「その他」を除くと「宿泊業、飲食サービス業」で49.7%(2019年)と約半数に上っています。

以上のことから、第二新卒予備軍に当たる人々には、初職の企業規模や業種に偏りがあることがわかります。

離職理由

では、初職の離職理由はなんでしょうか(図2)。*2

図2で初職の離職理由をみると、「仕事が自分に合わなかったため」が43.4%で最も多く、
初職の離職理由の中で最も重要な理由も、「仕事が自分に合わなかったため」が23.0%と最も割合が高いことがわかります。

このことから、再就職先でのミスマッチ回避に留意し、再びミスマッチによる離職を招かないように配慮する必要があることが窺えます。

第二新卒の定義・ニーズ

ここからは、第二新卒についてみていきましょう。*3

第二新卒とは

第二新卒とは、一般に、学校を卒業後、一度就職をしたものの3年以内に離職し、転職活動をする若手求職者を指します。

年齢的には25歳前後とされていますが、年齢は最終学歴によって異なりますし、それ以上の年齢でも受け入れる企業もあり、厳格な基準はありません。


第二新卒のニーズ

転職を希望する若手社員に対しては企業の採用意欲が高く、経験よりポテンシャルを重視する傾向があります。それは、第二新卒の採用には、さまざまなメリットがあるからです。

まず、キャリアの長い転職希望者に比べると、柔軟性に優れ、企業風土にも馴染みやすく、能力開発の余地も大きいという特徴があります。一方、新卒者に比べると、社員としての経験があるため社会人としての常識や、一定のビジネススキルを備えています。さらに、新卒採用に比べてミスマッチも少なくできるという期待も寄せられているといいます。

では、第二新卒者の再就職先でのミスマッチを回避するためには、どうしたらいいのでしょうか。

ミスマッチによる離職を防ぐRJP

ミスマッチによる離職を回避するための方策の1つに、RJPがあります。
それがどのようなものかみていきましょう。

RJPとは

RJP(Realistic Job Preview)とは、組織や仕事の実態について、良い面だけではなく悪い情報も含めて誠実に応募者に伝える採用方法を指します。1970年代以降、アメリカで発展してきた理論ですが、アメリカでは理論的な発展と実証、成果と技法に関する多くの研究があり、定着率を高める効果が確認されています。*4:p.60-61

個人が組織にエントリーする際、組織は採用者の選考のために、一方個人は組織の選択のために、お互いに正確な情報を必要としています。

しかし、それにもかかわらず、組織は個人に、個人は組織に対して自らを売り込もうという意図が働き、時にバイアスがかった良い情報だけを提供する傾向があり、それがミスマッチを引き起こす原因の1つであることが明らかになっています。

RJP はこの矛盾を解消するとともに、従来はどちらかというと組織が個人を選択するという観点が中心であったものを逆転させ、組織に参入していく個人にリアルな情報を提供することにより、個人の能動的な組織選択を促そうとするものです。


伝統的な採用とRJPに基づく採用

RJPの特徴を明らかにするために、伝統的な採用とRJPに基づく採用とを比較してみましょう(図3)。*4:p.62

伝統的な採用は、外部に対して組織や仕事の良い面をよりよく伝えて 「売り込み」、実際より魅力を高めて応募者の総量を確保し、企業が求める能力を持つ人を 「選ぶ」 ことを目指していました。

それで、新入社員は入社後に、現実とのギャップからリアリティ・ショックが生じ、その不満が離職を引き起こすという側面がありました。

一方、RJP理論にもとづく採用では、悪い面も含めてすべての適切な情報を誠実に伝え、それを理解する応募者を対象として、企業と応募者が互いに適合性を見極めた上で「選び合う」 ことを重視しています。

このように、応募者にも積極的に自己選択してもらおうとする姿勢をもつRJPは、仕事に対する満足感を高め、定着を促すという効果が確認されています。

定着を促すRJPの効果

RJPの効果をより具体的にみていきましょう。主に以下の4点に大別されます。*5:p.149

1.スクリーニング効果

求職者が企業から仕事内容や待遇面について正確な情報を得ることによって、求職者が自分自身で企業と自分との適合性を判断できるようになり、ミスマッチが軽減する。

2.ワクチン効果

ワクチン効果:入社後の仕事内容や職場環境に対して過剰な期待を抱くことを抑制するため、入社後の失望感が軽減する。

3.コミットメント効果

求職者にありのままの情報を開示することで、企業が求職者に対して誠実に対応していることを伝えることができ、その結果、入社後の企業に対する帰属意識の向上が見込める。

4.役割明確化効果

企業が求職者に情報提示する際に、企業が求職者に対して、業務面・人物面ともにどのような人材を求めているかを明確に示すことによって、求職者は企業が自分に求めていることを実感しやすくなり、仕事に対する満足度や意欲の向上につながる。

このように、RJPは金銭的なコストがかからずに一定の効果が期待できる手法です。

ただし、離職につながる不満やコミットメントの低さの背景には、賃金や労働環境、上司などさまざまな要因があります。RJPはそうした組織課題そのものの解決を目的とはしていないことに留意する必要があります。*4:pp.62-63

RJP導入の留意点

次にRJPを導入する際の留意点についてみていきましょう。

導入のガイドライン

RJPの導入については、アメリカの研究者によって以下のような5つのガイドラインが示されています。*4:p.63

  • RJPの目的を求職者に説明した上で、誠実に情報提供を行い、与えられた情報の十分な検討と自己決定を促すこと
  • 提供する情報に見合ったメディアを用い、使用するどのメディアに対しても信用できる情報を提供すること
  • 客観的な情報だけでなく、現役社員が自分の言葉で仕事や組織について考えを語る感情的側面をも含めること
  • 組織の実態に合わせて、良い情報と悪い情報のバランスを考慮すること
  • 採用プロセスの早い段階で行うこと

RJP導入の条件

RJPはどのような対象者・状況であっても効果が期待できるわけではありません。
RJPを導入する際の条件について、以下のように指摘されています。*4:p.63

まず、新人の定着率が低すぎたり高すぎたりする場合は効果が薄いと指摘されています。
次に、不況で雇用機会が少ない状況では、機能しません。
効果を発揮するのは、組織内での配置や異動より、外部からの新卒・中途採用においてです。

RJPと体験的就業

日本でもアメリカでも、RJPが効果を発揮するのは、外部労働市場からの採用であることが指摘されています。*4:p.65

人事部担当者へのインタビュー調査からは、新卒採用ではRJPを躊躇している企業であっても、中途採用ではRJPの活用が有望であるとの示唆が得られています。*4:p.63

そこで、人的資源管理の専門家である堀田聰子氏は、効果的にRJPを実現する採用方法として、4種類の体験的就業を通じたマッチングを提唱しています。そのうち、主に新卒採用を対象とするインターンシップ以外の3種類についてみていきましょう。

1.紹介予定派遣

「紹介予定派遣」とは、まずは派遣で働き、本人と派遣先企業が合意をすれば、直接雇用に切り替わる仕組みです。*6 比較的長期の検討期間を設定してマッチングを図ることができる仕組みです。*4:p.65

2.若手トライアル雇用

「若年者等トライアル雇用」は、職業経験の不足などから就職が困難な特定の求職者を、原則3カ月間試行雇用することによって、その適性や能力を見極め、正規雇用への移行のきっかけとすることを目的とする制度です。*7

期間終了後の採用義務はありませんが、常用雇用移行率が高いことから、ミスマッチ防止策として有益であることが窺えます。*4:p.65

3.日本版デュアルシステム

「日本版デュアルシステム」は、若年者や職業能力形成機会に恵まれなかった人を対象に、企業実習またはOJTと、これに密接に関連した教育訓練機関におけるOFF-JTとを組み合わせて実施し、修了時に能力評価を行う訓練制度です。*8

厚生労働省の報告書からは、採用意思のある企業と就労意識の高い訓練生が、一定の時間をかけて能力や意欲のミスマッチ軽減を図り、実習先企業での就職を実現していることが窺えます。*4:p.65

このように、採用前に行う体験的な就業は、効果的にRJP実現する、比較的新しい採用方法であると堀田氏は述べています。

おわりに

RJPは、採用における企業と求職者のミスマッチを軽減させ、ミスマッチによる離職を防ぎ、定着を促進することに貢献します。

これまでの採用では、企業も求職者も自分を売り込むために、良い情報だけを相手に見せる傾向が強く、それが就職後のミスマッチの原因の1つとなっています。

第二新卒で同じような事態を生じさせないために、RJPの活用にも目を向けてみるのはいかがでしょうか。

  • Person 横内 美保子

    横内 美保子 -

    博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

  • 人材採用・育成 更新日:2023/10/10
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