ロボットに負けないリクルーター:採用担当者のためのサバイバルガイド
「The Robot-Proof Recruiter A Survival Guide for Recruitment and Sourcing Professionals」の著者カトリーナ・コーリアー氏は、研修のメンターやファシリテーターとして、また時には講演を通して、人材紹介業のリクルーターや、企業の採用担当者をサポートしています。
コーリアー氏が得意とするのは、「テクノロジーよりも人に焦点を当てるアプローチ」です。本書は、大手企業の大量採用ではなく、中小企業の採用活動を対象に書かれています。コーリアー氏は本書のなかで、人に焦点を当てる採用活動をすることで、良質な人材を採用して定着させることができると主張します。それでは、この本の概要をご紹介しましょう。
候補者に焦点を当てる採用活動が必要な理由
とても長い間、ツールを使って効率的な人材採用をすることに重点が置かれ、候補者のエンゲージメントに重点が置かれませんでした。求人サイトやLinkedInなどから送られる求人情報はスパムメールのようになり、候補者の反応率は下がる一方です。
特にソーシャルメディアを使った採用活動が増えているいま、どのように候補者のエンゲージメントを獲得すればよいか考えなければなりません。そこで、一人ひとりの候補者に目を向ける「人に焦点を当てた採用活動」が必要なのです。
候補者に寄り添う採用担当者になるために必要なスキル
それでは、採用担当者が候補者に寄り添うために求められるスキルとは何でしょうか?
好奇心
候補者一人ひとりに興味を持ち、面接で相手が言い出せないことを引き出す力。また、相手の言うことが理解できていないときに理解しているふりをせず、分かるまでとことん聞く力です。学ぶことや、業界の動向を知るためにも好奇心が必要です。
聞く力
ボディランゲージや相づちなどを挟みながら、相手の話に集中し、相手が話しやすいように聞く力です。たとえ電話を使ったインタビューでも、ほかのことをしながら会話をしてはいけません。話に集中していないことが相手に伝わってしまいます。
共感力
人間同士は、言葉以上の物を知覚することができます。共感力とは、他人の気持ちを理解し共有する能力です。他人の状況に同情を感じることとは違います。共感力を鍛えることは、良好なコミュニケーションをとるうえで非常に重要です。
自己認識
自己認識とは、正しい・正しくない、良い・悪いという視点ではなく、自分の人生を正直な目で見ることができる能力です。仕事の文脈からいえば、まだ学びが足りないと認めながら、自分が得意なことを知っていること。または、答えが出ないことや間違いを認めることです。
確実性と明確さ
スマートフォンの普及に伴い、確実で明確な情報を簡単に手に入れることができるようになりました。そしてスマートフォンのユーザーもそのような情報を求めています。候補者第一の採用活動をする担当者は、候補者に確実な情報を提供することや、透明性の高いコミュニケーションを心掛けることが必要です。
献身的なインフルエンサーになる
熱心な採用担当者でも、採用プロセスの特定の部分はコントロールできないかもしれません。しかし、採用プロセスが採用能力に影響を与えると理解し改善方法や違うやり方を見つけることはできます。候補者を第一に考え、採用プロセスに関わる全ての人についても、よい影響を与えるインフルエンサーとなります。
勇気
候補者に悪いニュースを届けるときも、テクノロジーの陰に逃げてはいけません。きちんと候補者に向き合い、不採用の連絡をします。相手の心の痛みを考え共感する力が必要です。候補者第一の採用担当者は、切り出しづらい話題にも正面から向き合い、候補者を無駄に不安にさせることはありません。
協同作業をしてコミュニティをつくる力
企業のファンやサポーター、離れた場所に住む同僚、同業者など、オンライン上で様々な人たちとアクティビティやプロジェクトを協同作業できる能力は貴重です。また、組織内に従業員や元従業員のコミュニティをつくり、エンゲージメントの向上や将来の雇用につなげることも大切です。
人を第一、テクノロジーを第二に考える
候補者第一の採用担当者は、テクノロジーを使用して採用プロセスをサポートしますが、人間味のある対応を忘れません。好奇心を持って候補者に接します。
スキルを採用活動に生かすポイント
次に本書では、ここまで紹介してきた採用担当者に求められるスキルを、どのように採用活動に生かすべきかを紹介しています。
採用担当者の魅力を伝える
LinkedInによると、求人を案内するメッセージへの反応率は、プロフィール写真が入っているかどうかで変わります。人の注意を引くには数秒しかありません。そこでプロフィール写真で注目を集め、次に、プロフィールの見出しや経歴の書き方を工夫して相手を引き込むことが大切です。
そのためには、プロフィールで自分がどのような人物であるか知らせながら、仕事探しをしている人に「自身のキャリアをゆだねるのに十分に信頼できる人物である」と思ってもらう必要があります。
SNSで評判を上げる、好かれる、信頼される
候補者は、採用担当者のSNSのプロフィールを見ています。プロフィールを完成させ、貴重な時間を使うのに値する担当者だと思われるようにしてください。
プロフィール写真はフレンドリーで親しみやすく見えるものを選びます。写真は全員に公開しましょう。自分の興味があることや、趣味についてプロフィールに入れておくと、それを見た人は仕事以外の話題でも採用担当者に話しかけやすくなります。自分が知られ、好まれ、信頼されるよう、常に新しい情報やリッチメディア(動画や音声、ブログ記事など)を共有しましょう。
候補者が望む情報を伝える
面接で「私たちについて何を知っていますか?」という質問をして、ほとんど何も言わない候補者に失望したことが何度あるでしょうか。企業は候補者が望む情報を事前に与えるべきです。「7つのP」を意識しながら、企業や採用マネージャーが何をしているか候補者に伝えましょう。
候補者が望む情報を伝えるために意識する7つのP
- Product(製品やサービス):企業の仕事、プロジェクト、チャレンジしていること、スキル、得られる知識などの情報
- Place(場所):オンライン求人掲示版、求人広告、ビルボード、自動車ステッカー、新聞、雑誌など情報を置く場所
- Price(値段):給与の額、福利厚生、特典、学びと成長の機会など、候補者の利益になる情報
- Promotion(宣伝方法):積極的に候補者を集める、ヘッドハンティング、従業員紹介制度など、情報を伝える方法
- People(人):現在の従業員、顧客、元従業員、採用マネージャー、チームなどとの関係
- Processes(プロセス):採用のプロセスや障がいとなるもの、候補者の経験
- Physical environment(物理的な環境):企業の場所、オフィス勤務かリモート勤務か、フレックス制、価値観、文化などの情報
企業の魅力を伝える
企業の評判はとても大切な要素です。候補者に魅力を感じてもらい、採用し、定着させるために何ができるでしょうか。求人サイトIndeedの調査によると、オンラインで情報が十分に見つからない企業は候補者の70%に不信感を抱かせます。同調査では回答者に、「求人に申し込む前に調べるもっとも重要な5つの考慮事項」をランク付けするよう求めました。その結果は以下のとおりです。
- 企業の安定性
- 福利厚生と特典、柔軟性、および給与に関する洞察
- 成長の機会に対する情報
- 企業の役員や管理職について
- 企業のミッションとビジョン
このような企業情報をオンラインで公開し、候補者が検索できるようにしておく必要があるでしょう。
候補者第一の採用活動をするためのプロセス
採用活動のプロセスも候補者第一に考える必要があります。
採用活動前の入念な話し合いをする
採用担当者やマネージャーの間で、どのような人材を必要としているか話し合うことが非常に大切です。採用試験を実施するチームのなかで認識が共通していないと、適切な人材を採用することはできません。次のようなトピックについて担当者全員の認識を一致させます。
- 解決したい問題は何か?
- どれくらいのスキルを持った人を探しているか?
- どこで人材を探すか? 新しい探索場所はあるか?
- 採用したい人材のペルソナ(イメージする人物像)
求人広告も候補者第一にする
求人広告は、インターネットを通して40億人のなかで目立つようにしなければなりません。職種の説明を分かりやすくすることはもちろん、適切な色、画像、動画を使ってクリエイティブに、見る人の感情や行動を呼び起こします。
そして、それらをどの媒体に掲載するか考えます。オフラインでも見てもらえるようにすることが望ましいでしょう。コメントや問い合わせに採用担当者が直接返信することで候補者体験を向上させることも大切です。
人間味のあるメッセージングをする
Eメールを使って求人案内を送るときには、機械的にならないように工夫が必要です。読みたいと思わせるタイトルをつけることや、受け取る人に合わせて内容を変えるパーソナライズドメッセージが効果的です。またEメールのなかに動画メッセージを挿入するのもいいでしょう。SNS、特に拡散力の高いTwitterを使った採用活動では、次のようなポイントを押さえましょう。
- 採用担当者のメッセージビデオのような、仕事に関するクリエイティブなツイートを共有する
- 業界で使われていそうなハッシュタグを求人情報のツイートにつける
- 求人ツイートを、ピンでプロフィールページの一番上に留める(固定ツイート)
- 興味深いツイートをする人のリストを作り対話をする(コメントやリツイートをして相手が自分のプロフィールを見てくれるように)
ロボットにはできない、メッセージやコミュニケーションのフォローアップは、候補者第一の採用活動に欠かせません。
採用プロセスで候補者のロイヤルティを獲得する
Talent Boardの共同経営者Gerry Crispin氏の調査によると、採用試験の候補者が自分の体験をどう評価するかを決める5つの要因は次のとおりです。ここで言う候補者とは、求人情報のポジションに興味を示した人すべてを指します。採用担当者が候補者のロイヤルティを獲得できないと、採用試験の途中で候補者と連絡が取れなくなってしまうゴースティングの原因となります。
- 申請から内定または不採用までのプロセスの各段階が期待以上である。
- 候補者が応募を検討した時点から、採用試験が終わり結果を待つ間まで、担当者が積極的に話を聞いてくれる。
- 採用プロセスが公平で、すべての人に同じ競争の機会を提供していると信じられる。もし特定のグループだけ条件が違う場合には、なぜそのグループだけ特別なのか理由がはっきりしている。
- 採用プロセスについて候補者から評価や意見が寄せられたときに、企業が責任を持つ 。
- ポジションに興味を示した人すべてに対して、最後まできちんとフォローアップしている。
採用決定後に気が変わる人へ対処する
採用管理システムを提供する企業によるアンケート調査Jobvite Recruiter Nation Surveyの結果では、75%の採用担当者が、「契約書にサインをした後に候補者の気が変わったことがある」と答えました。
また、そのうちの55%が、他社からもっと良い条件のオファーを受けたことが辞退の理由でした。さらにその半数近くの採用担当者は、契約書にサインをした後に入社を断った候補者を止めようとはしませんでした。
もし採用活動のなかでそのようなことが起きた場合、採用担当者には候補者の懸念を明らかにして対処することが求められます。辞退をすんなりと受け入れてはいけません。
従業員からの紹介やアルムナイ制度の導入をする
現在のような人材不足の状況では、元従業員の再雇用を視野に入れる必要があります。エンゲージメントの高いアルムナイコミュニティ(元従業員の同窓会のような集まり)を作ることができれば、元従業員を再雇用することや、元従業員から人材の紹介を受ける機会を作ることができるようになります。
そのためには、元従業員が手軽にコミュニティやイベントに参加することができ、魅力的なコンテンツを提供することが必要です。
変化する採用担当者の役割を理解して候補者に焦点を当てる
採用担当者の役割は、テクノロジーとインターネットによって変化を続けています。いま、採用担当者は、候補者を確保する役割、採用担当、マーケティング担当、コミュニティづくりなど、様々な役割をこなさなければなりません。
さらに人材不足が続き、採用担当者は挑戦を求められています。これからは、候補者の体験に焦点を当て、テクノロジー頼みの採用活動を、人に焦点を当てる採用活動にすることが鍵となるのです。
The Robot-Proof Recruiter A Survival Guide for Recruitment and Sourcing Professionals
著者 Katrina Collier
出版社 Kogan Page (2019/8/28)
ISBN-10 :0749493224
ISBN-13 :978-0749493226
- 人材採用・育成 更新日:2022/09/01
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