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採用面接官は企業のドアマン――転職者の心を掴むために

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人手不足で倒産する企業が増えている。2023年度は過去最多の313件を記録し、2024年3月のひと月だけで49件あったそうだ。*1

少子高齢化が進んでいるのは周知の事実ではあるが、「倒産」という生々しい2文字を見ると、改めて労働力確保の難しさを痛感する。「明日は我が身かもしれない」と採用活動に奔走している採用担当者も、さぞかし多いだろう。

ここでちょっと疑問なのだが、採用活動する企業は、もはや「選ぶ側」ではなく「選ばれる側」だとちゃんと意識改革できているのだろうか。

面接で「かわいいね」……失礼な面接官がいなくならない理由

10年か15年ほど前だろうか、「圧迫面接」という言葉が連日取り沙汰されていた。しかしいまそんなことをしたらSNSで即炎上確定なので、かつてのようなあからさまな圧迫面接の話はほとんど聞かない。

とはいえ、いまだに偉そうな面接官の話はチラホラと耳にする。面接官の態度自体は悪くなくとも、「NG質問をされた」という人は少なくない。

日本労働組合総連合会による2023年の統計によれば、面接で「不適切だと思う質問や発言をされた」経験をした人は、約2割もいる。

具体的には、「女性だからどうせすぐ辞める」といった性別に関するもの、「かわいい」といった容姿に関するもの、「母子家庭」といった家族に関することなどだ。*2

令和の時代にもなって恋人の有無を聞く面接官がいるなんてにわかには信じがたいが、実際そういうことは起こっているのだ。

ではなぜ、そんな人が面接を担当しているのか?答えはかんたんで、いままではそれでも困らなかったから。

採用担当である自分が選ぶ側だから、選ばれる側である求職者に配慮する必要はない、という認識だったのだろう。だからこそ、平気で失礼なことを言ってしまう。

相手は俺のことが大好きで付き合いたくてしょうがないはずだ、と思っているから、フラれることなんてまったく想像せず言いたい放題。「どれくらい本気で俺と付き合いたいの? ほら、誠意を見せてごらんよ」という態度を取る。

その態度に眉をしかめる人がいたって、「俺のことを大好きな人はたくさんいる」とふんぞり返って、自分を省みない。

自分たちはお祈りメール一本で不採用を告げるのに、採用した人がメール1本で辞退すると「けしからん!」と腹を立てるのも、「俺がフるのはいいけどフラれるのは嫌」という思考回路だからだ。

そしてそんな態度でも、働きたいという人は集まった。だから困らなかった。

でもこれからは、そうはいかない。

多くの業界で売り手市場となり、優秀な人材の獲得競争は激化している。「いままでどおり」のやり方で労働力を確保できるほどの労働人口は、もういない。

その現実を理解していない人が採用を担当していると、いままでの認識のまま、「うちで働きたくてしょうがないんだろう?」と勘違いした言動を続けてしまう。

だからこそ改めて聞きたいのだ。採用担当者は、ちゃんと「企業は選ぶ側ではなく選ばれる側になった」と認識を改めているのか?と。

企業は「選ぶ側」から「選ばれる側」になった

では具体的に、「選ばれる側になった意識」とはどういうものか。わたしの答えは、「転職希望者は将来の部下ではなく、将来のお客様だと考えること」だ。

たとえばエンジニアのAさんが転職するために、3社に応募したとする。優秀なエンジニアとしてのキャリア+人手不足もあって、Aさんは見事3社すべてで採用。2社断って、一番よさそうなところに転職を決める。

……ということが今後、頻繁に起こる。

求職者、とくに優秀な人であれば、不採用通知を受け取る回数より、採用辞退する回数のほうが多くて当然になるのだ。

それは同時に、企業はそれだけ多くの人から採用辞退されるということ。

そう考えると、面接に来た転職希望者は部下になるよりも、採用辞退して将来クライアントやお客様になる可能性のほうが高い、とすらいえる。極端な例ではあるが、人手不足とはそういうことだ。

だから、「将来の部下」として接するのではなく、「たとえウチで働いてくれなくとも、お客様やクライアントとして末永く付き合っていきたい」という姿勢で面接するのが正解だと思うのだ。

面接官は、いわばホテルのドアマンと同じ。第一印象を左右するホテルの顔。

ホテルに着いた瞬間、ドアマンに「めっちゃ荷物多いですね」なんてぶっきらぼうに言われたら、部屋がどんなにキレイでいかに食事がおいしくとも、そのホテルのリピートはしないだろう。

それと同じで、面接官の態度が悪ければ、企業自体の魅力があったとしてもそこで働きたいとは思わない。よっぽど待遇が良ければ別だが、第一印象というのはバカにできない影響力がある。

もちろん面接官にドアマンをやれ、というわけではないが、採用しても辞退される可能性が高いことを念頭に、「企業は選ぶ側である」という認識を捨てて、「企業の顔としていい印象を持ってもらおう」という姿勢は必要じゃないだろうか。

大切に扱ってもらえば、企業への印象がぐっと良くなる

ちなみにわたしがドイツで就活したとき、「日本と全然違っておもてなししてくれるんだなぁ」とうれしかった記憶がある。

例えばA社では、受付で名乗ると、採用担当者がわざわざエントランスまで迎えに来てくれたうえ、エレベーターを手で押さえてわたしを先に乗せてくれた。

お次のB社では、わたしのコートを預かって採用担当者自らがハンガーに掛け、さらにはコーヒーと紅茶どっちがいいかまで聞いてくれた。

面接後に社内を案内してもらったこともあったし、将来上司になる予定の人も合流して一緒に社食でランチしたこともある。

歓迎してもらったことで「ここで働いたら大事にしてくれそう」と素直に思ったし、「わたしも面接では誠実に答えよう」という気にもなった。

少なくとも、コートは裏返しに畳んで鞄の上に置いてパイプ椅子に座り、相手は机の上で手を組んでふかふかのデスクチェアに座っているような状況で、同じような印象は受けなかっただろう。

新卒一括採用であれば短時間で大量の学生と面接するので話は変わるが、ある程度人数がかぎられる中途採用であれば、相手を歓迎する雰囲気にしたほうが絶対印象がいいのになぁ、と思う。

だれだって、「んじゃどれだけうちで働きたいかアピールして」としかめっ面で言われるより、「我が社には君が必要なんだ! 気になることはなんなりと聞いてくれ!」と両手を広げて笑顔で待ち構えてくれているほうがうれしいもの。

そういう意味でも、「よく来てくれました!」と真っ先にお客様を歓迎するドアマンは、あながちおかしな例ではないと思う。

面接相手は将来の部下ではなく、将来のお客様と考えてみる

いくら採用のために全力を尽くしたとしても、人手不足の現状、採用辞退は避けられない。

もしそこで求職者に悪印象を残していたら、多大なコストをかけたうえで採用できず、さらに相手からは嫌われるという、最悪の結果になってしまう。実際に働いてくれるかは別としても、少なくとも「企業に対するいい印象」は残しておきたいもの。

だからこそ、相手を部下としてではなく、お客様として捉えなおしてみたらどうだろう。「代わりなんていくらでもいる」から、「働き先なんていくらでもある」になったのだから。

求職者にこびへつらってペコペコしろ、というわけではない。しかしいままで通り「選ぶ側」という認識で面接し続けていては、選択肢が多い求職者の心を掴むのはむずかしい。

そのあたりの認識を社内でしっかり共有できているか、悪意なく「いままで通り」の態度で失礼な言動をしていないか、改めて確認して意識を統一しておくことが必要なんじゃないだろうか。

  • Person 雨宮 紫苑
    雨宮 紫苑

    雨宮 紫苑 -

    ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。

  • 人材採用・育成 更新日:2024/11/26
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