人員計画の作り方を徹底解説!テンプレートや注意点も
人員計画とは、企業の「人員配置」に関わる計画です。具体的には、「部署ごとに必要な人員数と人材要件」を計画し、自社が展開している事業やプロジェクトに必要な人材が不足していれば、補うために採用活動や人事異動を検討します。
人員計画の立案は人事部門の業務ですが、事業計画や経営戦略とも密接に関わっていることから、経営層も含めて、すり合わせのもとで策定されます。
人員計画はなぜ必要?
企業には6つの経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産)がありますが、モノ・カネ・情報・時間・知的財産に関しては、ヒトが活用することではじめて資源となることから、「ヒト(人材)」が最も重要な経営資源といえるでしょう。限りある経営資源をムダなく活用して、事業を成長させるためには、人材への投資が特に重要となります。
人材への投資には「採用」「育成」「配置」などがあり、このうち配置や育成を計画するのが人員計画です。
業務量に対して人員が不足していると、残業時間の増加などに繋がり、人材の働きがい低下やモチベーション低下によって、組織の成長を妨げる要因になってしまいます。適切な人員計画を立てて実行することで、ミスマッチによる早期離職の防止や、生産性向上も期待できます。
人員計画・要員計画・採用計画の違い
人員計画・要員計画・採用計画は似ているものの、目的や内容が異なります。
まず、「要員計画」は、自社の事業計画をベースに「事業計画を実現するための人員目標と達成期限」を計画するものであり、特に人材の「量」に着目した計画といえます。
「人員計画」は、要員計画をベースに「どの部署にどのような人材が必要か」「今いる人材をどのように配属するか」など、人材の「質」を考慮して立案する計画です。要員計画が固まっていなければ人員計画は立案できません。
そして「採用計画」は、選考方法や採用スケジュール、採用コストの算出など、採用から人材の定着までを計画するものです。
このように、要員計画・人員計画・採用計画は異なる内容ですが、いずれも事業計画を実現するために立案するという目的は同じです。
ここでは、人員計画のベースとなる要員計画の策定も含めて、具体的なステップを解説していきます。ただし、組織の規模や状況によって進め方が変わる可能性もあります。
1.現状(社員の過不足)を把握する
このプロセスは「要員調査」とも呼ばれます。具体的には、「トップダウン(適正人件費から必要な人数を決める)」方式と、「ボトムアップ(業務量から必要な人数を決める)」方式を使って、社員の過不足を割り出します。
その際、ボトムアップ方式のみで算出すると、必要な人数が大幅に増える傾向があります。反対に、トップダウン方式のみで算出すると、現場の人員が不足する傾向があります。どちらか一方のみを使用するのではなく、両面から検討することがポイントです。
要員調査の具体的な方法について、詳しくは下記の記事も参考にしてください。
関連記事:要員計画とは?作り方を徹底解説【テンプレートつき】|経営と人材をつなげるビジネスメディア「HUMAN CAPITAL サポネット」
2. 現場・経営層のニーズを把握する
社員の過不足(数のニーズ)が把握できたら、現場と経営層の両方向からヒアリングして、「どのような人材が必要か(質のニーズ)」も把握しましょう。
3. 要員計画を立てる
要員調査の結果を踏まえて必要な人数を調整し、要員計画としてまとめます。
要員計画としてまとめるべき項目や、詳しい立て方は以下の記事も参考にしてください。
関連記事:要員計画とは?作り方を徹底解説【テンプレートつき】|経営と人材をつなげるビジネスメディア「HUMAN CAPITAL サポネット」
4. 人員計画を立てる
要員計画を立てたら、要員計画をもとに人員計画を立てていきます。以下の項目を人員計画として表にまとめていきましょう。
【人員計画の項目例】
- 採用人数(何人採用するか)
- 人材の要件(どのような人材を採用するか)
- 選考方法(どのように採用するか)
- 採用コスト(採用の予算)
- 採用スケジュール(いつまでに採用するか)
(※)自社における過去数年間の退職者数・異動者のデータを集め、その傾向から1年後の予測値を記入します。
まとめ方が分からない場合は、以下に紹介するテンプレートも活用してみましょう。
人員計画のテンプレート
ここでは一例として、部門別・役職別の人員計画のテンプレートを紹介します。自社の規模などに応じて、年齢別に細分化するなどのアレンジを加えてもよいでしょう。
部門 | 役職 | 現状 | 退職 | 採用 | 1年後 | 退職 | 採用 | 2年後 |
営業部門 | 役職A | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 2 |
役職B | 4 | -1 | 2 | 5 | -1 | 2 | 6 | |
一般社員 | 6 | -2 | 0 | 4 | -1 | 2 | 5 | |
経営企画部 | 役職A | 2 | -1 | 0 | 1 | 0 | 1 | 2 |
役職B | 2 | -1 | 2 | 3 | 0 | 1 | 4 | |
一般社員 | 4 | 0 | 0 | 4 | -1 | 1 | 4 | |
IT部門 | 役職A | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 |
役職B | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | 1 | 2 | |
一般社員 | 4 | -1 | 1 | 4 | 0 | 2 | 6 | |
研究開発部 | 役職A | 1 | 0 | 1 | 2 | 0 | 0 | 2 |
役職B | 2 | 0 | 0 | 2 | -1 | 1 | 2 | |
一般社員 | 4 | 0 | 0 | 4 | -1 | 0 | 3 | |
合計 | 31 | -6 | 7 | 32 | -5 | 12 | 39 |
なお、ここでは2年後に向けた人員計画としましたが、「退職」「採用」の列を右に増やしていくことで、それ以降の計画を立てることも可能です。
人員計画の進め方・運用の注意点
人員計画を立てた後の運用における進め方や、注意点をお伝えします。
採用計画をあわせて立案する
立案した要員計画・人員計画を踏まえて「採用計画」を立てることで、事業計画を実現するために必要な人材、人材の採用方法、選考方針が明確になり、事業の成果を上げやすくなります。
また、採用におけるミスマッチの改善や、採用選考時に求める人材に対してスピーディーに内定を出すことができ、候補者体験(※)の向上や、優秀な候補者を取り逃すリスクを軽減できます。
※候補者体験(採用CX)……候補者が企業を認知してから応募し、入社するまでの体験を向上させるための考え方。
採用計画では、以下の項目を立案します。
- 採用人数(何人採用するか)
- 人材の要件(どのような人材を採用するか)
- 選考方法(どのように採用するか)
- 採用コスト(採用の予算)
- 採用スケジュール(いつまでに採用するか)
人材の採用難易度も考慮する
専門資格の保有者や、マネジメント経験者など、採用難易度が比較的高い人材を採用したい場合、中途採用の活用が選択肢となるでしょう。しかし、ただでさえ多くの企業が優秀な中途採用者を求めており、転職市場における競争も激化しているなかで、これらの人材の採用難易度はさらに上がります。
「期日までに応募者が集まらない」、「内定を出しても辞退されてしまう」といった可能性も高くなり、人員計画通りに進まなくなる可能性があるため注意が必要です。
人員計画通りに進めるためにも、まずは「現場の要望(求める人材の要件)が高すぎないかどうか」を確認しましょう。現場の意見をそのまま人材要件とするのではなく、「自社が提示できる年収」と「求められるスキル」とのバランスをとることが大切です。人材市場の相場を確認して人材要件を調整したうえで、現場の合意を得ましょう。場合によっては人材要件の緩和や、ほかの条件(スキル)に置き換えられないかを検討します。
また、採用時期を調整することが有効な場合もあります。例えば、転職活動が活発化する3月~4月は、応募者が増える可能性が高く、母集団形成がしやすい時期と言えます。一方で、12月は求人数・応募数ともに少なくなる時期といわれており、この時期に採用難易度の高い人材を採用しようとしている場合は、ハードルがさらに上がるかもしれません。
求める人材の採用難易度を考慮して、人材要件や採用時期を調整することが大切です。
離職率を改善する施策もあわせて検討する
退職・休職などの不確定要素は人員計画に大きく影響を与えます。人材の確保を「新規採用」だけで考えるのではなく、メンタルヘルス対策などの既存社員のケアも検討しましょう。
人事部門として取り組める施策の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 定期的に健康診断を実施し、社員の健康課題を分析する。
- メンタルヘルスに関する相談窓口を設置する。
- 選考方法(どのように採用するか)
- 健康診断結果をデータ化し、経年変化を可視化する。
関連記事:社員の健康管理、どんな対策がある?|経営と人材をつなげるビジネスメディア「HUMAN CAPITAL サポネット」
また、自社の離職リスク要因を特定するために、「社員満足度の調査」を実施することも効果的です。調査をしていく過程で、人間関係の課題や他己評価への不満といった、コミュニケーション不足による問題が浮き彫りになることも多いでしょう。
まずは「離職が頻繁に発生している部署はどこか」を調査し、コミュニケーション不足が発生している要因や、人材が評価に満足できない要因を一つひとつ確認していくことが大切です。
人事部として実践すべき離職防止対策について、詳しくは以下の記事も参考にしてください。
関連記事:社員の離職防止に向けた効果的な対策|経営と人材をつなげるビジネスメディア「HUMAN CAPITAL サポネット」
人材配置(異動)計画を立案する
立案した人員計画を実行するために、人材の採用だけでなく、人事異動も視野に入れましょう。既存社員の適材適所を考慮して、所属部署や業務を変更したり、場合によっては勤務地を変更したりすることで、事業計画を実現しやすくなるケースもあるためです。
また、事業計画によっては、将来的な幹部候補となる人材を育成する目的で、さまざまな部署に計画的に異動させる「ジョブローテーション」を実施する必要も出てくるでしょう。さまざまな部署での経験を積んでもらい、全社的な視点を身につけてもらうことで事業の中核となる人材を育成することができます。
ただし、社員から見て合理性や配慮が感じられないような人事異動は、むしろ離職を招くきっかけとなるため注意が必要です。異動によって本人に期待することや将来的なキャリアパスなど、社員にとってのメリットを提示する必要があります。
既存社員の能力開発に取り組む
AIやビックデータといったテクノロジーの急速な発展により、それらを活用できる人材の獲得競争が激化しています。事業計画を達成するために必要なスキル・経験を持った人材が不足している場合は、新規採用だけでなく、既存社員の能力開発が有効なケースもあるでしょう。
実際の仕事を通じて職場の上司や先輩から学ぶOJTのほか、研修や通信教育といったOff-JTも手段のひとつです。いずれにしても、長期的な視点で自社に必要になるスキルを定義したうえで、能力開発の目的が社員に伝わるように能力開発計画を立てていきましょう。
まとめ
本記事では、人員計画の立て方やポイント、注意点を解説しました。人員計画に基づいて採用を成功させるためには、採用における判断基準やスケジュールを定めた「採用計画」の立案も重要です。また、採用以外の手段として、人材配置(異動)を行ったり、社員の能力開発を行ったりすることも検討してみましょう。
また、人材を確保する取り組みとあわせて、離職率を改善するための取り組みも同時に進めていくことが大切です。
いずれにしても「自社の事業計画を実現するため」という目的がぶれないように、長期的に自社に必要な人材を定義するフローが必要です。人員計画を立てる前に作成しておくべき「要員計画」について改めておさらいしたい方は以下の記事もお読みください。
関連記事:要員計画とは?作り方を徹底解説【テンプレートつき】|経営と人材をつなげるビジネスメディア「HUMAN CAPITAL サポネット」
社員の働きがいやモチベーションにも直結する人員配置を計画的に行うためにも、自社の状況に即した人員計画を立ててみましょう。次回は、人員計画を進めるうえで欠かせない「採用計画」の立案について詳しくお伝えします。
- 人材採用・育成 更新日:2023/08/29
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