転職予備軍をその気にさせる「スカウト採用」とは?
「いい話が来たから、転職しようかな」
転職活動なんてまったくしていなかった夫が、いきなりこんなことを言い始めた。
いったいどういうことかと聞いてみたら、「転職サイトに登録していたらいいオファーがきた」らしい。
なるほど、「確固たる意思を持った転職」ではなく、「いい話がきたらなんとなく転職」することもあるのか……。
そういう転職予備軍は、想像以上に多いのかもしれない。
「いい話が来たら転職してもいい」という転職予備軍
夫は大学時代にインターンした企業にそのまま就職し、かれこれ5年ほどそこで働いている。
上司の無茶振りや残業の多さをたまに愚痴ってはいたものの、わざわざ転職するほどでもないし、学生のときからお世話になってるし……と、かんたんに言えば「なんとなく働き続けている」状態。
しかし今年で30歳になったこともあり、「ずっと1社だけで働いているのはどうなんだろう」「ほかの企業でも経験を積みたい」と、転職サイトに登録したそうだ。登録といっても、自分の履歴書をアップしただけのようだが。
するとさっそく2人のエージェントから連絡があり、具体的にどういう仕事を希望しているかヒアリングされ、すぐに仕事の打診があったという。
残念ながらその2つは転職を決めるほど魅力的ではなかったそうだが、仕事内容や給料がよければ、「そのまま転職するのもアリかも」とのこと。
自分からは転職活動はしないが、いい話があれば転職してもいい。
こんな感じで夫は、転職待機状態、いわば転職予備軍になったのだ。
好条件でスカウトされてすっかり転職にノリ気に
さてさて、そんな夫は先日、上司との定期面談に呼ばれた。
インフレによりどこも賃上げが進むなか、提示された給料に唖然。夫だけでなく、チーム全員が怒るほどの微々たる昇給だったそうだ。
「ここにいてもキャリアのプラスにならない。もう辞める」
いままでも小さな不満は多々あったが、それでも転職するほどではなかった。しかし提示された給料が相場よりもあまりに低く、見切りをつけるきっかけになったらしい。
……実は上司との定期面談を行ったまさにその日、夫はとある大手銀行から連絡を受けていた。年収が2割ほど上がる、好条件のオファーだという。
日中突然知らない番号から電話が来て、「〇〇社の××ですが、あなたの履歴書を拝見しました。こういう仕事に興味はありませんか? こういった条件です」と告げられたとのこと。
上司との面談で待遇への不満が爆発したタイミングで、好待遇のオファー。
そりゃ当然、気持ちは転職に傾くだろう。
「とてもいいお話だと思います。詳しく聞かせてください」と即答し、さっそく来週にでも会おう、という話になったそうだ。
先週まで「いい話がきたら転職してもいいかなぁ~」くらいの気持ちで、転職準備なんてしておらず、ただ転職サイトに履歴書をアップしただけだった夫。
それでもいい話がきて転職につながるというのだから、わからないものだ。
7割が在職中に転職、転職準備なしが当たり前!?
転職者のうち、在職中に転職した割合は、なんと73.1%。*1
さらに驚くことに、転職準備を「特に何もしていない」人が66.1%と多数派で、「転職準備活動を行った」のは30.9%のみ。*2
「仕事を辞めて腰を据えてじっくり転職活動」するよりも、「在職中からすでに転職のアテを探す」ほうが多数派で、そのうえ転職準備していない人がたくさんいるのである。
これはつまり、「転職準備をガッツリしているわけではないし、いま在職中だけど、機会があれば転職してもいい」というスタンスの人がものすごく多い……ということじゃないだろうか。
たとえば、在宅ワークと出勤を交互にしているけれど、内心出勤は面倒だと思っている人がいたとする。
その人がふと、完全在宅でそこそこ待遇がいいオファーをもらったらどうだろう。
「やっぱり在宅がいいなぁ。最近残業も多いし、デジタル化を嫌うお偉いさんのせいでなにもかも非効率だし、転職を考えよう」なんて気持ちになりそうだ。
辞めるほどの不満があるわけじゃないけれど、より良い仕事があるならそっちのほうがいい。だれだって、そう思う。
そういう意味では、「転職する気満々の人は応募してください」という応募採用より、「こんな仕事に興味はありませんか?」というスカウト採用のほうが、多くの人にリーチできるかもしれない。
応募採用とはちがう、スカウト採用のメリット
スカウト採用は、企業にとっても転職者にとっても、応募採用とはまたちがったメリットがある。
まず、企業側。
応募型の採用では、事前に条件を提示し、それに該当する人が応募してくれるのを待つしかない。
条件に合致するターゲットにいかに求人情報を届けられるかが重要で、ターゲットに届かなければ応募してもらえないし、少しでも条件が合わなければ応募を見送られてしまう。
たとえば、「シフト制かぁ。早番だけでいいなら働きたいけど、遅番もやらないとダメなんだろうな」「始業時間が8時半だと保育園に送ってからじゃ間に合わない、9時だったら応募していたのに」なんて人もきっと、たくさんいるはずだ。
スカウト採用であれば、「条件に完全マッチはしていないが交渉の余地がある人」「積極的に転職したいわけではないがしてもいい人」に声をかけることで、本来応募しなかったであろう人を採用できる可能性がある。
一方、転職者にとっての大きなメリットは、交渉できるということ。
応募採用ではすでに条件が提示されているので、それを受け入れることが大前提。
しかしスカウト採用は向こうからお誘いがあるわけだから、転職希望者は強気に「こうしてほしい」と伝えることができる。
労働時間や給料など、面接では聞くと失礼にあたることも、スカウト採用ならば思い切って聞いてもいいだろう。それで相手が嫌な顔をして話がなくなったとしても、転職希望者は困らない。
さらに、自分のスキルを活かせる別業種の企業や、在宅ワーク可の遠方の企業など、自分からは応募しなかったであろう意外な企業から話をもらえる可能性もある。
そのうえ、毎日転職サイトとにらめっこしたり、何社も面接を繰り返したり、といった気の重いフェーズをスキップできるし、オファーをもらうことで自分の市場価値を客観視することもできる。
いい話がきたら儲けもの、くらいの気持ちで「転職待機」できるは、スカウト採用の大きな魅力だ。
スカウト採用は働きやすさにつながる可能性も
とまぁこんな感じでスカウト採用をおすすめしているわたしだが、よくよく考えてみると、これは企業にとってはとんでもなく恐ろしいことだ。
なぜなら、いつもどおり働いている部下がある日急に「辞める」と言い出し、しかも転職先ももう決まっていると言うのだから。そりゃもう、引き留めようがない。
つまり、スカウト採用が今後増えていくのならば、自社の社員としっかり向き合って、離職を防ぐ必要もあるのだ。
ちょっとした不満に気付けなかったり、相手のキャリアビジョンを無視していると、「いい話が来たんで辞めまーす」になってしまうから。
「有能な人材をいかに集めるか」はもちろん、「有能な人材の流出をいかに防ぐか」もまた、各企業の課題になるのだろう。
そういう意味では、スカウト採用をきっかけに給料交渉や待遇改善が進み、より働きやすい環境につながったり、ジョブ型の考えが浸透したりするのかもしれない。
「待つ」採用から「探す」採用へのシフト
企業の採用活動時の悩みのトップは「応募が集まらない」で、転職者の悩みのトップは「希望した条件の求人がない」。*3
応募が集まらないなら、自分から探しにいけばいい。
希望した条件の求人がないのなら、交渉すればいい。
その2つを可能にするのが、スカウト採用だ。
もちろん、条件が合う人が来てくれるからラク、自社のことを調べたうえで応募してくれるから安心感がある、転職サイトに登録していればある程度閲覧数が見込める、など、応募採用のメリットもある。
その一方で、応募できるほど100%条件が合致していない人や、応募するほどではないけど転職を考えている人へリーチするという意味では、スカウト採用が有効だ。
とくに、応募が少なくて困っている企業は、転職予備軍に声をかけるという積極的な姿勢が今後必要になっていくだろう。
2022年度、平均有効求人倍率は1.31倍。有効求人は前年度に比べ10.8%増えた一方で、有効求職者は2.0%減っている。*4
業種によって傾向がちがうとはいえ、人材確保に四苦八苦している企業は多いはず。
募集を出して待っているだけで条件にぴったりの人がやってくるのであれば最高だが、なかなかそうはいかない。
だからこそ、「待つ」採用ではなく、「探す」採用の方法を考えれば、もっとちがうやり方が見えてくると思う。
転職希望者に直接連絡できるサービスの利用はもちろん、アクセス履歴を確認できるタイプのサービスであれば、自社の求人にアクセスしたけれど応募をしなかった人に連絡を取って交渉してみる、なんてのもアリだ。
終身雇用が終わったいま、転職のハードルはどんどん低くなっている。
ただ待っているだけではなく、転職希望者やその予備軍にうまく声をかけて、自分から「転職させてしまう」くらいのほうが、希望の人材と出会える確率は上がるのではないだろうか。
- 人材採用・育成 更新日:2023/08/17
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