社員が働きながら安心して妊娠・出産できる職場を作るためにすべきこと。
「社員が妊娠したとき、どのように対応すべきか?」
この問いは、現代の職場において非常に重要です。
ワークライフバランスを重視した働き方や、人口減少に対する危惧から、女性が妊娠・出産と仕事を両立できる環境の整備が、求められています。
この取り組みは、社会的な意義に寄与するだけでなく、企業の存続にも直結します。適切な対応を怠れば、社員の離職や人材の定着率低下という深刻な事態につながるリスクがあるためです。
本記事では、社員の妊娠にポジティブな対応をしていくために、会社として何ができるのか、考えていきたいと思います。
会社が受け止めるべき2つの不安とは?
妊娠・出産を控える社員と、それを支えるメンバーの双方に存在する「不安」の存在を認め、向き合うことが必要です。
以下でそれぞれ見ていきましょう。
働きながら妊娠・出産をする社員の不安
妊娠・出産を控える社員は、さまざまな不安の中にいます。以下に一例を挙げます。
妊娠した社員が抱える不安 |
---|
|
ただでさえ大きな不安を抱えているところに、不利益な取り扱いやハラスメントがあれば、そのダメージは計り知れません。
現場を支える社員の不安
一方、現場を支える社員にも不安があることに、会社は配慮すべきといえます。
妊娠・出産する社員の不在に伴うチームメンバーの不安は、本来、会社が適切に対処すべきものです。
現場社員の不安 |
---|
|
不安の存在を認め解決を探るのが会社の役割
妊娠する社員と現場の社員の双方に不安が「ある」ことを認め、それらの解決を図るのは、会社の重要な役割です。
たとえば、現場の社員が自分の負担の増加を懸念することは自然な反応です。会社がこれを精神論で抑えつけるのは、適切ではありません。
このようなアプローチは、結局、妊娠した社員に対する不満へと変わり、問題を深刻化させる恐れがあります。
健全でポジティブな職場環境を構築するためには、一部の社員を犠牲にする依存構造から脱却する必要があります。
社員の不安や懸念を真摯に受け止め、それらに対処することで、すべての社員が協力し合い、支え合う文化を育むことが大切です。
組織の心と業務にあそびをつくるアプローチ
では、具体的にどのような取り組みができるでしょうか。
ここでは、組織の心と業務に “あそび” をつくる4つのアプローチをご紹介します。
現場の社員も法律を理解してもらう
先手を打った採用戦略
組織のバッファの取り方
コソーシングの活用
1. 現場の社員も法律を理解する
最初に行いたいアプローチは、現場の社員も法律を理解することです。
性別や年代問わず、自身が当事者になったことのない社員は、妊娠中の社員が法的にどのように保護されるか、知識がありません。
知識のなさゆえの不公平感は、知識を得ることで解消できます。たとえば、以下のような情報を社内で共有するとよいでしょう。
妊娠中の職場生活 |
|
---|---|
時間外、休日労働、深夜業の制限 |
妊娠中は、時間外労働、休日労働、深夜業の免除を請求できます。 変形労働時間制が適用される場合も、 1日及び1週間の法定労働時間を超えて労働しないことを請求できます。 (労働基準法第66条) |
軽易業務転換 |
妊娠中は、他の軽易な業務への転換を請求できます。 (労働基準法第65条) |
危険有害業務の就業制限 |
重量物を取り扱う業務、 有害ガスを発散する場所等における業務については、 妊娠・出産機能等に有害であることから、妊娠中はもとより、 全ての女性を就業させることが禁止されています。 (労働基準法第64条の3) |
*1
2. 先手を打った採用戦略
先手を打った採用戦略も、欠かせません。妊娠・出産を含む、さまざまなケースを事前想定した採用戦略は、組織の安定に不可欠です。
以下は、具体的な取り組みの一例です。
データドリブンな意思決定
予測モデリング(データ分析をもとに将来発生する可能性の高い結果を予測する手法)などを活用して、より精度の高い将来の見通しを算出します。データを元にした意思決定が、的確な打ち手につながります。柔軟な働き方の提供
リモートワーク、フレックスタイム、パートタイム制などを取り入れて、多様な人材を確保します。柔軟な勤務体制を実現し、さまざまなライフスタイルを持つ人材を受け入れる体制を整えておきます。スキルベースのキャリアパス計画
社内の人材育成に重点を置き、スキルベースでのキャリアパスを構築します。特定のスキルや専門知識を持つ社員を育成することは、将来の人材不足を社内で解消するために重要です。
これらの戦略は、不確実な将来の人材不足をマネジメントし、業務の安定的な継続性を保つ鍵となります。
3. 組織のバッファの取り方
予期せぬ事態に短期的に対応するためには、常にバッファ(余裕)を持った体制で業務を遂行することが重要です。
以下はそのアイデアの一例です。
平常時の残業ゼロ
社員のワークライフバランスを保ち、緊急時の余力を確保するため、平常時は残業を極力減らす方針をとります。効率的な業務管理や、勤務時間内に業務を完了する姿勢を促進します。業務の優先順位付け
緊急かつ重要な業務にリソースを集中させつつ、緊急ではないが重要な業務にも日常的に取り組む文化を醸成します。このアプローチは、組織の成長性を高めると同時に、常に適切なバッファを確保することにも寄与します。例として、長期的なプロジェクトや社員のスキルアップに必要な活動に注力します。代理担当者や交代制の整備
社員の急な不在に備え、代理担当者の指定や交代制を整備します。属人化したタスクがないようにし、どの社員が休職したとしても、業務が滞らない体制を確立しておきます。
組織の柔軟性が高まり、個人に対する依存や負荷の偏りが是正されると、働く社員たちの精神面に余裕が生まれます。
このような土壌が整っているからこそ、すべての社員が協力し合い、支え合う文化を育めるといえるでしょう。
4. コソーシングの活用
最後にご紹介するコソーシング(co-sourcing)は、アウトソーシングとインソーシング(内製)を組み合わせた形態のことです。
“コ(co-)”は「共同」や「協力」を意味します。
一般的なアウトソーシングとは異なり、コソーシングでは、共同で業務を遂行します。社員を新たに採用するのではなく、社員のような役割を社外のメンバーに担ってもらうイメージです。
アウトソーシング
外部企業に一定の業務を委託することです。コスト削減・効率化・リソースの最適化などを目的としています。インソーシング
社員が業務を行うことです。いわゆる「内製」を指しています。コソーシング
社員と外部企業が対等に業務を行うことです。受託側と委託側が協力してプロジェクトに携わります。
コソーシングは、比較的新しい概念であり、イメージがしにくいかもしれません。
筆者自身が経験したケースでは、ある部門のマネジャーが産休に入った際、取引先企業の社長に、一時的に、マネジャー業務を一任したことがあります。
コソーシングの活用は、社員の妊娠・出産などのライフイベントに伴う人員変動や、特定の専門知識が必要な状況に柔軟に対応するために有効な戦略です。
ただし、この戦略を突然始めても、効果的な展開が難しいことがあります。あらかじめ体制を整え、経験を積んでおくことが重要です。
平常時からコソーシングを活用し続けることで、社内リソースの補填が必要になった際にも、迅速かつスムーズなスケールの調整が可能になります。
さいごに
会社は、社員一人ひとりのニーズを理解し、適切に対応することが求められます。これは、単にコンプライアンスやCSRの観点だけでなく、組織文化の醸成という観点からも重要です。
社員のライフイベントを積極的にサポートすることで、より強固に信頼し合える組織が築かれていきます。
社員一人ひとりが「おめでとう!」と心から言えるような職場環境を実現することが、企業にとっても社会にとっても価値のある目標です。
この目標に向かって、一歩ずつ前進し続けることが、今後の私たちの課題といえるのではないでしょうか。
- 人材採用・育成 更新日:2024/05/22
-
いま注目のテーマ
-
-
タグ
-