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社員の育休を“キャリアアップ”の観点から支援する方法

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こんにちは、若林です。厚生労働省から公表された「2019年に育児休業を開始した人(育児休業の申出をしている人を含む)の割合」は、女性83.0%男性7.48%となりました。女性の取得率はここ10年ほぼ横ばいですが、母数となる女性労働者数が増えていることもあり、「育休を取得する社員が、ここ数年増えてきた」と、人事の皆さんも実感されているのではないでしょうか。さらに、男性については10年前の1.72%から比較して4.3倍上昇しています。

育休の取得を促すための育児介護休業法が国会で改正される見込みであることなど、「育児休業」というテーマがますます存在感を増していくなかで、会社は「育休を取得する社員」に対してどのように向き合っていけばいいのでしょうか。社員のキャリアアップを支援するという観点から考えていきたいと思います。

「育休」のイメージが変わった私の原体験

私が2回目の育休を取得するまで、「育休」という言葉で思い浮かんでいたイメージは「ブランク」「スキルアップが出来ない期間」「仕事をしたくても出来ないもどかしい期間」などでした。

そして、1回目の育休では、そのイメージ通りの過ごし方をし、育児・家事以外はほぼ何もせずに過ごしたという経験があります。子どもとの時間を堪能できたのですが、復帰後の課題を甘く見積っていて、「今までも乗り越えてきた。今回もなんとかなる」と思い、自己啓発をするに至りませんでした。

そして復帰後、いわゆるワーキングマザーが経験する障壁を私も同じように目の当たりにし、「仕事がしたいのに、思うように出来ない」「期待に応えられるだけの仕事が出来ておらず、どんどん失望させてしまっている」と、労働制限がある働き方への打開策が見つけられず、苦悩の連続でした。

その後、2人目を授かり、2回目の育休を取得する際に抱いたのは、「このまま職場復帰するのは危険」という強い危機感でした。こんなにも自己肯定力が下がっている状態で、再度復職をすることは自分にとっても会社にとってもリスクだと感じ、まずは、「労働制限がある状態でも自分が会社に貢献できることは何か」を設計するところからスタートしました。

このように、育休2回目は、1回目と過ごし方を180度変えたことにより、「抱いていた育休のイメージが変わる」という体験をしました。どのように過ごし方を変えたのか、詳しくは後述しますが、育休に対して自分の意識を変えるだけで、得られる価値が変わることにとても驚きがありました。

1回目の育休を迎えた私のように、「過ごし方」に対する意識が乏しいだけで、知っていたら育休中にもっと色んな経験ができた女性もいるのではないか。後悔しない育休中の過ごし方を考える機会があれば、育休を自分の人生にとって価値のある体験にできるのではないか。そして、それに向けて会社が前向きに応援すれば、社員にとって“この会社で働く価値”は、さらに向上するのではないか。そんな想いが湧いてきました。

育休中のキャリアアップはあくまで社員主体に

復帰後に会社に貢献できる状態を、育休中に自分自身で作っておくために、自己啓発の観点でできることは、じつはたくさんあります。つまり、育休中に自己啓発によって自分のキャリアアップになる活動を行うことは可能なのです。

会社側が注意すべき点としては、育休を取得する社員に対して「スキルアップ支援を強要すべきではない」ということです。「育休期間中に自分の能力開発をするべき」というスタンスでいくと、社員の会社への信頼を失ってしまいます。

当事者のニーズに合わせて支援するスタンスが重要

育休期間中の社員の自己啓発活動を会社が支援する目的は、「社員に、後悔のない育休を過ごしてもらう。そして復帰後も自分らしく活躍できるような基盤を、自分で設計できるように支援する」ことにあります。

社員に、さまざまな育休中の過ごし方の事例を知ってもらい、社員自身の理想とする育休イメージを固めてもらうこと。そして、その過ごし方に向かうための一歩を会社として後押しすることを目指していただければと思います。具体的には、復帰後の働き方や、理想の成果の出し方を深くイメージできるように支援することや、育休中の過ごし方の事例を情報として提供していくなど、さまざまな取り組みが考えられると思います。

育休は、社員にとっての大きな転機となる可能性を秘めています。仕事中心だった視野を外の世界に目を向けるチャンスであり、本人の働き方を大きく変えるチャンスでもあるのです。

社員に目的意識を持たせるために人事が知っておくべき「育休中の過ごし方」

では、「実際にどのような過ごし方ができるのか」、「その過ごし方は復職にどんな影響を与えるのか」などを踏まえて、育休の過ごし方について、いくつかご紹介したいと思います。

①自分自身の理想を描く。ロールモデルをみつける。

私が2人目の育休に入ったときにまず行ったことは、社外のロールモデルを探すことでした。本業でも時短で働きながら昇進をしている女性や、本業以外にもライフワークとしてワーママ(ワーキングママの略)のコミュニティを創設している女性にも出会いました。

ロールモデルを探すにあたっては、働き方はもちろん、「理想とする成果の出し方」という視点でも探したので、「時短で昇進」という事例が私にとっては衝撃的で、今まで自分自身が陥っていた「期待に応えられないワーママ」という概念を覆してくれるものでした。自分の努力次第で、ワーママも十分活躍できる。そんな女性もいるのだと、改めて視野が広がった気持ちでした。

もちろん、理想とする働き方や生き方は人それぞれです。一人ひとりに、自分に合ったロールモデルがいるはずなので、そのロールモデルを探してほしいと思います。探しても見つからない場合は、自分自身で理想のロールモデルを体現するという意識を持ってもらえればと思います。

②キャリアを見つめなおす。生き方を見つめなおす

私は2人目の育休中に、ロールモデルを探しながら、「どう生きたいのか」「なぜ仕事をするのか」を自分に問いかける必要がありました。大きな転機によって人生が一変するなかで、苦しい瞬間は誰しも訪れます。そんなときに、ライフキャリアを見つめなおし、働く目的を再構築することは、頑張りぬくための根拠として必要なことだと感じています。

私自身は、3回まで無料で支援をしてくれる、厚生労働省のキャリア形成サポートセンターを活用しました。面談のなかで、自分が感じている不安や、一人ではなかなか言語化しづらい自分自身の強み・弱み、今後の目標などについて話しながら考えることができ、非常に有用な時間でした。

キャリア形成という視点から少し離れて、もっと生き方の部分にフォーカスしたい場合や、自分自身の心の声・本音を確認していきたいという方は、コーチングの活用も検討するとよいと思います。

③スキルアップする

①②で考えた自分の描きたい未来に対して、必要となるスキルアップをする時間に充てるという過ごし方です。新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて、自宅からオンラインで参加できる勉強会やセミナーが格段に増えたため、子どもを誰かに預けなくても勉強できる機会が増えています。

もちろん、産まれてきた子どもの状態によって、時間の確保ができる状況かどうかは左右されると思いますが、順調な発育で問題ない場合、子どもの首が座ってくるとおんぶができて、家の中でも両手が空いて自由な時間が作れます。生後4か月以降であれば、育児支援を目的に、安価に一時預かりをしてくれる自治体の仕組みもあるため、週に何度か子どもを預けて自己学習の時間に充てるというのも一つの方法だと思います。

親にとっては自己啓発のための時間の確保。子どもにとってはママ以外の人に見守ってもらう経験で、保育園への準備期間にもなります。

ここでは、スキルアップしたい場合のおすすめとして、「資格取得」や「勉強会・セミナー」、「スクール・学校への入学」を紹介します。

1.資格取得

自分の業務に関連性のある資格取得、MBAなどが考えられます。MBAはMaster of Business Administrationの略称で、日本語では経営学修士号、または経営管理修士号と呼ばれる学位です。

2.勉強会・セミナー

復職に向けた講演を行う無料セミナーも数多くありますし、ディスカッション形式の勉強会なども非常に学びが深くておすすめです。

3. スクール・学校への入学

育休中の人向けに手厚い制度を兼ね備えたスクールもあるようです。 例えば、バナー広告制作などが出来るようになるデザインを中心としたカリキュラムや、youtubeなどの動画編集向けのカリキュラムなど、自宅で時間調整ができて個人でも仕事が請け負えるような状態を目指したものも多いようです。

私が特に素晴らしいなと思ったのは、1か月間受講後、実際に個人で仕事を請けて「業務」として行った制作物(ポートフォリオ)が手元に残るところまでを伴走してくれたり、1か月受講後も質問相談会が定期的に開かれたり、別カリキュラムのオンラインでの無料受講権利などスキルアップに対して手厚いフォロー体制があるスクールです。また、シッター代を補助してくれて無料でPC貸与してくれるなど、育休者の困りごとも網羅されていることも驚きでした。この他にもいろいろなオンライン学習プログラムが、さまざまな会社から出ていると思います。

④子どもとの関わり合いを充実させる

本来はこのために育休を取得するので、こちらに紹介するまでもないかもしれませんが、子どもとの時間を濃密に過ごせるようにいろいろな活動をしてみるとよいかもしれません。 特に、復帰後は子どもとの時間が激減することに不安を感じる方も少なくありません。限られた時間のなかで、子どもと過ごす時間を濃いものに出来れば、就業後の自身の精神的な安定にも繋がっていきます。

  • ベビーマッサージ
  • ベビートイ検定
  • 育児日記やブログ、写真・動画での記録
  • 習い事、子どもの知育教材選び

⑤仕事・家庭以外のところにも視野を広げる

最後に、視野を広げる活動も、この時期だからこそできることだと思います。例えば、ボランティア活動や育休留学などをすることで、仕事や家庭といった普段の自分の生活圏では得られない価値観や物事の捉え方・視点を養うことができます。そういった異文化の体験というのは、実際の業務に戻ったときに非常に役立つスキルの一つになります。

なぜかというと、今後、組織人にとってダイバーシティ&インクルージョンが求められ、「異質な人たちとの議論のなかで、いかにイノベーションを生み、最短で最適解を見いだしていくか」というスキルがますます重要性を増していくためです。そのため、社員がさまざまな価値観に触れ多様性の感覚を養っていくというのは会社にとっても非常に価値のあることだと思います。

1.ボランティア活動

ボランティア活動として、会社・自治体・NPOでの依頼に取り組むことは、自分の視野を広げる活動になっていくでしょう。

ボランティア団体の仕組みを利用して活動する人や、「育休インターン」と称して興味のある会社に自ら直談判をし、期間限定で業務に従事させてもらう人もいるようです。

2.育休留学

今はコロナ禍で海外への渡航が難しい状況ですが、コロナ以前には、配偶者を日本に残して子どもを連れて海外への語学留学をする女性もいたようです。現在は、海外留学は難しいものの、日本国内の興味のある地域へ国内移住をするなどができれば、有意義な経験となるかもしれません。

実際に、私の友人夫婦は、育休中に半年間限定で地方に家族で短期移住し、その土地で短期のプロジェクトに従事しながら衣食住の営みを経験したことで、地方で抱えている課題や現場のニーズを実体験として把握することができたそうです。移住先で得られた情報によっては、ビジネスの新たな発想も湧いてくるかもしれません。

3.復帰後の準備

育児が始まることによって、自分の生活におけるニーズも一変します。復職後、どんなサービスを活用するべきか、ニーズを想定・整理して情報を集めることで復職後の業務の一助となります。例えば、以下のようなサービスもあるようです。

  • 子どもが発熱した朝にも子どもを安心して預けられて仕事に行くための病児保育サービス
  • 帰宅してお腹をすかせた子どもにすぐご飯を提供することが出来る作り置きサービスやミールキットサービ
  • 土日の限られた時間を子どもとの時間に使いたいと考える人にとって有効な家事代行サービス

このように、自分が必要とするサービスを調べて取捨選択していくとよいでしょう。

そして、復帰後はなにより体力が必要です。身体ケアのためにヨガを初めたり、ウォーキングや筋力トレーニングを通じて身体づくりに励んだりすることも非常におすすめです。

以上が、私が調べた中で出逢った、素敵な育休の過ごし方になります。

こうした参考事例も交えながら発信し、社員一人ひとりが、「育休を将来会社に価値を提供できる時間にしよう」と思える過ごし方を見つけられるのがゴールだと思っています。 多岐にわたる過ごし方を知り、自分らしい活動を取捨選択して自らの育休計画をたてることで、「育休」に対する目的意識が生まれてくるのではないかと思います。

育休を取得する社員に対して人事ができる支援とは

具体的な支援方法として、育休を目前とする女性に対し集合研修(オンラインでも実施可)を行うことが有効です。研修の内容は、社員からニーズをヒアリングして検討することが望ましいですが、いくつか参考としてご紹介したいと思います。

①情報支援:妊娠後期~出産後における女性のからだの変化・心の変化について

出産前後はホルモンの変化が激しく、心身に大きな影響を与えます。その変化について知っておくことで「一時的な状態変化だ」と焦らずに受け止めることができたり、パートナーへの理解や協力を求めることができたりするようになります。パートナーとの良好な関係性は、産後の女性が前向きになるための前提条件になりますので、その目的で情報支援をしていきます。

②情報支援:先輩パパ・ママの育休事例 体験談の共有

上述したような過ごし方を紹介する方法でもいいですし、実際の育休取得者をスピーカーとして体験談を話してもらい、質疑応答の時間を設けるなども、育休中のイメージが具体化しやすいのでおすすめです。育休の過ごし方の多様性を知ってもらうということを目的にしていきます。

③個人ワーク&宣言:自分の理想とする育休を考える

一人ひとり理想の育休の過ごし方は異なり、自分の中にしか答えがありません。どのような過ごし方が後悔のない育休に繋がるか、「私の育休テーマ」という題目などを設定し、個人で検討してもらいます。そして、そのテーマを全体へ発表してもらい、参加者たちで感想を話し合いましょう。目的は、個人の中にあるイメージの言語化と目標設定、そしてその目標に向けて相互に応援しあう仲間づくりです。

社員が自らの意志で育休中のスキルアップに向けて動き出せるように、会社が社員に対して上記のような機会を提供し、支援していただきたいと思います。

まとめ

「職場復帰時の支援」は、現在では多くの会社で導入されていることを目にするようになりましたが、育休期間中にフォーカスした支援については、まだ実施されているケースは少ないように思います。育休取得に対してはまだまだネガティブな印象があることも事実で、取得に際しての業務の引継ぎ・個人の業務負担量の逼迫など、多くの課題が挙げられます。

この課題を踏まえて、育休を機にチームとしての働き方を見直したり、属人化されていた業務フローからの脱却を図ったりすることで、個人にとっても中長期におけるキャリアチェンジ計画・スキルアップ計画のチャンスにも繋がる可能性があります。

育休の取得者は今後増えていくことが予想されるため、会社にとっても個人にとっても、「育休」をただネガティブなものにしておくのではなく、付加価値の意識でみることが必要になってくるのではないでしょうか。

会社としてはぜひ、社員に対して「育休前」に実施するキャリアアップ支援を検討していただきたいと思います。

  • Person 若林 聖子
    若林 聖子

    若林 聖子 大手エンジニア派遣会社 採用マネージャー/国家資格キャリアコンサルタント

    求人広告代理店で営業職、エンジニア派遣会社で人事労務事務を経て現職。二児の母。自社の採用組織のマネジメントを経て、子会社の採用組織立ち上げを経験し、在籍9年間で採用した人数は中途新卒併せ2000名を超える。育児をする傍らグループ会社の採用アドバイザーとして従事し。数十名から数千名まで様々な会社規模の採用部隊に対してフォローを行う経験を持つ。

  • 労務・制度 更新日:2022/03/15
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