経営・ビジネスを加速するための人材育成プログラムの考え方とは?(後編)
研修プログラムの企画は、「あるべき人物像」と「対象者の現状」とのギャップを「人材育成課題」と捉え、その課題を解決するためのプログラムを企画する、というプロセスで検討を進めます。しかし、いきなり「当社のあるべき人物像とは?」と考えても答えは見つかりません。その答えを導く鍵は、あるべき人物像の背景にある、自社の経営環境や戦略を理解することにあります。「自社の事業特性としておさえておくべきことは何か」「自社の事業を取り巻く重要な環境変化は何か」「環境変化を踏まえた事業課題は何か」「事業課題を解決するために必要な組織・人材の能力は何か」といった問いを立て、自社のあるべき人物像へと落とし込んでいきます。
つまり、人材戦略はそれ単体で考えるのではなく、自社の「経営戦略」と整合した「人材戦略」を立案することが重要です。経営戦略への理解を深めることによって、タイトルにある「経営・ビジネスを加速するための人材育成」を実現することができるのです。
あるべき人物像を定義する際に、「社内の主要人物にインタビューをする」という手法も有効ですが、その場合、外部環境や自社の戦略の変化を踏まえて、「これまでのあるべき人物像とこれからのあるべき人物像は同じなのか」「今社内で主要なポジションにいる方をモデルとして良いのか」を確認のうえ、あるべき人物像を定義するプロセスを検討されるとよいと思います。
「人材育成課題」が特定できたら、今回のプログラムにおいて、どのような到達点(ゴール)を目指すかを検討します。「プログラム修了時に、対象者の認識や知識、意欲がどのような状態になっていると理想か」を考えたい訳ですが、ここにも難所があります。成人の成長は、70%が「仕事上の経験」から、20%が「他者のアドバイス・フィードバック」から、10%が「研修や読書」からの学びによって促進されると言われています。
つまり、「研修だけであるべき人物像に到達することや、全ての人材育成課題を解決することは非現実的である」ということです。そのため、「今回のプログラムで特に強化すべきものは何か」「実務の中で成長・訓練することが難しく、Off-JTでこそやるべきことは何か」について考え、対象者の現状やプログラムの期間・日数などの制約も踏まえて、現実的なゴールを設定することがポイントです。
ついゴールを高く設定してしまいがちですが、そうすると、研修受講者に無理を強いることになりモチベーションが下がる、講師の指導の力点がぼやける、といったことが起こる懸念があります。
プログラムのゴールを設定したら、ゴールに到達するうえで、対象者が持つべき認識や備えるべき能力・知識をさらに具体化・細分化し、集合研修の場のみならず、インターバルでの自己学習やグループワークなどの機会も含めて、学習体験全体をデザインしていきます。コンテンツも含めた具体的なプログラム案は、我々グロービスのような研修サービスを提供する企業が様々なアイディアを持っていますので、パートナー企業と議論をしながら内容を具体化していくことをお勧めします。
その際、ここまでに検討したあるべき人物像やプログラムのゴールに必ずしも拘りすぎず、それらとプログラムの内容を行ったり来たりしながら、一貫性・整合性を担保できるとよいと思います(パートナー企業との議論の中で、新たな議論・検討のポイントが出てくることも、多いにあると思います)。
また、昨今のデジタル化の流れを踏まえて、「学び方」の選択にも少し触れておきたいと思います。デジタル化の進展により、オンラインを活用したセッションの実施も年々増えており、学習データの蓄積・解析による学習テーマの個別化など、学習効果向上への期待が高まっています。個人に合わせて学び方が多様化するのはよいことだと思いますが、一方で、「この内容はe-learningでよいだろう」といった安易な置き換えには注意が必要です。
「学び方」は、学習テーマの特性に沿った選択が必要であり、具体的には「定型化された学習(フレームワーク等の知識習得)」なのか、「非定型な学習(考え方を習得する、認識を変える、意欲を醸成する 等)」なのかなどをよく見極める必要があると思います。
- 人材採用・育成 更新日:2020/07/29
-
いま注目のテーマ
-
-
タグ
-