社員育成にAIを活用、人事担当者が気を付けるべきこと
ここ数年、人事担当を取りまく情報システムのあり方が、少しずつ変わってきています。人事関連のイベントや講演でも、2014~2015年頃から「HRテック」「AI」「ビッグデータ」「クラウド」という言葉を頻繁に聞くようになりました。経理や生産管理、営業といった他職種に比べて、比較的にITの活用が遅れていた人事業務の最前線にも、ようやくさなざまな情報システムやツールが導入され始めています。
そんな中、次世代の本命とされるのが、「AI」(人工知能)を搭載したタレントマネジメントシステムです。
しかし一方で、「AI」も「タレントマネジメント」もなかなか手が付けられていない、という会社も多いのではないでしょうか。本稿では、まさにこれから「AI」をどのように人事管理業務に取り入れていけばいいのか、手探りで少しずつ進めていく段階にある企業の人事担当者向けに、その効果や課題をできるだけやさしく解説していきます。
日本でも2010年代に入り、少子高齢化が進行する一方で、さまざまな人材が多様な働き方を志向するようになってきました。これまでの高度経済成長時代のように、「人事のプロ」が経験とカンだけを頼りに、画一的な人材開発メニューを提供していたのでは、到底、社員一人ひとりの能力を底上げするのが難しくなってしまいました。人材の流動性も非常に高くなったまま、採用市場も逼迫しています。魅力的なキャリアパスや人材開発メニューをきめ細かく用意できない会社からは、どんどん能力のある社員が見切りを付けて出ていってしまいます。
こういった時代背景の要請に応じて、人事系情報システムが急速に高度化するとともに、「タレントマネジメント」という欧米発の新たな人材管理手法が日本に急速に浸透しつつあります。
では「タレントマネジメント」とは、具体的にはどういったものなのでしょうか。まずは、正確な定義を見てみましょう。
タレントマネジメントの本場・アメリカの人材マネジメント協会SHRM「2006 年度版タレントマネジメント調査報告書」によると、タレントマネジメントとは、「人材の採用、選抜、適切な配置、リーダーの育成・開発、評価、報酬、後継者養成等の各種の取り組みを通して、職場の生産性を改善し、必要なスキルを持つ人材の意欲を増進させ、その適性を有効活用し、成果に結び付ける効果的なプロセスを確立することで、企業の継続的な発展を目指すこと」とされています。
もう少し噛み砕いて説明すると、各社員の所属部署変遷・昇級昇格・賞罰・勤怠などといった人事情報や、獲得スキル、業務経験などをデータベースとして一元管理することで、ITの力を積極的に活用して、「効率よくできる人を育てていこう」という考え方です。
そのため、昨今「タレントマネジメント」の導入を検討する時は、基本的に「システム」「ツール」といった何らかのソフトウェアの導入(=タレントマネジメントシステム)とセットで話が進むことが多いのです。それでは、タレントマネジメントシステムを導入すると、どういった効果が得られるのでしょうか?
Web面接を始めるにあたって、あれこれ用意するモノが多いのではないか。初期費用にお金がかかってしまうのではないか。そんな心配をされる方もいます。実は、Web面接は新たに何かを買わなければ始められない、ということは特にありません。Web面接に必要なモノは、カメラ内臓のPCやスマホのみ。そこにSkypeやFaceTimeなどのアプリをダウンロードして、ネット環境が整えば、どこでも面接を行うことができます。
ただ、外出先では面接中の会話が気になることも。会話の内容によっては外に漏らしてはいけない情報もあります。そうした心配も、近年のテレワーク拡大の動きによって解消されてきました。外出先でもWeb面接ができるように様々な環境が整ってきたため、続々とWeb面接を導入する企業が増えています。
タレントマネジメントシステムの導入によって、人事が実感しやすいメリットは、人事業務の生産性向上です。システムでデータを一元化して整理できるので、導入時の大量データ入力作業さえ乗り切ってしまえば、それ以後、圧倒的に「情報を探す」時間のムダが省けるのです。
少し考えてみて下さい。日常業務を振り返ると、意外にも「何かを探す」作業に、多くの時間を費やしていませんか?「あの履歴書はどこにあっただろうか・・・」「◯◯さんの入社以来の社内研修受講データはどうなっているだろうか・・・」といった探しものやデータ抽出で費やすタイムロスは、相当なものがあるはずです。こうした作業工数を一掃し、本来人事がやらなければならない仕事に集中できるようになるのであれば、魅力的ですよね。
そして、もう一つのメリットは、戦略的な人材活用が可能になることです。大量の人事データを一元的に管理・分析・活用することにより、適正な業績評価・人材配置・適正人事ができるようになります。たとえば、以下のようなことが可能になるでしょう。
- 勤怠データの傾向を分析することにより、退職者予備軍を抽出し、離職防止に役立てる。
- 各社員に対して、理想的な社内キャリアパス構築へのフォローアップが可能になる。
- 社員研修やアンケート結果を数値化することで、各社員の能力向上のヒントが得やすくなる。
- 採用プロセスで活用することで、自社に適した人材を効果的に採用できるようになる。
よく経営上の格言で「数字はウソをつかない」と言われますが、それは人事業務にもそのままあてはまるのです。従来、人事担当や管理職が「経験」と「カン」で進めてきた人材開発が、客観的な「数値化されたデータ」によって、判断できるようになります。
それでは、従来の情報システムとは何が違い、タレントマネジメントにAIを使うと何が変わるのでしょうか?
その答えは、「より一層の生産性向上と分析の正確性・客観性が得られる」ということです。なぜなら、AIは、従来のシステムとは違い、情報を一元化することで収集されたデータの「分析から活用」まで踏み込んで支援してくれるからです。
システム導入を行うことでデータの検索性は向上しますが、従来のシステムでは、そこからは人力でデータ分析と仮説検証を繰り返し、答えを導かなければなりません。その点、AI=人工知能は、タレントマネジメントシステムがデータを分析するために使うロジック/プログラムおよび、分析する際に指定するパラメータを与えておけば、データ収集・管理のみならず、「分析、活用」までを人間の代わりに、人間より遥かに正確に処理します。人事は、AIが出した答えをチェックし、判断するだけで済むようになります。つまり、人間が「考える」部分まで、ある程度、代理でやってくれるのがAIを搭載したタレントマネジメントシステムの強みと言えるでしょう。しかも、大量の人事データをAIに学習させることでAIはどんどん賢くなっていきます。
そして、AIを活用することによって得られた正確なデータ分析結果を元に、人事は、より本質的な人材開発業務に専念することができるのです。
インターネットや専門雑誌を見ると、「数万人規模のグローバル優良企業において、AIを全面的に活用した総合人事管理システムを戦略的に活用中・・・」といった記事も頻繁に見かけるようになりました。しかし、あくまでこれは一部の例外中の例外だと考えて下さい。
実際に、これからAIによるタレントマネジメントをゼロから検討するのであれば、最初は焦らずに、ツールレベルの部分的な導入でテストすることから始めることを推奨します。導入対象部署も絞り込みましょう。はじめから全社レベルで一斉導入するのではなく、人事と近い間接部門に限定するなど少しずつ試すのが無難です。
一気に導入を進めると、既存の業務フローとの整合性や導入に関わる膨大な事務工数、周囲関係者の理解不足など、さまざまな問題が障害となって失敗リスクが高まることでしょう。
少子高齢化が進行し、今後も慢性的な人材不足が予想される中、人材を効率的に育成するためには、AIを活用したタレントマネジメントは非常に有望な手段と言えます。ただし2018年時点ではまだまだAIの役割は限定的でもあり、必要以上の期待は禁物です。自社の状況を見ながら、少しずつ無理のない範囲でシステム導入や仕組みを構築していくことを心がけていきましょう。
また、運用にあたっては社内周知にも同様の配慮は必要です。
もしあなたが人事担当ではなく、他部署の社員だったとして、ある日突然「AIによる社員管理をはじめます」・・・と社内でアナウンスがあったらどのように受け止めるでしょうか?「AIが発達した未来社会では、大量失業が発生する」というイメージが社会通念として広がりつつある昨今、「会社はできない社員を辞めさせようとしているのではないか」と漠然とした不安を覚えるかもしれません。
ですから、AIによるタレントマネジメントの導入にあたっては、あくまで「人材を育成するための手段」としてのみ活用する旨を、現場の各部門長や一般社員に丁寧に説明し、理解を得る努力を忘れないようにして下さい。
- 労務・制度 更新日:2019/09/17
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