企業に対して猛威をふるうモンスター社員の実例と対応方法 モンスター社員に対する傾向と対策 Part 3
case1
精密部品を製造している工場で、「場内を走らないように」という注意喚起がなされているにも関わらず、走り回ったり階段を駆け下りたりする社員Aさんがいました。ある日、Aさんは転倒して右足首を骨折してしまい、労災で2カ月休業しました。ところが復帰後、1週間もしないうちに、また場内を走り回って、設置してある機械に肩をぶつけ転倒。今度は肋骨を2本骨折してしまいます。
病院から帰った彼は即座に上司に、「これも労災になるんですよね?」と問いかけたのです。上司は「この前の労災認定から復帰して1週間で、また同じようなことされたんじゃ申請なんてできませんよ」と言いながらも、会社として労災申請をしっかり行い、結果として認定されました(会社組織として労災ゼロを掲げていた)。
以来、Aさんは、ことあるごとに自分の責任でケガをしても、すぐに労災認定を要求するばかりか、「もし認定してくれないのなら、監督署に訴えます」と主張するようになってしまいました。
このケースでは、まずAさんの行動や主張が就業規則の遵守に該当しているか否かがポイントになります。
会社として労災ゼロを掲げ、しかも「場内を走らないように」という注意喚起がなされているにも関わらず、それを守らないのであれば、「度重なる注意があっても業務命令に従わない」「自分勝手な行動で社内の風紀を乱す」「勤務態度が劣悪」など、なんらかの解雇事由に相当する可能性があります。
Aさんが就業規則から逸脱した行動を起こしたのが明白であれば、懲戒解雇もやむを得ないケースといえますが、ここで注意すべき問題は、Aさんから2度目の要求があったときに、「復帰して1週間で、また同じようなことされたんじゃ認定なんてできない」と言ってしまった点です。おそらくこの一言で、Aさんは感情的になり、以後モンスター化してしまったとは考えられないでしょうか。
あくまでも冷静に、「今回は申請をしますが、短い期間で自己責任と思われるようなケガを繰り返されたのでは、会社として認めにくくなります。就業規則や日常の注意を思い出して、今後はその点を留意してください」と伝えておくことが重要だったといえます。
case2
ある会社の経理部に勤務するBさんは、ご主人と1年前に離婚し、小学生のお子さんと2人暮らし。日頃の勤務態度は優秀で、上司からの信頼も厚く、明るい性格もあって社内の人気者でもありました。しかし実は、Bさんは給湯室のコーヒー豆や来客用に準備していたお菓子類、さらには洗面所のトイレットペーパーまでを日常的に持ち帰っていたのです。そのことに気付いた同僚の社員が「ちょっとまずいんじゃない?」と諭しましたが、「これらは消耗品だから構わないでしょ、でも黙っててね」と答え、行動を改める気配はまったくありませんでした。
そこで、同僚の社員は上司に報告したのですが、そこでもBさんは「明確な証拠もないのに、個人のリークだけで私を処分しようというのですか? 名誉毀損で訴えますよ」と主張し、以後も備品持ち帰りはエスカレート。会社としても、金銭や高額なPCソフトの無断コピーなどではないため、追及に時間や予算もかけられず、うやむやにしているままです…。
たとえ安価な備品であっても、会社にとっての財産を私的に使用したり持ち帰ったりすれば、それは横領です。また、問題は「この程度なら構わないだろう」という判断がエスカレートした先に、「金銭横領などの重大な犯罪に発展する可能性もなくはない」と考えられる点でしょう。
以前も述べた通り、「個別許容が常態化すれば、通常の会社指示や注意でも、非情なものと勝手に受け取り、自分本位なクレームを連発しかねない」のです。
「母子家庭で大変だろうな」など、社員の個別事情を汲み取るのはよいとしても、日頃の些細な要求をほぼ無条件で許し続けていれば、その社員は「思い上がり」の感情に支配されてしまいます。
このケースでも、「たかがトイレットペーパー」などと考えずに、きっちりと就業規則に則って論理的に諭すことが大切です
case3
あるスポーツ用品メーカーが、契約選手の大会優勝を祝って祝勝会を開きました。このメーカーでは、現場で選手をサポートするサービス部門の社員として、女性社員のCさんを担当させていました。そして会の半ば、その晩の主役である男性選手が、Cさんに「いつもありがとう、来シーズンもよろしく頼むよ」とハグしました。それを見ていた上司が同じようにハグしようとして「あ、俺は彼とは違うか」と言って笑いながら肩を叩いたのです。
これに対して後日Cさんは、「○○さんは、祝勝会の雰囲気を使って私に故意的に触った」と主張。周囲に、あからさまなセクハラ行為だと触れ回ったのです。
さらに「○○選手はふだんヨーロッパで試合をしているから、ハグするのも習慣だけれど、それを利用しようとした○○さんは卑劣だ」とまで言いました。Cさんがあまりに激しく感情的になったので、その上司はCさんに「この前はすまなかったね」とメールを送りましたが、これに対しても「個人的な用事でメールをしてくるのは、下心があるからだ」と周囲に話し回ってしまいます。それら行動があまりにも激しかったために、男性社員のほとんどがCさんと壁をつくようになってしまいました。
欧米諸国では、仕事の成功を祝ったり、久しぶりの再開を喜んだり、ハグする場面は極めて日常的なもの。
しかし、そこは文化が異なる国で認識が変わるのは当然のことです。いつもヨーロッパを主戦場としている選手であれば、日本に戻っても海外での習慣のまま人と接してしまうことが多いでしょうし、それを分かっているから、周囲の人も違和感なく受け入れているものです。このケースでもそうだったと考えられるでしょう。
でも、ここで注意したいのは、「あ、俺は彼とは違うか」という上司が発した言葉です。そこから伝わってくるのは、「自分と人気選手は違う」といういくぶん自虐的なニュアンス、そして「お前は、彼と仲いいもんな」という、勝手な思い違いからくる皮肉めいたニュアンスです。
もちろんCさんと選手の間には恋愛感情などなく、純粋に仕事としての信頼関係が成り立っていたのですが、男女ということもあり、上記のような言葉がデリケートに響いてしまったと考えられます。
さらにまずかったのは、こうした事態の後に上司がメールを送ったことでしょう。同僚は仕事の「仲間」ではあっても友達ではありません。ましてや異性に対して私的な内容のメールを送れば、それをセクハラと受け取ってしまう女性がいても不思議ではありません。
このケースでは、Cさんの過剰反応が根本的な問題であって、上司の行動については発する言葉の気遣い以外に問題はないと考えられますが、海外の習慣風土を知っている女性だから、このくらいは普通だろうという判断は注意しなくてはならないでしょう。
- 労務・制度 更新日:2017/12/12
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