中途採用したときに事業主がもらえる助成金とは?支給要件や対象者を社労士が解説
厚生労働省では、雇用促進などを目的とした助成金制度を設けています。近年は転職する方も増えていることから、中途採用を行っている事業主の方が、助成金に関する情報を知っておくことは有意義です。
助成金は、銀行融資とは異なり返済不要です。助成金を有効活用すれば、人手を確保しつつ、経営状況を改善できます。条件を満たす方を中途採用した場合は、助成金の申請を検討してみてください。
こちらの記事では、社員を中途採用したときに受給できる可能性がある助成金や受給額、具体的な条件などを解説します。中途採用時に、申請すれば助成金を受け取れる可能性があるため、有効活用しましょう。
雇用関係助成金を受給する前提条件*1
助成金を受給するには、前提条件を満たしている必要があります。具体的には、厚生労働省の「雇用関係助成金を受給できない事業主(事業主団体を含む)」に該当する場合、助成金は受給できません。
なお、雇用関係助成金を受給できない事業主の一例は下記のとおりです。
- 不正受給による不支給決定または支給決定の取消を受け、当該不支給決定日または支給決定取消日から5年(平成31年3月31日以前の支給申請は3年)を経過していない事業主
- 他の事業主の役員等として不正受給に関与した役員等(不支給決定日または支給決定取消日から5年を経過していない者)がいる事業主
- 支給申請した年度の前年度より前のいずれかの年度の労働保険料を納入していない事業主
- 支給申請日の前日から過去1年間に、労働関係法令の違反を行った事業主
- 性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業、またはこれらの営業の一部を受託する営業を行う事業主
- 事業主または役員等が暴力団と関係を有している事業主
- 支給申請書等に事実と異なる記載または証明を行った事業主
暴力団等との関係がなく、法令を遵守している事業主であれば、条件を満たしたときに雇用関係助成金を受給できます。
雇い入れの際に受給できる助成金
特定の条件に該当する方を雇い入れた場合、国から事業主に対して支給される助成金があります。
まずは、雇い入れの際に活用できる助成金を解説します。なお、いずれの助成金もハローワークまたは民間の職業紹介事業者等(公共職業安定所、地方運輸局、適正な運用を期すことのできる有料・無料職業紹介事業者等)の紹介により雇い入れることが条件です。
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)*2
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)は、60歳以上の方や母子家庭の母親など、就職するのが困難な方を採用した事業主に対して支給される助成金です。
具体的に、助成金の対象となる方と金額は下記のとおりです。
対象労働者 |
支給額 |
助成対象期間 |
支給大正期ごとの支給額 |
---|---|---|---|
高年齢者(60歳以上)、母子家庭の母等 |
60万円 |
1年 |
30万円×2期 |
重度障害者等を除く身体・知的障害者 |
120万円 |
2年 |
30万円×4期 |
重度障害者等 |
240万円 |
3年 |
40万円×6期 |
なお、特定求職者雇用開発助成金を受給するには「雇用保険一般被保険者又は高年齢被保険者として雇い入れ、継続して雇用すること(対象労働者の年齢が65歳以上に達するまで継続して雇用し、かつ、当該雇用期間が継続して2年以上)が確実であると認められること」が求められています。
高齢者や母(父)子家庭の母(父)親でも、優れた能力やスキルを有している方はいます。体力や家庭事情への配慮は必要とはいえ、年齢や家庭事情に関係なく必要な人材を採用することで、助成金だけでなく優秀な人材を確保できる恩恵が得られるでしょう。
特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)*3
特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)は、就職氷河期に正規雇用の機会を逃したこと等により、正規雇用に就くことが困難な方を正規雇用労働者として雇い入れた事業主に対して支給される助成金です。
具体的に、助成金の対象となる方の条件と支給額は下記のとおりです。
- 1968年(昭和43年)4月2日から1988年(昭和63年)4月1日までの間に生まれた方
- 雇入れの日の前日から起算して過去5年間に正規雇用労働者として雇用された期間を通算した期間が1年以下の方
- 雇入れの日の前日から起算して過去1年間に正規雇用労働者等として雇用されたことがない方
- ハローワークなどの紹介の時点で安定した職業に就いていない方でかつ、ハローワークなどにおいて、個別支援等の就労に向けた支援を受けている方
- 正規雇用労働者として雇用されることを希望している方
企業規模 |
支給対象期間 |
支給額(第1期、第2期) |
支給総額 |
---|---|---|---|
大企業 |
1年 |
各25万円 |
50万円 |
中小企業 |
1年 |
各30万円 |
60万円 |
就職氷河期と就職活動の時期が重複してしまった方の中には、正社員として働きたくても、経済社会・経済情勢的な理由で叶わなかったという方もいます。
非正規雇用としての職歴しかなくても、低いスキルと技能しか持っていないというわけではありません。氷河期世代に該当し、企業活動に貢献できる能力を持っている方を採用する考えがある場合は、特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)の活用を検討すると良いでしょう。
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)*4
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)とは、職業経験が不足していることなどが理由で就職が困難な求職者を、無期雇用契約への移行を前提に雇い入れた事業主に支給される助成金です。
無期雇用契約へ移行する前に、3カ月のトライアル期間を経て、無期雇用契約へ移行したときに助成金が支給されます。
雇入れの日から1カ月単位、最長3カ月間が支給対象期間です。月額4万円(対象労働者が母子家庭の母等または父子家庭の父の場合は5万円)が、まとめて1回で支給されます。
なお、支給対象者となる労働者は下記のいずれかに該当する方です。
- 紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
- 紹介日の前日時点で、離職している期間が1年を超えている(パート・アルバイトなどを含め、一切の就労をしていない)
- 妊娠、出産・育児を理由に離職し、紹介日の前日時点で、安定した職業に就いていない期間が1年を超えている
- 生年月日が1968(昭和43)年4月2日以降で、かつ安定した職業に就いておらず、ハローワーク等において担当者制による個別支援を受けている
- 就職の援助を行うに当たって、特別な配慮を要する(生活保護受給者、母子家庭の母等、父子家庭の父など)
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)は、職種が未経験の労働者を雇い入れる際に「まずは適性があるか確認したい」というときに有用です。
助成金を受け取ることで、教育コストを軽減できます。経験者だけでなく未経験者も採用する予定がある事業主の方は、活用を検討する余地があるでしょう。
雇用環境を整備したときに受給できる助成金
労働者を雇い入れたときだけでなく、雇用環境を整備したときに受給できる助成金もあります。
離職率を低下させる取り組みを行ったときや、非正規雇用の労働者を正社員登用したときに受給できる可能性がある助成金を紹介します。
65歳超雇用推進助成金*5
65歳超雇用推進助成金とは、65歳以上への定年引上げや高年齢者の雇用管理制度の整備などを行った事業主に対して支給される助成金です。以下の3つのコースが用意されており、それぞれ条件と支給額が異なります。
コース |
求められること |
支給額 |
---|---|---|
65歳超継続雇用促進コース |
・65歳以上への定年引上げ |
10万円~160万円*6 |
高年齢者評価制度等 |
・高年齢者の職業能力を評価する仕組みと賃金・人事処遇制度の導入 |
要した経費の60% |
高年齢者無期雇用転換コース |
50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換させる |
48万円 |
年齢に関係なく優秀な人材を確保するには、定年の引き上げや本人の体力に応じた環境の整備を行うことが効果的です。
社会人経験が豊富だと、問題やトラブルを解決するためのノウハウ・知恵も豊富に持っている可能性もあります。また、長年のキャリアの中で培った人脈がある点も中高齢者の強みなので、65歳超雇用推進助成金を活用しながら人材確保を進めると良いでしょう。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)*9
キャリアアップ助成金(正社員化コース)とは、有期雇用労働者(勤務地限定・職務限定・短時間正社員を含む)を正社員化した事業主に支給される助成金です。正社員化後6カ月間の賃金が、正社員化前6カ月間よりも3%以上増額していることが受給の要件で、助成金額は下記のとおりです*10。
中小企業 |
大企業 |
|
---|---|---|
有期雇用から正社員へ転換 |
80万円 |
60万円 |
無期雇用から正社員へ転換 |
40万円 |
30万円 |
有期雇用労働者の中に正社員へ登用したいと感じる方がいる場合は、キャリアアップ助成金の活用を検討すると良いでしょう。なお、キャリアアップ助成金を申請する際には事前にハローワークまたは労働局へ「キャリアアップ計画」の提出が必要です。
助成金を活用してコストを抑えながら人材確保を進めよう
雇い入れの際や高齢者雇用の促進、有期雇用労働者の正社員化など、多くの場面で助成金を活用できる可能性があります。
助成金を活用することで、人材を確保するだけでなく経済的な恩恵を得られるメリットが期待できるでしょう。本記事で紹介した助成金のほかにも、仕事と家庭の両立支援関係等の助成金や人材開発関係の助成金など、さまざまな種類があります。
採用活動や採用に関するコストでお悩みの方は、ぜひ助成金の活用を検討してみてください。
出典
- *1 厚生労働省 令和5年度雇用・労働分野の助成金のご案内(簡略版)p.4
- *2 厚生労働省 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
- *3 厚生労働省 特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)
- *4 厚生労働省 トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
- *5 厚生労働省 65歳超雇用推進助成金
- *6 厚生労働省 令和5年度65歳超雇用推進助成金のご案内p.1
- *7 厚生労働省 令和5年度65歳超雇用推進助成金のご案内p.2
- *8 厚生労働省 令和5年度65歳超雇用推進助成金のご案内p.3
- *9 厚生労働省 キャリアアップ助成金
- *10 厚生労働省 キャリアアップ助成金「正社員化コース」を拡充しました!
- *11 厚生労働省 キャリアアップ助成金
- 労務・制度 更新日:2024/05/01
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