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リ・スキリングへの支援策拡充!「新たなスキルで転職」が当たり前の時代に?

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日本は従業員エンゲージメントが低い一方で、転職しにくく、転職したとしても給料アップにつながりにくいという現状があります。
そのため、転職希望者は年々増える一方で、実際に転職した人はその3分の1以下に留まります。

政府は2023年5月、「三位一体の労働市場改革の指針」(以下、「指針」)をとりまとめ、成長産業への転職を容易にし、賃上げを実現するという目標を掲げました。
その目標を達成するために、失業保険などの制度改革の検討も盛り込まれています。

指針の内容にふれながら、成長産業への転職の重要性、転職の障壁となっている要因とその打開策をみていきましょう。
これらはいずれも、有効な求人を行うために、採用担当者がぜひとも備えるべき知見といえます。

低迷する従業員エンゲージメントと転職の障壁

まず、日本の従業員エンゲージメントと転職状況についてみていきましょう。

従業員エンゲージメントと勤務の継続意向

以下の図1は、従業員エンゲージメントの国際比較です。*1:p.33

従業員エンゲージメントは、「個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係」を指します。

図1をみると、日本の従業員エンゲージメントは5%で、世界各国と比較して極端に低いことがわかります。

従業員エンゲージメントが低いということは、従業員と会社(組織)の関係が良いとはいえない状況であることを意味しますから、勤務先で継続して働きたい人の割合が52%に留まっているのも頷けます(図2)。*1:p.34

こうした状況を反映し、転職希望者は年々増加しています。

転職の状況

転職希望者は2018年に834万人でしたが、2022年には968万人に上っています。*2 ところがその一方で、実際に転職した人は303万人(図3)。実際に転職した人は転職希望者の3分の1以下にすぎないのです。*3

転職の障壁

では、転職を妨げている要因はなんでしょうか。

転職が賃金上昇につながりにくい

その障壁の1つは、転職が賃金アップにつながりにくいことです(図4)。*4:p.16

*図と統計表の数値は、表章単位未満の位で四捨五入しているため、項目の和と計の数値とは必ずしも一致しない。

図4で転職者入職者の賃金変化をみると、2022年は前職の賃金に比べ「増加」した割合が34.9%、「減少」した割合は33.9%、「変わらない」の割合は29.1%でした。
前年の2021年と比べると、「増加」した割合は0.3ポイント上昇し、「減少」した割合は1.3ポイント低下しているものの、転職が賃金アップにつながりにくい状況が窺えます。

これでは転職をためらうのも当然でしょう。

諸外国との賃金格差

また、そもそも日本は賃金アップがなされず、その間に諸外国との賃金格差が拡大してしまいました。

たとえば、1991年から2021年の30年間における賃金の上昇は、アメリカが1.52倍、イギリスが1.51倍、フランスとドイツは1.34倍に上るのに対して、日本はわずか1.05倍と低迷しています。*5:p.1

OECD(経済協力開発機構)に加盟する38か国の平均賃金をみると、日本の平均賃金は加盟国平均を下回り、低い方から14番目となっています。*6

「指針」は、こうした状況から、日本はグローバル市場における人材獲得の競争力を失ってしまっていると指摘し、企業は人への投資を強化することが急務であると述べています。*5:p.1

では、賃金アップを実現するためにはどうすればいいのでしょうか。
「指針」に書かれている方向性をみていきましょう。

リ・スキリング

日本では「学び直し」と訳されることが多いリ・スキリングですが、本来は「新しいスキルを身につけさせる」という意味があります。*7
それがなぜ企業の成長、ひいては社員の賃金アップにつながるのでしょうか。

リ・スキリングの意義

企業が社員に新しいスキルを身につけさせ、社員が職務に必要なスキルを習得することができれば、企業は業績を上げることができ、それを賃上げの原資に回すことができます。

例えば、リ・スキリングに世界で初めて取り組んだアメリカの通信大手企業は、従来は専らハードウェアを開発していました。しかし、時流をよみ、2013年から10億ドルを使って社内のハードウェア事業のエンジニアをリ・スキングし、ソフトウェア事業に配置転換しました。*7

ジーンズのリーバイスも、コロナ禍で売上が激減したとき、店舗従業員にデータサイエンスやデジタルマーケティングを学ばせて職種転換させ、ネット販売の売上を伸ばしたということです。

このように、企業がリ・スキリングによって新たなスキルを身につけた社員を成長事業に配置転換すれば、企業の業績が向上し、それが社員の待遇にも反映されますし、社員もやりがいをもって働くことができるでしょう。

もし逆に、リ・スキングによって身につけたスキルを実践する場が提供できなければ、社員の転職を招いてしまうかもしれません。

いずれにせよ、リ・スキリングによって成長事業、あるいは成長産業への移行が実現すれば、社員は活躍の機会を得ることができ、それが企業の成長、ひいては社員の賃金アップにもつながるのです。

リ・スキリングへの支援

「指針」にはリ・スキリングによる能力向上支援として、以下のようなポイントが示されています。

個人への直接支援の拡充

現在、学び直し支援策は、企業が申請するものが75%(771 億円)、個人向けが25%(237 億円)ですが、2023年から5年以内を目途に個人向けが半数以上になることを目指します。*5:p.3

その一環として経済産業省は、2023年6月、令和4年度補正予算額・753億円を投じ、在職者のキャリア相談、リ・スキリング、転職までを一体的に支援する施策を発表しました。*8:p.6
そうした支援によって、企業間・産業間の労働移動(転職)の円滑化とリ・スキリングを一体的に促進するのが目的です(図5)。

リ・スキリング支援としては、転職を希望する正社員と契約社員、派遣社員、パート・アルバイトを対象として、専門スキルが身につけられる民間の講座を最大で1年間受講でき、1人あたり平均24万円を助成するという報道があります。*9
政府はこの施策によって、今後3年間で計約33万人の転職を後押しすることを目指しているということです。

雇用調整助成金の見直し

雇用調整助成金は、雇用維持を行うために、教育訓練、出向、休業のいずれかの形態で雇用調整を行った場合に、その費用を助成する制度です。*5:p.5

今後は、在職者によるリ・スキリングを強化するために、休業よりも教育訓練による雇用調整を選択しやすくするよう、助成率などを見直します。
たとえば、雇用調整が30日を超える場合には教育訓練を支給の条件とする一方、訓練を受けさせずに雇用調整を行う場合には助成率を引き下げることを検討します。

ジョブ型人事(職務給)制度の導入

次は、職務を明確にして賃金に反映させるジョブ型人事の導入についてです。

ジョブ型雇用は職務内容を明確にすると同時に、賃金などの処遇を「職務記述書」で定めるため、企業は人材の専門性を高めることができ、働く側も転職しやすくなるといわれています。*10

ただ、新卒一括採用のメンバーシップ型雇用が主流であり、賃金全体の水準が労使の交渉によって決まる日本の現状では、賃金体系を職務給に変えることは難しいという指摘もあります。

「指針」では、職務給について、中小・小規模企業の事例も含め、2023年中に事例集を作成し、個々の企業の実態に応じた導入の参考となるよう、多様なモデルを示すとしています。*5:p.6

現行の制度の見直し

「指針」には、成長分野への転職が円滑になるように、現行の制度の見直しという大きな変革が盛り込まれています。

失業給付制度の見直し

現在の失業給付制度では、自己都合で離職する場合は会社都合で離職する場合とは要件が異なり、求職申込後2か月から3か月は失業給付を受給できないことになっています。*5:p.8

しかし、「指針」には、この失業給付制度を見直し、たとえば1年以内にリ・スキリングに取り組んでいた場合は会社都合の場合と同じ扱いとするなど、自己都合の場合の要件を緩和する方向で具体的設計を行うと明記されています。

退職所得課税制度等の見直し

現行の税制では、退職所得課税は、勤続20年を境に、勤続1年あたりの控除額が40万円から70万円に増額されることになっています。つまり、長く勤務するほど税金が優遇される設計になっているのです。*5:p.9

この制度が自らの選択による転職を阻害しているとの指摘があることから、「指針」では、制度変更に伴う影響に留意しつつ、この税制の見直しをするとしています。

おわりに

これまでみてきたように、賃金アップを実現するためには、成長事業への配置転換や成長産業への転職が欠かせません。

政府はそのために、失業保険制度や税制の改革までを盛り込んだ政策に乗り出しました。
今後はその取り組みが具体的に策定され、実施されていきます。

転職への支援、促進を目的とした人事・雇用の大きな改革に際して、その動向に留意する必要があります。

参考

  • Person 横内 美保子

    横内 美保子 -

    博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

  • 経営・組織づくり 更新日:2024/03/12
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