1on1に取り組む企業から届く“失敗”の声が増加中!?1on1のプロに聞く成功方法!
人が成長するために「気づきを得る」というのは、重要な要素の1つです。気づきを得るには、外から刺激を与える方法と、自分の内側から気づく方法がありますが、これまで企業では、「外部刺激」を与えることが多くありました。具体例を挙げると「ジョブローテーション」「各種研修」「評価」「フィードバック」といった刺激です。外から新しい刺激を受けることで気づきが生まれ成長につながる、ということが成立していたわけです。
しかし、このアプローチ方法が難しくなっていると感じています。理由はいくつかあると思いますが、1つは業績が良い会社ばかりでなく、社員にチャレンジさせる余力をもてない企業が増えていること。たとえば、ジョブローテーションは機会損失を生む可能性があるので、それならば社員が結果を出せる領域にコミットさせたほうがいい、という考えによって新しい環境にチャレンジさせない思考になるのも仕方がないことだと思います。
そして終身雇用の崩壊も影響していると思います。終身雇用が前提であれば、社員に成長する機会として厳しくフィードバックしたり、評価したり、部署異動させるのが容易にできました。逆に石の上にも3年的にキツイ仕事に年単位でアサインすることも可能でした。
しかし、今それをやってしまうと「もっと楽しい仕事がしたい」と退職されてしまったり、パワハラだ!モラハラだ!といった話になりうるため、外から強い刺激を与えて気づきを促すアプローチがやりづらくなってきているのです。そうした理由から、外部刺激を与えて気づきを促すのではなく、内的なアプローチで気づきを促す「1on1」を導入する企業が増えたのだと思っています。
失敗の原因は3つあると考えています。1つ目が「時間」、2つ目が「スキル」、3つ目が「関係性」です。まず、1番最初の段階でつまずくのは時間でしょう。「1on1」をするのは中間管理職が多い。今プレイングマネージャーの割合は9割を超えていると言われています。部下の話を丁寧に聴いた方がいいことは分かりつつも、組織の成果も求められるので、つい目の前の業務に追われてしまう。このような状況の中で、まず時間を確保すること自体が難しいです。
そして、時間が確保できた上司の次の課題がスキルです。人事の方も「ウチの会社のリーダー陣は傾聴スキルが低いんです」とよく言われます。これはその通りだとは思うのですが、そこに対する考察と対策が間違っていることが多い。どの会社でも「知識がないから教えよう」ということで、研修をするんですね。もちろんそれも必要なんですが、1つ大きな点を見逃している。「体験がないから、体験をさせよう。」という考え方です。
これまできちんと自分の話を聴いてもらった経験がないのに、部下の話を聴くというのはちょっと難しいですね。教習所に行って初めて実際の車を運転をする時に、免許を持っていない人が助手席に座っていたらどうでしょう?仮にその人がいくら座学で何十時間も車の運転を学んでいたとしても僕だったら嫌ですね。1on1を行う上司が、知識と同時に、体験を積まないとスキルアップは望めません。
そして、時間とスキルを手に入れた上司が最後にぶつかる壁が「相性&関係性」です。厳密に言うと「相性」と「関係性」は違いますが、一旦一緒にして話します。二重関係って非常に難しいんです。例えば、あなたの妻が、あなたの先生だとどうでしょう。例えば、妻に料理を教えてもらっていると喧嘩になりませんか?(笑) 例えば、親が部下だったらどうでしょう。非常にやりづらいですよね。
1on1では“評価者”が“部下の人生を考える人”と同一人物になることが多いです。たとえば、私自身はコーチングができる時間もスキルもありますが、妻に対するコーチングは正直できません。なぜなら、お互いに感情が入ってしまい、妻は自分の話を素直にするのが難しく、私は妻の話を素直に聴くのが難しいからです。もし妻が僕にコーチングをお願いしてきたら、僕は信頼できるコーチを紹介しますね。
しかし、これが上司と部下の間では頑張ってやろうとしますよね。そこが大きな問題で、意外とみなさんが見過ごしがちな点です。「1on1」を大切にする企業であればあるほど、相手の話を聴くことを大切にする人事や経営者が導入を勧めているケースが多いんです。そういう方々は傾聴スキルがあり、時間さえ取れば素晴らしい1on1をできることも多いんだと思います。
ですが、ほとんどの場合は「部下の評価をする立場でありながら、部下の人生も考える立場である」という関係の中では上手くいきません。それは、仮に傾聴スキルと時間があってもです。上司が1on1をすることに意味がないということではなく、上司ができる会話と、上司にはしづらい会話とをきちんと分けずに、全てを上司に押し付けても誰もハッピーにならないということです。ここは上手く仕組みを作らないと、関わる全員が疲弊することになります。
効果的な方法として「1on1の切り分け」があります。上司が行ったほうがいいコミュニケーションと、たとえば「メンター」などの直属上司じゃない人が行ったほうがいいコミュニケーションとを分けます。ここをきちんと理解して、上司に求める「1on1」の線引きをすることが効果的な「1on1」を行う方法のひとつです。
例えば、当社の場合だと、フィードバック、ティーチングは、直接一緒に仕事をしていて、スキルの長けた人が「1on1」をします。そして、もう少し内的な対話。例えば「いま本当にしたいことができているか」「10年後どんな人生を歩んでいたいのか」といったコミュニケーションは、仕事で関わりが少ない人や社外の人が行う、という切り分けをしています。
ここに関しては、部下側の状態によって変わると考えています。成長意欲が高いタイプや目の前に課題があることを認識しているタイプは、自分でテーマを持ってくることが多いと思います。そういうタイプには、相手が今話したい内容や今取り組んでいる内容に対して一緒に考える姿勢、そこに対して問いを投げかけて気づきを促すアプローチが有効です。
一方で、現状維持でいいと思っているタイプや、上司から見て少し自信過剰に見えるタイプには、ある程度ナビゲートが必要だと考えています。こういったタイプは自分でテーマをもって来ることが少ないので、一緒に考えるためのネタやツールを活用するのも有効かと思います。例えば、有名なところでは「リフレクションカード」だったり、最近では「1on1」用に特化したツールもあります。いずれにせよ、部下の状態を把握して、アプローチの仕方を変えることが効果的な「1on1」につながります。
「話を聴く力」は、とても重要です。「いや、ちゃんと聞いてるよ」というかも思うかもしれませんが、人は意外と人の話を聴いていません。人が話を聞く/聴くというのは大きくわけて2つあります。ひとつが「自分の視点で相手の話を聞いているとき」で漢字にすると「聞く」ですね。もうひとつが「相手の視点で相手の話を聴いているとき」で、こちらは「聴く」と書きます。
前者は自分視点なので、必ず評価や判断が入ります。ほとんどの人が、ほとんどの時間をこの視点で人の話を聞いています。たとえば、友達と楽しい話をしている時などはこの聞き方が一般的ですし、そして最適だと思います。相手の話を聞きながら次に自分が何を話そうかな、ということに常に頭を回しています。「先週、箱根に行ったんだよね」と友達が言うと、「あー、私も去年箱根に行ったな」とか、「箱根の駅前の温泉まんじゅうが美味しいんだよな」とか、そういうところに頭が回るのが、自分視点で話を聞いているという状態で、これが「聞く」ですね。
では、相手視点で話を「聴く」というのはどういうことかというと、「先週、箱根に行ったんだよね」と言う友達の話に、「この友達は箱根で何を見たんだろう?」「そこで何を感じたんだろう?」と、相手の視点でその出来事を一緒に見て、感じようとする姿勢のことを指します。この「相手の視点で相手の話を聴く」ということができると、本当に深い話ができるようになる。このスキルが「1on1」では極めて大事です。
まず大切なのは、「自分の視点で相手の話を聞く」と「相手の視点で相手の話を聴く」という違いがあること自体を認知すること。そして、今の自分がどちらで「1on1」をしているのかに気づくことです。「聞く」と「聴く」どちらが良い悪いではなく、どちらも必要なんです。
そして、もうひとつ大切なのが実際に体験すること。「相手の視点で相手の話を聴く」というコミュニケーションを受けたときに、とても心地よくて有意義で有益なんだと自分自身が体感する。この体験を通じて「聞く」ではなく、「聴く」ということに興味・関心がでてきます。そして、「聴くって大事だな」「ほかの人にもやってあげたいな」という関心事になると、論理的な理解も深めようとします。これは「1on1」に限った話ではありませんが、体験から関心、関心から理解・実践、という順番はスキル習得には欠かせないものだと思います。
理解を深めるという意味では「Doing」と「Being」を知っておくといいかもしれません。「Doing」は目に見えやすいので、スキルとして認識されやすい。そのため、言語化して伝えられやすい。反対に「Being」は目に見えないので言語化しづらく、スキルとして認識されづらいですが、これは間違いなく技術(Art)であり、トレーニングすれば高められます。
しかし、コミュニケーションという領域で、上司の「Being」が部下にどう影響するかがあまり語られないのが、「1on1」で目に見える効果ばかりを求めてしまう問題として出てきていると考えています。「Being」も技術であると理解して習得しようとすることが、上達のための1つのポイントになると思います。
例えばですが、「相性」なんかも「being」に影響するものの1つだと思っています。当社では「相性」を分析していて、さまざまなデータを取っています。ビッグファイブという理論を基に機械学習で相性マッチングをしています。もう少し実用的なところをお伝えすると「最初に相性が合うと感じるポイントはどこか」というデータは面白かったですね。「1on1」をして相手と相性が合わなかったと感じた人にヒアリングしていくと、ほぼ例外なく5分で相性が合わないと感じている。
どの点に違和感があったかヒアリングしてみると「相槌のタイミングが合わない」「話すスピードが合わない」「声のトーンが合わない」と言われました。実際にアンケートを取ってみると「相槌」「話すスピード」「声のトーン」は、相性が良いと感じる項目と相関が極めて高い。ということを知っていれば、上司は部下のその日の声の高さや速さを気にしながら、話をしていくことができます。
言語化できた時点でこれは「Doing」のスキルになってしまいそうですが、このような要素は「行動として相手に合わせる」というよりも、「在り方として相手に自然と合う」という「Being」の技術に近いものだと思っています。これは一例ですが、多くのリーダー層が「being」の技術を認識し実践できれば、より質の高い「1on1」を実現できるのではないかと思います。まずは、試しに今お話しした3つだけでも実践してもらえれば、「1on1」に変化が生まれるかもしれません。
会社は「1on1」を行う上司に、最初から多くを求めすぎないことが大切です。プレイングマネージャーは時間はないし、スキルもない。自身が心地よい「1on1」受けたことがない。かつ、上司と部下が二重関係である。こんな状況で多くを求めすぎると、マネージャーを疲弊させてしまいます。組織を良くするための「1on1」で、組織が疲弊していく。
まずは「1on1」の時間を設けるだけでOKとするとか、部下が上司に「少し話しやすくなった」ことを最初の評価ポイントにするとか、初歩的なスコアが上がるだけでOKとしてあげないと全員が不幸になる。一気に素晴らしい1on1を目指すのではなく、スモールステップで段階的に進めていくのが、効果につながるポイントだと思います。
もうひとつ大切なのが、「聴く」ということが、上司の関心事になること。「聴く」に限らずスキルというのは、関心事にならなければ身につきません。Yahoo!が「1on1」を成功させたのは、「1on1」が上司の最大の関心事になったことが大きな理由だと私は思っています。「1on1」を本格的に導入してくのであれば、上司の関心事になるような制度づくりや働きかけをした上で、長期的な視点で段階的に導入をしていくことが大切です。
当社がサポートしている企業では、ゴルフダイジェスト・オンラインさんは効果的に「1on1」を行なっています。どんなことをしているかというと、「1on1」のハードルをきちんと下げて段階的に行っていたり、しっかりとサーベイを取って上司の「1on1」を部下がどう受け止めているかフィードバックしていたり。最近では上司同士で「1on1」を行うトレーニングをしていたり、斜めの関係での「1on1」にもチャレンジしようとしているようです。今後は「1on1」を受ける側(部下側)の研修も取り入れたいと言っていました。
このような取り組みを通じて、上司と部下の関係性に変化が現れ、組織スコアのエンゲージメントに良い影響を及ぼしていると伺っています。人事制度の中でも大切な位置づけとして捉えて、じっくりと「1on1」を育ててきた成功事例かと思います。
- 経営・組織づくり 更新日:2020/05/27
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