社員の自主性が組織をつくる!権限分散組織「ホラクラシー」とは
「ホラクラシー」という概念は、2007年、アメリカ・ペンシルベニア州のソフトウェア企業、ターナリー・ソフトウェアの創業者ブライアン・ロバートソンが、従来型の会社組織とは全く異なる民主的でフラットな組織のあり方を模索する中で構想。彼は「ホロン」という科学や哲学の概念から組織の着想を得ました。
「ホロン」とは、全体を構成する一部分が全体と同じ構造を持つような物質の構造を表します。例えば、人体を構成する一つひとつの細胞を思い浮かべてみてください。細胞は人体を構成する一部分であり、それ自体も全体としての構造や機能を持っている「ホロン」であると言える。ロバートソンは、「ホロン」のような会社組織を理想とし、それを「ホラクラシー」と名付けました。
社員は会社の一員であると同時に、個別の社員もまた、与えられた役割や業務範囲においては会社を代表する権限を有するような組織構造を試行錯誤の上、作り上げたのです。この過程で得られた知見は「ホラクラシー憲法」という文書に体系化され、最終的に彼は「ホラクラシーワン」という非営利団体を設立して本格的な普及活動も手がけています。
2010年代に入り、IoTやAIの発達など情報技術の発達やグローバル経済の発展によって企業における経営環境は日々目まぐるしく変わるようになりました。企業を取り巻く様々なステークホルダー(消費者、従業員、株主、取引先など)の価値観も多様化し、かつ短期間で大きく変化するようになっています。
加えて、日本では少子高齢化や空前の人手不足を受け、働き方改革が進行中。こうした状況に柔軟に対応し、持続的に成長を重ねていくためには、現在大半の企業で採用されているピラミッド型のヒエラルキー型組織では限界が見えはじめました。そこで、従来の会社組織に代わる新たな概念である「ホラクラシー」が、日本でも急速に注目されつつあり、一部の新興企業、ベンチャー企業で採用されはじめているのです。
ホラクラシーを導入することで、企業は環境変化に対してより効果的・機動的な対応が可能となります。権限が分散されると、個別の課題に対する意思決定がスピードアップし、現場で起きる問題にもスムーズに対処できるようになるでしょう。また、個人やチームの自主性が重んじられ、企業統治に透明性が図られることによって社員一人ひとりのエンゲージメントやモチベーションは高まり、離職率も大きく低下することが期待されています。
さらに、従来型の組織では責任や業務権限が集中することで重くのしかかっていた企業トップや中間管理職への業務負荷も軽減することが可能となります。
ホラクラシー組織での業務は、「ロール」と呼ばれる役割単位で分割されて認識。ロールには、各企業が運営する中で発生する様々な役割に割り当てられます。「採用活動」「給与管理」から「文房具発注」や「社内イベント企画」といったものまで様々なロールが考えられる。これに対して各社員には個人の能力や好みに応じて、話し合いによって各ロールが割り当てられます。
この時、必ずしも割り当てられるのは1つだけではなく、2つ、3つと複数のロールが割り当てられることが一般的です。そして、各社員には自分のロールの定義範囲内における業務であれば、従来型組織では上位職の承認を必要とするような戦略的判断を要する課題であっても、自ら意思決定を行える権限が付与されます。
一方、全体の組織運営は、ロールの集合体である「サークル」というチーム単位によって行われます。近いロールを持つ従業員同士がミーティングを重ね、情報共有を図ることで、より重要な意志決定や業務実績の確認、会社全体のミッションや目的との整合性を図っていく。この時サークルには「リーダー」が割り当てられますが、いわゆる従来型組織における「部長」「課長」といった固定的なポジションではなく、その「ロール」においての取りまとめ役・調整役といった位置づけとなります。
また、企業を取り巻く経営環境の変化によって、既存の「ロール」では対応しきれない領域の課題や問題が発生し、業務にあたる当事者があいまいになる状況が発生します。ホラクラシーではこれを「ひずみ」と呼び、ひずみを解消するために新たな「ロール」が生み出され、近接する「ロール」に従事する従業員の中から、柔軟に割り当てられることになります。
ホラクラシー組織では、徹底して権限が分散される分、社員にのしかかる責任も大きなものとなります。業務計画の立案から実行まで主体的に取り組み、結果について責任を負うことが求められるので、自ら進んで仕事を創り出し、自律的に動けるプロ意識を持った人材でなければ務まりません。その反面、業務の進め方は個人の裁量に委ねられることになるため、出社する日程や時間帯は自由に選ぶことができるでしょう。
また、副業との掛け持ちなど、より柔軟で多様な働き方も可能となります。これにより、出社時間や日程に縛りのあるヒエラルキー型組織では採用されづらかった既婚女性や高齢者、障害者なども新たな採用ターゲットとして十分検討できるようになると思われます。
「デメリット」の項目でも触れたとおり、すでにトップダウン型のヒエラルキー型会社組織が強固に出来上がっている企業や、社員数の多い大企業が一気にホラクラシー型組織へと転換することは相当なリスクが伴うでしょう。ホラクラシー型組織で不可欠となる「横のつながり」を確保するための情報共有コストに日常業務が押しつぶされ、生産性の低下、組織の混乱による士気低下を招きかねません。
したがって、ホラクラシーが向いている企業は、それとは対象的なスタートアップ企業、ベンチャー企業であったり、社員数が概ね100名以下の中小企業であるといえるでしょう。フラットで意思決定のスピードに優れたホラクラシー経営は、意識の高い若手社員を多く抱えるベンチャー企業にとって、非常に相性が良いと言えます。
ダイヤモンドメディア株式会社では、日本に「ホラクラシー」の概念が本格的に入ってきた2016年より遥か前の創業時からホラクラシー経営を推進。創業社長の武井浩三氏は、自身のブログや自社ホームページ、著書などでこれまでの実践結果やノウハウ等惜しみなく外部にも公開し続けている。新入社員向けに制作された「サバイバルジャーニーガイド」(https://www.diamondmedia.co.jp/dm-blog/archives/71#more-71)は非常に参考になります。
★株式会社アトラエ
- 経営・組織づくり 更新日:2020/06/18
-
いま注目のテーマ
-
-
タグ
-