課題を明確化させ、社員のパフォーマンスを高める「コーチング」の価値とは
Sansanは、「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションのもと、クラウド名刺管理サービスを通じてビジネスの出会いをより良いものにし、世界を変えたいと考えている会社です。ミッションの実現のためには圧倒的な事業成長が不可欠であり、社員1人ひとりのパフォーマンスがとても重要です。そのため、当社では、社員の生産性高い働き方を後押しする社内制度をおよそ30用意しており、コーチングもそのひとつです。もともと、社内でコーチングを始めた目的は、日々の中でアウトプットされずに溜まっていく、社員の中にあるモヤモヤした気持ちを解消するためです。コーチングとは、その“モヤモヤ”とした違和感を取り除いて個々のパフォーマンスを高めることだと私は考えていて、個人とチームを対象にコーチという立場でコーチングを実施しています。導入当初は、ランチタイムに会議室でお弁当などを食べながらスタートしました。徐々に実績が増えて会社から予算が出るようになって、社内制度として確立されました。
人によって抱えている違和感はさまざまですが、その原因となる課題点は大きく分けて「顕在的な課題」と「潜在的な課題」の2つに分けられます。顕在的な課題というのは、自分自身で分かっている悩みや問題点のこと。例えば、ITエンジニアであれば技術力などがそれにあたります。一方で、潜在的な課題とは、常態化していたり自分では気付いていなかったり、人の内側にある心理的なハードルなどが挙げられます。コーチングは、後者の潜在的な課題に対して有効な手段といえるでしょう。
自分で気づくことができないので、対話することやフィードバックを受けて気付かせるのが、コーチの役割。何が原因かは分からないけれど、違和感があったりモヤモヤしたりする状態を対話の中でクリアにしていき、突破口となる行動を本人が主体的に起こしながら、課題を解消していくというフェーズを踏んでいきます。
回数を重ねることはとても大事です。当社の場合は従業員数が600人以上いるので、個人を対象にしたコーチングの場合、1回だけお試しで行う社員もいますが、本来は2週間ごとや1ヶ月ごとに行うことが理想的。中には、違和感が生じたらその都度予定を組むという方法で行う社員もいます。チームを対象にしたコーチングは、これまで100回以上実施しました。ただ、チームへのコーチングは継続的に行う必要があるので、企業ごとの文化によっては当社のように組織改編や異動が多いと難しい面もあります。そのため、状況が変化したタイミングで行うなどの調整は必要です。全くメンバーが変わらないのであれば、クオーター(四半期)ごとにコーチングを行うと理想的でしょう。
コーチングの方法は多種多様で、主に対話をベースとしていますが、必要に応じてアイテムも使用します。例えば、この“共感トランプ”。人にはさまざまな感情があり、その感情の奥にニーズがあると私は考えています。しかし、多くの人はビジネスシーンで感情を表に出すなと指導されるため、心にフタをしてしまう。それにより、感情の奥にあるニーズが分からなくなってしまうことが多いのです。
そのような状態に陥っている人に対して、共感トランプを使います。トランプには心地よさや興奮などが記された感情のカードと、その感情ごとに何を求めているかを記すニーズのカードがあります。今の感情がどのカードに当てはまるかを聞いた上で、自分のニーズに該当するカードをピックアップしてもらう。そして、そのニーズに対して、現状10点満点でいうと何点くらい満たされているかといった話を伺いながら、課題を明らかにしていくのです。
これらのカードを使うメリットは、言語化されにくい潜在的な課題を“選択”してもらうことで、「このカードが一番ピンとくる」という感覚に沿ったコーチングセッションができること。そのため、私はよく愛用しています。
やはり、感情の奥にある自分のニーズを知らないケースが多いと感じます。自分自身が何を求めているのか分からないので、今がどのくらい満たされている状態かどうかも分からない。このニーズは価値観ともけっこう近いものがあって、本当は人との繋がりや関係性が必要だと思っているけど、それに気付かなくなってしまい、自分の価値観や本当の強みが分かっていない方もいます。
中でも、本当の強みに気付くことはけっこう難しい。強みに対する私の定義は、「自然に出来てしまうこと」。つまり、自分で意識していないことなのです。例えば、整理整頓は当たり前という方は、意識せず日常的にできてしまっているので、そこが自分の強みだと気付けない。こういった自然の強みは人によって異なるので、やはり対話を通じて掘り出さないと自覚することはできないと思います。
コーチングで行う対話は、主に拡大質問(オープンクエスチョン)とフィードバックの2種類があります。拡大質問は、相手が「はい」「いいえ」で答える内容ではなく、すぐに答えられないような問いかけをすることが肝になる。この拡大質問により、潜在意識へアプローチしながら、コーチングを受ける相手の中で、自分では気付いていない部分を探ります。例えば、「あなたにとって仕事って何ですか?」などの問いをすれば、「お住まいはどこですか?」という問いとは違い、すぐに答えられないケースが多い。その答えを考えている時間の中で内省化してもらいながら、感情の奥にある自分のニーズをクリアにしていくのです。
次に、相手の話を聞いた上で、こちらが感じたことをフィードバックします。フィードバックの内容は、例えば「〇〇をやりたいと言っていますけど、全然顔がやりたくなさそうですよ」など、相手が(え、そうなのかな)と、改めて自分の内側に矢印が向けられるような時間が多くなるように心掛けています。
確かに難易度は上がりますが、チームのパターンや特徴を把握することで上手く進められます。例えば、あるチームは、全体に質問を投げかけた時に必ず特定の人が話すケースや、必ず上司の顔を見てから話すというパターンが決まっている。また別のチームでは、全員で話し合ってもらう場面だと盛り上がりに欠けるが、ペアで話してもらうと盛り上がるという特徴がある等々、それらのさまざまなパターンや特徴を明らかにしていくのです。
チームの問題点が明らかになったら、その中身に応じてチームで継続的に進めたり、個別にコーチングをしたりと、切り分けて対応しています。私のコーチングは、個人やチームの可能性を信じる関わり方が大前提にあるので、相手が自覚して主体的に一歩を踏み出せると信じて取り掛かることを重視しています。それは、個人であってもチームであっても変わりません。
私がコーチングをしてきた中で、相手が良い方向に変化したなと特に感じるのは、今までやってこなかったことにトライし始めている状態。そこに未知なる成長がある。例えば、当社では数百人の社員が集まる全社朝会があります。その朝会では、最後に「何か質問がありますか?」と問うのですが、こういう場で手を挙げるのって結構勇気が必要ですよね。その中で、コーチングを受けたある社員が挙手したのです。今までそういった行動を起こさなかった社員なので、未知のことで、とても勇気のいることだったはず。しかし、実際に行動に移してみたら「別に大したことなかった」と感じたそうです。
こうした今までにない体験をすることで、未知だったことが自分の実績になり、新たにできることが増えてく。本当にやりたいことに向かっていく中で、これまで行動できていなことや苦手なことに対して、一歩を踏み出すのはとても良い変化だと思います。
営業として優秀な部長が率いるチームのエピソードをお話しします。その部長はこれまでの実績から営業としての売り方など何をすれば正解かが分かっていたので、部下に対して的確に指示を出していました。しかし、なかなか言われたように部下が動かないことにモヤモヤしていました。そこで感情の奥にあるニーズを冷静に分析し、まずは部下の話に耳を傾けようと「聞くランチ」という場をセッティングしました。聞くランチをしている時間は何もアドバイスせずに、ただひたすら部下の話を聞くことで、彼らの主体性を引き出すようにしたのです。その結果、部下は自主的に生き生きと働くようになり、活気のあるチームへと生まれ変わりました。
ただし、これはチームが成長する上でのフェーズや会社の文化によって方法は異なります。個人やチームごとに成熟度は違うので、対話をする際に拡大質問ばかりだと問いに対して答えられないケースもある。そのため、マインド面とスキル面の成熟度を見定めながら、コーチングとティーチングのバランスを意識することが大切です。
新入社員など、相手が未熟な場合はティーチングで補い、能力が付いてきたら受動的にならないようにコーチングで自ら考え行動できるようにすると良いでしょう。ティーチングとコーチングのバランスが上手くとれるようになると、個人やチームの行動変容が維持され、社員みんながまんべんなく意見を出している状態や建設的な程よい摩擦が起こるようになる。その相乗効果が組織の成長に好影響を与えます。
デジタル化により個々のコミュニケーションが離れていても簡単に出来てしまう時代だからこそ、コーチングのような対面の会話は今後さらに重要になります。例えば、社内SNSによるテキスト上でのコミュニケーションで起こる問題として、句読点が無かったり文末が「、、、」で締めくくられていたりすると、受け手は「相手が怒っているのではないか」と不安に感じる。しかし、対面で会話をしてみると全然怒っていなかったというケースがあります。日常の中には、このように悩む必要のない違和感が実は沢山ある。コーチングを通じて、余計な解釈やネガティブな思考を解消できれば、業務に集中できる時間が増え、組織全体のパフォーマンスは高まるでしょう。
ビジネス環境は、足並みを揃える画一的な社会ではなく、多様性により価値観が複雑に絡み合う社会へと移り変わっています。そんな変化のスピードが速い社会で必要になるのは、これまで世間一般的に正解とされていた常識よりも、パーソナルやチームの潜在的な課題にアプローチしたオリジナルの解決策。コーチングは、課題の奥にあるニーズに気付かせて主体的な行動変容を可能にする、これからの時代に必要な方策といえます。
例えば、社内でコーチングができる人材を育成するための投資や、人の成長に興味や関心がある社員を対象にジョブチェンジを実施することで、定着率を高めることにも繋がります。また、最近では社外のコーチをプールしてマッチングするサービスも増えているので、この機会にコーチングを実施するためのリソース確保や準備を始めてみてはいかがでしょうか。
- 経営・組織づくり 更新日:2020/05/05
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