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人事が知っておきたいSDGs目標8「働きがいも経済成長も」とは?取り組むヒントと事例を紹介

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SDGsには17の目標があり、そのうち人事が大きく関わる項目がいくつかあります。なかでも、身近な目標として注目したいのがSDGs目標8「働きがいも経済成長も」です。働きやすく、働きがいのある職場づくりにおいて、具体的にはどのような施策を実施すればよいのでしょうか。
今回は、SDGsへ取り組むにあたって人事が知っておきたいSDGs目標8の概要とともに、具体的な取り組みのヒントと事例をご紹介します。

SDGs目標8「働きがいも経済成長も」とは

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、2030年までに持続可能な社会づくりを目指す国際目標です。さまざまな社会課題を分類した17の目標が設定されており、その中の1つである目標8「働きがいも経済成長も」は、経済成長と雇用に関する目標です。
具体的には「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」ことを目標としています。働きがいのある職場づくりのための環境整備だけでなく、同時に経済成長を両立できる仕組みづくりが求められます。

人事に大きく関わる3つのターゲット

目標8には、さらに細分化された12のターゲットが設定されています。強制労働や児童労働、搾取の撲滅や、後発開発途上国への貿易支援といった世界的に取り組むべき課題が多く取り上げられていますが、身近な問題として特に人事に関連するのが、以下の3つのターゲットでしょう。

  • 8-2:高付加価値セクター(※1)や労働集約型セクター(※2)に重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。
  • 8-5:2030年までに、若者や障がい者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一価値の労働について同一賃金を達成する。
  • 8-8:移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、全ての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。

8-2は、フレックスタイム制度、テレワーク等の導入やDX化による生産性向上に関する項目です。8-5は、雇用の確保と生産性の向上、収入を含めた働きがいを提供するように求める目標といえます。8-8は、非正規雇用への対応と考えるとよいでしょう。不安定な雇用状態にある従業員に対して、労働者としての権利を保証することが推進されています。

人事が覚えておきたい注目ワード「ディーセント・ワーク」

ディーセントワーク(decent work)は、日本では「働きがいのある人間らしい仕事」と表現される概念で、企業がSDGs目標8への取り組みを考えるうえで人事が理解しておくべき考え方です。
もともと1999年に開催された第87回ILO(International Labour Organization:国際労働機関)総会で提出された報告書に記載された言葉で、(1)雇用の創出・促進、(2)社会的保護の拡充、(3)社会対話の促進、(4)労働における基本的原則及び権利の尊重という4つの戦略的目標が設定されています。
こうした国際的な目標を踏まえ、厚生労働省は、日本におけるディーセント・ワークの内容として以下の4つに整理しています。

日本におけるディーセント・ワーク4つの内容

  • 働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られること
  • 労働三権などの働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること
  • 家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティネットが確保され、自己の鍛錬もできること
  • 公正な扱い、男女平等な扱いを受けること

企業がSDGs目標8に取り組むメリット

SDGsへの対応は、法的な拘束力があるわけではなく、あくまで企業や個人が自主的に取り組むものとされています。しかし、環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みを重視するESG投資への関心が高まるなかで、企業のSDGsの取り組みにも注目が集まっています。企業がSDGs目標8に取り組むメリットとして代表的なものを見てみましょう。

採用活動における企業イメージ向上

SDGsの考え方が定着するなか、求職者は企業のSDGsへの取り組みにも注目しながら応募先を選定する傾向にあります。なかでも、目標8は入社後の働き方に直結するものであり、安定した収入や多様な働き方などの具体的なアピールは、企業イメージを向上させ、採用活動においても有利になるでしょう。
アピールポイントとして、具体的には以下のような施策が考えられます。

  • 女性幹部の積極的な採用や育休制度の拡充
    人材確保、ジェンダー格差(男女格差)の解消などにつながります。
  • テレワーク環境の整備やフレックス制、時短勤務などの拡充
    働き方の選択肢を広げ、ワークライフバランスの向上などにつながります。
  • 能力開発、人材開発に関する研修の充実
    能力開発による従業員個々のスキルアップだけでなく、やりがい向上につながります。企業にとっても、労働生産性の向上が期待できます。

今後、SDGsへの取り組みは、企業活動の一部として「当たり前に実施されるもの」と認識されるようになるでしょう。企業情報のなかに具体的なSDGsへの取り組みが書かれていなければ、求職者からは「持続可能性が低く将来性がない企業」と判断される可能性があります。

離職率低下と生産性の向上

目標8で取り組むべき課題として、長時間労働やジェンダー格差の解消などがあります。働き方改革の推進によって、法的には労働環境が是正されつつあるものの、企業によっては配慮が行き届かない場合もあるでしょう。
働きやすく、働きがいのある環境を目指して課題解消に取り組めば、既存の人材を大切にすることにつながり、離職率の低下につながります。超高齢社会を迎え、年々、生産年齢人口が減少していくことが予測されるなか、既存の人材の価値を高める必要があります。ワーク・エンゲージメント(活力、熱意、没頭が満たされている状態)が高く、やりがいをもって働く従業員が増えれば、生産性の向上も期待できるでしょう。

一方で、これまでのように人材資源を消費していく、いわゆるブラックな経営方針では、人材確保が厳しい時代になります。今後、SDGsに取り組まない企業は、そもそも求職者からの応募を得にくくなったり、働きがいのない職場として人材流出が起きたりする可能性も考えられます。

SDGs目標8「働きがいも経済成長も」の実践における課題と対策

SDGsにおいて目標8が設定された背景には、世界的な失業率の問題や、それに伴う貧困層の増加、強制労働や児童労働、ジェンダー格差問題などがあります。国内においては、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少により、将来的な人材不足が懸念されています。目標8「働きがいも経済成長も」の達成に向けて、日本が抱える課題の代表例を見てみましょう。

長時間労働

厚生労働省が発表した「2021年(令和3年版)過労死等防止対策白書」によると、日本において週労働時間49時間以上の労働者の割合は15.0%でした。この割合は年々減少しているものの、アメリカ(14.2%)やイギリス(11.4%)、フランス(9.1%)などの先進国のなかでは比較的高い数値です。長時間労働は、プライベートの時間を確保しにくくなり、肉体面だけでなく、精神的にも負担が大きくなり、仕事へのモチベーションを低下させてしまいます。長時間労働によってプレゼンティーイズム(出勤はしているものの体調がすぐれず、生産性が低下している状態)に陥る従業員が増えれば、企業にとっては大きな損失です。

働き方改革によって、長時間労働への対策が行われたものの、企業によっては、サービス残業や持ち帰り残業で対応しているケースもあるかもしれません。ワークライフバランスを考慮し、さらなる生産性の向上に向けた施策を検討する必要があります。
例えば、フレックスタイム制のリモートワークの導入も一つの方法です。働きやすい環境を作ることで、生産性向上が期待できます。ある企業では、残業削減などの目標を達成した際に、削減した残業代を還元するインセンティブ(特別ボーナス)を出すことで、長時間労働の解消につなげた例もあります。

ジェンダー格差問題

2021年3月に、WEF(World Economic Forum:世界経済フォーラム)が公表したジェンダーギャップ(男女格差)指数において、調査国156ヵ国のうち、日本は120位という結果でした。先進国の中では最も低い結果です。日本は「経済」分野が特に低く、労働力率や賃金におけるジェンダー格差が大きいことを示しています。また、管理職の女性の割合が低いことも課題でしょう。独立行政法人労働政策研究・研究機構が公開している資料「データブック国際労働比較2018」によると、2018年時点で、就業者及び管理職に占める女性の割合は、日本の女性管理職は12.9%でした。その一方で、アメリカでの管理職に占める女性の割合は43.8%、フィリピンでは48.9%と大きな差があります。

また、財務省の資料によると、女性の就業率は増えているものの、非正規雇用の女性の割合は男性の約2倍であり、平均所得の低さも指摘されています。育児や家事の中心を担っている女性が多く、正規雇用での就労が難しいケースが背景にあると考えられます。ジェンダー格差の問題は、SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」にもあり、格差解消に取り組めば、SDGsの2つの目標にアプローチできます。
企業ができる取り組みとしては、男女差のない育休制度の拡充や、非正規雇用社員の正規登用、女性の昇進率を高めることなどが挙げられます。

SDGs目標8に関連する取り組み事例

多くの企業がSDGsへの対応を進めるなか、目標8に関わる働きやすさや働きがいの面で、企業が実際に行っている取り組みの事例を見てみましょう。

勤務間インターバル制度の導入

ある大手家具販売企業では、2017年より「勤務間インターバル制度」を導入しています。勤務間インターバルとは、勤務終了後、一定時間以上の休息時間を設けるものです。働き方改革の推進に伴う、労働時間等設定改善法の改正により、企業の努力義務として規定されています。
同社では、管理監督者をのぞき、パートタイマーを含む全従業員を対象に、インターバル時間を10時間に設定しています。出退勤時のタイムカードで状況を把握し、インターバルが10時間未満の従業員には警告が出るシステムを取り入れています。人事労務部は、インターバル時間を確保できていない部署に対して理由を報告するよう求めるなど、組織全体での意識向上に努めています。

ジェンダーバランス(男女比)に関する目標設定と実践

あるコンサルティング会社では、社内のジェンダーバランス(男女比)を確保するために明確な目標を設定し、達成に向けた取り組みを続けています。幹部における女性の割合を30%、昇進者における女性の割合を44%に設定するなど、具体的な目標を公開しているのが大きな特徴です。
ジェンダーバランスの取れた組織づくりとして、フレックスタイム制の導入やリモートワーク、短日・短時間勤務制度など多様な働き方を提供。2025年までに、従業員のジェンダーバランス(性別を便宜上の男女いずれかとして集計した場合)が50%ずつになることを目指しています。

SDGs目標8は、これからの企業が対処すべき必須課題

SDGs目標8は、働く人の心身を健康に保ち、企業の持続可能な成長に欠かせない目標です。長時間労働やジェンダー格差の是正、職場環境の改善といった面では、人事の視点が大きく影響します。SDGsには多くの目標がありますが、企業にとっては、将来に向けた人材確保や生産性向上といった企業成長につながる取り組みが不可欠でしょう。そして、単なる目標として掲げるのではなく、具体的な結果を出すことが求められる時代になっています。
SDGsへの取り組みは、業種や規模を問わず、すべての企業が対応すべき課題です。SDGsに対応できない企業は評価が下がり、企業存続が危ぶまれるかもしれません。目標8の達成につながる働きやすい職場づくりを目指し、将来を見越した施策を検討・実践してみましょう。

参照

  • ※1:高付加価値セクター……原材料などの価格より、より高い価値で商品を販売できる産業を指す。製造業や不動産業など。また、従業員が少ないセクターや、労働生産性が高く、効率化でコスト削減が進んだセクターも該当します。(付加価値額=「従業員数×従業員1人当たりの付加価値額(労働生産性)」
  • ※2:労働集約型セクター……人件費が高い割合を占める産業を指す。医療業界や建設業など
  • ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業報告書|厚生労働省(平成24年度)
  • Person 美濃佳奈子

    美濃佳奈子 一般社団法人国際SDGs推進協会認定SDGsスーパーバイザー

    フリーライター&編集者。サステナブル商材を取り扱うクライアントへの商品開発サポートやコンテンツ制作に携わる。その他、健康経営アドバイザー、薬事法管理者として適切なプロモーション手法を提案するほか、LYIU認定笑いヨガティーチャー、iACP認定もしバナマイスターとして企業や自治体におけるSDGs活動にも参画。一児の母。

  • 経営・組織づくり 更新日:2022/10/11
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