雇用情勢の「先」を読む経済統計 人材採用は売り手市場?買い手市場?〜有効求人倍率
有効求人倍率は、厚生労働省が毎月公表する「一般職業紹介状況」に含まれる指標です。ハローワーク(公共職業安定所)における求人と求職、就職の状況をまとめたもので、原則として総務省の完全失業率(労働力調査)と同じ日に発表されます。
同じ雇用関連なので新聞では両者を1本の記事にまとめて取り上げますが、発表する役所が異なるのでデータを探す際には注意してください。
有効求人倍率の計算方法と季節調整
有効求人倍率は、求職者1人に対し求人が何件あるかを示す指標です。具体的にはハローワークに寄せられた求人の件数(有効求人数)を、職探しをしている人の数(有効求職者数)で割って求めます。
ただし、就職活動は年明けから年度末にかけて活発になり、年末にかけて減っていくというパターンを描きます。そこで、データから毎年起きている変化の影響を取り除く「季節調整」という処理をした上で前月からの増減を見ます(注も参照)。
グラフを見ると、有効求人倍率(折れ線グラフ)は2019年末まで1.6程度で安定していました。しかし、2020年に入って低下し始め、9月には1.0近くになっています。新型コロナウイルスの世界的な流行(パンデミック)が影響し、雇用環境が厳しくなっていることが伺えます。
有効求人倍率の変化から原因を探る方法
このように傾向に変化が現れた時には注意が必要です。有効求人倍率だけ見ても、分子である有効求人数と、分母である有効求職者数のどちらの変化によるものなのか、分からないからです。
そこで棒グラフを見ると、1月以降の変化は主に求人数の減少によるものだったことが分かります。これに対し、求職者数の方は5月まであまり大きな変化がありません。しかし、それ以降は求人が200万件程度で横ばいになる一方、求職者数が増加しています。
求人が減る間も求職者が増えなかったということは、新型コロナの影響で生産活動が停滞するなか、企業はいきなり雇用を減らすのではなく、新規の採用を絞り込むことで対応したと推測できます。政府や自治体が助成金などを出して雇用の維持に努めた効果が現れたのでしょう。
しかし、6月以降は求職者が増えているので、政策の効果が薄れて人員整理などが始まったことが伺えます。
実際、同日に発表された総務省の労働力調査を見ると、就業者や雇用者の数は4月ごろから落ち込んでいます。年度替わりの時期にパート従業員や契約社員などが職を失い、ハローワークで職探しを始めた可能性があります。
このように、一つの指標に変化が現れたときは、関連する統計を確認するとその背景が浮かび上がってきます。
有効求人倍率の先を読む 新規求人倍率が先行指標になる
両者の違いはグラフ化するとよく分かります。変化が緩やかな有効求人倍率に対し、新規求人倍率は変化が激しいことが見て取れます。
例えば1月の落ち込み幅は新規求人倍率の方が大きいので、変化がはっきり確認できます。また、6月以降を見ると新規求人倍率の方は上昇に転じています。これは、有効求人倍率がこれから下げ止まったり、上昇に転じたりする可能性が高まっていることを示唆します。
このように、労働市場の「現在」は有効求人倍率、「今後」は新規求人倍率から読み取ることができます。
なお、一般職業紹介状況では都道府県別データも公表されるので、地元の状況に絞って知りたい場合はそちらを分析するとよいでしょう。
用語解説
- 【労働力調査】: 総務省が就業の状況などを把握する目的で実施している調査。全国約4万世帯を対象に毎月、調査している。この調査に基づいて発表される代表的な指標に完全失業率(連載第1~3回参照)がある。
- 【季節調整値】: 統計から、気候や年中行事などによって毎年決まった時期に起きる変化の影響を取り除く処理。(前年比ではなく)前期比の増減を計算する場合は、この季節調整値を用いる。略して「季調値」などと呼ぶこともある。
- 【先行指標】: 景気指標には、足元の状況を示す「一致指標」、変化を先取りする「先行指標」、遅れて変化し、確認などに使われる「遅行指標」の3種類がある。政府が景気判断に利用する景気動向指数では、先行指数の算出に新規求人数や東証株価指数などが用いられる。これに対し、完全失業率や消費者物価指数は、景気の変化を後追いする遅行指標とされる。
- 経営・組織づくり 更新日:2022/02/17
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