採用の法律学|入社時の「身元保証書・保証人」の法的意義とトラブル時の対応方法
身元保証書(人)というと、労働者の身元の確かさを保証する書面(人)のようなイメージを抱くかもしれません。あるいは「労働者が何か金銭的問題を起こしたときに一緒に弁済する、連帯保証人と同じようなものでしょ?」と思っている人もいるかもしれませんね。
通常のケースでは、会社が身元保証人をお願いする趣旨は、「万が一労働者が入社後に何らかのトラブルを起こして会社が損害を受け、会社として賠償を請求したいと考えた場合に、労働者本人に十分な資力がなくても賠償してもらえるようにするためと言ってよいでしょう。
ただ、一般的には親族間や知人同士で身元保証をし合うケースが多いため、あまりに負担が大きすぎると保証の実質的な意味がなくなってしまいます。そこで、身元保証人の責任が重くなりすぎないように、身元保証法という法律によって一定の制限が設けられているのです。
以下では、この法律に書かれている内容を簡単に見てみましょう。
もし、労働者が職務上のトラブルを起こし、本人の資力が十分でない場合に、身元保証人へ損害賠償を請求したいと考えたとき、実際にどのくらい賠償してもらえるものなのでしょうか?
実際には相場はなくケース・バイ・ケースですが、身元保証人に損害の全額を認めた事例は少なく、「大幅に減額されるのが通常」と言えるでしょう。
裁判になった事例を見ると、たとえば宝石類販売店勤務の従業員Aが営業先の宝石店を訪れた際、後ろを向いて伝票を記入している隙に2,800万円相当の宝石の入ったカバンを盗まれたケースで、A本人や身元保証人の有する資産の状況などに照らして、Aが賠償すべき損害賠償額を損害全額の5割、身元保証人の賠償すべき金額はAの賠償すべき金額の4割(つまり、損害の2割)であるとして、身元保証人の責任を認めました。
このように実際に裁判となった事例を見ると、会社の使用者責任や保証契約に至った経緯、労働者の職務の変更及び保証人がそれを知っていたかどうか、保証人の資力など、さまざまな事情を考慮して保証人が負担する賠償の割合を判断しているようです。
労動者を採用するにあたって身元保証書の提出を求めることには、会社にとって合理的な理由があります。つまり「身元保証書の提出をもって採用の条件とすることは違法ではありません」。
たとえば、採用内定を出していたとしても、雇い入れまでの間に身元保証書が提出されなかった場合には、内定を取り消すこともできると考えらえるのです。
ただし、身元保証書の提出がもともと採用条件ではなかったのにもかかわらず、事後に身元保証書の提出を求めた場合なら、労働者が断ったからといって、それだけを理由に解雇することはできないと考えられます。こういったトラブルを未然に防ぐためにも、「事前の面接などで《身元保証書の提出が採用の条件である》旨をきちんと伝えておくべきでしょう。
いざというときのリスクを回避するためにも、身元保証契約は常に更新しておきたい、と考える会社もあるでしょう。しかし、もし労働者がそれを拒んだ場合、会社として何らかの処分をすることはできるのでしょうか。
まず、前提として「就業規則で処分の根拠を示しておく必要がありますので、懲戒規定や解雇事由の中に明示しておく」ことが大切です。こうした規定があれば、就業規則上の手続を踏んで懲戒や解雇などの処分ができるものと考えられるからです。
裁判では、新規採用の事案ではありますが、就業規則の規定を根拠に、身元保証書の提出を拒んだ労働者の解雇が認められた事例があります(《シティズ事件》東京地裁平成11年12月16日判決)。
ただし、この事例は控訴審で原審では逆の判断になっており、さらに会社が貸金業という業務内容であることを重要視していることから、身元保証書を提出しないからといって即座に解雇が認められると判断するのは早計だと考えられます。
身元保証契約は慣習化されており、ただ何となく提出を求めている会社も少なくありません。また、保証人になる側にとっても、あまり深く考えずにサインして印鑑を押していることも多々あります。
こういった場合には、いざ保証人に請求しても払ってもらえない場合や、身元保証契約の存在自体を争われてしまうケースもあります。また裁判所の判断においても、契約段階において身元保証人が負う責任やリスクを会社側がきちんと説明したか・身元保証人の資力などを確認したか、といった点が考慮されることが多いようです。
このため、「いざというときに身元保証契約を活用するためには、保証契約書の取り交わしの段階から注意が必要」になるでしょう。過去の裁判例には、身元保証契約書の偽造が争点となった事例が散見されます。
提出された身元保証書を100%信用したいのは人情ですが、リスク回避のためにも「電話1本でもいいので身元保証人本人に保証意思を確認する」ことが望ましいでしょう。また、身元保証人の資力などに変更が生じた場合には労働者からの申告を就業規則で義務付けるなど、あらかじめ工夫をしておくとよいでしょう。
- 人材採用・育成 更新日:2017/02/02
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